聖女の私にできること第二巻

藤ノ千里

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第五章 苦しい過去

第四十一話 大僧正様との面談

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 道明様に連れられて、外廊下を歩く。
 すれ違うお坊様方は、私ではなく道明様に振り返っていて、やはり顔が良いと男性にもモテるのかと思った。
「時に、姫君」
 前を歩く道明様のお顔は見えない。でも声はいつも通りに感じた。
「昨夜はよくお休みで?」
 昨夜。あぁ、あのお預けを食らって悶々とした時間のことか。いや、こんな公衆の面前でなにを言うんだこの人は。
 質問の意図が分からずに返事に困る。
「いえ、詮無きことを申しました。お忘れください」
 やはり道明様の感情は読めない。冗談だったのか、なにか大事な話をしたかったのか、私には分からなかった。
 そんな会話をしているうちに目的の部屋に着いたらしい。道明様の足がピタリと止まり、振り返った。
 お顔にはいつもの良き僧正としての笑みが張り付いている。
「こちらのお部屋でございまする」
 頷くと、道明様は障子の向こうに入室の許可を取り、部屋の中へと誘った。
 部屋の中はお香の香りで満ちていた。嫌な香りじゃない、品のある優しい香りだ。
 質素な部屋の真ん中には、優しそうなおじいちゃんが座っていた。
 優しそうではあるが、凄く貫禄がある。すぐにお偉いさんであると気づいた。
 道明様に促され、おじいちゃんの目の前に座る。彼は隣に座ってくれた。
 頭は、下げなくても良さそうだ。
「大僧正様、お時間をいただき感謝申し上げます」
「挨拶は良い、本題を」
 にこやかなはずなのに、何故だろうか緊張感を感じた。
「まずはお申し開きをさせてくださいませ」
 そう言うと、道明様は私の立場を偽っていた事を大僧正様に謝り始める。しかし、「以前より皇后様に目をかけていただいていた」は嘘だったし、「皇后様の意により立場を偽らざるを得なかった」も嘘だったので、謝罪と言うよりは体良く皇后様に責任を押し付けているようにしか聞こえなかった。
 そんな嘘八百を涼しい顔で聞き流せるようになったのだから、私も不本意ながら成長しているということか。
「では、この娘子は?」
「お耳に入ることもございましたでしょう。ここより東方の地にて名を馳せておられた聖女殿でございます」
 大僧正様が真っ直ぐに私を見る。 値踏みしている感じではない。心の中を見透かすような澄んだ瞳だった。
 じっと見られているのに全く嫌じゃないのは彼が聖職者であるからか。
「明朝、参拝者をお助けくださったのは貴方様でございましたか」
 微笑みがにっこりした笑顔に変わる。その笑顔が木村先生に似ていて、少しだけ寂しくなった。


 大僧正様とのお話はトントン拍子に進み、嘘をついていたことのお咎めはなしになった。
 ただ、聖女として認めるには彼の目の前で力を見せて欲しいということだった。
「失礼致します」
 大僧正様の部屋に入ってきたのは体格の良いお坊様だった。右の手のひらから肘にかけて包帯を巻いている。
「この者は料理番を務めておりましたが、一昨日このように怪我を」
 固定をしているのか手首が動いていないように見える。傷の大きさもだが深さもそこそこあるのかもしれない。
「診ても良いですか?」
 大僧正様に許可を貰い、料理番さんの傍らに膝を着く。
 あからさまに嫌そうな顔をされてしまうが、こちらも仕事だ仕方ない。
「手を」
 包帯を取ろうとすると、触られるのはごめんとばかりに料理番さんは自分で包帯を解き始めた。
 さすがにここまでの嫌がり方をされるとほんの少しだけ傷つく。
 包帯の下からはまだ真新しく痛々しい傷が現れた。腕の内側中程から手首にかけての深い傷だ。包帯を解いたことにより血が滲み出ている。
「手首は動きますか?」
 返事は無い。だが、おそらくこれは腱までいっている。
 相当痛いだろうにそんな素振りを見せないのは、どれだけ痩せ我慢をしているのだろう。
 道明様をチラリと見ると、軽く頷いて許可をくれた。
 これくらいの傷であれば以前にも治したことがあるから大丈夫だろう。
 私は傷口に手のひらをかざして、少し久しぶりになってしまった聖女の業を使った。
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