聖女の私にできること第二巻

藤ノ千里

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第五章 苦しい過去

第四十二話 アイドルの素顔

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 聖女の業を見せてしまえばあとはこっちのもの。
 道明様の監督の元でという条件は付いたが、境内であれば自由に過ごして良いとの許可が正式に大僧正様から下りた。
 もちろん自由に過ごすという中には聖女の業を使うのも含まれる。
 少し前まではあんなに大変だったというのに、ここまで色んなことがスムーズに進むと、憑き物でも落ちたのではないかという気さえしてきていた。
 お昼ご飯の後の講堂では、道明様が集まった檀家さんたちに説法を説いていた。
 私はあまり人から見えない端の方で聞いている。
 部屋から出るなら目の届く範囲にいるようにと言われているので、完全に自由とは言えないが、それでも引きこもり生活よりは格段に快適だ。
 しかし、彼は本当にモテる。
 説法を聞きに来たのではなく彼に会いに来るのが目的であろう人々で講堂は超満員だ。
 よその寺で何を忙しくしているのかと思っていたが、どうやらこうやって客寄せパンダのように酷使されていたらしい。
 そりゃああれだけ見目麗しく品があり人当たりが良いお坊様がいるとあらば、年末だろうが年始だろうが人も来るか。
 説法が終わっても、檀家さん達は道明様の前から離れようとはしない。そんな人達一人一人にニコニコと丁寧に対応していて、さながら握手会のようだった。


 そんなアイドルのような姿をただ見守ること2時間。
 怪我人がいたら治そうかと伺っていたが、生憎というか私の出番はなかった。
 まぁ、怪我しながらお寺に来る人がいるわけないか。
 これから講堂の清掃らしく、私は晴彦さんに案内されて自室に戻ることになった。
 戻る途中で、知らないお小姓さんにみかんを手渡される。
「料理番からでございます」
 治した後も居心地悪そうにしていた彼だったが、一応感謝はしてくれているということか。
「ありがとうございます」
 聖女の笑顔で受け取る。
 お寺の食事はお寺だけあっていつも質素だったので、久しぶりの甘味はすごく嬉しかった。
 もらったみかんは4つ。
 お小姓さんが見えなくなると、晴彦さんたちにも2つ分けてあげることにした。
「一松さんにも分けてあげてくださいね」
 晴彦さんはぱあっと明るい顔で「ありがとうございます!」と受け取ってくれた。
 なんだか弟みたいで可愛い。
 残りは2つ。道明様と分けて食べようと思いながら、私は部屋へと戻った。


 晩ご飯の時に道明様が来るかなーと思っていたが、来なかった。
 彼の大人気ぶりを目の当たりにしたので、来れないことにも納得はするが、それでも今日はもう会えないのかもしれないと思うと少し寂しい。
 ひとりで、味気ない食事を取る。
 せめてデザートのみかんは一緒に食べようと残しておいた。
 ちょうど食べ終わったタイミングで一松さんが膳を下げに現れる。
 部屋から出る時に「あの、みかん、ありがとうございました」と頭を下げられた。
 少し照れている感じが可愛い。この子も弟みたいだ。
「お食事はお済みのようですね」
 一松さんと入れ替わるように道明様が現れる。
 部屋に入り襖を閉めるまではちゃんと僧正様の仮面を被っているのが、徹底されていて凄いなぁと思う。
 道明様は私の正面に腰を下ろすと、私の脇に置かれたみかんを見つけて口を開いた。
「そなた、またいらぬ愛想を振りまいておったのか」
 失礼な。普段愛想の塊みたいな仮面を被っている人に言われたくは無い。
「これは料理番の方からいただいたんですよ」
「一松に分けたのであろう?」
 少しお顔がムッとしている。もしかして自分のお小姓さんにすら妬いているのか。
「晴彦さんと一松さんには分けましたけど、ちゃんと道明様の分もありますよ」
 2つのみかんを掲げてみせるが、納得いただけないようで、拗ねたような顔をされた。
 昼間アイドル扱いされていたお方とは思えない可愛さだ。
「今宵は添い寝をしても良いか?」
 道明様がまた立ち上がり、畳まれた布団の方へ向かう。
 その姿に、元気がないというか、落ち込んでいるというか、上手く言えない違和感があった。
 布団を敷き終わるとおいでと手を差し伸べられる。
 あぁそうか、これは悲しい時の顔だ。
 優しく微笑む中に、ほんの少しだけ悲しみの色が見える。
 多分、彼自身も気づいていない彼の本心。
 近づいて手を取ると、優しく引き寄せられる。その手つきもいつもよりぎこちなく感じる。
「道明様、何か悲しいことがあったのですか?」
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