聖女の私にできること第二巻

藤ノ千里

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第六章 愛する覚悟

第四十六話 治せなかったはずの傷

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 道明様をチラリと見る。ニコニコと笑顔で、でも静かな瞳で視線を返してくれる。
 この人はきっと、たとえ何があろうとも私を助けてくれる。そんな絶対の安心感があった。
 でも、それに完全に甘えようとは思わない。
 私の患者に向き治り、微笑む。聖女の笑みはそれだけで人を救うからだ。
「治るかは分かりません。それでも、あなたの傷を私に預けていただけますか?」
 彼は力強く一回だけ頷いた。開かれた方の目に、確かな覚悟の色が見える。
 頷き返して、傷口に両手をかざした。聖女の業の光が熱く眩しく、そして優しく傷口を包み込む。
 こめかみの傷跡は見る見るうちに消えていった。あとは目だけ。
 治したいと強く思った。私を聖女でいさせてくれるのは、他の誰でもない私に助けを求めてくれる患者だから。
 瞼の向こうで、何かが形作られているような不思議な感覚。つづいて、不思議な達成感。私の出番が終わった。
 光を止めて手のひらを下ろす。
 手ごたえは、確かにあった。
 患者が閉じられていた左目をゆっくりと開く。もどかしいほどゆっくりと瞼が上がると、一点の曇りもない綺麗な眼球が現れた。
 彼は、二回瞬きをして、辺りを見回し、自分の手のひらに目を落とす。
「・・・見える」
 呟くように口から洩れた言葉を、私は聞き逃さなかった。
 成功した。治せたのだ。治せないと思っていたのに。
 いや違う。今までの聖女の業であれば確かに治せなかった傷だった。
 力が、また強くなっていたのだ。


 驚きから聖女の体裁を保てなくなっていた私を、道明様は速やかに連れ出してくれた。
 部屋に戻ると、気が抜けたのと力を使った疲労から私は床に倒れこんだ。
 いつもなら道明様に咎められるところだが、今日はため息をつくだけで許してくれる。
 力のパワーアップの原因。どう考えても、技の使用回数とか時間経過で勝手にとかではない。
 やはり、アレなのか。
「聖女の業に何かあったか?」
 鋭い質問が飛んでくる。
 言えない。あなたと愛し合うと力が強くなるかもしれないなんて、絶対に言えない。
 力が強くなることはもちろん喜ばしいし、できることならもっと強くなってほしいとも思う、だがそれを知ったこの人が何をしてくるかなんて予想もできない。いや、私なんかが予想したところで、それ以上の事を企てるのがこの人だ。
「黙っていては分からぬぞ」
 道明様の綺麗なお顔がのぞき込んできて、考えていた事が事だけに思わず赤面してしまった。
 両手で覆った顔をそらすが、この頭の回転が速すぎる人にはそんな仕草だけで十分だったのだろう。
「もしや、私に関係があるのか?」
 正直、私は考えが顔に出やすいタイプである自覚はある。
 だとしても、この人の勘の鋭さはもう何というか、超能力でもあるのではないかと思うほどだ。
「言いなさい」
 耳元で囁かれると、背筋がぞわぞわして吐息が漏れた。
 この人の声には媚薬でも混じっているんじゃないだろうか。
「それとも」と道明様の唇がうなじに触れる。
「言うまで抱かれたいか?」
「言います!言いますから!」
 叫びながら道明様と距離を取った。彼の唇が触れたところが熱い。
 何てことをしてくるんだ、この人本当にお坊様なのだろうか。
 満足そうにこちらを見ている眼が恨めしくてムッと睨みつけてやった。
「それで?」
「せ、聖女の業が強くなっている感じがしてて・・・」
 探り探りで少しぶっきらぼうに答える。要は肝心なところだけ誤魔化せばいいのだ。
「以前にも何回かあったのですが、ある日突然明らかに強くなったなって感じるんです」
 道明様の前で聖女の業を使ったのはほんの数回だけだったので、さすがにこれは気づかなかったのだろう。
 真剣な顔で口元に手を当てて何かを考えている姿が凄く絵になる。
「今日の方も、今までだったら治せなかったはずの傷だったので、あんなに綺麗に治って驚きました」
 これはアレに触れずにうまいこと話しを着地させられたんじゃないだろうか。
 私も口がうまくなったもんだと、心の中で小さくガッツポーズをしていた。
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