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3章 ムワキという名の巫女
19話 夜の火の儀式
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キニータ族について、分かんない事も増えたけど、分かった事もちゃんと増えた。
その中でも1番面白かったのが、チャパってやつだ。
「これって・・・」
食後におじさんことアズー君のお父さんに差し出されたのは、茶色っぽいカサカサの、スルメイカみたいなやつ。
「チャパ-de Warina.」
「チャパ?」
「Raama Lun Tani. Yuma Tani-a shi-te, Azuu Sie Luan-a shi-luan.(木の皮。噛む、吐き出す)」
言われるがままに、口に入れて咀嚼してみた。すると、思いもよらない味がして、めちゃくちゃ驚いたんだ。
「歯磨き粉の味する・・・!」
メントールのようなスースー感に、少しだけ泡立つような噛み心地。
言うなれば歯磨き粉の染みたアイスの棒みたいな、不思議な感覚がすごく楽しかった。
アズー君は首を傾げていた。もしかしたら「歯磨き粉」が伝わらなかったのかも。
でもこのチャパも歯磨き代わりに噛むようで、アズー君の真似をしてしばらく噛んでから吐き出した。
その後に飲んだ水は少し酸っぱい気がして、それも不思議で、楽しくて。
アズー君に許可を取ってメモに残したけど、帰る時には教授のお土産にぜひ持って帰らせて貰おうと胸に決めたのだ。
ご飯の後、アズー君の部屋に戻ると、彼は服を脱いでムワキの服を着始めた。
服を変えるだけで印象がガラリと変わる。さっきまでの動きやすそうな服と違い、ムワキの服は神秘的な、位の高い正装って感じ。
着替えが終わると、棚から箱のようなものを取り出し、椅子に座るアズー君。
手持ち無沙汰だった私も、その正面に座って観察を続けた。
アズー君の手によって、パタパタと音を立てながら箱が変形していく。気になって彼の隣に移動すると、箱だった物はドレッサーに早変わりしていた。
大きめの鏡に、いくつかのメイク道具。引き出しもあるからそこにもまだ道具が入っていそうだ。
アズー君、僻地に来るからと全然メイク道具持ってこなかった私より女子力高い。
手馴れたようにクリームを塗って、あっという間にベースメイクが完成して。
細い眉と、アイラインを書いて、そしたらもう彼は女性に見えた。
続いて、ドレッサーの引き出しから出てきたのは、市販のものじゃないような陶器の入れ物。
この部屋にある大きな香炉と、似たデザインの入れ物だった。
アズー君がパカリと蓋を取ると、中には真っ赤な紅が入っていた。
自然色には見えない、強い赤。
それをアズー君は筆で混ぜて、それから目元に塗りつけた。
ドロドロよりも粘度の高い紅は、肌に触れた途端解けるようにスッと軽くなって、最初からそこにあったかのように彼の目元を彩る。
綺麗だなって思った。
やっぱり住む世界が違うんだなって、思った。
唇にも同じ紅を乗せると、彼はもうムワキだった。
メイクが完成して、鏡越しにこちらに向けてくれた微笑みも、魅惑的な女性に見えた。
道具を片付けて、ドレッサーを箱に戻して、それからそれを棚に戻しに行って。
髪の毛を解いてから振り返った彼は、もう男の子には見えなかった。
「Ko Yuma Luan Muru Tani-o shi-ni kiran-a shi-luan-rati.(今から儀式に行きます)」
喋り方も、男の子の時と全く違う。
今は、ムワキだから。
「Tani Lun Noa Azuu Laka-a shi-rati-ka?(共に来ますか?)」
「うん!」
切なさを隠しながら頷く。
私は、ただの旅行者だから。
ムワキが向かったのは、森の中。
草が払われ道になっているところを少し歩くと、火の明かりが見えてきた。
日が傾いて薄暗い中で、煌々と燃える火。
近づくとかがり火が焚かれていて、その近くで男性が3人立っていた。
お兄さんが1人とおじさんが2人かな?暗くなってきたせいで良く見えないけど、全員体ががっしりしていて、手には火のついていないトーチを持っていた。
ムワキはゆっくりとかがり火に近づいて行って、熱いんじゃないかってくらい近くで立ち止まった。
白い頬に、かがり火のオレンジが映って揺れる。
まるで、火が彼女の肌を撫でているようだった。
「Ura-yo, Raama Ura-yo.」
スマホを置いてきたから、ムワキが何を言っているのか分からない。
けれども火と会話をしているように見えた。
「Sia Rakia, Wa-ri Sie Yuma-o Warina Tani-a shi-rati-ma.」
ムワキに答えるように煌々と燃え続けるかがり火。
見とれていると、男性たちがムワキの周りに集まって来ていた。
1人がムワキにトーチを渡し、彼女はそれにかがり火で火をつける。
火のついたトーチを返すと、また次の人がトーチを渡し、火をつけ。
そうやって、3人のトーチに火がついた。
「Raama Ura-yo, Sia Rakia Wa-ri Sie Yuma-o Warina Tani-a shi-rati-ma.」
「「Raama Ura-yo, Sia Rakia Wa-ri Sie Yuma-o Warina Tani-a shi-rati-ma.」」
ムワキの言葉を復唱しながら男性たちがトーチを掲げる。
掲げると、火はゆらりと頷いたように見えた。
「Ura-ri Muru-a Ni Wali-o Noa Tani-a shi-luan-de Warina.」
「Warina Rakia-a shi-luan.」
ムワキに短く答えて、男性たちは森の奥に入っていった。
こんな時間にわざわざ森に入るって事は、見回りだろうか?
人を襲うような獣はいないって聞いていたけど、男性を3人も動員してるから結構厳重だし、儀式までしてから見回りに行くなら重要な事なのだろう。
男性たちの腰にナタがぶら下がっていたから、もしもの時も想定していそうだ。
獣以外の相手だと、例えば、人間だとか、そういう・・・。
「リナ」
すぐ隣で、優しい声が聞こえた。
振り向くと、履物で少し私より背の高くなったムワキが、微笑んでいた。
「Yuma Laka-ni Luan Sie-a shi-luan-rati-yo.」
彼女からは、真新しい煙の匂いがした。
その中でも1番面白かったのが、チャパってやつだ。
「これって・・・」
食後におじさんことアズー君のお父さんに差し出されたのは、茶色っぽいカサカサの、スルメイカみたいなやつ。
「チャパ-de Warina.」
「チャパ?」
「Raama Lun Tani. Yuma Tani-a shi-te, Azuu Sie Luan-a shi-luan.(木の皮。噛む、吐き出す)」
言われるがままに、口に入れて咀嚼してみた。すると、思いもよらない味がして、めちゃくちゃ驚いたんだ。
「歯磨き粉の味する・・・!」
メントールのようなスースー感に、少しだけ泡立つような噛み心地。
言うなれば歯磨き粉の染みたアイスの棒みたいな、不思議な感覚がすごく楽しかった。
アズー君は首を傾げていた。もしかしたら「歯磨き粉」が伝わらなかったのかも。
でもこのチャパも歯磨き代わりに噛むようで、アズー君の真似をしてしばらく噛んでから吐き出した。
その後に飲んだ水は少し酸っぱい気がして、それも不思議で、楽しくて。
アズー君に許可を取ってメモに残したけど、帰る時には教授のお土産にぜひ持って帰らせて貰おうと胸に決めたのだ。
ご飯の後、アズー君の部屋に戻ると、彼は服を脱いでムワキの服を着始めた。
服を変えるだけで印象がガラリと変わる。さっきまでの動きやすそうな服と違い、ムワキの服は神秘的な、位の高い正装って感じ。
着替えが終わると、棚から箱のようなものを取り出し、椅子に座るアズー君。
手持ち無沙汰だった私も、その正面に座って観察を続けた。
アズー君の手によって、パタパタと音を立てながら箱が変形していく。気になって彼の隣に移動すると、箱だった物はドレッサーに早変わりしていた。
大きめの鏡に、いくつかのメイク道具。引き出しもあるからそこにもまだ道具が入っていそうだ。
アズー君、僻地に来るからと全然メイク道具持ってこなかった私より女子力高い。
手馴れたようにクリームを塗って、あっという間にベースメイクが完成して。
細い眉と、アイラインを書いて、そしたらもう彼は女性に見えた。
続いて、ドレッサーの引き出しから出てきたのは、市販のものじゃないような陶器の入れ物。
この部屋にある大きな香炉と、似たデザインの入れ物だった。
アズー君がパカリと蓋を取ると、中には真っ赤な紅が入っていた。
自然色には見えない、強い赤。
それをアズー君は筆で混ぜて、それから目元に塗りつけた。
ドロドロよりも粘度の高い紅は、肌に触れた途端解けるようにスッと軽くなって、最初からそこにあったかのように彼の目元を彩る。
綺麗だなって思った。
やっぱり住む世界が違うんだなって、思った。
唇にも同じ紅を乗せると、彼はもうムワキだった。
メイクが完成して、鏡越しにこちらに向けてくれた微笑みも、魅惑的な女性に見えた。
道具を片付けて、ドレッサーを箱に戻して、それからそれを棚に戻しに行って。
髪の毛を解いてから振り返った彼は、もう男の子には見えなかった。
「Ko Yuma Luan Muru Tani-o shi-ni kiran-a shi-luan-rati.(今から儀式に行きます)」
喋り方も、男の子の時と全く違う。
今は、ムワキだから。
「Tani Lun Noa Azuu Laka-a shi-rati-ka?(共に来ますか?)」
「うん!」
切なさを隠しながら頷く。
私は、ただの旅行者だから。
ムワキが向かったのは、森の中。
草が払われ道になっているところを少し歩くと、火の明かりが見えてきた。
日が傾いて薄暗い中で、煌々と燃える火。
近づくとかがり火が焚かれていて、その近くで男性が3人立っていた。
お兄さんが1人とおじさんが2人かな?暗くなってきたせいで良く見えないけど、全員体ががっしりしていて、手には火のついていないトーチを持っていた。
ムワキはゆっくりとかがり火に近づいて行って、熱いんじゃないかってくらい近くで立ち止まった。
白い頬に、かがり火のオレンジが映って揺れる。
まるで、火が彼女の肌を撫でているようだった。
「Ura-yo, Raama Ura-yo.」
スマホを置いてきたから、ムワキが何を言っているのか分からない。
けれども火と会話をしているように見えた。
「Sia Rakia, Wa-ri Sie Yuma-o Warina Tani-a shi-rati-ma.」
ムワキに答えるように煌々と燃え続けるかがり火。
見とれていると、男性たちがムワキの周りに集まって来ていた。
1人がムワキにトーチを渡し、彼女はそれにかがり火で火をつける。
火のついたトーチを返すと、また次の人がトーチを渡し、火をつけ。
そうやって、3人のトーチに火がついた。
「Raama Ura-yo, Sia Rakia Wa-ri Sie Yuma-o Warina Tani-a shi-rati-ma.」
「「Raama Ura-yo, Sia Rakia Wa-ri Sie Yuma-o Warina Tani-a shi-rati-ma.」」
ムワキの言葉を復唱しながら男性たちがトーチを掲げる。
掲げると、火はゆらりと頷いたように見えた。
「Ura-ri Muru-a Ni Wali-o Noa Tani-a shi-luan-de Warina.」
「Warina Rakia-a shi-luan.」
ムワキに短く答えて、男性たちは森の奥に入っていった。
こんな時間にわざわざ森に入るって事は、見回りだろうか?
人を襲うような獣はいないって聞いていたけど、男性を3人も動員してるから結構厳重だし、儀式までしてから見回りに行くなら重要な事なのだろう。
男性たちの腰にナタがぶら下がっていたから、もしもの時も想定していそうだ。
獣以外の相手だと、例えば、人間だとか、そういう・・・。
「リナ」
すぐ隣で、優しい声が聞こえた。
振り向くと、履物で少し私より背の高くなったムワキが、微笑んでいた。
「Yuma Laka-ni Luan Sie-a shi-luan-rati-yo.」
彼女からは、真新しい煙の匂いがした。
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