聖女の私にできること第四巻

藤ノ千里

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第一章 鹿谷の現状

第三話 雨宿り

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 昨夜の残りで朝ご飯を済ませて、一松によるご夫婦への説法タイムの間に私と草順で出発の準備を整えた。
 智久さんは今日も素振りとか筋トレみたいな事をしていた。刀って結構重たいらしく、それを扱う彼の筋肉は結構凄い。
 道明様も体はしっかりしてる方だけど、智久さんは厚みが凄いんだというのを、体を拭いている時に知ってしまった。
 桜号と白梅号に荷物を積んで、草順の野草をぶら下げたら準備が整う。
 この先はそこそこ険しい道だから徒歩になる予定なんだけど、気が重いなぁ。
 憂鬱な気持ちを紛らわす為に見上げた太陽は、まだ木々の間から見えてきたばかり。
 大体八時くらいだろうか?旅程は遅れていないはずだけど、正確な現在地が分からないからなんとも言い難い。
「ねえ草順」
「どうしました?」
「ここら辺の人ってさ、地図ないのに困らないのかな?」
「基本的に生まれた村から出ませんからね」
「あ、そっか」
 私がこっちの世界に来てから約八ヶ月。
 そこそこあちこち行ってたから地図は多用してたけど、良く考えればそちらの方が一般的では無いことに気づく。
 この時代のごく一般的な人達は、生まれ育った町で田畑を耕しながら生き、死んで行く。
 隣村くらいまでは交流があっても、理由もなく村から出たりはしないんだろう。
 敷かれたレールに乗る人生は息苦しいのではないかと、そう思う私の方が変わっているんだろうな。
 そうこうしている間に、智久さんのルーティンが終わり、一松もご夫婦宅から出てきた。
 お見送りしてくれるご夫婦に深々と頭を下げて、それから歩き出す。
 この時期には珍しい生ぬるい風が吹いた気がして、少しだけ嫌な予感がしていた。


 嫌な予感というものは、何故こうも外れてくれないのか。
 草順が「雨が降るかもしれません」と言い、念の為一松が先行して宿を探しに行ってくれたのが二時間くらい前。
 「雨宿り程度なら出来そうな家屋があった」と一松が戻ってきたのが一時間くらい前。
 そして雨が降り出したのが十五分くらい前で、びしょ濡れになりながらその家屋に駆け込んだのがついさっき。
 一松と草順が、馬を納屋らしき建物に連れて行ってくれたので、智久さんに後ろを向いてもらって着ていた服を絞ることにした。
 絞りながら、建物内を観察する。雨漏りしている所もあれば壁にはいくつか小さい穴も空いていて、一松の「雨宿り程度」という言葉の通りのようだ。
 でも、不思議な事にホコリはそこまで積もってないし、土間に雑草も生えていない。
 廃屋にしては綺麗すぎるから、猟師とか旅人の休憩所としてでも使われているんだろうか?
 ぼんやりと考えつつ、しかし握力の限界を迎えてしまったため、なんとか絞り終えた上着だけを着ることにした。直綴じきとつとか言う黒い上着で、膝まで隠れるからこれさえ着てれば問題ないだろう。
「智久さん、もう大丈夫ですよ」
 声をかけると智久さんはチラリとだけこちらを見た。
 そのまま、目線を逸らしたまま近づいてくるから何かと思ったけど、私が脱ぎ捨てた服を無言のまま絞ってくれたから、嬉しいような情けないような複雑な気分のまま絞られていく服を見つめていた。
 私の服の脱水が完了し、背中を向けた向こうで智久さんが自分の服を絞り始めた頃、戸が開く音が聞こえた。
 一松と草順だろう。振り返るわけにはいかないので背を向けたまま聞き耳を立てていると、しばらくしてから家屋内が急に明るくなった。
 それに、明らかに先程よりも暖かい。
「小太郎、火を起こしたゆえこちらへ来い」
 一松の声に振り返ると、仕事の早い彼はもう囲炉裏に火をつけてくれたらしい。
「ありがとう」
 言いながらありがたく火に当たらせてもらう。濡れて冷えた体にオレンジ色の炎の熱が染み入って、これなら服もすぐに乾きそうだ。
 智久さんと服を絞り終わった草順も火にあたりに来たのと入れ違いに、一松は服を絞りに土間に移動した。
 で、服を脱ぎながらくしゃみをしていた。
「風邪ひいちゃうからそれ後にして暖まりなよ」
「いや、これしき平気だ」
「じゃあ手伝うから」
 立ち上がろうとすると、先に智久さんが立ち上がって手で制された。
 相変わらず目は逸らされたままで。
「私が」
 そう言うと、一松の服を絞る手伝いをしに行ってくれる。
 火のそばから動かなくていいのはありがたいけど、私だけ何も出来ない感が凄いなぁ
 まぁ、良いんだけどね。まだ聖女の出番が来ないってだけだしね。
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