聖女の私にできること第四巻

藤ノ千里

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第一章 鹿谷の現状

第四話 おばあちゃんとどくだみ

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 こんな事もあろうかと雨対策をしていた為、荷物はほとんど無事だったらしい。
 野草も乾かし始めたばかりだったから問題なくて、納屋に吊るしてきたとの事。
 納屋には薪がそこそこ置いてあったそうなので、火が絶える心配もない。
 問題があるとすれば、この雨がいつまで続くか分からないという事だけだろう。
 体も室内も暖まって、服もほとんど乾いて、そろそろ私もちゃんと服を着るかなーと思い始めた頃だった。
 突然、戸がガタリと音を立てた。弾かれたように立ち上がった智久さんが刀に手をかけ、一松は私と戸の間に立ってくれて。最大の警戒をする中、またガタリと音を立てながら戸が開かれていく。
 そしてそこに立っていたのは、腰の曲がったおばあちゃんだった。
「あんたら・・・坊さんか」
 しわくちゃの顔に真っ白な髪の毛。少し目つきの悪いおばあちゃんは、招かれざる客をあまり気にするでもなくかまどに向かった。
 悠々とした物腰からも、手馴れた様子で竈に火を入れる姿からも、この家屋が彼女の家であることが伺える。
 でも、七十歳くらいに見えるのに?一人暮らしってこと?
「ご留守の間に勝手に火を借りてしまい申し訳ございませぬ」
「あぁ、良いよ良いよ。こんな老いぼれ気にせんで好きにしとくれ」
「そういう訳には参りませぬ。どうか御礼をさせてくださいませ」
 丁寧のお手本みたいな一松に背を向けたままで、おばあちゃんはお湯を沸かし始めてしまう。
 よく見たら野草のようなものを手にしてるけど・・・あれって。
「草順、あれってどくだみじゃない?」
「どくだみ?」
 おばあちゃんのお手伝いに向かった一松を見送りながら、小さな声で草順に話しかける。
 めちゃくちゃメジャーな野草だし、解毒作用とかあったはずだし、薬草博士こと草順であれば常識的に知っているものだと思っていたのに。
「野菜ですか?」
 遠目におばあちゃんの手元を見ながら、草順はきょとんとしていた。
 この距離だから匂いはしないとはいえ、特徴的なハート形の葉っぱは見間違うはずもないのに、だ。
「どくだみ知らない?白い花が咲くやつ」
「薬草・・・なんですか?」
「そのはずなんだけど」
 答えながら、不安になってきてしまう。
 私が転生したこの世界。過去のように思えて実はちょっと違う世界らしく、史実が異なると聞いていた。
 けど、地形は同じっぽいし、普段生活する上では異世界感がないから平衡世界の様なものだと勝手に思っていたんだ。
 食べ物も同じだから、野菜とか薬草とかそういうものも全て同じだと思っていて、だからどくだみだって草順ほどの知識魔であれば知っていて当然だと思っていて。
 でも彼は知らないようだった。
 彼ほどの人物が知らないのであれば、疑うべきは私の知識なんじゃないだろうか?
 え、でもどくだみの効能って痛み止めみたいに分かりやすい物じゃないから、確かめようにもそう簡単にはできなし、もしこの世界のどくだみが逆に体に毒だったら万が一ってこともある。
 そんな風に悩んでいるうちに、おばあちゃんの指示で一松はどくだみっぽい草を茹で始めてしまった。
 止めるべき?
 それとも様子を見とくべき?
 おばあちゃんが普段からあの草を食べているならきっと食べることはできるんだろうけど、間違えて摘んできた可能性もなくはない。
 そんな風に、少しの間迷ってしまっていた。
 迷っている私を置き去りにするように竈に向かったのは、草順だった。
「ひと口いただいてもいいですか?」
「少しだけにしとくれよ」
 ゆで上がった草の根を、彼は一切の躊躇なく口に入れた。
 味わうように咀嚼し、飲み込む。
 野草には毒がある物もあると知っているのに、食べたのだ。彼には未知であるはずの草を。
 好奇心旺盛過ぎるというか、無謀過ぎる。
 正直ドン引きした。草順ってもっとちゃんと考えて行動する人だと思ってた。
 そんな私の心を知らないだろう彼は、こう言ってくれちゃったのだ。
「この草、どこに生えてるんですか?」
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