聖女の私にできること第四巻

藤ノ千里

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第八章 道明様と過ごせる時間

第六十七話 お信さんと草順

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 翌朝、道明様をジト目で送り出した後、向日ちゃんと朝ご飯を食べた。
 彼女の食欲はモリモリ増えていて、頭痛の回数も激減している。雨が降りそうな時は、痛み初めに草順が調薬してくれた薬を飲む事で、私がいなくてもどうにかできるようにまでなっていた。
「今日は何か予定ありそう?」
「小瑠璃様のご予定はありません。道明僧正様がお昼まで外出なさるとの事で、その間のお困り事は田助様に聞くようにとの事です」
「分かった、ありがとう。じゃあこの後は医療所に行くね」
「はい」
 侍女としての仕事もちゃんとできていてめっちゃくちゃ偉い。
 自分の侍女だったお姉ちゃんのやり方を真似ているらしいけど、ひとつひとつ感謝する度に毎回笑顔になるのが可愛過ぎる。
 あどけなさの残る顔がお人形さんみたいなんだよね。それに笑顔がこう、花が咲いたみたいに華やかで可愛いんだよね。
 あと二週間で帰っちゃうのが残念だなぁ。
 なんて思いながら、彼女を引き連れて新医療所へ行く。
 新医療所の門をくぐると、いつも通り智久さんがサッと警護に来てくれた。
「おはようございます」
 挨拶も返してくれないけど、一応こちらからは挨拶をして新医療所内へ。
 今日も木村先生と小林親子が準備をしていて、こっちにもいつも通り挨拶をした。
「おはようございます」
 やや揃った「おはようございます」の返事を聞いてから、その奥の、調薬室こと草順部屋へ行って。
 襖に手をかけようとすると、部屋の中から怒鳴り声が聞こえてきた。
「ですから!それでは駄目だと言っているではありませんか!」
 聞こえてきたのは、漢方屋の一人娘、お信さんの声。
 どうやらまた揉めているらしいので木村先生に視線を送ったけど、お茶目に微笑まれてしまった。
 あの大先生に仲介する気はないらしい。
 驚き顔の向日ちゃんの頭をポンポンと撫でてから襖を開ける。
 すぐに目に飛び込んできた少し散らかった部屋。散らかりの中央にいるのは草順で、薬棚近くではお信さんがぷりぷり怒っていた。
「おはよう」
「あ、小瑠璃様!聞いてくださいよ!」
「おはようございます」
「草順先生がまた高価な薬草を無償で渡してしまわれたんですよ!もう!」
 実家が商売をしているだけあって、お信さんは金銭感覚がしっかりしている。
 この新医療所でも今は治療費と薬代を請求するようになったけど、草順の頭には勘定なんて単語は登録されてないからなぁ。
「試験段階の治験として渡しているのにお代はとれません」
「取るのです!最低でも半値は取らねば赤字になってしまいます!」
 八ツ笠でも彼は治験薬は無償で配っていたから、それが彼なりのポリシーなんだろうけど、お信さんの言い分も分かる。
「効果が出ないものは薬ではないですよ」
「では治験を控えてくださいませ!」
 多分これ、どちらも正しいし、どちらの意見も理解はできる。ちょっと難しい問題だから木村先生も放っておいているのかな?
「それはできませんね」
「それだと赤字になってしまうと言っているではありませんか!」
 平行線を辿ると思われたバトル。終わるきっかけは意外にも隣の可愛い子だった。
「効果がない時のみ返金しては?」
「返金?」
 向日ちゃんの口から聞こえたあまり彼女に似つかわしくない単語。
 でもそうか。彼女の村は漢方を売ってたからそういう知識はあるのか。
「赤字は他で補填できるでしょう」
「それでは正常な運営が出来ません!常に赤字の瀬戸際でいたら万一の際にすぐにたなが潰れてしまいます!」
 どんどんエキサイトするご両人。というか主にお信さん。
 そして、あの二人の間に口を挟めるほど気が強くない向日ちゃん。
 これじゃあ話が進まないし、仕方ないけど私が矢面に立つしかないか。
「ちょっといい?」
 大きめの声で話しかけると、お信さんは流石に口を閉じてこっちを向いてくれた。草順は背中を向けてるけど・・・聞こえてるだろうからいいか。
「渡す時に治験薬である事を説明して、効果がなければもう一度来てもらって、その時に返金すれば解決するんじゃない?」
「確かに!草順先生、それなら良いですね??」
「それなら・・・良いですけど」
 まだちょっと不服そうな草順だけど、一応は納得してくれたらしい。
 後は木村先生が上手くやるだろうけど・・・あれ?私、何の用でここに来たんだったっけか?


 入院してた患者を数名治して、その間に用事は思い出すことができた。
 向日ちゃんが言っていた「薬湯」についてを草順に話す為だったのだ。
 で、彼にその話をすると、キラキラした目でメモを取っていた。しかもその薬湯、血行を良くする物のようだったけど、よくよく聞くと例の媚薬と調合がほとんど同じだった。
 媚薬の材料は、ペナルティとして鹿森の村長の息子が月に一回収めに来ることになっているから、豊富に手に入る。
 血行が良くなるのはお年寄りに良さそうだなぁなんて思いながら、草順のメモを眺めて。すると、彼の筆が唐突に止まった。
「そういえば、今日って小瑠璃さんも来るんですか?」
「今日?」
 私の今日の予定は特になかったはず。
 念の為向日ちゃんを見たけど、彼女も首を横に振っていた。
「どこか行くの?」
 再び動き始めた筆で残り一行を書き終えてから、草順は顔を上げた。
 でも、そんなキョトンとした顔をされても私は何も聞いてないんだけどなぁ。
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