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第九章 立ちはだかる運命
第六十八話 洲先の港
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「洲先の港です」
「洲先・・・?」
「広洲の南です」
「広洲・・・?」
「小瑠璃様、広洲はここの地名です」
「え、そうだっけ」
なんということだ。
草順はともかく、向日ちゃんですら知っているこの地の名前を、私だけが今まで知らずにいたなんて・・・!
と言うか、道明様、広洲なんて単語口にした事あったっけ?
鹿谷に来るまでの船の中で、この地については色々聞いていたけど・・・地名は聞いてない気がする。聞いてないなら教えてくれなかった道明様が悪い。
私が無知なんじゃなくて、これは道明様のせいだ。そういうことにしておこう。
「洲先の港に何しに行くの?」
「舶来品があるとの事で、僕と木村先生で行こうかと」
舶来品って、海外の物、つまり輸入品って事だ。
でもこの鹿谷は山口県。この時代の自由貿易を許されているのは、ここら辺では長崎県だけのはずで。
え、密輸入・・・って事?
「買うの?」
「高価なはずなので主に見物です」
草順の返事にちょっとだけ安心した。
もしその舶来品が違法な物だった場合、違法な物だと知らなかったとしても、買ってしまえば騒動に巻き込まれてしまう危険性がある。
騒動は、避けなければ。いつかみたいに冤罪をふっかけられて指名手配されてしまわない為にも。
その一時間半後。
私は桜号の馬上にいた。
隣の白梅号の上には草順、前を行く蓬号の上には木村先生。
後ろの、急遽借りてきた落ち着きのない雄馬の上には智久さんがいる。
で、この四人と四頭で目指しているのは例によって洲先の港。
私がなぜその一団に加わっているかと言うと、これにはまた深い訳があるのだ。
「小瑠璃殿も随分と馬に慣れたようで」
「これでもそこそこ連日乗ってますから」
馬上でもピンと背筋が伸びたこの木村先生こそが、その発端でもあったけど、なぜ同行したいかは迷った挙句話せずにいる。
話せずにいるのは、この予感が外れていて欲しいなぁと思うからでもあった。
「流石でございますな」
「頑張ってます」
「存じております。その頑張りの源はやはり道明僧正様なのでしょうね」
「そう・・・ですね・・・!」
木村先生とゆっくり雑談するのが久しぶりだったから完全に油断していたけど、このおじいちゃんそこそこお茶目なんだった。
完全に油断していたから変なテンションで返事をしてしまった。
独身の草順や、長期単身赴任中の智久さんの前で惚気るのはあまりよろしくないのに。
・・・あれ?そういえば木村先生って、ご結婚されてないんだっけ?
気になる。けど、こういう話は気を付けないと、人によっては聞かれたくなかったりするからなぁ。
「聖女様としてのお姿も見違えるようで驚きました」
「えへへ」
「やはり伴侶を得ると人は変わるのでしょうね。道明僧正様もお変わりになられましたし」
「え、そうなんですか?!」
聞き逃せない情報にちょっと大きな声が出てしまった。
道明様の話。しかも私と出会う前の道明様の話。詳しく、聞きたいけど・・・。
木村先生はフフフと笑っているから、聞けば教えてくれそうだ。
けど、隣の草順は、興味がなさそうにも見える。
聞いて、いいかな・・・?
いいや、聞いちゃえ。
「昔の道明様って・・・」
「あ、あれが港ですね」
わざとではないんだろうけど、草順に遮られた形になってしまって仕方なく口を閉じる。
彼が示す左手前には、確かに、遠目に建物の様なものが見えた。
「船も着いているようで、ちょうど良いですな」
民家であろういくつかの板葺き屋根の向こう側。よく見ると帆船の帆のようなものが見えなくもない。
というか、木村先生視力良すぎない?「もうすぐ六十」って言ってたけど、六十歳近い人の視力ではないよね?
馬が歩くに連れて近づいて来る漁村と、やはり帆船だったらしい大きな船。
賑わう声が徐々に大きく聞こえ、まるでお祭りみたいだなーなんて、この時までは呑気に考えていたのだ。
「あんたら丁度良いね!あの船はついさっき入ったんだよ!」
なんて言うおじちゃんから木村先生が買ってくれた焼き魚を齧りつつ、人混みを遠巻きに見る。
入港したばかりだと言う船には、待ち望んでいた人たちが押し寄せていて、主に商人だろうけど本気度が桁違いだ。
物見遊山の私たちは騒ぎが落ち着くのを大人しく待つしかないのだ。
「あれはどちらからの船でしょうか?」
「どちらって、阿蘭陀からに決まってんだろ」
「左様でございますか」
木村先生がおじちゃんと話しているのを聞きつつ、目は船の方に向けていた。
船上に見える船員たちは、遠目にもヨーロッパ系の見た目でオランダ人に見えなくもない。
「阿蘭陀語の通詞(通訳)がいらっしゃるので?」
「そんなんいないいない!なくても勢いでどうにかなるからね」
人混みの向こうにチラチラ見える商人は、確かに身振りで会話しているようにも見えた。
この時代の輸出品って金銀とかだっけ?
商人なら小判も持ってそうだけど、明らかに一般人に見える人たちは何で買い物してるんだろう?
あ、食べ物であれば需要なくもないのか。着物も喜んでくれるだろうし、焼き物とか、刀なんてものも・・・。
「小瑠璃さん」
「ん?」
「洩れてますよ」
「洲先・・・?」
「広洲の南です」
「広洲・・・?」
「小瑠璃様、広洲はここの地名です」
「え、そうだっけ」
なんということだ。
草順はともかく、向日ちゃんですら知っているこの地の名前を、私だけが今まで知らずにいたなんて・・・!
と言うか、道明様、広洲なんて単語口にした事あったっけ?
鹿谷に来るまでの船の中で、この地については色々聞いていたけど・・・地名は聞いてない気がする。聞いてないなら教えてくれなかった道明様が悪い。
私が無知なんじゃなくて、これは道明様のせいだ。そういうことにしておこう。
「洲先の港に何しに行くの?」
「舶来品があるとの事で、僕と木村先生で行こうかと」
舶来品って、海外の物、つまり輸入品って事だ。
でもこの鹿谷は山口県。この時代の自由貿易を許されているのは、ここら辺では長崎県だけのはずで。
え、密輸入・・・って事?
「買うの?」
「高価なはずなので主に見物です」
草順の返事にちょっとだけ安心した。
もしその舶来品が違法な物だった場合、違法な物だと知らなかったとしても、買ってしまえば騒動に巻き込まれてしまう危険性がある。
騒動は、避けなければ。いつかみたいに冤罪をふっかけられて指名手配されてしまわない為にも。
その一時間半後。
私は桜号の馬上にいた。
隣の白梅号の上には草順、前を行く蓬号の上には木村先生。
後ろの、急遽借りてきた落ち着きのない雄馬の上には智久さんがいる。
で、この四人と四頭で目指しているのは例によって洲先の港。
私がなぜその一団に加わっているかと言うと、これにはまた深い訳があるのだ。
「小瑠璃殿も随分と馬に慣れたようで」
「これでもそこそこ連日乗ってますから」
馬上でもピンと背筋が伸びたこの木村先生こそが、その発端でもあったけど、なぜ同行したいかは迷った挙句話せずにいる。
話せずにいるのは、この予感が外れていて欲しいなぁと思うからでもあった。
「流石でございますな」
「頑張ってます」
「存じております。その頑張りの源はやはり道明僧正様なのでしょうね」
「そう・・・ですね・・・!」
木村先生とゆっくり雑談するのが久しぶりだったから完全に油断していたけど、このおじいちゃんそこそこお茶目なんだった。
完全に油断していたから変なテンションで返事をしてしまった。
独身の草順や、長期単身赴任中の智久さんの前で惚気るのはあまりよろしくないのに。
・・・あれ?そういえば木村先生って、ご結婚されてないんだっけ?
気になる。けど、こういう話は気を付けないと、人によっては聞かれたくなかったりするからなぁ。
「聖女様としてのお姿も見違えるようで驚きました」
「えへへ」
「やはり伴侶を得ると人は変わるのでしょうね。道明僧正様もお変わりになられましたし」
「え、そうなんですか?!」
聞き逃せない情報にちょっと大きな声が出てしまった。
道明様の話。しかも私と出会う前の道明様の話。詳しく、聞きたいけど・・・。
木村先生はフフフと笑っているから、聞けば教えてくれそうだ。
けど、隣の草順は、興味がなさそうにも見える。
聞いて、いいかな・・・?
いいや、聞いちゃえ。
「昔の道明様って・・・」
「あ、あれが港ですね」
わざとではないんだろうけど、草順に遮られた形になってしまって仕方なく口を閉じる。
彼が示す左手前には、確かに、遠目に建物の様なものが見えた。
「船も着いているようで、ちょうど良いですな」
民家であろういくつかの板葺き屋根の向こう側。よく見ると帆船の帆のようなものが見えなくもない。
というか、木村先生視力良すぎない?「もうすぐ六十」って言ってたけど、六十歳近い人の視力ではないよね?
馬が歩くに連れて近づいて来る漁村と、やはり帆船だったらしい大きな船。
賑わう声が徐々に大きく聞こえ、まるでお祭りみたいだなーなんて、この時までは呑気に考えていたのだ。
「あんたら丁度良いね!あの船はついさっき入ったんだよ!」
なんて言うおじちゃんから木村先生が買ってくれた焼き魚を齧りつつ、人混みを遠巻きに見る。
入港したばかりだと言う船には、待ち望んでいた人たちが押し寄せていて、主に商人だろうけど本気度が桁違いだ。
物見遊山の私たちは騒ぎが落ち着くのを大人しく待つしかないのだ。
「あれはどちらからの船でしょうか?」
「どちらって、阿蘭陀からに決まってんだろ」
「左様でございますか」
木村先生がおじちゃんと話しているのを聞きつつ、目は船の方に向けていた。
船上に見える船員たちは、遠目にもヨーロッパ系の見た目でオランダ人に見えなくもない。
「阿蘭陀語の通詞(通訳)がいらっしゃるので?」
「そんなんいないいない!なくても勢いでどうにかなるからね」
人混みの向こうにチラチラ見える商人は、確かに身振りで会話しているようにも見えた。
この時代の輸出品って金銀とかだっけ?
商人なら小判も持ってそうだけど、明らかに一般人に見える人たちは何で買い物してるんだろう?
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「小瑠璃さん」
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