聖女の私にできること第三巻

藤ノ千里

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第六章 私の役割

第五十二話 付きっきりの看病

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 男性はゆっくりと瞬きをするとこちらに視線を向ける。
 治療に必死で気付かなかったが、男らしい整った顔立ちをしていていかにも大和男児という感じのイケメンだ。
 てっきり黒峰城城主様の身内かと思っていたが、城主様よりお若いし、何より全く似ていない。
 遠縁の親戚、にしても似ていなさすぎるから養子か何かだろうか?
「っ・・・くっ・・・!」
「あ、お水飲んでください」
 喉がカラカラだったのだろう、旨く声が出せないようだ。体を起こすのはまだ怖いので、口の中を湿らす程度に水を含ませる。
 気持ちよさそうにのどを潤したその男性は、また私の方を見た。
「そのほうは?」
「小瑠璃と申します」
 眼差しだけでも圧を感じて、彼がどうやらお偉いさんであることは分かった。
 ただ、そう、お城では不用意な質問も無礼に当たるらしいので言われるまでは何も聞かないでおくが。
「私は、治ったのか?」
「一時的に熱を下げました。おそらくまた上がりますが、その時はまた私が下げますので安心してください」
 私の言葉を聞き終えると、男性は何かを考えるように辺りを見回す。
 警備の人も下がってもらったので、部屋の中には二人きり。廊下の方に何人か控えてはいそうだが、あまり良くなかったのだろうか・・・?
「先の光はそなたか?」
「私の『奇跡の業』と呼ばれるものです」
「奇跡・・・」
 考え込んでいると、小さく咳が出た。慌ててまたお水を口に含ませる。
「眠ってください。私が必ず治しますから」
 なおも喋ろうとする男性の胸の上まで布団をかける。こうやっていると、昔娘を看病していた時のようで懐かしさを感じてしまう。
 こちらを見つめる視線を塞ぐように、手のひらで男性の目を無理やり閉じた。
 娘も熱が出る度に寝るのを怖がって、こうやって寝かしつけていたものだ。
 20代半ばほどの男性を寝かしつけるのもどうかとは思ったが、寝てくれないと回復もしないので致し方ない。男の人に触れてしまったが、これはそう治療の一環なので道明様も許してくれるだろう。


 付きっきりの看病というと格好いいが、患者が寝てしまえば退屈になる。
 庭が豪華だなーなんて思いながらボーっと時間をつぶして、二時間くらい経った時だろうか。寝返りを打つような音が聞こえて振り返ると、男性がまた苦しそうにしていた。
 おでこは、熱い。喉も、腫れている。
 もしかしたら、ぶり返すかどうかの違いは患者の体力とか?帰ったら草順に相談してみるか。そう思いながら聖女の業を使うと、今度は最初よりも少し早く熱も腫れも引いた。
 手拭いで額の汗をぬぐってあげていると、男性と目が合う。
「どうかしましたか?」
 微笑みながら聞いても返事がない。目を開けたまま寝ているのだろうか?
 おでこを触ってみると熱はちゃんと引いているし、異常行動でもなさそうだし、病人なので仕方ないがそんなにじっと見つめられるとさすがに気まずいんだけどなぁ。
 目をそらすように廊下の方を向く。すると、ちょうど城の侍女がお昼ご飯を持ってきてくれていた。
「昼餉をお持ちしましたが、こちらでよろしかったでしょうか?」
「ありがとうございます!」
 木村先生がちゃんと伝えてくれたのだろう。侍女は膳を廊下に置いたまま下がってくれた。
 取りに行き蓋を開けてみる。ちゃんと煮溶かしたおかゆだ。さすがは木村大先生。
 二つの膳を男性の元へ運びながら、気付いた。彼をどうやって座らせようか・・・?
 寝ころんだまま食べさせるのは絶対に駄目だし、かといって私が抱きかかえるのも無理だ。
 いったん膳を置いて、部屋を見渡す。奥に襖があったので開けてみると・・・あった、布団だ。二組の布団を引っ張り出し男性の布団の隣に積み上げる。たくさん折りたためば簡易背もたれの完成だ。
「ご飯にするので体を起こせますか?」
「あぁ」
 返事は肯定だったが、体に力が入らないのかフラフラと危なっかしい。致し方ないので抱きかかえるようにして布団の山にもたれさせた。
 意外と体が大きかった上に筋肉質だったので相当鍛えてそうだ。まぁちょんまげなのでお侍さんなんだろうが。
 しんどそうではあった。でも体力回復の為には食事は取ってほしい。ので、彼のお椀を代わりに手に取った。
 匙ですくって口元に運ぶ。怪訝そうな顔をされてしまったが構うもんか。
「口を開けてください」
 こういう時は「こちらが正論ですよ」という態度が効くのだ。現にほら、ゆっくりだけど口を開いてくれた。
 口の中に少しだけのおかゆを落としてあげると、男性は嚙みしめるように咀嚼していた。飲み込んですぐにまた口を開いてくれたのでおいしかったようだ。
 まるで本当に子どもの世話をしているみたいで、懐かしくなりながら食べさせていると、あっという間にお椀一杯分のおかゆがなくなる。
 これだけ食欲があれば回復も早いかもしれない。
「少ししてから布団に戻しますね」
 男性に告げてから自分の分を食べ始める。
 まさかの彼と全く同じおかゆだったので一瞬だけ哀しくなったが、ただのおかゆなのにきちんと出汁が取ってあって、塩加減もちょうどよくて粗食に慣れ過ぎた私には十分なごちそうだった。
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