聖女の私にできること第三巻

藤ノ千里

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第八章 聖女に求められるもの

第六十六話 はしかについて

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「小瑠璃様は子守りをされた事がおありなのですか?」
 驚いた顔のお美代さんに出迎えられて、少し照れくさい。
 育児経験はあっても、あちらの世界では共働きの身だったので、胸を張れるほど経験があるとは言いがたかったのだ。
「どうだろ・・・?」
 苦笑してみせると、私の記憶喪失設定を知っているお美代さんは都合よく勘違いしてくれたようだ。
「失礼を申しました・・・!」
「ううん、気にしないで」
 お美代さんに返事をしてからチラリとお富さんの方を見る。
 少し迷ったが、彼女の元に行くことにした。
「お富さん、こちら住職様の奥方様の小瑠璃様です」
 着いてきてくれたお美代さんがきちんと紹介してくれたので、ニコリと奥方様の笑みを浮かべて見せる。
「お富と申します」
 お富さんは恐縮しながら頭を下げていたが、彼女、疲れが顔に滲んで歳上に見えるだけで実は二十歳になっていないんじゃないだろうか・・・?
 お富さんの隣に寝かされている彼女の子どもは、まだ首が座ってもいないかもしれない。
 その隣のあの赤ちゃん。この子はもう少し大きいけど、二人ともやっぱり痩せていた。
「大変だと思うけど、あなたにしか出来ないことなのでよろしくお願いしますね」
「は、はい!」
 まさか自分がお偉いさんの立場になるとは思っていなかったが、これからはこういう事も増えそうだ。
 お富さんとは出来れば仲良くしたいが、あまり圧をかけてしまっても可哀想なので、今日はこれくらいで彼女とは距離を取ってあげることにした。
 道場内では、田助の隣に木村先生が立っていて、怪我の応急処置や病気になった時の対応について教えているようだ。
 生徒の半分は聞いてなさそうだが、これはまぁ仕方ないだろう。
「そろそろ向こうに戻るね」
「はい!頑張ってらっしゃいませ!」
 お美代さんに見送られて道場を出る。
 外のからっ風はまだまだ冷たいし、患者は全然途切れない。
 赤ちゃんの為にも、お富さんやお美代さんの為にも、私はお仕事を頑張らなければ。
 こんな気持ちも懐かしいなと思いつつ、私は新医療所へ戻ることにした。


 それは、夕ご飯を食べながら、午後診た患者についてを木村先生に報告している時だった。
 高熱が出た後に、体の発疹が出た患者がいたと幸太郎先生が彼には珍しい真面目な顔で告げた。
 すぐに木村先生の表情も固くなる。
「もしかしたら、はやり風邪だけでなく、はしかも流行っているのやもしれませぬ」
「やっぱはしかですかね・・・」
 聞いたとこがある病名に、慌てて過去の記憶を引っ張り出す。感染したことはないはずだが、何となく危険な病名である事だけはすぐに思い出した。
 幸太郎先生と木村先生だけでなく草順も考え込むような顔をしているということは、インフルエンザより重い病気なのか。
「小瑠璃殿は、はしかについてはご存知ありませんか?」
 先生方の視線が私に集まる。が、さすがに罹患したことの無い病気はすぐに思い出せない。
「はしかって、どんな症状でしたっけ?」
「初期は風邪のように熱と、鼻水や咳、他には目に症状が現れることもあります。その後さらに熱が上がり、顔周りに赤い発疹が生じ、それが全身に広がるのです」
 木村先生の説明を聞きながら、少しだけ思い出した。おそらく予防接種を受けた病気だ。
「もしかして、一度治ったら二度目は感染しない病気ですか?」
「そう言われています」
 ならやはりあれだ。風疹か麻疹のどちらかだろう。
 予防接種に含まれているなら感染力も致死率も高いだろうし、インフルエンザとの同時流行は確かに恐ろしい。
「特に有益な情報は持ってないですね・・・」
「そうですか」
 あいにくと病気については木村大先生に頼るしかない。
 私、医療所で働いてはいるけど、厳密には医師じゃないし、こういう時あまりお役には立てないのは口惜しいなぁ。
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