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第八章 聖女に求められるもの
第六十七話 改まる覚悟
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「小瑠璃さんがいれば問題ないと思いますけど」
能天気にも思える意見は、先程まで黙っていた草順からだった。
どういう事だろう?説明を求めて言葉足らずな天才の方を見ると、キョトンとした顔の彼と目が合った。
「草順先生、どういう事でしょうか?」
「治されてましたよね?はしかの患者」
一日中ほぼ調薬しかしてないはずなのに、なんと彼は患者もちゃんと見ていたらしい。
だとしても私は発疹の患者なんて治してないはずなのだが・・・。
「風邪症状と目の痛みの男の子、今日妹と一緒に来てましたよ。回復してたみたいだし」
そう言われたところで、それがいつ診たどの子だったかも思い出せるわけもなく。
彼には薬草博士だけでなくそろそろ記憶力チャンピオンの称号も与えた方がいいのかもしれない。
「聖女の業にて治せるのでしたら、明日よりは風邪症状の子どもも小瑠璃殿に診ていただく必要があるやもしれませんね」
そう言う木村先生に大きく頷く。
喧嘩の怪我を治すなんて事よりは断然重要な仕事だ。それに、子ども相手なら自然とやる気も上がるしね。
明日に備えてご飯をもりもり食べ、箸を置く。
「ご馳走様でした」をして顔を上げると、また草順と目が合った。
「思ったんですが、寺子屋使えません?」
まるでなぞなぞだ。
たぶんさっきの話の続きなんだろうが、どう繋がるんだろう?
はしかを聖女の業で治すのと、寺子屋。
寺子屋で患者を隔離する、とか・・・?
「もしや、『予防接種』の代わりでしょうか?」
木村先生の追加情報に頷く草順。先生のおかげで私にもようやく分かった。
予防接種の代わりとして、寺子屋で子どもにはしかをわざと感染させて、それをすぐに聖女の業で治そうという事なんだろう。
原理は分かるし、長屋に出張に行くよりは手間は少なくて済む。感染初期に治せば苦しい思いも少なくて済むだろう。
それは確かに効率的で理にかなった方法に聞こえる。だけど・・・。
「試してみる価値はありますね。小瑠璃殿はいかが思われますか?」
「私は・・・自信が無いです」
外傷と違って、病気は基本的に完治を確認することができない。
診た患者は全員治して来たが、治した患者がその後本当にちゃんと完治したかどうかを、私は完全に把握出来ていないのだ。
熱を下げてあげても、その後自宅で悪化して亡くなっているかもしれない。それが自然に感染した病気だとしても心苦しいのに、わざと感染させてそれで亡くなったら?
それは、人を殺したのと同じ意味になるのではないだろうか・・・?
ネガティブな考えが頭の中をグルグルと駆け回る。中断させてくれたのは草順だった。
「小瑠璃さんって全然聖女っぽくないですよね」
「え?」
悪口にも聞こえる内容だが、草順は笑っていた。しかも、「やれやれ」とでも言わんばかりの優しい表情で。
「もっと堂々としてればいいのに」
今度は呟くように、草順は言う。話が飛び飛びに聞こえるけど、きっと彼の中では繋がっているんだろう。
補足情報を求めて木村先生を見ると、先生は草順の言葉足らずさに苦笑していた。
あの感じでは、この老医師には意味が伝わっているということか。
「恐らくですが、草順先生は小瑠璃殿の自己評価の低さを気にされているのかと」
「自己評価の低さ」と言われてドキリとした。
確かに私は私にあまり自信がない。あちらの世界でもそうだったが、自分の事となるとマイナス思考に走ってしまう悪い癖もあった。
「小瑠璃殿さえよろしければ、はしかの感染治療は私の責任で行いましょう」
こういう時いつも頼りになるのが木村大先生だ。知識と経験があるだけじゃなく、躊躇なく自分の部下を守ってくれる。
まるでそう、道明様のように。
人の上に立つ人というのは皆こうなのだろうか?
あちらの世界と違い、自分が正しい事を出来ている確証も得られず、失敗した時の代償が遥かに大きい。
だと言うのに、彼らは誰かのために体を張る。
守られるのは、きっと楽だろう。
責任を取ってもらって、尻拭いをしてもらって、聖女としての知名度だけ私が貰って・・・。
木村先生と幸太郎先生と草順とお凛さん、皆静かな眼差しで私を見ていた。
木村先生の提案を受け入れても、ここにいるみんなは私を責めない。
責めるのは、そう、私自身だ。
「いえ、私がやります」
どうやら聖女として生きるのに、まだ覚悟が足りなかったようだ。
教えてくれた草順には感謝しかない。
「私が、私の責任で、私の名前の元でやります。お手伝いをお願いしても良いでしょうか?」
能天気にも思える意見は、先程まで黙っていた草順からだった。
どういう事だろう?説明を求めて言葉足らずな天才の方を見ると、キョトンとした顔の彼と目が合った。
「草順先生、どういう事でしょうか?」
「治されてましたよね?はしかの患者」
一日中ほぼ調薬しかしてないはずなのに、なんと彼は患者もちゃんと見ていたらしい。
だとしても私は発疹の患者なんて治してないはずなのだが・・・。
「風邪症状と目の痛みの男の子、今日妹と一緒に来てましたよ。回復してたみたいだし」
そう言われたところで、それがいつ診たどの子だったかも思い出せるわけもなく。
彼には薬草博士だけでなくそろそろ記憶力チャンピオンの称号も与えた方がいいのかもしれない。
「聖女の業にて治せるのでしたら、明日よりは風邪症状の子どもも小瑠璃殿に診ていただく必要があるやもしれませんね」
そう言う木村先生に大きく頷く。
喧嘩の怪我を治すなんて事よりは断然重要な仕事だ。それに、子ども相手なら自然とやる気も上がるしね。
明日に備えてご飯をもりもり食べ、箸を置く。
「ご馳走様でした」をして顔を上げると、また草順と目が合った。
「思ったんですが、寺子屋使えません?」
まるでなぞなぞだ。
たぶんさっきの話の続きなんだろうが、どう繋がるんだろう?
はしかを聖女の業で治すのと、寺子屋。
寺子屋で患者を隔離する、とか・・・?
「もしや、『予防接種』の代わりでしょうか?」
木村先生の追加情報に頷く草順。先生のおかげで私にもようやく分かった。
予防接種の代わりとして、寺子屋で子どもにはしかをわざと感染させて、それをすぐに聖女の業で治そうという事なんだろう。
原理は分かるし、長屋に出張に行くよりは手間は少なくて済む。感染初期に治せば苦しい思いも少なくて済むだろう。
それは確かに効率的で理にかなった方法に聞こえる。だけど・・・。
「試してみる価値はありますね。小瑠璃殿はいかが思われますか?」
「私は・・・自信が無いです」
外傷と違って、病気は基本的に完治を確認することができない。
診た患者は全員治して来たが、治した患者がその後本当にちゃんと完治したかどうかを、私は完全に把握出来ていないのだ。
熱を下げてあげても、その後自宅で悪化して亡くなっているかもしれない。それが自然に感染した病気だとしても心苦しいのに、わざと感染させてそれで亡くなったら?
それは、人を殺したのと同じ意味になるのではないだろうか・・・?
ネガティブな考えが頭の中をグルグルと駆け回る。中断させてくれたのは草順だった。
「小瑠璃さんって全然聖女っぽくないですよね」
「え?」
悪口にも聞こえる内容だが、草順は笑っていた。しかも、「やれやれ」とでも言わんばかりの優しい表情で。
「もっと堂々としてればいいのに」
今度は呟くように、草順は言う。話が飛び飛びに聞こえるけど、きっと彼の中では繋がっているんだろう。
補足情報を求めて木村先生を見ると、先生は草順の言葉足らずさに苦笑していた。
あの感じでは、この老医師には意味が伝わっているということか。
「恐らくですが、草順先生は小瑠璃殿の自己評価の低さを気にされているのかと」
「自己評価の低さ」と言われてドキリとした。
確かに私は私にあまり自信がない。あちらの世界でもそうだったが、自分の事となるとマイナス思考に走ってしまう悪い癖もあった。
「小瑠璃殿さえよろしければ、はしかの感染治療は私の責任で行いましょう」
こういう時いつも頼りになるのが木村大先生だ。知識と経験があるだけじゃなく、躊躇なく自分の部下を守ってくれる。
まるでそう、道明様のように。
人の上に立つ人というのは皆こうなのだろうか?
あちらの世界と違い、自分が正しい事を出来ている確証も得られず、失敗した時の代償が遥かに大きい。
だと言うのに、彼らは誰かのために体を張る。
守られるのは、きっと楽だろう。
責任を取ってもらって、尻拭いをしてもらって、聖女としての知名度だけ私が貰って・・・。
木村先生と幸太郎先生と草順とお凛さん、皆静かな眼差しで私を見ていた。
木村先生の提案を受け入れても、ここにいるみんなは私を責めない。
責めるのは、そう、私自身だ。
「いえ、私がやります」
どうやら聖女として生きるのに、まだ覚悟が足りなかったようだ。
教えてくれた草順には感謝しかない。
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