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第九章 不器用な愛情
第七十一話 道明様への直談判
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お昼ご飯の時間になると、道明様はきっちりと部屋に戻ってきた。
すぐに晴彦が二つの膳を持ってきてくれて、下がって行く。
道明様が箸を取る前に、私はゆっくりと口を開いた。
「道明様、私に隠してることありますよね?」
わざとカマをかける言い方をしてみる。けれど、肝が太すぎるこの美人は微塵も動揺することなく食事を始めた。
「ありますよね?」
「あるが?」
意地悪そうに目を細めながらお味噌汁をすする姿すら絵になって、感心を通り越して腹が立ってくる。
なぜこの人はこんなにも顔立ちが整っているのか・・・!
「夜の話です・・・!」
いっぱい隠し事をしてるのは知ってたし今更だが、これだけは隠されていい事柄では無いはずだった。
何せ私は当事者なのだから。
「何の事だ?」
わざとらしくとぼけながら、道明様はおかずにも手をつけ始めた。
まるで壁打ちでもしてるかのように手応えが無さすぎて、更に腹立たしい。
やっぱりこの人魔王か何かだわ。
「覗かれてるの、知ってましたよね?」
六助の心を読んで見えてしまったもの。それは、そう、夜に道明様のお部屋を彼らが覗いている光景だった。
当然というか、夜なので私たちはそういう事をしているわけで、それを、六助だけじゃない、何人かの子が、見ていたのだ・・・!
手引きしてたの一松っぽかったし、となればもう首謀者はこの人しかいない。
とんでもない男だ。そういう事をしているのを覗かせているなんて、本っ当に信じられない!
「そうだな」
しかも、私にバレた事なんて些細なことでしかないという風にご飯を食べ続ける涼しいお顔も有り得なさすぎて、思い切り彼を睨みつけた。
「理由によっては、私もうこの部屋で寝ませんよ」
道明様は流れるように優雅な箸使いでお椀の中を空にしていき、全て食べ終わるとカタンと箸を置いた。
「閨の教育だ」
「え?」
「教育をせねば間違いが起こるであろう?」
何だこの「当然だろ?」みたいなリアクションは・・・!
私の事を世間知らずと侮っているのかもしれないが、この時代であってもさすがに覗きが非常識であることは、さすがの私でも知ってるぞ・・・!
「そういうのはそういうお店で教えてもらうんじゃないんですか?」
やっぱり舐められていたらしい。道明様は一瞬だけ目を開いて、またからかうような表情で目を細める。
あれはそう、たぶん「こいつそういう店があるの知ってるのか。でもそれくらいなら問題ないか」くらいの感じか。
・・・なんで私、心も読んでいないのに道明様の考えてることがこんなにも分かるんだろう?
「商売女を買うのには金子が足りぬ。それに、年若きものを教え導くのは住職の身としては当然であろう」
分かった。いつも言いくるめられるからだ。
まるで「こちらが正論ですよ」と言わんばかりに毎回毎回言いくるめられるから、どうせ今回もそうなるだろうと諦めの気持ちを持ってしまっているからだ。
本当に、この男は!魔王だ魔王だとは思っていたが、いざ自分が弄ばれる立場になると非道さがよく分かる。こう、いつか思い切りやり返してやらなければ気が済まない・・・!
「私は!嫌ですからね!!」
性教育が重要な事は同意だが、「だから営みを覗かせてね」はさすがに許容範囲を超えてしまっている。
本当は隣の部屋に晴彦と一松が寝泊まりしてるのだって我慢しているんだ。これ以上は絶対に譲れない。
綺麗すぎるお顔にやられてしまわないように、顔を思い切り反らして腕を組む。なんだかんだ言って、私が絶対に嫌な事をしないのも、この人だからだ。
「明かりを消せば影しか見えぬぞ?」
「嫌です」
絶対に嫌だという意思表示をすれば、止めてくれるのだ。
大抵は。
「・・・そなた、甘味を欲していると聞いたが」
大抵は止めてくれる。けれど、稀に、無理やりこちらの許容範囲を広げようともしてくる。
「町で柑橘の菓子を見たが、土産に買って帰るか?」
・・・やっぱりこの人、私の心を読めてるよね?
確実に、的確に、私の一番弱いところを突いてくる手口は、もう心が読めてないと不可能だよね?
薬としてじゃなくて個人的に甘味が欲しいという話は、道明様にはしてないのに、どこからその情報を得てくるのだろうか・・・。
「甘いもので釣ろうと思っても無駄ですからね」
いやでも、物凄くお腹が減っている時や、光来寺に来た直後ならともかく、今ではちゃんとおいしいご飯をそこそこ食べることができるのだ。
柑橘のお菓子は魅力だけれども、そんなに簡単に釣られる私ではないのだ。
すぐに晴彦が二つの膳を持ってきてくれて、下がって行く。
道明様が箸を取る前に、私はゆっくりと口を開いた。
「道明様、私に隠してることありますよね?」
わざとカマをかける言い方をしてみる。けれど、肝が太すぎるこの美人は微塵も動揺することなく食事を始めた。
「ありますよね?」
「あるが?」
意地悪そうに目を細めながらお味噌汁をすする姿すら絵になって、感心を通り越して腹が立ってくる。
なぜこの人はこんなにも顔立ちが整っているのか・・・!
「夜の話です・・・!」
いっぱい隠し事をしてるのは知ってたし今更だが、これだけは隠されていい事柄では無いはずだった。
何せ私は当事者なのだから。
「何の事だ?」
わざとらしくとぼけながら、道明様はおかずにも手をつけ始めた。
まるで壁打ちでもしてるかのように手応えが無さすぎて、更に腹立たしい。
やっぱりこの人魔王か何かだわ。
「覗かれてるの、知ってましたよね?」
六助の心を読んで見えてしまったもの。それは、そう、夜に道明様のお部屋を彼らが覗いている光景だった。
当然というか、夜なので私たちはそういう事をしているわけで、それを、六助だけじゃない、何人かの子が、見ていたのだ・・・!
手引きしてたの一松っぽかったし、となればもう首謀者はこの人しかいない。
とんでもない男だ。そういう事をしているのを覗かせているなんて、本っ当に信じられない!
「そうだな」
しかも、私にバレた事なんて些細なことでしかないという風にご飯を食べ続ける涼しいお顔も有り得なさすぎて、思い切り彼を睨みつけた。
「理由によっては、私もうこの部屋で寝ませんよ」
道明様は流れるように優雅な箸使いでお椀の中を空にしていき、全て食べ終わるとカタンと箸を置いた。
「閨の教育だ」
「え?」
「教育をせねば間違いが起こるであろう?」
何だこの「当然だろ?」みたいなリアクションは・・・!
私の事を世間知らずと侮っているのかもしれないが、この時代であってもさすがに覗きが非常識であることは、さすがの私でも知ってるぞ・・・!
「そういうのはそういうお店で教えてもらうんじゃないんですか?」
やっぱり舐められていたらしい。道明様は一瞬だけ目を開いて、またからかうような表情で目を細める。
あれはそう、たぶん「こいつそういう店があるの知ってるのか。でもそれくらいなら問題ないか」くらいの感じか。
・・・なんで私、心も読んでいないのに道明様の考えてることがこんなにも分かるんだろう?
「商売女を買うのには金子が足りぬ。それに、年若きものを教え導くのは住職の身としては当然であろう」
分かった。いつも言いくるめられるからだ。
まるで「こちらが正論ですよ」と言わんばかりに毎回毎回言いくるめられるから、どうせ今回もそうなるだろうと諦めの気持ちを持ってしまっているからだ。
本当に、この男は!魔王だ魔王だとは思っていたが、いざ自分が弄ばれる立場になると非道さがよく分かる。こう、いつか思い切りやり返してやらなければ気が済まない・・・!
「私は!嫌ですからね!!」
性教育が重要な事は同意だが、「だから営みを覗かせてね」はさすがに許容範囲を超えてしまっている。
本当は隣の部屋に晴彦と一松が寝泊まりしてるのだって我慢しているんだ。これ以上は絶対に譲れない。
綺麗すぎるお顔にやられてしまわないように、顔を思い切り反らして腕を組む。なんだかんだ言って、私が絶対に嫌な事をしないのも、この人だからだ。
「明かりを消せば影しか見えぬぞ?」
「嫌です」
絶対に嫌だという意思表示をすれば、止めてくれるのだ。
大抵は。
「・・・そなた、甘味を欲していると聞いたが」
大抵は止めてくれる。けれど、稀に、無理やりこちらの許容範囲を広げようともしてくる。
「町で柑橘の菓子を見たが、土産に買って帰るか?」
・・・やっぱりこの人、私の心を読めてるよね?
確実に、的確に、私の一番弱いところを突いてくる手口は、もう心が読めてないと不可能だよね?
薬としてじゃなくて個人的に甘味が欲しいという話は、道明様にはしてないのに、どこからその情報を得てくるのだろうか・・・。
「甘いもので釣ろうと思っても無駄ですからね」
いやでも、物凄くお腹が減っている時や、光来寺に来た直後ならともかく、今ではちゃんとおいしいご飯をそこそこ食べることができるのだ。
柑橘のお菓子は魅力だけれども、そんなに簡単に釣られる私ではないのだ。
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