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第九章 不器用な愛情
第七十二話 町中デート
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少しだけの沈黙。
不気味に思えて、チラリと道明様を伺うと、酷く楽しそうに笑う彼がいた。
嫌な、予感がする・・・。
まるでドラマのワンシーンのように、道明様はゆっくりと首を傾げると、徐にその整った艶やかな唇を動かした。
「八ツ笠にて、そなたが好んでおった菓子があったそうだな」
その一言で、哀しいことに私の心は半分諦めモードに入ってしまう。
多分このやり取りは私が折れるまで終わらないやつだ。
「取り寄せてやろう」
「・・・それを条件なしで私にくれるって選択肢はないんですか?」
「ないな」
清々しいまでの暴君だ。
皇后様はどうしてこの悪魔に権力なんて危険なものを渡してしまったのか・・・。
「どうする?」
しかも最悪な事に、強制ではなくあくまでもこちらに選択肢を委ねてくるのだ。
絶世の美人の姿で、蠱惑的に微笑みながら、甘い誘惑で条件を飲ませようとしてくるのだ。
その上、好きになってしまっているせいで許せてしまう自分が情けない・・・!
美味しいお菓子と羞恥心。天秤にかければ普通は羞恥心が勝つだろうが、この天秤がもう細工をされているのだから勝てるわけもなかった。
凄い嫌。凄い嫌だけど、これは、これはもう・・・!!
「あぁ、すでに取り寄せてあったな。数日のうちには届くであろうか」
「分かりましたよ!私が我慢すればいいんでしょ!」
白々しすぎてもう怒る気も失せてしまった。
私を釣るためのお菓子も手配済みだなんて、近いうちにばらすつもりだったのかばれた時に備えてなのかは知らないが、どっちにしても彼の掌の上という事だ。
死ぬほど恥ずかしい事には変わりないが、こうなればやけくそだ。彼の妻であるためには肝が太くなければやっていけないのだ。
「その代わり!絶っ対に私に分からないようにしてくださいよ!!」
「そのつもりだ」
この魔王と、私はもう契約をしてしまっている事を考えれば、今更取引の一つや二つ増えたところで大差ない。
そう思えてしまう自分が、悲しくはあったが・・・。
物凄く不服ではあったが、午後からは町中デートだ。
私と道明様が並んで歩き、晴彦と智久さんが後ろからついてくる。
手は繋げないが、一緒に出掛ける機会は貴重で、だから閨の件はいったん忘れてあげることにした。
「結構にぎわってるんですね」
京とは比べ物にならないが、それでも八ツ笠の城下町程度には賑わっていた。物流の拠点の一つとはいえ、建物の数の割に道は広く、人も多い。
それに、まだ冬真っただ中なのに、町の人の表情も明るかった。
「半月前はこれほどではなかったがな」
寺の外なので、猫かぶりの微笑みを顔に張り付けている道明様が意味深に呟く。
寒くなった方が活気は減るはずだが、どういう意味だろうか。
「なぜだと思う?」
歩きながら隣の麗しいお顔を伺うと、その向こう側、魚屋のおばちゃんとおじちゃんがこちらに手を振っているのが見えた。
町中に出ているうちにこの美僧はまたもやファンを増やしたのだろうか?ぼんやりと考えながら前を向くと、走り回っていた子ども達が駆け寄ってきて、私たちの目の前で急停止する。
「聖女さま!熱治してくれてありがとう!」
「ありがとう!」
それだけ言うと、ピンポンダッシュのように走り去って行ってしまった。
今のはどう考えても私への言葉だったが、なぜ「聖女さま」?ここでその呼び方は使っていなかったはずなのに。
再び歩き出しながら周囲を軽く見渡すと、道明様だけでない、私にも視線が向けられていることに気づく。
「『聖女』の名は自然と広がったようだ」
再び小さい声で囁く道明様。八ツ笠で名無しだった私を周りの人が勝手に「聖女」と呼び始めたように、ここでもそうなってしまったということだろうか。
「聖女」呼びが広がるのが早すぎる気もしなくもないが、毎日100人以上の患者を診ていることを考えれば、広がってしまうのも仕方ないかもしれない。
念のため私も聖女としての微笑みを張り付けることにした。手を振る人と目があったらニコッとして差し上げるサービス付きだ。
不気味に思えて、チラリと道明様を伺うと、酷く楽しそうに笑う彼がいた。
嫌な、予感がする・・・。
まるでドラマのワンシーンのように、道明様はゆっくりと首を傾げると、徐にその整った艶やかな唇を動かした。
「八ツ笠にて、そなたが好んでおった菓子があったそうだな」
その一言で、哀しいことに私の心は半分諦めモードに入ってしまう。
多分このやり取りは私が折れるまで終わらないやつだ。
「取り寄せてやろう」
「・・・それを条件なしで私にくれるって選択肢はないんですか?」
「ないな」
清々しいまでの暴君だ。
皇后様はどうしてこの悪魔に権力なんて危険なものを渡してしまったのか・・・。
「どうする?」
しかも最悪な事に、強制ではなくあくまでもこちらに選択肢を委ねてくるのだ。
絶世の美人の姿で、蠱惑的に微笑みながら、甘い誘惑で条件を飲ませようとしてくるのだ。
その上、好きになってしまっているせいで許せてしまう自分が情けない・・・!
美味しいお菓子と羞恥心。天秤にかければ普通は羞恥心が勝つだろうが、この天秤がもう細工をされているのだから勝てるわけもなかった。
凄い嫌。凄い嫌だけど、これは、これはもう・・・!!
「あぁ、すでに取り寄せてあったな。数日のうちには届くであろうか」
「分かりましたよ!私が我慢すればいいんでしょ!」
白々しすぎてもう怒る気も失せてしまった。
私を釣るためのお菓子も手配済みだなんて、近いうちにばらすつもりだったのかばれた時に備えてなのかは知らないが、どっちにしても彼の掌の上という事だ。
死ぬほど恥ずかしい事には変わりないが、こうなればやけくそだ。彼の妻であるためには肝が太くなければやっていけないのだ。
「その代わり!絶っ対に私に分からないようにしてくださいよ!!」
「そのつもりだ」
この魔王と、私はもう契約をしてしまっている事を考えれば、今更取引の一つや二つ増えたところで大差ない。
そう思えてしまう自分が、悲しくはあったが・・・。
物凄く不服ではあったが、午後からは町中デートだ。
私と道明様が並んで歩き、晴彦と智久さんが後ろからついてくる。
手は繋げないが、一緒に出掛ける機会は貴重で、だから閨の件はいったん忘れてあげることにした。
「結構にぎわってるんですね」
京とは比べ物にならないが、それでも八ツ笠の城下町程度には賑わっていた。物流の拠点の一つとはいえ、建物の数の割に道は広く、人も多い。
それに、まだ冬真っただ中なのに、町の人の表情も明るかった。
「半月前はこれほどではなかったがな」
寺の外なので、猫かぶりの微笑みを顔に張り付けている道明様が意味深に呟く。
寒くなった方が活気は減るはずだが、どういう意味だろうか。
「なぜだと思う?」
歩きながら隣の麗しいお顔を伺うと、その向こう側、魚屋のおばちゃんとおじちゃんがこちらに手を振っているのが見えた。
町中に出ているうちにこの美僧はまたもやファンを増やしたのだろうか?ぼんやりと考えながら前を向くと、走り回っていた子ども達が駆け寄ってきて、私たちの目の前で急停止する。
「聖女さま!熱治してくれてありがとう!」
「ありがとう!」
それだけ言うと、ピンポンダッシュのように走り去って行ってしまった。
今のはどう考えても私への言葉だったが、なぜ「聖女さま」?ここでその呼び方は使っていなかったはずなのに。
再び歩き出しながら周囲を軽く見渡すと、道明様だけでない、私にも視線が向けられていることに気づく。
「『聖女』の名は自然と広がったようだ」
再び小さい声で囁く道明様。八ツ笠で名無しだった私を周りの人が勝手に「聖女」と呼び始めたように、ここでもそうなってしまったということだろうか。
「聖女」呼びが広がるのが早すぎる気もしなくもないが、毎日100人以上の患者を診ていることを考えれば、広がってしまうのも仕方ないかもしれない。
念のため私も聖女としての微笑みを張り付けることにした。手を振る人と目があったらニコッとして差し上げるサービス付きだ。
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