君の国と僕の国

藤ノ千里

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第1章 変わっていく僕ら

8話 焦燥感

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 ロッツランド王からの返事が届いたのは、諸外国からの返事が出揃った後だった。
 当然他国同様「使者が伺います」という旨の返答だと思っていた。がしかし、かの国だけは返答の毛色が違っていた。
 「王族を含む5名」にて、参加されるそうだ。うち4名は護衛と通訳と役人あたりだろうが、王族と言う文字に父と顔を見合せた。
「どう思われますか?」
「王家の血を引く公人と考えるのが無難ではあるが、あちらが王族と称す以上、念の為相応しい対応をするべきだろう」
 そう応えてから、父は外交相の大臣へ目配せする。
 一応隣国とは言え、言語も少し違い、マナーも違う国の賓客だ。迎える為に相当な用意が必要だろう。
「船での出迎えは任せても良いな?」
「もちろんです」
 しっかりと頷いて答えると、父は満足そうに話を次の議題へと移された。
 私の一番の特技である操舵の腕は、この国一とも称される。つまりは、「死の海」の航海技術で言えば世界一と言っても過言では無い。
 この腕があるからこそ、王女としての地位にいることを許されているとも言える。
 それにこの時期は海が比較的穏やかであり、晴れの日が多い。
 国外からのお客様をお招きするのに最適で、だからこそ企画したパーティだ。
「航海省よりご報告があります」
「聞こう」
「半年前より目撃されている他国の船影ですが、やはり頻度が上がってきているようです」
 あまり嬉しくない内容が耳に止まり、手元の資料を捲った。
 航海省がまとめたページの後方に目をやると、我が国のものでは無い船影のイラストと、その目撃回数が表にまとめられていた。
「接触は?」
「ありません。目撃場所も一定ではない為、ただ通過しているだけの可能性もあります」
 航海省大臣の意見が楽観的なのは、そうであって欲しいと皆が思っているから。
 私も、いち国民であったならそう願う事もあったかもな。
「大臣、事実と予測は分けて報告を」
「失礼しました……!目撃場所は主に島の西側でしたが、2ヶ月前に1回、先月は2回東側でも目撃されており、いずれも船影が同一である可能性が高いです」
「今月は?」
「今の時点で、東側で1回、北側で1回目撃されています」
 父は小さくため息をついた。
 恐らく、隣に座る私にしか聞こえない程度の小さなため息を。
 私も、この国の平和ボケっぷりを目の当たりにしてしまい、頭を抱えたくなる程度には絶望していて。
 やはり早急にどうにかする必要がありそうだ。
 この国を率いる者として、王族であるこの私の手で。


 来る7月12日のパーティに備えて、7月7日に船を出した。
 ロッツランド王国の港まで、我がノイマン公国から船で約30時間。潮目と風向きが悪ければ40時間ほどもかかる。
 今回は32時間。私の操舵でノイマン公国最速の船「海の疾風」を使えば大した問題もなく到着した。
 ロッツランド王国の役人が我らの身元を検め終わると、私と護衛は先に下船した。
 普段と同様に、港を管理する責任者の元へ伺い、入港させていただいた事への謝辞と、出港の予定を伝える。
 形式上のやり取りはつつがなく終わり、船に戻るとロッツランド王国側の船内の確認も終わっていて、そのまま自室へ直行した。
「明日は8時で良いですか?」
「あぁ、頼む」
 護衛と別れ、単身で部屋に入る。
 部屋の鍵をかけると、ここからはプライベートな時間だ。
 大きく伸び上がりながら体を反らすと、思わず声が漏れ出る。
 首を回して肩を回して、それからベルトを外した。
 コルセット型のベルトを外すと訪れる開放感。そのまま服も脱いでバスケットに放り込んだ。
 誰にも見せられない下着姿。女性向けのレースが付いた可愛らしい下着ではなく、男性用の下着をつけているのは、機能性を重視した結果だ。
 船の舵を握るのは、船に乗る者全ての命を握るのと同義。
 女性らしさなんてお荷物でしかない。だから本来であれば、こんな風に胸も膨らんで欲しくなかったし、腰だってもっと太くありたかった。
 欲しくないものばかり手に入る。本当に欲しいものは、手に入ることはないのに。
「なんてな」
 馬鹿げた考えに、自嘲しつつ下着も脱ぎ捨てる。
 用意されていたテーブルの上の桶に手を入れ、水に浸っていた布を取り出すと顔を拭いた。
 布から零れ落ちる水で床を濡らしながら、雑に顔を拭いてそのまま体も拭いた。
 普段の航海ではここまできちんと身なりは整えない。けれど、今回はお客様方を船に迎えるのだから、多少は気をつける必要がある。
 布をもう一度桶の中の水に浸し、軽く洗ってからまた取り出して体を拭いて。
 無駄に女らしい身体つき。
 遊学中に初めて着たドレスだって、男物の服よりは似合っているのが自分でも分かった。
 体を全て拭き終えると、布を桶の中に放り込み、髪を解く。
 そしてそのまま、ベッドに倒れ込んだ。
 硬いベッドは、衝撃を半分も受け止めない。叩きつけられたような衝撃が走って、想像以上の痛みを覚えた。
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