10 / 38
第1章 変わっていく僕ら
8話 焦燥感
しおりを挟む
ロッツランド王からの返事が届いたのは、諸外国からの返事が出揃った後だった。
当然他国同様「使者が伺います」という旨の返答だと思っていた。がしかし、かの国だけは返答の毛色が違っていた。
「王族を含む5名」にて、参加されるそうだ。うち4名は護衛と通訳と役人あたりだろうが、王族と言う文字に父と顔を見合せた。
「どう思われますか?」
「王家の血を引く公人と考えるのが無難ではあるが、あちらが王族と称す以上、念の為相応しい対応をするべきだろう」
そう応えてから、父は外交相の大臣へ目配せする。
一応隣国とは言え、言語も少し違い、マナーも違う国の賓客だ。迎える為に相当な用意が必要だろう。
「船での出迎えは任せても良いな?」
「もちろんです」
しっかりと頷いて答えると、父は満足そうに話を次の議題へと移された。
私の一番の特技である操舵の腕は、この国一とも称される。つまりは、「死の海」の航海技術で言えば世界一と言っても過言では無い。
この腕があるからこそ、王女としての地位にいることを許されているとも言える。
それにこの時期は海が比較的穏やかであり、晴れの日が多い。
国外からのお客様をお招きするのに最適で、だからこそ企画したパーティだ。
「航海省よりご報告があります」
「聞こう」
「半年前より目撃されている他国の船影ですが、やはり頻度が上がってきているようです」
あまり嬉しくない内容が耳に止まり、手元の資料を捲った。
航海省がまとめたページの後方に目をやると、我が国のものでは無い船影のイラストと、その目撃回数が表にまとめられていた。
「接触は?」
「ありません。目撃場所も一定ではない為、ただ通過しているだけの可能性もあります」
航海省大臣の意見が楽観的なのは、そうであって欲しいと皆が思っているから。
私も、いち国民であったならそう願う事もあったかもな。
「大臣、事実と予測は分けて報告を」
「失礼しました……!目撃場所は主に島の西側でしたが、2ヶ月前に1回、先月は2回東側でも目撃されており、いずれも船影が同一である可能性が高いです」
「今月は?」
「今の時点で、東側で1回、北側で1回目撃されています」
父は小さくため息をついた。
恐らく、隣に座る私にしか聞こえない程度の小さなため息を。
私も、この国の平和ボケっぷりを目の当たりにしてしまい、頭を抱えたくなる程度には絶望していて。
やはり早急にどうにかする必要がありそうだ。
この国を率いる者として、王族であるこの私の手で。
来る7月12日のパーティに備えて、7月7日に船を出した。
ロッツランド王国の港まで、我がノイマン公国から船で約30時間。潮目と風向きが悪ければ40時間ほどもかかる。
今回は32時間。私の操舵でノイマン公国最速の船「海の疾風」を使えば大した問題もなく到着した。
ロッツランド王国の役人が我らの身元を検め終わると、私と護衛は先に下船した。
普段と同様に、港を管理する責任者の元へ伺い、入港させていただいた事への謝辞と、出港の予定を伝える。
形式上のやり取りはつつがなく終わり、船に戻るとロッツランド王国側の船内の確認も終わっていて、そのまま自室へ直行した。
「明日は8時で良いですか?」
「あぁ、頼む」
護衛と別れ、単身で部屋に入る。
部屋の鍵をかけると、ここからはプライベートな時間だ。
大きく伸び上がりながら体を反らすと、思わず声が漏れ出る。
首を回して肩を回して、それからベルトを外した。
コルセット型のベルトを外すと訪れる開放感。そのまま服も脱いでバスケットに放り込んだ。
誰にも見せられない下着姿。女性向けのレースが付いた可愛らしい下着ではなく、男性用の下着をつけているのは、機能性を重視した結果だ。
船の舵を握るのは、船に乗る者全ての命を握るのと同義。
女性らしさなんてお荷物でしかない。だから本来であれば、こんな風に胸も膨らんで欲しくなかったし、腰だってもっと太くありたかった。
欲しくないものばかり手に入る。本当に欲しいものは、手に入ることはないのに。
「なんてな」
馬鹿げた考えに、自嘲しつつ下着も脱ぎ捨てる。
用意されていたテーブルの上の桶に手を入れ、水に浸っていた布を取り出すと顔を拭いた。
布から零れ落ちる水で床を濡らしながら、雑に顔を拭いてそのまま体も拭いた。
普段の航海ではここまできちんと身なりは整えない。けれど、今回はお客様方を船に迎えるのだから、多少は気をつける必要がある。
布をもう一度桶の中の水に浸し、軽く洗ってからまた取り出して体を拭いて。
無駄に女らしい身体つき。
遊学中に初めて着たドレスだって、男物の服よりは似合っているのが自分でも分かった。
体を全て拭き終えると、布を桶の中に放り込み、髪を解く。
そしてそのまま、ベッドに倒れ込んだ。
硬いベッドは、衝撃を半分も受け止めない。叩きつけられたような衝撃が走って、想像以上の痛みを覚えた。
当然他国同様「使者が伺います」という旨の返答だと思っていた。がしかし、かの国だけは返答の毛色が違っていた。
「王族を含む5名」にて、参加されるそうだ。うち4名は護衛と通訳と役人あたりだろうが、王族と言う文字に父と顔を見合せた。
「どう思われますか?」
「王家の血を引く公人と考えるのが無難ではあるが、あちらが王族と称す以上、念の為相応しい対応をするべきだろう」
そう応えてから、父は外交相の大臣へ目配せする。
一応隣国とは言え、言語も少し違い、マナーも違う国の賓客だ。迎える為に相当な用意が必要だろう。
「船での出迎えは任せても良いな?」
「もちろんです」
しっかりと頷いて答えると、父は満足そうに話を次の議題へと移された。
私の一番の特技である操舵の腕は、この国一とも称される。つまりは、「死の海」の航海技術で言えば世界一と言っても過言では無い。
この腕があるからこそ、王女としての地位にいることを許されているとも言える。
それにこの時期は海が比較的穏やかであり、晴れの日が多い。
国外からのお客様をお招きするのに最適で、だからこそ企画したパーティだ。
「航海省よりご報告があります」
「聞こう」
「半年前より目撃されている他国の船影ですが、やはり頻度が上がってきているようです」
あまり嬉しくない内容が耳に止まり、手元の資料を捲った。
航海省がまとめたページの後方に目をやると、我が国のものでは無い船影のイラストと、その目撃回数が表にまとめられていた。
「接触は?」
「ありません。目撃場所も一定ではない為、ただ通過しているだけの可能性もあります」
航海省大臣の意見が楽観的なのは、そうであって欲しいと皆が思っているから。
私も、いち国民であったならそう願う事もあったかもな。
「大臣、事実と予測は分けて報告を」
「失礼しました……!目撃場所は主に島の西側でしたが、2ヶ月前に1回、先月は2回東側でも目撃されており、いずれも船影が同一である可能性が高いです」
「今月は?」
「今の時点で、東側で1回、北側で1回目撃されています」
父は小さくため息をついた。
恐らく、隣に座る私にしか聞こえない程度の小さなため息を。
私も、この国の平和ボケっぷりを目の当たりにしてしまい、頭を抱えたくなる程度には絶望していて。
やはり早急にどうにかする必要がありそうだ。
この国を率いる者として、王族であるこの私の手で。
来る7月12日のパーティに備えて、7月7日に船を出した。
ロッツランド王国の港まで、我がノイマン公国から船で約30時間。潮目と風向きが悪ければ40時間ほどもかかる。
今回は32時間。私の操舵でノイマン公国最速の船「海の疾風」を使えば大した問題もなく到着した。
ロッツランド王国の役人が我らの身元を検め終わると、私と護衛は先に下船した。
普段と同様に、港を管理する責任者の元へ伺い、入港させていただいた事への謝辞と、出港の予定を伝える。
形式上のやり取りはつつがなく終わり、船に戻るとロッツランド王国側の船内の確認も終わっていて、そのまま自室へ直行した。
「明日は8時で良いですか?」
「あぁ、頼む」
護衛と別れ、単身で部屋に入る。
部屋の鍵をかけると、ここからはプライベートな時間だ。
大きく伸び上がりながら体を反らすと、思わず声が漏れ出る。
首を回して肩を回して、それからベルトを外した。
コルセット型のベルトを外すと訪れる開放感。そのまま服も脱いでバスケットに放り込んだ。
誰にも見せられない下着姿。女性向けのレースが付いた可愛らしい下着ではなく、男性用の下着をつけているのは、機能性を重視した結果だ。
船の舵を握るのは、船に乗る者全ての命を握るのと同義。
女性らしさなんてお荷物でしかない。だから本来であれば、こんな風に胸も膨らんで欲しくなかったし、腰だってもっと太くありたかった。
欲しくないものばかり手に入る。本当に欲しいものは、手に入ることはないのに。
「なんてな」
馬鹿げた考えに、自嘲しつつ下着も脱ぎ捨てる。
用意されていたテーブルの上の桶に手を入れ、水に浸っていた布を取り出すと顔を拭いた。
布から零れ落ちる水で床を濡らしながら、雑に顔を拭いてそのまま体も拭いた。
普段の航海ではここまできちんと身なりは整えない。けれど、今回はお客様方を船に迎えるのだから、多少は気をつける必要がある。
布をもう一度桶の中の水に浸し、軽く洗ってからまた取り出して体を拭いて。
無駄に女らしい身体つき。
遊学中に初めて着たドレスだって、男物の服よりは似合っているのが自分でも分かった。
体を全て拭き終えると、布を桶の中に放り込み、髪を解く。
そしてそのまま、ベッドに倒れ込んだ。
硬いベッドは、衝撃を半分も受け止めない。叩きつけられたような衝撃が走って、想像以上の痛みを覚えた。
10
あなたにおすすめの小説
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
俺の可愛い幼馴染
SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。
ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。
連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。
感想もご自由にどうぞ。
ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!
まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。
人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい!
そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。
そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。
☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。
☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。
☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。
☆書き上げています。
その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。
魔性の女に幼馴染を奪われたのですが、やはり真実の愛には敵わないようですね。
Hibah
恋愛
伯爵の息子オスカーは容姿端麗、若き騎士としての名声が高かった。幼馴染であるエリザベスはそんなオスカーを恋い慕っていたが、イザベラという女性が急に現れ、オスカーの心を奪ってしまう。イザベラは魔性の女で、男を誘惑し、女を妬ませることが唯一の楽しみだった。オスカーを奪ったイザベラの真の目的は、社交界で人気のあるエリザベスの心に深い絶望を与えることにあった。
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる