君の国と僕の国

藤ノ千里

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第1章 変わっていく僕ら

7話 大人に

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 ダンスと言えば、10年ほど前に教えて下さっていた講師の方から「辛うじて」合格をいただけたのが最後で。
 つまり現状は「そんなものもあったな」程度の、忘れてはいないけれど覚えているとは言えない程度のもので。
「シュン、顔がひきつっていますよ」
「失礼しましたお母様」
 つまりとてもまずい状況だ。
 レーカの誕生日パーティでダンスを踊らなければならないのであれば、とてつもなく危機的な状況と言えるだろう。
 え、だってあとひと月だろう?
 それまでにあれを完成させてテストもしたいのに、ダンスの練習も……?
「ダンスの講師を招く必要がありそうだな。マナーは大丈夫か?」
「マ、ナー……」
「シュン」
「はい……!申し訳ありませんお父様。念の為そちらについても講師の方に教えを乞いたいです」
「分かった。パーティと講義の詳細は後ほど伝えさせよう」
「感謝いたします」
 慣れないよそ行きの笑顔を貼り付けながら、頭の中では「組み立て」と「ダンス」と「テスト運行」と「マナー」と「ダンス」と「お披露目」と「レーカの誕生日」と「ダンス」の単語がぐるぐる渦巻いていた。
 どうして、偉い人達はダンスが好きなのか……。
 どうして、僕の予定はことごとく上手く行かないのか……!


------
 他国とも交易があるとは言え、我がノイマン公国にハンザ公国以外の国賓が来る事はまずない。
 来る為にはあの「死の海」を越えないといけないのだから当然だろう。
 どの国も、要人が命を賭けてまで訪れるほどノイマン公国を重視していないという姿勢の表れであるが、使者は訪れる事もあるので迎賓の経験はある。
 その経験を元に計画されたのが、私のいわゆる誕生日パーティだ。
 祝いの場であればこちらからの粗相も多少はお目こぼしいただけるだろうし、複数の国からの使者をもてなす経験も積める。
 そういった画策があり、遊学中に繋がりを持つことができた10カ国に招待を送ることになった。
 11カ国目は、ハンザ公国だ。
 姉妹国のような隣国の名を末席に持ってきた訳を、大陸の国の方々にならお分かりいただけるだろう。
 時期王となる私の成人の日に、使い走りの使者らが並ぶ中、あの国だけは王族が臨席するのだ。
 1番最後に伝えたはずの招待も、1番最初に返事をいただけた。
 王と妃と王子の3人がいらせられるらしい。
 あのシュンが、王子として来るらしい。
 あいつにダンスができるとは思わないから、おおかた猛特訓でもするんだろう。
 せいぜい頑張って貰わないとな。他に相手になっていただけそうな方はいらっしゃらないだろうし。
 シュンはまだ、王位継承権は獲得していないと言っていた。
 あの国は特殊だから仕方ない。
 けれど、あいつが、1年ぶりに会って、しっかりと男性の見た目になったあいつが、昔と変わらない無邪気な顔で笑うから。
 錯乱して口にしてはいけないことを口にしてしまいそうになるんだ。
 かっぱらってきた懐刀をよく見ると、持ち手が小さい女性用のものだと分かった。
「馬ー鹿……」
 ハンザ公国直下の木工省で働いていた時は、練習として明らかに女性物と分かる櫛を作っていた。
 途中、何故か植物を扱う工場でも働いていて、その時は髪油を。香料も配合された1級品を作っていた。
 そのどちらも、縁あって私の手元に届いている。シュンは知らないだろうが。
 今回のこの懐刀は、知らず私が求めた物で、しかも手合わせの戦利品で。
 これは、えんなのだろうか?
 それとも、近くに、近過ぎる所にいるからなのだろうか?
「シュンの意気地無し。ヘタレ野郎」
 鞘から少しだけ抜いて、戻すと、見事なまでにピタリとはまる。
 これほどの出来の物を作るのに、相当時間がかかっただろうに、相当苦労しただろうに、その間ずっと私の事を考えていたんだろうか。
「そろそろちゃんと大人になれよ、お前も」
 お前も、そして私も。
 私情ではなく、国益を一番に考えて付き合い方を考えるべきなのだ。当然婚姻相手も。
 もしシュンが私に手合わせで勝ったらなんて、そろそろ考えるのも辞めるべきで、その時あいつが求めてきたらなんて、もうそんな子どもみたいな事、そんな馬鹿らしい事考えるべきではなくて。
 大人にならなくてはいけない。
 考えるべき事が沢山あるのだから。
 そう、例えば第1賓客として招待しているロッツランド王国。
 先ずはあの国に、取引相手としての価値を示し、交渉に値する相手であると思わせなければならない。
 侵略される事も、侮られる事もあってはならない。
 その為の第1賓客で、まず最初に招待した相手ではあるが、さて返事はどうなるか。
 こればかりは待つしか無いが……一応私はドレスでの立ち回りをおさらいでもしておくか。
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