君の国と僕の国

藤ノ千里

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第1章 変わっていく僕ら

6話 招待

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 仕掛け鍵を解いて、引き出しを開く。
 流石に100遍は行かないだろうけれど、積み重ねてきた想いは、重しをどけると引き出しからはみ出さんばかりに膨れ上がった。
 そろそろ入りきらなくなるかもしれないな。
 なんて、半年前から思いつつ、どこにも移せないでいるのだけれど。
「ではレーカ様だと分かるところだけを書き直して詩集にしますか?」
 最新の想いを一番上に重ねて、重しで圧し潰す。
 良かった。ギリギリだけど引き出しはまだ閉まりそうだ。
「詩集って、仮にも王族が?」
「あら、ご自覚がないようですが、偉業とするに相応しいほどの詩集になると思いますよ?」
「偉業ってそんなものでも良いの?」
 王族の教育として詩の基本は習ったけれど、それだけだ。
 ほとんど趣味で書いていた詩で、誰かにちゃんと見せたこともないものだ。
 そんなものが偉業になるなんて全く予想外で、それにこれはただ一人の人を想って書いたものなのに。
「十分ですよ」
「でも国民の為にはならないんじゃない?」
 「詩集如き」なんて言うわけではないけれど、「僕の詩集如き」とは思ってしまう。だから僕はそこそこ本気でハルナの言葉に困惑していた。
 冗談を言っているんじゃないかとも、思っていた。
 けれどハルナは、とても優しく微笑んだんだ。
「なりますよ。十分に、十分すぎるほどになりますよ」


 ちゃんとした服に着替えて向かった城の食堂には、お父様とお母様がすでにいらっしゃった。
「お待たせしました」
 しっかりと礼儀を尽くして挨拶をしてから着席すると、苦笑気味のお父様と目が合う。
「5日ぶりだなシュン。相変わらずと聞いているが、調子はどうだ?」
「お陰様でこの通り健康に過ごしています。お父様こそお変わりないですか?」
「あぁ、私も、エリも健康そのものだよ」
 テーブルに運ばれてくる食事は、実は庶民のものと大して差がない。
 食材が限られる島国でかつ健康志向を奨励していると必然的にそうなるのだ。
 尤も、料理人の腕は一流で、食器も相応しいものを使っているお陰で見た目はとても豪華なんだけどね。
「当面の問題は、少しばかり自由過ぎる一人息子を起因とする心労だが……」
 お父様は、父として僕を案じてくださっているんだ。
 それ自体はとても光栄で嬉しい。急かしてくる気持ちも分からなくは無い。
「そ、れは、恐らく年内に好転するかと」
「楽しみにしておこう」
 とっくに僕の代わりを選んでしまっても良いくらいなのに王位継承権の話を保留にしてくださっているのは、親心なのかそれとも王としての判断なのか。
 どちらも、だろうか。お父様実は僕に甘いから。
「年内とは、具体的にいつどのようになるか計画は立てているのですよね?」
 お母様は、甘くない。
 そしておためごかしなんて以ての外って方だから身が引き締まる。
「素案はあります。ただ、もう少し試験を重ねてからでないと最終的なご報告の予定を立てる事が出来ないので、お待ちいただきたいです」
「もう少しとはどの適度?いつまで待てば良いのですか?」
「えー、っと、8割方は完了していて……来月中、には提示できるかと」
「言葉を伸ばさない。自信が無くとも堂々と喋りなさい」
「8割ほどは完了していますので来月中に提示させていただきます」
「よろしい。分かりました」
 良しを頂けてほっと息をつく。
 でも大きく息を吐こうとしたらお母様がこちらを見ていたので慌てて口は閉じた。
「では頂こうか」
 お父様の掛け声でグラスを手に取って掲げた。
 目を閉じ、心の中で食物に感謝を捧げる。
 それがうちの国の作法。狭い島だけれど、レーカの国とは少し違うんだ。
 スプーンを手に取ってスープをひと口。味わいながら嚥下すると、優しい穀物の甘みが冷たさと共に喉を駆け下りて行った。
 この冷製スープは僕の好物なんだ。夏の間は毎日でも飲みたいくらい。
「僕にご用と伺いましたが」
 パンをちぎりながらお父様を見ると、お父様はコクリと頷いた。
「ノイマン公国よりご招待を受けた。レーカ姫の成人を祝いパーティを催されるらしい」
「そうなんですね」
「私とエリは出席させていただくが、お前も来るか?」
「良いのですか?」
「王族なのだから問題は無いだろう」
 予想通りではあったけれど、それでも嬉しい事には変わりない。
 だってレーカの誕生日パーティだ。今年は直接会って「おめでとう」を言えるなんて……!
「嬉しいです」
「ではお前の分も用意をしておこう。ダンスは忘れてないな?」
「え」
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