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第1章 変わっていく僕ら
5話 贈る事ができない想い
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こんな風な言い方をしていても、無理やり連れ帰したりはしないし、僕に危険がないように対策をしてくれるクーリィはツンデレってやつなんだろう。
ぷりぷりしながらも荷物を持つのを手伝ってくれて、木箱にも丁寧に置いてくれて。しかも木箱の中も整えてくれるし。
この国の将来を担うに十分な人格者だなぁ。相変わらず。
「これ終わったら戻れよ。大事なお話があられるそうだから」
「分かった」
クーリィが敬語を使う相手は数少ない。
ちゃんとした服を着ているし、僕へ城への戻りを勧めたって事は、僕にお話があるという相手は十中八九お父様だろう。
王族としての教育はされていても、王族としての公務には携われないのが今の僕の立場だから、父王からの要件はそれ自体が珍しい事だ。
ただ、心当たりはなくもない。
だって隣国の王女ことレーカ姫が、ちょうどひと月後に18歳の誕生日を迎えられるのだから。
所用を済ませて城に帰ったのは昼前だった。
そして帰るなり、侍女のハルナにはくどくどと叱られた。
今の僕は平民のはずなのに、木工所で働く平民や職人みたいに工房に泊まるのは叱られてしまうんだ。
禁止は、されていない。
けれど叱られる。
矛盾をしているのは誰もが気づいていて、なのでこれは法のグレーゾーンとも言えるだろう。
だから叱られるのさえ覚悟すれば泊まり込みで作業をする事だって出来てしまうのだ。
「聞いていますか?」
「うん、分かった。反省してる。ごめんね」
上目遣いに伺うと、ハルナはまだ怒り顔だったけれど、本気で怒ってはいないようだった。
叱るのは立場上と言うことなんだろうな。ハルナは優しいから。
「ではもう外泊はされませんね?」
「約束は出来ないけど……」
「なるほど、ではこうしましょう」
いつもは折れてくれるハルナの視線が、僕の書斎の方をむく。
嫌な、予感が……。
「外泊する度に坊ちゃんの詩を1遍ずつレーカ様へお届けしましょう」
「……え?」
「2遍ずつが良いですか?確か全部で100遍ほど……」
「待って待って待って!え、何でそれ知ってるの??」
思わず書斎に駆けて行って、引き出しを確認する。
仕掛け鍵はちゃんと閉まってる。
気合を入れて作った、一般的な操作ではあかないはずの仕掛け鍵。これさえ付ければ引き出しの中を見る事は誰にもできるはずないと思っていたのに……!
どうして?
どうしてここにレーカへの想いを綴った詩がある事がバレたんだ??
ハルナの方を見ると、彼女は意味深に笑っていた。
まるで僕の考えなんてお見通しとばかりに見ていて、その手には……。
「そ、れ……」
「最近の詩が流行りの歌に寄っているのには目を瞑っていましたが、レーカ様宛の詩の中に難破という単語を使うのは流石に控えた方が良いかと思いますよ」
あれ、先週書いた最新のやつだ。書いた後確かに引き出しにしまったはずなのに。はずなのに……!
「れ、レーカに宛てたなんて、どこにも書いてないだろう……?」
苦し紛れに精一杯の誤魔化しを口にして、でも長年の侍女はそんな事じゃあ誤魔化されなくて。
「では、『東から昇る輝く希望』も『海を渡る眩いばかりの君』もレーカ様ではない別のお方で?」
「そう、かも、しれないだろう……?」
「では『光に満ちた胡桃色の瞳』と『陽射しに赤く光る髪』をお持ちで『渡り鳥のように軽やか』に坊ちゃんと剣の手合わせができるお方が、レーカ様以外にいらっしゃるのですね?」
この分だと、ハルナは本気で僕の詩を全て読んでいる。
しかも、記憶している。という事は、比較的高い頻度で読んでいる。
「そして『稲妻のように僕の心を駆け抜けた恋と言う名の熱病』を感じてらっしゃる方が」
「分かった、ごめん、降参。それ以上は勘弁して」
読まれていること自体はまぁいい。ハルナならば他の人に喋ったりはしないだろうから。
けれど、これはもう音読だ。
好きな人へ宛てた詩を、贈る事もできないのだからと心のままに綴ってしまった詩を、目の前で音読されるのは流石に耐えられない。
恥ずかしすぎて顔が燃え上がりそうだ。体温はとっくに平熱を超えている気がする。
「贈って差し上げれば良いのに」
ようやく許してくれたらしいハルナが、手にしていた紙を手渡してくれる。
受け取って、目を落とす。
とてもじゃないけれど姫君に贈るような質ではない、ざらざらの紙。
あえて質の悪い紙を選んでいるのだ。絶対に贈る事ができないから。
「困らせちゃうよ」
「喜んでくださるかもしれませんよ?」
「まさか、そんな」
ぷりぷりしながらも荷物を持つのを手伝ってくれて、木箱にも丁寧に置いてくれて。しかも木箱の中も整えてくれるし。
この国の将来を担うに十分な人格者だなぁ。相変わらず。
「これ終わったら戻れよ。大事なお話があられるそうだから」
「分かった」
クーリィが敬語を使う相手は数少ない。
ちゃんとした服を着ているし、僕へ城への戻りを勧めたって事は、僕にお話があるという相手は十中八九お父様だろう。
王族としての教育はされていても、王族としての公務には携われないのが今の僕の立場だから、父王からの要件はそれ自体が珍しい事だ。
ただ、心当たりはなくもない。
だって隣国の王女ことレーカ姫が、ちょうどひと月後に18歳の誕生日を迎えられるのだから。
所用を済ませて城に帰ったのは昼前だった。
そして帰るなり、侍女のハルナにはくどくどと叱られた。
今の僕は平民のはずなのに、木工所で働く平民や職人みたいに工房に泊まるのは叱られてしまうんだ。
禁止は、されていない。
けれど叱られる。
矛盾をしているのは誰もが気づいていて、なのでこれは法のグレーゾーンとも言えるだろう。
だから叱られるのさえ覚悟すれば泊まり込みで作業をする事だって出来てしまうのだ。
「聞いていますか?」
「うん、分かった。反省してる。ごめんね」
上目遣いに伺うと、ハルナはまだ怒り顔だったけれど、本気で怒ってはいないようだった。
叱るのは立場上と言うことなんだろうな。ハルナは優しいから。
「ではもう外泊はされませんね?」
「約束は出来ないけど……」
「なるほど、ではこうしましょう」
いつもは折れてくれるハルナの視線が、僕の書斎の方をむく。
嫌な、予感が……。
「外泊する度に坊ちゃんの詩を1遍ずつレーカ様へお届けしましょう」
「……え?」
「2遍ずつが良いですか?確か全部で100遍ほど……」
「待って待って待って!え、何でそれ知ってるの??」
思わず書斎に駆けて行って、引き出しを確認する。
仕掛け鍵はちゃんと閉まってる。
気合を入れて作った、一般的な操作ではあかないはずの仕掛け鍵。これさえ付ければ引き出しの中を見る事は誰にもできるはずないと思っていたのに……!
どうして?
どうしてここにレーカへの想いを綴った詩がある事がバレたんだ??
ハルナの方を見ると、彼女は意味深に笑っていた。
まるで僕の考えなんてお見通しとばかりに見ていて、その手には……。
「そ、れ……」
「最近の詩が流行りの歌に寄っているのには目を瞑っていましたが、レーカ様宛の詩の中に難破という単語を使うのは流石に控えた方が良いかと思いますよ」
あれ、先週書いた最新のやつだ。書いた後確かに引き出しにしまったはずなのに。はずなのに……!
「れ、レーカに宛てたなんて、どこにも書いてないだろう……?」
苦し紛れに精一杯の誤魔化しを口にして、でも長年の侍女はそんな事じゃあ誤魔化されなくて。
「では、『東から昇る輝く希望』も『海を渡る眩いばかりの君』もレーカ様ではない別のお方で?」
「そう、かも、しれないだろう……?」
「では『光に満ちた胡桃色の瞳』と『陽射しに赤く光る髪』をお持ちで『渡り鳥のように軽やか』に坊ちゃんと剣の手合わせができるお方が、レーカ様以外にいらっしゃるのですね?」
この分だと、ハルナは本気で僕の詩を全て読んでいる。
しかも、記憶している。という事は、比較的高い頻度で読んでいる。
「そして『稲妻のように僕の心を駆け抜けた恋と言う名の熱病』を感じてらっしゃる方が」
「分かった、ごめん、降参。それ以上は勘弁して」
読まれていること自体はまぁいい。ハルナならば他の人に喋ったりはしないだろうから。
けれど、これはもう音読だ。
好きな人へ宛てた詩を、贈る事もできないのだからと心のままに綴ってしまった詩を、目の前で音読されるのは流石に耐えられない。
恥ずかしすぎて顔が燃え上がりそうだ。体温はとっくに平熱を超えている気がする。
「贈って差し上げれば良いのに」
ようやく許してくれたらしいハルナが、手にしていた紙を手渡してくれる。
受け取って、目を落とす。
とてもじゃないけれど姫君に贈るような質ではない、ざらざらの紙。
あえて質の悪い紙を選んでいるのだ。絶対に贈る事ができないから。
「困らせちゃうよ」
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