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第1章 変わっていく僕ら
第4話 成さなければならない事
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テラスのイスに腰掛けて、庭の向こうの海を見つめた。
陽の光を反射して宝石のように輝く海。
けれど、風も波も不規則で、不用意に漕ぎ出そうものならば確実に呑み込まれてしまう「死の海」。
この海のお陰で、このコーロ島は諸外国との交易を避けることができてきた。
向こうからは干渉されず、こちらから訪ねたい時のみ訪ねる事ができるお陰で、優位に立つ事ができていた。
それが変わる。
近い将来、確実に、変わってしまう。
「また背負われておいでで?」
「それが私の役目だからな」
諸外国が「死の海」を航海できるようになってしまえば、ノイマン公国はより密な外交を求められるだろう。
その影響はハンザ公国にも及ぶ事は自明の理であり、国としては早急に対応せざるを得ない問題だ。
その中で最も重視すべきはロッツランド王国。
「死の海」の向こう側。大陸の沿岸を国土とする商業都市。
いわば商人の国であるあそこは、諸外国の中でも飛び抜けて我が国との国交を重視していた。
恐らく我が国からの輸出品を独占でもしたいのだろう。商人らしい考えだ。
諸外国が「死の海」を航海出来るようになれば、「死の海」を経路とする貿易は確実に増える。
そしてロッツランド王国と敵対するのはどう考えても悪手だ。
「外交か……」
恵みと死をもたらす海をどう飼い慣らすかを考えている間に、他国が当たり前に磨いてきた外交の技術。
うちの国は完全に出遅れているのだと言う事を、身をもって味わった。
由々しき事態だ。
危機的状況が差し迫っていると言っても過言では無いほどに。
「おお、この木は実をつけているのですね」
植木を移動していたらしいキースは、赤い実をつまんで観察していた。
そういえば彼はハンザ公国出身で、あの国の人間らしい研究者気質が多分にあるんだったな。
ハンザ公国。
あいつの、シュンの国。
腰に括り付けた、手に入れたばかりの剣の鞘を撫でると、少しの引っかかりもない複雑な凹凸が柔らかくも感じて。
あいつが制作したのだと分かると、あいつらしい繊細な装飾だと納得もした。
それを知らずに褒めてしまったのは迂闊だったとは思うが。
シュンは王位の継承権を得るために、今は製鉄を学んでいるらしい。
私が遊学に行く前は木工を学んでいたはずだが、心変わりでもあったのだろうか。
いずれにしても、あいつはそのうち偉業を成し、次期ハンザ王となるのだろう。
素質は十分にあるやつだ。きっと良い王になる。
我が国を守る為。そして、あいつの国を守る為。
その為に、私は私にできる全てを使って、成さなければならない事があるのだ。
------
他国の姫に、そうそう頻繁に気軽に会いに行く事はもちろんできない。
できるのはせいぜい遠目に姿を見るとか、誰か越しに彼女の話を聞くとかそれくらい。
でも、それでも嬉しかった。
レーカが近くにいてくれる事が嬉しくて、僕の心の炉にはとてつもない火力の火が入った。
燃えるようなやる気の前には、じゃじゃ馬も素直になってくれて、難敵と思われたパーツも次々と完成していった。
レーカは言わば、僕へ幸せを運ぶ渡り鳥だ。
彼女のお陰でガンダーに「良し」を貰える品質のスプリングも、金具も完成して、必要な全てのパーツが出揃った。
後は組み立てて、試験をしながらの微調整。
先に出来上がった本体への取り付けはもう少し先になるだろうけれど、十分過ぎるくらいの進捗だと思う。
後は、お披露目だけれど……。
「シュン!お前昨日城に帰らなかっただろ!」
木工所の工房からパーツを搬出していた僕に声をかけてきたのは、木工省の副官ことクーリィだった。
僕と同年代に見えるけれどひと周り年上の、妻子もいる、長身で美形の彼。
養子だから父親のガンダーには似ていない。けれど、僕に口煩いところだけは残念ながら似ているんだよね。
「ちょっとやる気が溢れちゃって……」
「必ず毎日帰れって言っただろ!?仮にここで何かあったら、木工省の責任になるんだぞ!」
「ごめん……」
陽の光を反射して宝石のように輝く海。
けれど、風も波も不規則で、不用意に漕ぎ出そうものならば確実に呑み込まれてしまう「死の海」。
この海のお陰で、このコーロ島は諸外国との交易を避けることができてきた。
向こうからは干渉されず、こちらから訪ねたい時のみ訪ねる事ができるお陰で、優位に立つ事ができていた。
それが変わる。
近い将来、確実に、変わってしまう。
「また背負われておいでで?」
「それが私の役目だからな」
諸外国が「死の海」を航海できるようになってしまえば、ノイマン公国はより密な外交を求められるだろう。
その影響はハンザ公国にも及ぶ事は自明の理であり、国としては早急に対応せざるを得ない問題だ。
その中で最も重視すべきはロッツランド王国。
「死の海」の向こう側。大陸の沿岸を国土とする商業都市。
いわば商人の国であるあそこは、諸外国の中でも飛び抜けて我が国との国交を重視していた。
恐らく我が国からの輸出品を独占でもしたいのだろう。商人らしい考えだ。
諸外国が「死の海」を航海出来るようになれば、「死の海」を経路とする貿易は確実に増える。
そしてロッツランド王国と敵対するのはどう考えても悪手だ。
「外交か……」
恵みと死をもたらす海をどう飼い慣らすかを考えている間に、他国が当たり前に磨いてきた外交の技術。
うちの国は完全に出遅れているのだと言う事を、身をもって味わった。
由々しき事態だ。
危機的状況が差し迫っていると言っても過言では無いほどに。
「おお、この木は実をつけているのですね」
植木を移動していたらしいキースは、赤い実をつまんで観察していた。
そういえば彼はハンザ公国出身で、あの国の人間らしい研究者気質が多分にあるんだったな。
ハンザ公国。
あいつの、シュンの国。
腰に括り付けた、手に入れたばかりの剣の鞘を撫でると、少しの引っかかりもない複雑な凹凸が柔らかくも感じて。
あいつが制作したのだと分かると、あいつらしい繊細な装飾だと納得もした。
それを知らずに褒めてしまったのは迂闊だったとは思うが。
シュンは王位の継承権を得るために、今は製鉄を学んでいるらしい。
私が遊学に行く前は木工を学んでいたはずだが、心変わりでもあったのだろうか。
いずれにしても、あいつはそのうち偉業を成し、次期ハンザ王となるのだろう。
素質は十分にあるやつだ。きっと良い王になる。
我が国を守る為。そして、あいつの国を守る為。
その為に、私は私にできる全てを使って、成さなければならない事があるのだ。
------
他国の姫に、そうそう頻繁に気軽に会いに行く事はもちろんできない。
できるのはせいぜい遠目に姿を見るとか、誰か越しに彼女の話を聞くとかそれくらい。
でも、それでも嬉しかった。
レーカが近くにいてくれる事が嬉しくて、僕の心の炉にはとてつもない火力の火が入った。
燃えるようなやる気の前には、じゃじゃ馬も素直になってくれて、難敵と思われたパーツも次々と完成していった。
レーカは言わば、僕へ幸せを運ぶ渡り鳥だ。
彼女のお陰でガンダーに「良し」を貰える品質のスプリングも、金具も完成して、必要な全てのパーツが出揃った。
後は組み立てて、試験をしながらの微調整。
先に出来上がった本体への取り付けはもう少し先になるだろうけれど、十分過ぎるくらいの進捗だと思う。
後は、お披露目だけれど……。
「シュン!お前昨日城に帰らなかっただろ!」
木工所の工房からパーツを搬出していた僕に声をかけてきたのは、木工省の副官ことクーリィだった。
僕と同年代に見えるけれどひと周り年上の、妻子もいる、長身で美形の彼。
養子だから父親のガンダーには似ていない。けれど、僕に口煩いところだけは残念ながら似ているんだよね。
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