君の国と僕の国

藤ノ千里

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第1章 変わっていく僕ら

第3話 じゃじゃ馬

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 そう言えば、どうして僕に王位継承権がないかを説明しておく必要があったね。
 コーロ島の西半分を国土とするハンザ公国は、周りを断崖絶壁に囲まれて、かつ痩せた土地なせいで植物もあまり育たない。
 けれど、「死の海」の終着点「船の墓場」には、度々遭難者が流れ着く。
 そのほとんどはノイマン公国を通じて帰国するけれど、1割未満の変わり者はハンザ公国に留まることを選ぶんだ。
 何故かと言うと、価値観が他の国と違いすぎるから。そして身分制度も変わっているから。
 1番変わっているのが、王となるのに必要な条件だ。
 現ハンザ公国国王の第1子かつ唯一の子どもである僕は、普通の国であれば必然的に王位継承権が与えられるんだろう。
 けれど、変わり者だらけのハンザ公国は違う。そう易々と王になる権利は認められない。
 そもそもうちの国、技術力こそ史上であると言う、謎の国民意識がある。
 更には、王は国民の為に尽くすものと言う考えがあるせいで、王の子であるという事実だけでは継承権を得る事ができないんだ。
 継承権を得るために必要なのは、まず技術力。それも、いち国民より秀でた技術力。
 それと、国民の為になる実績。こっちも王族たるに相応しい規模のものでなくてはならない。
 その2つを披露する為に、王の子は代々偉業を成し遂げてきた。
 現国王は、空に浮かべた気球を使い、半日後までの気象を予報する技術を発明した。
 己で考え、己で製作し、己で実現させたんだ。
 その技術は後進によって磨き上げられ、今や9割程の精度で24時間後までは予報可能になっている。
 先代のおじい様は、木材を切断する機械の精度を向上させた。
 切断時の狂いを63%減少させ、切断時の木材の損失を48%削減することに成功した。
 そうやって、偉業を成す事で国を治める権利を得る事ができるのだ。
 僕はまだ、何も成していない。
 だから王族であっても王位継承権は持っていない。
 正直、その事自体はあまり深刻な問題ではないんだ。
 王にならずとも、職人として生きる道もあるから。
 けれど、偉業は成したい。
 世界で1番大切な人の為に、とてつもない偉業を成したい。
 その為に今まで散々頑張ってきたんだ。あとひと踏ん張り、頑張るんだ。


 まぁ、そのひと踏ん張りが、最大の関門なんだけどね。
 耐火用の服に着替え、製鉄所に場所を移し、最大の関門と睨み合う。
 計算上は実現可能なパーツが、今日も絶好調に言うことを聞いてくれないんだ。
「どうだ?」
「やっぱり駄目。配合変えてみた方が良いのかも」
「……いや、配合は関係ねぇよ。どっちかっつーと、温度だな」
「上げる?」
「炉じゃねぇ、作業が遅すぎてこことここで質に差ができちまってんだ」
「そっ……か。はぁ、またやり直しか」
 1日かけて作る巨大なパーツを作り直し続けてかれこれ13回目。
 やっと綺麗な形になったのに、今度は手際を改善する必要があるんだそうだ。
 予備を含めて10個は必要なパーツなのに、まだ1つも完成していない。
 製鉄の腕は上がってきているはずなのに、これ程までに失敗続きだといい加減嫌になってくる。
「じゃじゃ馬に返り討ちにされんのは慣れてんだろ」
「女性にそういう風に言うの失礼だからね」
「俺ぁ誰の事かなんて言ってねぇぞ」
 意地の悪いガンダーから、じゃじゃ馬こと失敗作のスプリングを受け取って、ため息をつきそうになって。
 慌てて飲み込んだ。
 ガンダーは師匠ではあるけれど国の役人で、僕を見定める立場にある。
 この国随一の技術力を持つ彼に認められなければ、陛下に認められる事は不可能だ。
 だから彼の前で後ろ向きな発言はできない。いや、したくない。
 虚勢も時に必要なのだ。外聞を気にしなくてはならない立場では特に。


------
 1年間の諸外国での遊学は、他に代えがたいほどの収穫があった。
 国内に留まっているだけでは得られないいくつもの情報。
 外部向けの情報のみであったとしても、短期間のみの滞在であったとしても、各国の情勢はある程度体感する事が出来る。
 だから、陸路ではない海路での交易を重視する流れや、その為の技術力の向上が急速に進んでいる事を知ってしまったんだ。
「姫様これは?」
 急に呼びつけても嫌な顔ひとつしない庭師のキースは、テラスに並んだいくつもの植木を見るなり観察し始める。
「枯れた地でも育つであろう植物だ。友好の証に贈られた物だから丁重に扱ってくれ」
「承知いたしました」
 返事と同時に鉢の中の土を確認し始めるキース。
 長年城の庭を手入れしてくれている彼に任せておけば、まず間違いはないだろう。
 キースは、信頼できる人間の内の1人だから。
「それで?」
「ん?」
「私のところに来たからには、何かお悩みがあるのでしょう?」
 高齢な父よりも高齢な、隠居してもおかしくない歳のキースは、意外と鋭い。
 普段物言わない植物を相手にするからか、観察眼が優れているのだろう。
「悩み、か……。あるとも言えるし、ないとも言えるな」
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