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第1章 変わっていく僕ら
2話 懐刀
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「ごめんねレーカ、見苦しい所を見せて」
「いいや、私が見せてくれと頼んだのだから気にするな」
見慣れた工房の中に佇むレーカは、姿勢の正しさと存在感の強さも相まって凄く絵になって。
まるで騎士のように格好良かった。それに楽しそうに微笑むからとてつもなく綺麗だった。
「お、これだ。ありましたよ」
ガンダーの声には意味深な響きがあって、慌ててそちらを向いた。そして、その手に握られていた物に、我が目を疑った。
「あ……それ……っ」
「懐刀。それも上等の素材で作られた逸品です」
僕が止めるだろうことを分かっているくせに、それより先にガンダーはそれをレーカに手渡した。
受け取ったレーカはそれをまじまじと見て……。
「これは……」
真剣な表情で、レーカが懐刀を見つめる。隅々までじっくりと見て、触れて、鞘から抜いて。
彼女の瞳に、刀身の青が映り込んだ。
僕が去年作った懐刀の、青い模様が胡桃色の瞳に映っていた。
「美しいな……」
燃えるような緋色の唇が感嘆の呟きを紡いで、彼女の指が青をなぞる。
お世辞を言わない彼女が、こんな風に何かを賛辞するのは珍しかった。
「お前が作ったのか?」
「いーや、鞘の細工を見たでしょう。俺ぁ、あんな意味の無い細々した仕事はしねぇ主義でさぁ」
「じゃあ誰が?」
刀身を鞘に戻し、レーカは顔を上げた。
ガンダーの顎が僕を指して、次にレーカが驚きの顔を僕に向ける。
恥ずかしい。
あれ製鉄の練習として作ったやつだったのに。
「お前が?」
「……うん」
刀身だけで良いと言われたのを鞘付きの完成品に仕立てたのは、刀を打つ間「大切な人に贈るつもりで作れ」ってガンダーに言われたからで。
大切な人に贈るならちゃんと完成させたいと、鞘の細工は妥協せずに作ったもので。
僕の大切な人なんて、レーカ以外にいるわけなくて。
でも試作品の山に埋もれたまま、いつか再利用される物だと思っていたのに。贈りたい人の手に渡ることなんて、ないと思っていたのに。
「これにしよう」
「え、でも……!」
「何か問題が?」
レーカの手に、レーカに贈りたかった刀が収まっているのがくすぐったくて。
それに君が嬉しそうに笑うから。
「問題は、ないけど」
「じゃあ決まりだ。今回の賭けの賞品はこれを貰う」
「……うん」
レーカとの手合わせの唯一のルール。
負けた方が勝った方の望みを何でも1つ叶える事。
今回も勝者となったレーカの、「刀が欲しい」という望みは、僕が以前制作した懐刀によって叶えられる事になった。
正式な王族であるレーカは、公務があるとの事で、懐刀を抱えたままノイマン公国へと帰って行った。
僕は、工房に残った。
レーカの笑顔を見られて満足したのと、自分のやるべきことをやらないとと奮起したから。
「まぁた負けたのか。相変わらず成長しねぇな」
レーカがいなくなるとガンダーは素に戻る。
と言うか、レーカの前では彼であっても姿勢を正さざるを得ないんだ。彼女はそれほどまでに気品が溢れ出しているから。
「煩いなぁ。と言うか、これ!試作とはいえこんな所に置いておかないでよ!」
ガンダーが先程手荒く扱っていた機密の部品。
その内の1つ、手のひらほどの小さな金属を拾い上げた。
他は目をつぶるとしても、これだけはレーカにも見せられないというのに。どうしてうちの製鉄省はこれほどまでに雑なのか。
「素人にゃあ分かんねぇよ」
「それでも駄目だよ!」
製鉄の技術力に特化した彼は、逆に言えば技術力しかなくて。
それがうちの国最大の悩みどころでもあった。
「それよか今日の分、作るだろ?準備しろよ」
「うん、着替えてくる。炉は空いてる?」
「空けるさ。坊主の将来がかかってんだからな」
「ありがとう」
前言撤回だ。
しっかりと思いやりもある、素晴らしい技術者で、師匠だ。
彼に監修してもらったお陰で、非現実的にも思えた僕の計画ももうすぐ実現する。
あれが実現すれば、ようやく国王陛下にも認めていただける。
それに、レーカはきっと喜んでくれる。
頑張ろう、彼女の為に。
彼女の、笑顔を見る為に。
「いいや、私が見せてくれと頼んだのだから気にするな」
見慣れた工房の中に佇むレーカは、姿勢の正しさと存在感の強さも相まって凄く絵になって。
まるで騎士のように格好良かった。それに楽しそうに微笑むからとてつもなく綺麗だった。
「お、これだ。ありましたよ」
ガンダーの声には意味深な響きがあって、慌ててそちらを向いた。そして、その手に握られていた物に、我が目を疑った。
「あ……それ……っ」
「懐刀。それも上等の素材で作られた逸品です」
僕が止めるだろうことを分かっているくせに、それより先にガンダーはそれをレーカに手渡した。
受け取ったレーカはそれをまじまじと見て……。
「これは……」
真剣な表情で、レーカが懐刀を見つめる。隅々までじっくりと見て、触れて、鞘から抜いて。
彼女の瞳に、刀身の青が映り込んだ。
僕が去年作った懐刀の、青い模様が胡桃色の瞳に映っていた。
「美しいな……」
燃えるような緋色の唇が感嘆の呟きを紡いで、彼女の指が青をなぞる。
お世辞を言わない彼女が、こんな風に何かを賛辞するのは珍しかった。
「お前が作ったのか?」
「いーや、鞘の細工を見たでしょう。俺ぁ、あんな意味の無い細々した仕事はしねぇ主義でさぁ」
「じゃあ誰が?」
刀身を鞘に戻し、レーカは顔を上げた。
ガンダーの顎が僕を指して、次にレーカが驚きの顔を僕に向ける。
恥ずかしい。
あれ製鉄の練習として作ったやつだったのに。
「お前が?」
「……うん」
刀身だけで良いと言われたのを鞘付きの完成品に仕立てたのは、刀を打つ間「大切な人に贈るつもりで作れ」ってガンダーに言われたからで。
大切な人に贈るならちゃんと完成させたいと、鞘の細工は妥協せずに作ったもので。
僕の大切な人なんて、レーカ以外にいるわけなくて。
でも試作品の山に埋もれたまま、いつか再利用される物だと思っていたのに。贈りたい人の手に渡ることなんて、ないと思っていたのに。
「これにしよう」
「え、でも……!」
「何か問題が?」
レーカの手に、レーカに贈りたかった刀が収まっているのがくすぐったくて。
それに君が嬉しそうに笑うから。
「問題は、ないけど」
「じゃあ決まりだ。今回の賭けの賞品はこれを貰う」
「……うん」
レーカとの手合わせの唯一のルール。
負けた方が勝った方の望みを何でも1つ叶える事。
今回も勝者となったレーカの、「刀が欲しい」という望みは、僕が以前制作した懐刀によって叶えられる事になった。
正式な王族であるレーカは、公務があるとの事で、懐刀を抱えたままノイマン公国へと帰って行った。
僕は、工房に残った。
レーカの笑顔を見られて満足したのと、自分のやるべきことをやらないとと奮起したから。
「まぁた負けたのか。相変わらず成長しねぇな」
レーカがいなくなるとガンダーは素に戻る。
と言うか、レーカの前では彼であっても姿勢を正さざるを得ないんだ。彼女はそれほどまでに気品が溢れ出しているから。
「煩いなぁ。と言うか、これ!試作とはいえこんな所に置いておかないでよ!」
ガンダーが先程手荒く扱っていた機密の部品。
その内の1つ、手のひらほどの小さな金属を拾い上げた。
他は目をつぶるとしても、これだけはレーカにも見せられないというのに。どうしてうちの製鉄省はこれほどまでに雑なのか。
「素人にゃあ分かんねぇよ」
「それでも駄目だよ!」
製鉄の技術力に特化した彼は、逆に言えば技術力しかなくて。
それがうちの国最大の悩みどころでもあった。
「それよか今日の分、作るだろ?準備しろよ」
「うん、着替えてくる。炉は空いてる?」
「空けるさ。坊主の将来がかかってんだからな」
「ありがとう」
前言撤回だ。
しっかりと思いやりもある、素晴らしい技術者で、師匠だ。
彼に監修してもらったお陰で、非現実的にも思えた僕の計画ももうすぐ実現する。
あれが実現すれば、ようやく国王陛下にも認めていただける。
それに、レーカはきっと喜んでくれる。
頑張ろう、彼女の為に。
彼女の、笑顔を見る為に。
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