君の国と僕の国

藤ノ千里

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第1章 変わっていく僕ら

第1話 99回目の手合わせ

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 ノイマン公国はコーロ島の東半分を国土とするレーカの国で、目の前に広がる「死の海」を航海できるのは王族を初めとするごく限られた人達のみ。
 国の南側には森林があるけれど、狭い島国では貴重な資源だから伐採には厳しい条件がある。
 ただ、「死の海」は船にとっては死の海だけど海産物の宝庫で、そういう意味ではとても豊かな国だ。
 骨は折れるけれど、「死の海」の向こうの大陸の国とも交易もしているから、そこそこ開けた国ではあるだろう。
 そんなノイマン公国の現国王夫妻の一人娘、レーカ様は、もちろん王位継承権第1位。
「死の海」での操舵の腕も素晴らしく、それ以外の才能を伸ばすために外国に遊学に行かれていたほど。
 本当に凄くて、眩しくて、嬉しい。
 レーカは僕の、北極星のような人なんだ。
「待たせたな」
 帰国したばかりのレーカは、疲れも見せずに剣を携えて現れた。
 数分で着替えた運動用の服は、彼女を凛々しく飾っている。
「ううん、全然」
 僕は訪問着を脱ぐだけだから楽だったけど、レーカはどうやって早着替えしたんだろうか?
 なんて、考えるのは無粋なんだろうけれど。
「でも、本当にいいの?今から手合わせで」
「問題ない。それとも、怠けていたのか?」
 挑発なんだろうけれど、ニッと不敵に笑う顔すらもレーカは綺麗で、見蕩れないようにするのが大変だ。
 あぁ、それに、レーカの構えは洗礼されていて絵になるなぁ。
「全然。……いつでもいいよ」
 剣を構えて、体の力を抜いて、剣の切っ先越しにレーカを見る。
 半身で構える君の体の薄さ。編んで纏めた君の髪のシルエット。僕を見つめながら隙を伺う君の熱い瞳。
 この時だけは、君の事だけを考える事を許される。
 ただの幼なじみに戻れる。
 だからこの時間が1番好きだ。
「っ……」
 短く息を吐いた君が半歩、いや1歩踏み出して、下がった僕を追いかけてもう1歩踏み出してくる。
 横薙ぎの細身の剣を受け止めると、更に1歩。いや、踏み出すと見せかけて下がった……?!
 レーカの剣を受け止めていた力が押し返す先を失って、バランスを崩してしまった。
 でも、すぐに立て直して、踏み出す。
 不意をつかれたレーカは大きく後ろに飛び退いて、そしたらまた振り出しだ。
「さすがに何度も同じ手は通じないか」
「当たり前だろ。僕だってちゃんと成長してるんだ」
 真剣を挟んで、ニッと笑い合う。
 もう何10回も繰り返して何10回も負けた手合わせ。
 でも今日は勝つ。初めて勝って、初めて君へ要求する権利を勝ち取るんだ。
「じゃあ……これは、どうかなっ!」
 しゃがみ込むようにして走り出したレーカが、剣が届く直前で横に逸れて。
 次の瞬間飛び上がっていた。
 陽の光を背に、僕より高い位置から僕を見下ろす胡桃色の目。
 受け止めた君の剣は、予想していたより何倍も軽かったんだ。


 それからかれこれ2時間後。またまた平服に着替えた僕と、一般市民にも見える服に着替えたレーカは、今度は僕の国、ハンザ公国に移動していた。
 一応着いてきてくれる両国の護衛は遠巻きで、護衛というよりは保護者のよう。
 18歳目前にもなって、一応帯剣していれば多少の自由は許される。
 こうやって、レーカと2人で製鉄所の工房を見て回るのだって、許される。
「もっと短いのはあるか?」
 出来上がったばかりの剣を手に取りながら、レーカは職人のように品定めをしていた。
「それより短いって言ったら懐刀ですよ」
「それを見せてくれ」
 製鉄所を管轄する製鉄省の責任者ことガンダーは、タバコを咥えながら立派な顎髭を撫でた。
 あれはちょっと困ってる時の癖だ。
「暗殺でも企てておいでで?」
「それも良いな」
 レーカの笑えない冗談に、ガンダーは苦笑いをして、それから工房の奥に歩いていく。
 ガンダーの後を追うレーカに続いて僕もそっちに向かったけど……嫌な予感がするな。
「ここは?」
 ガンダーが案内した先は、販売用じゃない鉄製品が置いてある所。
 試作品や、非日常品や、他の省からの発注品などなど。
 要はどう見ても他国の姫にお見せできるような場所じゃなかった。
「機密があるんで薄目で見といてください……ここ、だったか……」
 優しいレーカはそっぽを向いて見ないようにしてくれたけど、それを良いことにガンダーはあれこれ引っ掻き回すようにして本当に機密も取り出してるし。
 外交省の人が見たら悲鳴を上げそうだ。
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