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第2章 成人祝いのパーティ
10話 外交というもの
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パーティ前日から城内は賑やかだったが、当然のように当日は経験した事のないほどの賑わいで、どこか祭りの様相を呈していた。
「おはようございますレーカ様!予報通りとても良い天気で絶好のお誕生日日和ですよ!」
言いつつ窓を開けるユキノの服も普段より明るいオレンジで、髪飾りも付けている。
侍女としては難のある恰好だろうが、今日ばかりは侍女頭も黙認してくれたのだろう。
「朝食を済まされてご準備されたら会場へ移動されてください。そこで各国の方々からのご挨拶があります。その後は少しご歓談の時間があり、昼食前の時間に両陛下よりお言葉があってからパーティになります」
カーテンを止め、朝食を並べ、顔を洗う準備をしながらもユキノの口は止まらない。
相変わらず仕事はできる侍女だこと。
「パーティは昨日ご連絡した通り立食形式で中庭のテラスにて開催します。机の配置などは外国の作法に倣っていますが、少し狭いかもしれないのでホールも解放して楽器の演奏はそちらで行います」
ユキノには耳だけ貸して、用意された桶の水で顔を洗う。
この香りは……香水でも水に混ぜたのだろうか。
「当国からは大臣以上が出席し、両陛下はパーティ中はずっといらっしゃる予定です」
顔を洗い終わると、まだ慣れないスキンケア。
これでも少ないらしいが2種類も顔に塗らないといけないなんて正直面倒くさい。
「あ、航海省は最初だけ出席してすぐに港に戻ります。あとは、厨房の人手が足りない問題についてはお隣から借りて来ちゃいました」
スキンケアが終わると朝食を……待て。
「お隣?」
聞き逃せない単語にユキノを見ると、彼女は絶賛ベッドメイク中で。
その手を止めずに、何の事もないように答えた。
「ハンザの王城から。あっちも今日はこっちに来てるから快く貸してくれましたよ」
他国と断絶された孤島で生活を続けると、どいつもこいつも常識がなくなってきてしまうらしい。
平和ボケも問題だが、国同士の境界が乱れるのは比にならないほど問題だ。
頭が痛い問題に自然とパンをちぎる手が乱暴になる。
「それはきちんと外交省を通したのか?」
「多分」
「多分?」
「そもそも人手不足を相談してきたのはハンナなんですけど、ハンナが相談したのって皇后陛下になんですね」
パンとスープを咀嚼しつつ、嫌な予感がした。
というよりもこの展開、以前も聞いたことがあった。
「皇后陛下がお隣の国王様に相談されて、そしたら快く承諾下さったらしいです」
外交とはいかなるものであるか、隣国との関わり方はかくあるべきか、示すべきは国の主たる両陛下であられるはずであるのに。
皇后陛下は、ハンザ王へ親しみが深すぎる。
そして国王陛下は、皇后陛下に甘すぎる。
「代わりにうちの庭師と司書を貸してるらしいですよ。それで貸し借りなしだって」
「で、外交省には?」
「皇后陛下が連絡されてる……はず?」
「はぁ」
皇后陛下の生家はハンザ王家であられる。
つまりハンザ国王のお姉さまが皇后陛下なのだ。
だからこそ当代は先代より深い交友があり、その親密さはもはや違う国ではないのではないかと言うほどであって。
1つの島を二分する両国にとってそれ自体は良い事ではある。
両国の事だけを考えるのならば。
「念のため確認をしていてくれ。必ず大臣の署名入りの文書を交わしているかも確認するように」
「はい、レーカ様」
他国というものが存在する以上、彼らを前に「ただとても仲の良い国同士」という説明は不信感にも繋がる。
だからこそ他国相手のように両国間でもきちんと外交の形を取らなければならないのだ。建前上だけだったとしても。
それをお分かりくださるのは、今のところ国王陛下だけ、か。
「はぁ」
そもそも「死の海」の向こう側を見た事のある国民自体が限られているのだから、他人事のように感じるのは致し方がない。
致し方がないとはいえ、頭の痛い問題で。
「あら、ため息ばかりだとすぐにおばあちゃんになっちゃいますよ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「……シュン様とか?」
従弟で隣国の王族で。私とあいつの関係はそれだけで十分なのに。
たとえ幼馴染だったとしても、幼馴染以上の関係になる事など許されるはずもないのに。
ユキノはすぐあいつの名前を出す。それもいたずら心からではなく、私の事を大切に思うがこそ。
「風呂に入ってから着替える。片付けておいてくれ」
鬱陶しさを取り繕い、立ち上がりながらユキノに背を向けた。
胸元に忍ばせてあるのは壊れた櫛。
私にはこの温もりだけで十分すぎるのだから。
「おはようございますレーカ様!予報通りとても良い天気で絶好のお誕生日日和ですよ!」
言いつつ窓を開けるユキノの服も普段より明るいオレンジで、髪飾りも付けている。
侍女としては難のある恰好だろうが、今日ばかりは侍女頭も黙認してくれたのだろう。
「朝食を済まされてご準備されたら会場へ移動されてください。そこで各国の方々からのご挨拶があります。その後は少しご歓談の時間があり、昼食前の時間に両陛下よりお言葉があってからパーティになります」
カーテンを止め、朝食を並べ、顔を洗う準備をしながらもユキノの口は止まらない。
相変わらず仕事はできる侍女だこと。
「パーティは昨日ご連絡した通り立食形式で中庭のテラスにて開催します。机の配置などは外国の作法に倣っていますが、少し狭いかもしれないのでホールも解放して楽器の演奏はそちらで行います」
ユキノには耳だけ貸して、用意された桶の水で顔を洗う。
この香りは……香水でも水に混ぜたのだろうか。
「当国からは大臣以上が出席し、両陛下はパーティ中はずっといらっしゃる予定です」
顔を洗い終わると、まだ慣れないスキンケア。
これでも少ないらしいが2種類も顔に塗らないといけないなんて正直面倒くさい。
「あ、航海省は最初だけ出席してすぐに港に戻ります。あとは、厨房の人手が足りない問題についてはお隣から借りて来ちゃいました」
スキンケアが終わると朝食を……待て。
「お隣?」
聞き逃せない単語にユキノを見ると、彼女は絶賛ベッドメイク中で。
その手を止めずに、何の事もないように答えた。
「ハンザの王城から。あっちも今日はこっちに来てるから快く貸してくれましたよ」
他国と断絶された孤島で生活を続けると、どいつもこいつも常識がなくなってきてしまうらしい。
平和ボケも問題だが、国同士の境界が乱れるのは比にならないほど問題だ。
頭が痛い問題に自然とパンをちぎる手が乱暴になる。
「それはきちんと外交省を通したのか?」
「多分」
「多分?」
「そもそも人手不足を相談してきたのはハンナなんですけど、ハンナが相談したのって皇后陛下になんですね」
パンとスープを咀嚼しつつ、嫌な予感がした。
というよりもこの展開、以前も聞いたことがあった。
「皇后陛下がお隣の国王様に相談されて、そしたら快く承諾下さったらしいです」
外交とはいかなるものであるか、隣国との関わり方はかくあるべきか、示すべきは国の主たる両陛下であられるはずであるのに。
皇后陛下は、ハンザ王へ親しみが深すぎる。
そして国王陛下は、皇后陛下に甘すぎる。
「代わりにうちの庭師と司書を貸してるらしいですよ。それで貸し借りなしだって」
「で、外交省には?」
「皇后陛下が連絡されてる……はず?」
「はぁ」
皇后陛下の生家はハンザ王家であられる。
つまりハンザ国王のお姉さまが皇后陛下なのだ。
だからこそ当代は先代より深い交友があり、その親密さはもはや違う国ではないのではないかと言うほどであって。
1つの島を二分する両国にとってそれ自体は良い事ではある。
両国の事だけを考えるのならば。
「念のため確認をしていてくれ。必ず大臣の署名入りの文書を交わしているかも確認するように」
「はい、レーカ様」
他国というものが存在する以上、彼らを前に「ただとても仲の良い国同士」という説明は不信感にも繋がる。
だからこそ他国相手のように両国間でもきちんと外交の形を取らなければならないのだ。建前上だけだったとしても。
それをお分かりくださるのは、今のところ国王陛下だけ、か。
「はぁ」
そもそも「死の海」の向こう側を見た事のある国民自体が限られているのだから、他人事のように感じるのは致し方がない。
致し方がないとはいえ、頭の痛い問題で。
「あら、ため息ばかりだとすぐにおばあちゃんになっちゃいますよ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「……シュン様とか?」
従弟で隣国の王族で。私とあいつの関係はそれだけで十分なのに。
たとえ幼馴染だったとしても、幼馴染以上の関係になる事など許されるはずもないのに。
ユキノはすぐあいつの名前を出す。それもいたずら心からではなく、私の事を大切に思うがこそ。
「風呂に入ってから着替える。片付けておいてくれ」
鬱陶しさを取り繕い、立ち上がりながらユキノに背を向けた。
胸元に忍ばせてあるのは壊れた櫛。
私にはこの温もりだけで十分すぎるのだから。
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