君の国と僕の国

藤ノ千里

文字の大きさ
12 / 38
第2章 成人祝いのパーティ

10話 外交というもの

しおりを挟む
 パーティ前日から城内は賑やかだったが、当然のように当日は経験した事のないほどの賑わいで、どこか祭りの様相を呈していた。
「おはようございますレーカ様!予報通りとても良い天気で絶好のお誕生日日和ですよ!」
 言いつつ窓を開けるユキノの服も普段より明るいオレンジで、髪飾りも付けている。
 侍女としては難のある恰好だろうが、今日ばかりは侍女頭も黙認してくれたのだろう。
「朝食を済まされてご準備されたら会場へ移動されてください。そこで各国の方々からのご挨拶があります。その後は少しご歓談の時間があり、昼食前の時間に両陛下よりお言葉があってからパーティになります」
 カーテンを止め、朝食を並べ、顔を洗う準備をしながらもユキノの口は止まらない。
 相変わらず仕事はできる侍女だこと。
「パーティは昨日ご連絡した通り立食形式で中庭のテラスにて開催します。机の配置などは外国の作法に倣っていますが、少し狭いかもしれないのでホールも解放して楽器の演奏はそちらで行います」
 ユキノには耳だけ貸して、用意された桶の水で顔を洗う。
 この香りは……香水でも水に混ぜたのだろうか。
「当国からは大臣以上が出席し、両陛下はパーティ中はずっといらっしゃる予定です」
 顔を洗い終わると、まだ慣れないスキンケア。
 これでも少ないらしいが2種類も顔に塗らないといけないなんて正直面倒くさい。
「あ、航海省は最初だけ出席してすぐに港に戻ります。あとは、厨房の人手が足りない問題についてはお隣から借りて来ちゃいました」
 スキンケアが終わると朝食を……待て。
「お隣?」
 聞き逃せない単語にユキノを見ると、彼女は絶賛ベッドメイク中で。
 その手を止めずに、何の事もないように答えた。
「ハンザの王城から。あっちも今日はこっちに来てるから快く貸してくれましたよ」
 他国と断絶された孤島で生活を続けると、どいつもこいつも常識がなくなってきてしまうらしい。
 平和ボケも問題だが、国同士の境界が乱れるのは比にならないほど問題だ。
 頭が痛い問題に自然とパンをちぎる手が乱暴になる。
「それはきちんと外交省を通したのか?」
「多分」
「多分?」
「そもそも人手不足を相談してきたのはハンナなんですけど、ハンナが相談したのって皇后陛下になんですね」
 パンとスープを咀嚼しつつ、嫌な予感がした。
 というよりもこの展開、以前も聞いたことがあった。
「皇后陛下がお隣の国王様に相談されて、そしたら快く承諾下さったらしいです」
 外交とはいかなるものであるか、隣国との関わり方はかくあるべきか、示すべきは国の主たる両陛下であられるはずであるのに。
 皇后陛下は、ハンザ王へ親しみが深すぎる。
 そして国王陛下は、皇后陛下に甘すぎる。
「代わりにうちの庭師と司書を貸してるらしいですよ。それで貸し借りなしだって」
「で、外交省には?」
「皇后陛下が連絡されてる……はず?」
「はぁ」
 皇后陛下の生家はハンザ王家であられる。
 つまりハンザ国王のお姉さまが皇后陛下なのだ。
 だからこそ当代は先代より深い交友があり、その親密さはもはや違う国ではないのではないかと言うほどであって。
 1つの島を二分する両国にとってそれ自体は良い事ではある。
 両国の事だけを考えるのならば。
「念のため確認をしていてくれ。必ず大臣の署名入りの文書を交わしているかも確認するように」
「はい、レーカ様」
 他国というものが存在する以上、彼らを前に「ただとても仲の良い国同士」という説明は不信感にも繋がる。
 だからこそ他国相手のように両国間でもきちんと外交の形を取らなければならないのだ。建前上だけだったとしても。
 それをお分かりくださるのは、今のところ国王陛下だけ、か。
「はぁ」
 そもそも「死の海」の向こう側を見た事のある国民自体が限られているのだから、他人事のように感じるのは致し方がない。
 致し方がないとはいえ、頭の痛い問題で。
「あら、ため息ばかりだとすぐにおばあちゃんになっちゃいますよ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「……シュン様とか?」
 従弟いとこで隣国の王族で。私とあいつの関係はそれだけで十分なのに。
 たとえ幼馴染だったとしても、幼馴染以上の関係になる事など許されるはずもないのに。
 ユキノはすぐあいつの名前を出す。それもいたずら心からではなく、私の事を大切に思うがこそ。
「風呂に入ってから着替える。片付けておいてくれ」
 鬱陶しさを取り繕い、立ち上がりながらユキノに背を向けた。
 胸元に忍ばせてあるのは壊れた櫛。
 私にはこの温もりだけで十分すぎるのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

花言葉は「私のものになって」

岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。) そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。 その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。 美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。 青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。 人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい! そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。 そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。 ☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。 ☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。 ☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。 ☆書き上げています。 その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。

魔性の女に幼馴染を奪われたのですが、やはり真実の愛には敵わないようですね。

Hibah
恋愛
伯爵の息子オスカーは容姿端麗、若き騎士としての名声が高かった。幼馴染であるエリザベスはそんなオスカーを恋い慕っていたが、イザベラという女性が急に現れ、オスカーの心を奪ってしまう。イザベラは魔性の女で、男を誘惑し、女を妬ませることが唯一の楽しみだった。オスカーを奪ったイザベラの真の目的は、社交界で人気のあるエリザベスの心に深い絶望を与えることにあった。

仮面王の花嫁

松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。 しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー

小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。 でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。 もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……? 表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。 全年齢作品です。 ベリーズカフェ公開日 2022/09/21 アルファポリス公開日 2025/06/19 作品の無断転載はご遠慮ください。

処理中です...