君の国と僕の国

藤ノ千里

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第3章 傲慢な願い

23話 古い記憶

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「レーカ、話がしたい」
「私はしたくない」
「じゃ、じゃあ、勝手に喋るね」
 こんなやつ相手にする必要ないのに、船に乗られてしまったお父様の後を追う為の足は動かなかった。
 聞きたくなんてないのに。
「あの、僕、手加減してたとか、そう言うんじゃないから」
 よくもまぁぬけぬけと、馬鹿みたいな事を言う馬鹿なやつ。
 冷静に考えれば、男のあいつに女の私が剣で勝つなんて可笑しいと、分かったはずなのに。
 気づかなかった私も、馬鹿だったんだ。
「ちゃんと本気だった。本気で勝とうと思ってた」
 こいつの、この馬鹿みたいにガキっぽい所に騙されていたんだきっと。
 騙されて、それで……。
「でも約束がまだ果たせないから、だからもう少しだけ、待って欲しくて」
「何を待てと?」
 イライラしてムカムカして、叫び出す手前でようやく堪えた。
 こいつはいつもそうだ。マイペースで、マイペース過ぎて、世間からはみ出していてもお構い無しで。
 私は一刻でも早く対応しないといけない自国の問題で苦労しているのに。
 なのに「待って」?
 まだ王位の継承権すら得ていないのに?もしかして継承権を得るまで悠長に待っていろと?
 私が、何の為に苦労しているかも、知らないくせに……!
「お前のその平和ボケした顔にはもううんざりだ!私と話がしたいならせめて王位を継いでからにしろ……!」
 シュンを傷つける為の言葉が、自分の胸にも傷をつけて。
 振り切るために足を動かした。鉛のように重たい足を。
「レーカ、約束、覚えてないの……?」
 そんな声が、寂しそうな声が聞こえた気がした。
 けどもうどうでも良くて。
 唇を噛み締めながら船へと乗り込んだ。


 私は、陛下のはとこに当たる近衛長の娘として生を受けた。
 実父が亡くなったのは、私が6歳の時。
 母は既にこの世になかった。
 私には親が必要で、両陛下には子どもが必要だった。
 初めて謁見した国王陛下は、「私たちの娘になってくれないか」と、おっしゃった。
 私は将来近衛兵になりたいと思っていた。王と国民の為に生きたいと、思っていた。
 陛下の思いを汲むことが最善であると、思って、頷いた。
 その選択肢をすぐに悔いる事になると、幼い私は気づかなかった。
 シュンと出会ったのは、王女となって半年後。
 自分の選択を後悔し始めていた頃だ。
 初めて尋ねたハンザ公国で、歳が近いからと共に遊ぶことになった。
 7歳になったばかりの私と、まだ6歳だったシュン。
 だから、子ども心に私がしっかりしなければと、年上ぶることにしたんだ。
「行くぞ」
 手を引くと、シュンは驚きながら着いてきた。
「何をして遊ぶ?」
「えと……」
 初めて足を踏み入れたハンザ公国の庭園。なのにシュンは、シュンの方が不安そうな顔をしていた。
「お前の城の庭だろ」
「でも僕初めてで」
「いつもはどこで遊んでるんだ?」
「部屋……」
「友だちとは?」
「僕友だちいないもん……」
 ウジウジと喋る色白でひょろひょろのシュンは、女の子にも見えて。
 逆に、力が強くガサツで色黒の私の方が男の子に見えるほどで。
 驚く程に真逆なのに、友だちがいないという一点だけは同じだと、急に親近感を覚えたんだ。
「じゃあ私が友だちになってやる。だから遊ぶぞ」
「……うん!」
 急に満面の笑みを浮かべたシュンは、私なんかの一言で別人のように元気になって、そして私たちは初めての友だちを満喫した。
 何かと理由をつけてはお互いの城を行き来して、唯一の友だちとして多くの時を共に過ごした。
 そして、ある時からは会う度に賭け仕合いをするようになって……。
 そう言えば、あれが始まったきっかけは何だったか。
 シュンが何かを言って、私から提案したのは覚えている。
 けれど、どうしてあんな事を始めたのか、それが思い出せない。思い出せなくなってしまった。


------
 大陸沿いの、荒海に浮かぶ孤島コーロ島。
 大陸との間には「死の海」とも呼ばれる容易に航海できない海峡があり、大陸との反対側には、まるで船を沈めるためにあるような岩礁地帯が広がる。
 それ故大抵の船はコーロ島が視認できないほど大きく迂回して航海する事になり、結果としてこの小さな島は長い間認知されずにひっそりと存在し続けていた。
 ノイマン公国がロッツランド王国と交流を持つようになったのも、ここ数十年ほどの最近で、直接外部とやり取りしないハンザ公国に限っては未だに妖精扱いだろう。
 現にこの国は、おかしい。
 俺のように他国から来た人間にとっては、異質で異様で、違う世界にも感じるほどに、おかしいんだ。
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