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第4章 君が私にくれたもの
27話 君からの言葉
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そう言えば、今回はあれが入っていたな。
手に取り中を改め、普段は入っていない紙を取り出した。
先生から渡されたこの紙。
何が記されているかを、まだ確認していなかった。
無造作に折りたたまれたザラザラの手触りを開くと、ところどころ引っかかりながらも丁寧に綴られたであろう文字が見えて。
一目で詩だと分かった。
先生の、ということは無いだろう。
あの方がこんな雑紙に詩を綴るはずもないから。
なら、誰の?
思いつつひとまず目を通していく。
「日を受けて紅く燃える髪」という言葉を、「真珠のように輝く胡桃色の瞳」という言葉を。
そして、「傷跡すらも美しい僕の女神」という、言葉を。
「これ……シュンか……」
しかも、この文量でありながら全てが私に向けた讃辞で、しかも、「君に恋する事が出来た喜び」なんて戯言も書かれていて。
書かれていて……。
「え?」
恋、を?
シュンが私に?
……私に?
理解が、できない。
あいつが「唯一の友」である私に懐いているのはそれこそ明白で周知の事実だし、それは両国間の仲を現すのと同意であるから私も吝かではなかったし、友と言うよりは弟のようなあいつを姉貴分として構ってやらなければと思っていたし、だから……。
シュンが私に恋を?
あの貴公子然としていれば二枚目にも見えて、ご婦人方からの人気も高いシュンが?
こんな、髪でも伸ばしていないと女にも見えない私に、恋を?
有り得ない。
有り得ないんだ。
有り得ない、のに……。
「じゃあ僕、レーカを守るね」
混乱した頭に、酷く幼いシュンの声が蘇る。
あれは、いつだったか。
確か、とても昔。
私の髪がまだ短くて、男の子のように振る舞っていた。そんな頃じゃなかったか?
そう。そうだ。
シュンが始めての剣の稽古をしたとかで、「やりたくない」だなんて泣き言を言っていたんだ。
それで私が「強くならないと大切な物を守れない」なんて、言って。
「大切な物?」
そう言って首を傾げるシュンに姉貴ぶって答えた。
「そうだ。大切な物を、大切な人を守るために強くならないとダメなんだぞ」
「そっかぁ……」
ダメダメなシュンは私の事をいつも慕っていて、犬みたいに従順で。
だからちょっと背伸びをして格好つけた。んだと思う。
「じゃあ僕、レーカを守るね」
そう答えた鼻たれ小僧にドキリとした。
「意味分かってないくせに」と、イラッともした。
だから「あたしより弱いシュンはダメ!」って答えて……。
もしかして、あれが賭け試合の始まりだった?
あいつが言ってた「約束」ってもしかして、「レーカより強くなるから」って言ってた、あれの事?
……馬鹿なのか?
あいつ、私の事を守る為だけにあんなに必死こいて剣の稽古をしてたのか?
は?でも、あいつもう先生より強いんだろ?だから手を抜いて……ないのか?もしかして。
本当に信じられないけれど、あの不器用馬鹿なら有り得ないこともない。
勝ちたいけど守りたいから傷付けたくないとか、そんな馬鹿な事を本気で考えていそうだ。馬鹿だから。
馬鹿、だから……。
紙を、たたみ直して、革袋にしまい直して。
ベッドに倒れ込むと、顔の横に鉄の塊があった。
シュンが作った懐刀だ。
あいつが、きっと丹精込めて作り上げた、あいつの努力の塊だ。
これをお守りのように持ってきてしまった事を、あいつはどう思うだろうか。
私に恋をしているという、あいつは。
喜ぶ、のか?馬鹿みたいに。
あぁ、でもあいつはそのうちハンザ国王となるのだから、友として気楽に会うことも出来なくなる、のか。
仕合いだってもうやらないと決めたんだ。だから、国王同士としての会談しかもう許されないんだ。
もう、今までのような付き合いは許されない、んだ……。
「……い」
コンコンコン。
口から漏れてしまいそうになった何かを、ノックの音がかき消した。
一瞬で頭の中を切り替える。ここはロッツランド王国、そして私は来賓のノイマン公国の王女。
この部屋を訪ねて来る事ができる人間は限られる。
そして、私の部屋をこんな時間に訪ねて来るからには、容易な要件ではないだろう。
念の為と、懐刀を握り込み起き上がる。
髪も軽く整えてから王女の顔を作った。
「どうぞ」
ガチャリと音を立て、入室して来る人影。
ドアの影から姿を表したのは、シモン様でいらっしゃった。
「夜分に失礼」
「いえ……何か御用でも?」
シモン様が軽装でいらっしゃるのにも、護衛も側近も連れてらっしゃらないのにも違和感があって。
灯りの火が揺らめいて、映し出したシモン様の表情がとても冷たく見えた。
手に取り中を改め、普段は入っていない紙を取り出した。
先生から渡されたこの紙。
何が記されているかを、まだ確認していなかった。
無造作に折りたたまれたザラザラの手触りを開くと、ところどころ引っかかりながらも丁寧に綴られたであろう文字が見えて。
一目で詩だと分かった。
先生の、ということは無いだろう。
あの方がこんな雑紙に詩を綴るはずもないから。
なら、誰の?
思いつつひとまず目を通していく。
「日を受けて紅く燃える髪」という言葉を、「真珠のように輝く胡桃色の瞳」という言葉を。
そして、「傷跡すらも美しい僕の女神」という、言葉を。
「これ……シュンか……」
しかも、この文量でありながら全てが私に向けた讃辞で、しかも、「君に恋する事が出来た喜び」なんて戯言も書かれていて。
書かれていて……。
「え?」
恋、を?
シュンが私に?
……私に?
理解が、できない。
あいつが「唯一の友」である私に懐いているのはそれこそ明白で周知の事実だし、それは両国間の仲を現すのと同意であるから私も吝かではなかったし、友と言うよりは弟のようなあいつを姉貴分として構ってやらなければと思っていたし、だから……。
シュンが私に恋を?
あの貴公子然としていれば二枚目にも見えて、ご婦人方からの人気も高いシュンが?
こんな、髪でも伸ばしていないと女にも見えない私に、恋を?
有り得ない。
有り得ないんだ。
有り得ない、のに……。
「じゃあ僕、レーカを守るね」
混乱した頭に、酷く幼いシュンの声が蘇る。
あれは、いつだったか。
確か、とても昔。
私の髪がまだ短くて、男の子のように振る舞っていた。そんな頃じゃなかったか?
そう。そうだ。
シュンが始めての剣の稽古をしたとかで、「やりたくない」だなんて泣き言を言っていたんだ。
それで私が「強くならないと大切な物を守れない」なんて、言って。
「大切な物?」
そう言って首を傾げるシュンに姉貴ぶって答えた。
「そうだ。大切な物を、大切な人を守るために強くならないとダメなんだぞ」
「そっかぁ……」
ダメダメなシュンは私の事をいつも慕っていて、犬みたいに従順で。
だからちょっと背伸びをして格好つけた。んだと思う。
「じゃあ僕、レーカを守るね」
そう答えた鼻たれ小僧にドキリとした。
「意味分かってないくせに」と、イラッともした。
だから「あたしより弱いシュンはダメ!」って答えて……。
もしかして、あれが賭け試合の始まりだった?
あいつが言ってた「約束」ってもしかして、「レーカより強くなるから」って言ってた、あれの事?
……馬鹿なのか?
あいつ、私の事を守る為だけにあんなに必死こいて剣の稽古をしてたのか?
は?でも、あいつもう先生より強いんだろ?だから手を抜いて……ないのか?もしかして。
本当に信じられないけれど、あの不器用馬鹿なら有り得ないこともない。
勝ちたいけど守りたいから傷付けたくないとか、そんな馬鹿な事を本気で考えていそうだ。馬鹿だから。
馬鹿、だから……。
紙を、たたみ直して、革袋にしまい直して。
ベッドに倒れ込むと、顔の横に鉄の塊があった。
シュンが作った懐刀だ。
あいつが、きっと丹精込めて作り上げた、あいつの努力の塊だ。
これをお守りのように持ってきてしまった事を、あいつはどう思うだろうか。
私に恋をしているという、あいつは。
喜ぶ、のか?馬鹿みたいに。
あぁ、でもあいつはそのうちハンザ国王となるのだから、友として気楽に会うことも出来なくなる、のか。
仕合いだってもうやらないと決めたんだ。だから、国王同士としての会談しかもう許されないんだ。
もう、今までのような付き合いは許されない、んだ……。
「……い」
コンコンコン。
口から漏れてしまいそうになった何かを、ノックの音がかき消した。
一瞬で頭の中を切り替える。ここはロッツランド王国、そして私は来賓のノイマン公国の王女。
この部屋を訪ねて来る事ができる人間は限られる。
そして、私の部屋をこんな時間に訪ねて来るからには、容易な要件ではないだろう。
念の為と、懐刀を握り込み起き上がる。
髪も軽く整えてから王女の顔を作った。
「どうぞ」
ガチャリと音を立て、入室して来る人影。
ドアの影から姿を表したのは、シモン様でいらっしゃった。
「夜分に失礼」
「いえ……何か御用でも?」
シモン様が軽装でいらっしゃるのにも、護衛も側近も連れてらっしゃらないのにも違和感があって。
灯りの火が揺らめいて、映し出したシモン様の表情がとても冷たく見えた。
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