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第4章 君が私にくれたもの
28話 君が作った懐刀
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「貴女に提案があり伺いました」
「どのような?」
「他に人もいないので率直に申し上げますが、なるべく早く子どもを作っておきたいのです」
今まで見て来た貴公子としての顔ではない、恐らくシモン様の素の表情。
真顔に近い、ほとんど色のない表情。
そして冷たくも見える金の瞳。
「情夫の元へ通うのは男児が1人以上生まれてからにしていただきたい。構いませんよね?」
王族として、夜の教育はもちろん受けてはいた。
この男が何を言っているのかは、理解はできた。
だが意味が分からなかった。
「何、を……?」
「兄の子が女児のみなのでできれば男児を作っておきたいのです。王婿となる私が愛人を囲うのは流石に非難される可能性が高いですし、であればあなたに産んでいただくしかないですが、船に乗る以上子どもが流れてしまう可能性も高いでしょう?であればなるべく早く子作りをしておいた方が得策かと考えたのですが、いかがでしょうか?」
淡々と仰るシモン様は、感情ではなく損得勘定のみで話をされてらっしゃるのだろう。
それを私にも求めてらっしゃる。
私も同類だと、思ってらっしゃる。
国の損得で物事を考えるのは、良い事だと思う。
思う、けど……。
「理解は、しましたが……。今この場で、という事でしょうか?」
「えぇ。早い方が良いでしょうし」
「婚約もまだですのに?」
「産まれるまでに成婚していれば問題ありませんでしょう?」
「ですが……」
「本当に良いのか」と、お父様の言葉のはずだったものが、頭の中に居座っていて。
肯定的なはずの状況で、肯定すべき状況で、肯定の言葉が浮かばない。
頷けば良いだけなのに、それすらも出来なくて。
「もしや、ご経験がないのですか?」
「え?」
「お嫌でしたら寝ている間に済ませる事もできますが?」
「は?」
「服もそのままでも構いませんよ?」
デリカシーの欠片もない物言い。淑女扱いどころか、女扱いされてないような、失礼にも程があるあの態度。
侮るにも程がある。私を誰だと思っているんだ……。
「失礼、ですが……!」
「お気遣い無用です」と挑発に乗る所だった私を止めたのは、知らず強く握っていた懐刀の感触。
シュンの、懐刀の感触。
硬いのに柔らかく感じる、優しい感触だった。
「……出直して頂けますか?」
勇気が湧くなんて言ったら大袈裟だけど、でもあいつの存在は確かに私を強くしてくれる。
「早すぎる風は嵐を呼ぶと、我が国では言うのです」
私の唯一の友人。
唯一の、心を許せる友人だから。
「明日改めてお話をさせて下さいませ。両国の国益の為となるお話を」
拒絶の意志を示すと、シモン様はすぐに部屋を出て行かれた。
けれど私は、その夜懐刀を握りしめながら眠りについた。
翌朝、不思議と心は軽かった。
朝食の後、シモン様に案内いただいた灯台にて、港と荒れ狂う「死の海」を見通しながら、心の海は凪いでいた。
懐刀を、今日は握っていたからだろうか。
「ノイマン公国にもやはり灯台は必要となるかと」
「そうなりましょうな。建設の際はご協力をお願いしてもよろしいか?」
「快くご助力させていただきます」
国王陛下とシモン様が語らう隣で、まるで他人事のように聞いていた。
口実とはいえ私の婚姻が前提の話であるのに、なんの感慨も湧かなかった。
だってあいつが、私に恋してるなんて知ってしまったから。
あの仕合いだって、あいつの下心だって知ってしまったから。
情夫だなんてそんな失礼な扱いはしない。そんな関係にはなりたくない。
けれど、私が守る世界で、ずっと私に片思いし続けるあいつをからかい続けるくらいはできるだろう。
元友人として、交流くらいはできるはずだ。
「レーカ姫」
「はい」
若干馴れ馴れしくも感じるシモン様の態度も気にならない。
ご器用にも、寝てる間に済ませてくれるらしいしな。
「婚儀は半年以内に行う予定ですが構いませんか?」
ニコリとした嘘臭い笑み。日の光の元では、金の髪も輝かしいばかりだ。
シモン様から目を逸らして、「死の海」を見ると、つい先程まで曇っていた海には日が差し込んでいて。
死をもたらす愛する海が、シモン様よりも光り輝いていて。
覚悟を決めて息を吐く。そして肯定のために口を開いて。
「それで……っ!」
海の向こうに、小さく船影が見えた。
見慣れない船影。その上、それは見る間に姿を大きくしていく。
「どうしましたか?」
あんな速度は、ノイマンの船でも出るはずがなくて。
そんなありえない速度を、荒れた海で出しているというのに、その船は危なげなく多少の揺れで海の上を走っていて。
「シモン様!船が!」
「旗は?どこの国のものだ!」
気づいたロッツランド王国の者たちが、私の後ろで騒ぎ出す。
ぐんぐん近づいてくる船にはためくのは、2つの国旗だった。
ひとつは我がノイマン公国のものだった。
そしてもうひとつは、同じくらい見慣れた、我が友の国のもので。
距離が離れていて、国旗も微かにしか見えなかった。
だと言うのに、どうしてだか私の目には、あの甲板の上で風にはためく白銀の髪が見えたような、そんな気がしたんだ。
「どのような?」
「他に人もいないので率直に申し上げますが、なるべく早く子どもを作っておきたいのです」
今まで見て来た貴公子としての顔ではない、恐らくシモン様の素の表情。
真顔に近い、ほとんど色のない表情。
そして冷たくも見える金の瞳。
「情夫の元へ通うのは男児が1人以上生まれてからにしていただきたい。構いませんよね?」
王族として、夜の教育はもちろん受けてはいた。
この男が何を言っているのかは、理解はできた。
だが意味が分からなかった。
「何、を……?」
「兄の子が女児のみなのでできれば男児を作っておきたいのです。王婿となる私が愛人を囲うのは流石に非難される可能性が高いですし、であればあなたに産んでいただくしかないですが、船に乗る以上子どもが流れてしまう可能性も高いでしょう?であればなるべく早く子作りをしておいた方が得策かと考えたのですが、いかがでしょうか?」
淡々と仰るシモン様は、感情ではなく損得勘定のみで話をされてらっしゃるのだろう。
それを私にも求めてらっしゃる。
私も同類だと、思ってらっしゃる。
国の損得で物事を考えるのは、良い事だと思う。
思う、けど……。
「理解は、しましたが……。今この場で、という事でしょうか?」
「えぇ。早い方が良いでしょうし」
「婚約もまだですのに?」
「産まれるまでに成婚していれば問題ありませんでしょう?」
「ですが……」
「本当に良いのか」と、お父様の言葉のはずだったものが、頭の中に居座っていて。
肯定的なはずの状況で、肯定すべき状況で、肯定の言葉が浮かばない。
頷けば良いだけなのに、それすらも出来なくて。
「もしや、ご経験がないのですか?」
「え?」
「お嫌でしたら寝ている間に済ませる事もできますが?」
「は?」
「服もそのままでも構いませんよ?」
デリカシーの欠片もない物言い。淑女扱いどころか、女扱いされてないような、失礼にも程があるあの態度。
侮るにも程がある。私を誰だと思っているんだ……。
「失礼、ですが……!」
「お気遣い無用です」と挑発に乗る所だった私を止めたのは、知らず強く握っていた懐刀の感触。
シュンの、懐刀の感触。
硬いのに柔らかく感じる、優しい感触だった。
「……出直して頂けますか?」
勇気が湧くなんて言ったら大袈裟だけど、でもあいつの存在は確かに私を強くしてくれる。
「早すぎる風は嵐を呼ぶと、我が国では言うのです」
私の唯一の友人。
唯一の、心を許せる友人だから。
「明日改めてお話をさせて下さいませ。両国の国益の為となるお話を」
拒絶の意志を示すと、シモン様はすぐに部屋を出て行かれた。
けれど私は、その夜懐刀を握りしめながら眠りについた。
翌朝、不思議と心は軽かった。
朝食の後、シモン様に案内いただいた灯台にて、港と荒れ狂う「死の海」を見通しながら、心の海は凪いでいた。
懐刀を、今日は握っていたからだろうか。
「ノイマン公国にもやはり灯台は必要となるかと」
「そうなりましょうな。建設の際はご協力をお願いしてもよろしいか?」
「快くご助力させていただきます」
国王陛下とシモン様が語らう隣で、まるで他人事のように聞いていた。
口実とはいえ私の婚姻が前提の話であるのに、なんの感慨も湧かなかった。
だってあいつが、私に恋してるなんて知ってしまったから。
あの仕合いだって、あいつの下心だって知ってしまったから。
情夫だなんてそんな失礼な扱いはしない。そんな関係にはなりたくない。
けれど、私が守る世界で、ずっと私に片思いし続けるあいつをからかい続けるくらいはできるだろう。
元友人として、交流くらいはできるはずだ。
「レーカ姫」
「はい」
若干馴れ馴れしくも感じるシモン様の態度も気にならない。
ご器用にも、寝てる間に済ませてくれるらしいしな。
「婚儀は半年以内に行う予定ですが構いませんか?」
ニコリとした嘘臭い笑み。日の光の元では、金の髪も輝かしいばかりだ。
シモン様から目を逸らして、「死の海」を見ると、つい先程まで曇っていた海には日が差し込んでいて。
死をもたらす愛する海が、シモン様よりも光り輝いていて。
覚悟を決めて息を吐く。そして肯定のために口を開いて。
「それで……っ!」
海の向こうに、小さく船影が見えた。
見慣れない船影。その上、それは見る間に姿を大きくしていく。
「どうしましたか?」
あんな速度は、ノイマンの船でも出るはずがなくて。
そんなありえない速度を、荒れた海で出しているというのに、その船は危なげなく多少の揺れで海の上を走っていて。
「シモン様!船が!」
「旗は?どこの国のものだ!」
気づいたロッツランド王国の者たちが、私の後ろで騒ぎ出す。
ぐんぐん近づいてくる船にはためくのは、2つの国旗だった。
ひとつは我がノイマン公国のものだった。
そしてもうひとつは、同じくらい見慣れた、我が友の国のもので。
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