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第4章 君が私にくれたもの
29話 君が作った船
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我が国の国旗を掲げてくれたお陰で、私と国王陛下も港でその船を迎える事になった。
シモン様が出迎えられる前で船から下りてくる、あいつ。
ノイマン公国の物と似た船服は、見たことの無いデザインだった。
「急な訪問失礼いたします。また入港の許可を頂き感謝申し上げますシモン・ロッツランド様」
「我がロッツランドはハンザ公国の船を拒むことはございませんよ、シュン・ハンザ・ハヤセ様」
苦手なはずの外面で、シュンがシモン様と握手を交わす。
私は、船を見ていた。
ノイマン公国とハンザ公国の旗を掲げる、奇妙な見た目の船を。
木にも鉄にも見える船体に、ロッツランド王国の船と似た帆を張っていた船を。
「ご存知でしたか?」
小声で国王陛下に伺う。
陛下も小声で、答えて下さった。
「いいや。だが、予感はあった」
「予感?」
「お前を救うのはあの子であろうと」
「え?」
思わず見上げると、陛下はシュンの方を見ていた。
釣られてそちらを見ると、シモン様との挨拶が終わったようであいつがこちらに歩いてくるのが見えた。
決意を固めたような、変な顔で。
私の前に来たあいつは、やはり変な顔で。
海風に揺れる灰色の髪は、キラキラしながら乱れていて。
そして唐突に、跪いた。
「れ、レーカ様」
シモン様と違って、急ごしらえが透けて見える不格好な姿勢で、表情で。
でもシュンは、私だけを見ていた。
「このような場で、突然のお話で申し訳ございません」
シュンの空色の瞳に、私が映る。
あの私は、世界で1番綺麗なんだそうだ。
「貴女に、あの船を捧げるべく参じました。あれがぼ、私に今お渡しできる精一杯です」
触れることのできる距離で、手すら握らないで、甘い言葉も雰囲気のひとつも作らないで。
馬鹿みたいに真っ直ぐに、私だけを見ていた。
「貴女の為に作りました。貴女のお役に立つ為だけに作りました。あの船を、どうか、受け取って……くださいませんか?」
きっと信じられないほど凄い船であると、ひと目で分かるのに。
普通なら喉から手が出るほど欲しいような船だろうに。
シュンは不安そうだった。
私が、断るかもしれないと思っている顔だった。
そんな風に不安を抱きながら来てくれたのかって、どうしてだか嬉しくなって。
あぁ、私、こいつの事好きなのかって、ようやく気付くことができた。
ロッツランド国王との会談までは、少し時間があった。
だから、私の為の船とやらを、見せてもらう事にした。
案内はシュンひとり。
目に見えて嬉しそうな、尻尾でも振ってそうなシュンひとりだけだ。
「あの旗は?」
「あ、あれはちゃんと正式に許可をもらってるやつだよ」
「陛下に?」
「ノイマン公国の外交省を通じて王妃様にいただいたんだ。あ、そこ出っ張ってるから気を付けてね」
船の大きさは「海の疾風」と同程度。しかし内部は明らかに広い。
通路の広さはひと回り広い程度だが、構造から考えるに容積率は倍近いのではないだろうか。
それを可能にしているのは恐らく、この、青白い光沢をもつ木材。
「これが何か、聞いても良いのか?」
手触りは木のようで、だがノックすると鉄のような音。
見た事もなければ聞いたこともない。だというのにそんなもので船を作るなんて。
「もちろん良いよ。でも……」
前を歩いていたシュンが唐突に振り返る。
満面の笑みで、まるで私との会話が心底楽しいかのように。
「帰ってからでも良い?今はこっちを見せたくて」
今までであれば、何とも思わなかったであろう返事に引っかかりがあった。
こいつもしかして、盗聴でも気にしてるのか、と。思って、思った自分に驚いて。
こいつに、そんな器用な真似ができただろうかと。
いやだが、私は、実際のところこいつについてをそんなに深く知らないのかと、気付いて。
「ここだよ。傾斜あるから気を付けてね」
幼い頃、共に互いの領地を駆け回った時のように、シュンは私をそこへ、操舵室へ案内した。
手は、繋がなかった。あの時は繋いでいたのに。
……あの時?
「どう?」
「どうって……」
浮かびそうになったいつかの記憶を後回しにして、操舵室内を見渡す。
初めて案内された操舵室。けれど見慣れた作りで、見晴らしは格段に良くなっても見慣れた光景で。
「海の疾風と同じだな」
「うん!その方がレーカ使いやすいかなって思って」
シモン様が出迎えられる前で船から下りてくる、あいつ。
ノイマン公国の物と似た船服は、見たことの無いデザインだった。
「急な訪問失礼いたします。また入港の許可を頂き感謝申し上げますシモン・ロッツランド様」
「我がロッツランドはハンザ公国の船を拒むことはございませんよ、シュン・ハンザ・ハヤセ様」
苦手なはずの外面で、シュンがシモン様と握手を交わす。
私は、船を見ていた。
ノイマン公国とハンザ公国の旗を掲げる、奇妙な見た目の船を。
木にも鉄にも見える船体に、ロッツランド王国の船と似た帆を張っていた船を。
「ご存知でしたか?」
小声で国王陛下に伺う。
陛下も小声で、答えて下さった。
「いいや。だが、予感はあった」
「予感?」
「お前を救うのはあの子であろうと」
「え?」
思わず見上げると、陛下はシュンの方を見ていた。
釣られてそちらを見ると、シモン様との挨拶が終わったようであいつがこちらに歩いてくるのが見えた。
決意を固めたような、変な顔で。
私の前に来たあいつは、やはり変な顔で。
海風に揺れる灰色の髪は、キラキラしながら乱れていて。
そして唐突に、跪いた。
「れ、レーカ様」
シモン様と違って、急ごしらえが透けて見える不格好な姿勢で、表情で。
でもシュンは、私だけを見ていた。
「このような場で、突然のお話で申し訳ございません」
シュンの空色の瞳に、私が映る。
あの私は、世界で1番綺麗なんだそうだ。
「貴女に、あの船を捧げるべく参じました。あれがぼ、私に今お渡しできる精一杯です」
触れることのできる距離で、手すら握らないで、甘い言葉も雰囲気のひとつも作らないで。
馬鹿みたいに真っ直ぐに、私だけを見ていた。
「貴女の為に作りました。貴女のお役に立つ為だけに作りました。あの船を、どうか、受け取って……くださいませんか?」
きっと信じられないほど凄い船であると、ひと目で分かるのに。
普通なら喉から手が出るほど欲しいような船だろうに。
シュンは不安そうだった。
私が、断るかもしれないと思っている顔だった。
そんな風に不安を抱きながら来てくれたのかって、どうしてだか嬉しくなって。
あぁ、私、こいつの事好きなのかって、ようやく気付くことができた。
ロッツランド国王との会談までは、少し時間があった。
だから、私の為の船とやらを、見せてもらう事にした。
案内はシュンひとり。
目に見えて嬉しそうな、尻尾でも振ってそうなシュンひとりだけだ。
「あの旗は?」
「あ、あれはちゃんと正式に許可をもらってるやつだよ」
「陛下に?」
「ノイマン公国の外交省を通じて王妃様にいただいたんだ。あ、そこ出っ張ってるから気を付けてね」
船の大きさは「海の疾風」と同程度。しかし内部は明らかに広い。
通路の広さはひと回り広い程度だが、構造から考えるに容積率は倍近いのではないだろうか。
それを可能にしているのは恐らく、この、青白い光沢をもつ木材。
「これが何か、聞いても良いのか?」
手触りは木のようで、だがノックすると鉄のような音。
見た事もなければ聞いたこともない。だというのにそんなもので船を作るなんて。
「もちろん良いよ。でも……」
前を歩いていたシュンが唐突に振り返る。
満面の笑みで、まるで私との会話が心底楽しいかのように。
「帰ってからでも良い?今はこっちを見せたくて」
今までであれば、何とも思わなかったであろう返事に引っかかりがあった。
こいつもしかして、盗聴でも気にしてるのか、と。思って、思った自分に驚いて。
こいつに、そんな器用な真似ができただろうかと。
いやだが、私は、実際のところこいつについてをそんなに深く知らないのかと、気付いて。
「ここだよ。傾斜あるから気を付けてね」
幼い頃、共に互いの領地を駆け回った時のように、シュンは私をそこへ、操舵室へ案内した。
手は、繋がなかった。あの時は繋いでいたのに。
……あの時?
「どう?」
「どうって……」
浮かびそうになったいつかの記憶を後回しにして、操舵室内を見渡す。
初めて案内された操舵室。けれど見慣れた作りで、見晴らしは格段に良くなっても見慣れた光景で。
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