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第4章 君が私にくれたもの
30話 君との他愛ない時間
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口先だけでなく、本当に私の為の船なのかと苦笑してしまった。
海の疾風の操舵室は、私の要望で当初より少し作りを変えたが、作り替えた後の配置と全く同じだなんて。
舵の高さも、少し低いのは私の為、なんだろうな。
「この舵……変わった形だな」
「うん!持ちやすい形にしようと思ったんだけど、そしたら飾り彫りも入れたくなって」
「どうりで」
「え?」
始めて見る形の舵に施されていた、見慣れた形。
あの櫛と、同じ模様の飾り彫り。
こいつが直接作ったのか、これも。
「そっちは?」
「あ、ごめんこれは……」
何かしらの装置だろうが、ボタンとメモリとハンドルのような物が舵の隣にあり、存在を主張していた。
そしてそれは、海の疾風にはない物だった。
「押しても?」
「良い、けど……まだ動かないんだそれ」
振り返ると、シュンは反省でもするかのように目じりを下げていた。
「ごめんなさい」の時と同じ顔。昔よく見た、間抜けな顔。
「動かない?」
「あの、あのね……ひと月後には完成すると思うんだけど、まだ部品の調整が上手くいってなくてだから載せれてないんだ」
「完成したらどうなるんだ?」
私のたった一言で、今度はシュンの顔がパァっと晴れる。
「聞きたい?」
今までであれば、突き放していた。
けれど今日はなぜか、こいつの喜ぶ答えを渡してやりたいと思った。
「聞きたい」
「え!本当に!?」
これ以上ないほどの笑顔で、でもシュンはハグもしなかった。
昔はよく抱き着いて来たくせに、な。
「あぁ、聞きたい」
「えっとね、詳しい事は帰ってからになるけど、風が出るんだ!風で船が進むんだ!」
「死の海では風が止まないのに?」
「うん!死の海ではそうだけど、外の海では風が止むこともあるんだって。だからそのために人工的に風を起こそうと思って!」
死の海の海流は複雑に入り組んでいて短時間で流れが変わる。その上風も同様に北風と南風が常時行き来している。
だからこその航海不能な「死の海」。この海でいかに航海するかしか、私は考えて来なかった。
こいつは、外の海を見ていたのか。はるか遠くにも感じるあちら側の海を見据えて、こんなものを作ったのか。
「外の海に行くのか?」
「うん!この船なら外の海でもレーカが1番早いよ!」
「1番早くとも、この船には砲台がないだろ?」
「砲台はね!1年後には大きいのを2つ、前方と後方に付けて、その後は小さいのを順次付け足していって全部で8つ付く予定なんだ!」
「どうして8つ?」
「海賊相手なら1つでも十分なんだけど、最近海上での武力が重視されてきているから最低限8つはないと旗艦として戦えないと思うんだよね」
「戦争をする気か?」
「あくまでも防衛の為だけど、仁国が……あ」
よほど話すのが楽しかったのか、シュンの失態を引き出すことにまんまと成功した瞬間だ。
こいつ今確かに「仁国」と口にした。
ノイマン公国経由で仁国との貿易は今はない。
時たまの漂着者の中に仁国の方がいる事はあるし、漂着者を祖国へ送る手助けはしているが、こいつのこの表情。仁国と多少なりとも交流があるな。
「あの……今のは……」
バツの悪そうな顔で目を逸らすが、さっきからこいつから匂ってくる甘い香りは確かに仁国で嗅いだことのあるものだ。
ロッツランド王国の北。大陸に広大な領土を持つ、大国にして強国である仁国と、交流があるのか。
こいつ、本当に私が知ってるシュンか?
「あの、聞かなかったことに……」
「おいシュン」
「な、何?」
ハンザ公国は謎の多い国だと思っていたが、この間抜け面にも裏があるのか。
……ムカつく。
「よくもあんな恥ずかしい詩を書けるよな」
「え、えぇー!え、え、待って!え、それって、え!?」
「時間だ、行くぞ」
「ねぇレーカ……!あのもしかして、さ、もしかしてそれって……!」
真っ赤になりながら慌てふためく顔が面白くて、愉快で、嬉しくて。
やっぱり私の知ってるシュンだったから。
私の大切な友のシュンだったから。
海の疾風の操舵室は、私の要望で当初より少し作りを変えたが、作り替えた後の配置と全く同じだなんて。
舵の高さも、少し低いのは私の為、なんだろうな。
「この舵……変わった形だな」
「うん!持ちやすい形にしようと思ったんだけど、そしたら飾り彫りも入れたくなって」
「どうりで」
「え?」
始めて見る形の舵に施されていた、見慣れた形。
あの櫛と、同じ模様の飾り彫り。
こいつが直接作ったのか、これも。
「そっちは?」
「あ、ごめんこれは……」
何かしらの装置だろうが、ボタンとメモリとハンドルのような物が舵の隣にあり、存在を主張していた。
そしてそれは、海の疾風にはない物だった。
「押しても?」
「良い、けど……まだ動かないんだそれ」
振り返ると、シュンは反省でもするかのように目じりを下げていた。
「ごめんなさい」の時と同じ顔。昔よく見た、間抜けな顔。
「動かない?」
「あの、あのね……ひと月後には完成すると思うんだけど、まだ部品の調整が上手くいってなくてだから載せれてないんだ」
「完成したらどうなるんだ?」
私のたった一言で、今度はシュンの顔がパァっと晴れる。
「聞きたい?」
今までであれば、突き放していた。
けれど今日はなぜか、こいつの喜ぶ答えを渡してやりたいと思った。
「聞きたい」
「え!本当に!?」
これ以上ないほどの笑顔で、でもシュンはハグもしなかった。
昔はよく抱き着いて来たくせに、な。
「あぁ、聞きたい」
「えっとね、詳しい事は帰ってからになるけど、風が出るんだ!風で船が進むんだ!」
「死の海では風が止まないのに?」
「うん!死の海ではそうだけど、外の海では風が止むこともあるんだって。だからそのために人工的に風を起こそうと思って!」
死の海の海流は複雑に入り組んでいて短時間で流れが変わる。その上風も同様に北風と南風が常時行き来している。
だからこその航海不能な「死の海」。この海でいかに航海するかしか、私は考えて来なかった。
こいつは、外の海を見ていたのか。はるか遠くにも感じるあちら側の海を見据えて、こんなものを作ったのか。
「外の海に行くのか?」
「うん!この船なら外の海でもレーカが1番早いよ!」
「1番早くとも、この船には砲台がないだろ?」
「砲台はね!1年後には大きいのを2つ、前方と後方に付けて、その後は小さいのを順次付け足していって全部で8つ付く予定なんだ!」
「どうして8つ?」
「海賊相手なら1つでも十分なんだけど、最近海上での武力が重視されてきているから最低限8つはないと旗艦として戦えないと思うんだよね」
「戦争をする気か?」
「あくまでも防衛の為だけど、仁国が……あ」
よほど話すのが楽しかったのか、シュンの失態を引き出すことにまんまと成功した瞬間だ。
こいつ今確かに「仁国」と口にした。
ノイマン公国経由で仁国との貿易は今はない。
時たまの漂着者の中に仁国の方がいる事はあるし、漂着者を祖国へ送る手助けはしているが、こいつのこの表情。仁国と多少なりとも交流があるな。
「あの……今のは……」
バツの悪そうな顔で目を逸らすが、さっきからこいつから匂ってくる甘い香りは確かに仁国で嗅いだことのあるものだ。
ロッツランド王国の北。大陸に広大な領土を持つ、大国にして強国である仁国と、交流があるのか。
こいつ、本当に私が知ってるシュンか?
「あの、聞かなかったことに……」
「おいシュン」
「な、何?」
ハンザ公国は謎の多い国だと思っていたが、この間抜け面にも裏があるのか。
……ムカつく。
「よくもあんな恥ずかしい詩を書けるよな」
「え、えぇー!え、え、待って!え、それって、え!?」
「時間だ、行くぞ」
「ねぇレーカ……!あのもしかして、さ、もしかしてそれって……!」
真っ赤になりながら慌てふためく顔が面白くて、愉快で、嬉しくて。
やっぱり私の知ってるシュンだったから。
私の大切な友のシュンだったから。
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