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第4章 君が私にくれたもの
31話 君との約束
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あいつが馬鹿みたいに派手に登場して「蒼風」こと私の新しい船を宣伝してくれたおかげで、その後のロッツランド国王との会談は始終こちらが有利に進めることができた。
元々、航海力はあれど造船技術がなかった我が国であったからこその、ロッツランド王国側から持ちかけられた話だ。
ロッツランド王国よりも明らかに優れた船を作る技術を、従来からの友好国が持つことを知って。となれば、ノイマン公国にとってはロッツランド王国との関係を急いで深める必要はなくなるのだ。
それゆえ、関係の強化はお約束をした。
婚約の話は、お断りした。
シモン様はなんの感慨も無さそうに「そうですか」とご納得されていた。
その後私は、蒼風に乗って死の海へ出た。
シュンは何も言わなかったが、恐らく機密に当たるであろうこの船を早く外野の目から遠ざけたかったから。
あとは、早く乗りたかったのも理由だ。
この船に、シュンが私の為に作ったこの船に、早く乗りたかった。
機能性重視でちっとも可愛くもない船服を着て大声で指示を飛ばしながら船を操る私を、シュンは隣で見ていた。
恋する乙女みたいに、半ば惚けながら、船の揺れなど些細な事のようにきっちりと佇みながら見ていた。
その姿を見て、航海省が捕捉した船影もこいつの仕業だと気づいた。
なにせあいつ、並の船員なら転げるような揺れでも涼しい顔をしていやがった。
流石に操船は出来ないだろうが、この分だと蒼風に準ずる船も隠し持っていそうだな。
ロッツランド王国から出航して約20時間後、驚くべき速さでコーロ島が見え、そこから港までは本当にすぐだった。
「どうだった?蒼風は」
着岸の振動も僅かで、早い上に小回りも効く船が港に固定されていく。
「良い船だ。最高にな」
「やっっったぁ!!」
飛び跳ねるシュンの向こうで、船員達は普段より余力のある様子だった。
航海時間が短く済んだのもあるが、彼らも格段に楽だったんだろう。この船のお陰で。
「じゃあさ!造船所案内していい?この後!」
「馬ー鹿。帰ったら寝る。明日訪ねてやるから待ってろ」
「うん!」
ロッツランド王国では多少見直したが、やっぱりうんと年の離れた弟にしか見えないな。
弟にしか見えないけれど、けれどこんな想いは弟には抱くものでないのか。
なら、ただただ可愛いだけなのか。
弟だからではなく、ひとりの異性へ向ける好感なのか、これは。
「それまでにうちの国の船員を勝手に動員した言い訳でも考えとけよ」
「あ、え、バレてたの……」
「当然だ馬鹿」
ノイマン公国の船を掲げて、船員の半数はノイマン公国の人間で。
挙句の果てに私に船を献上する為だけに駆けつけたなんて、どう考えてもただの友好国じゃないだろうが。
お前そんなに、そこまで、私の事好きなのかよ。馬鹿シュン。
仮眠を取ってから訪れたのはハンザ公国の秘密の場所。
待ち合わせ時間より早く着いたのに、シュンはもう来ていた。
「暇かよ」
苦笑しながら馬から下りる。
驚くくらい軽い体は、羽のように軽い足取りになった。
「レーカ……!」
私を迎える時のこいつは、いつだってこの子どもみたいな笑顔だ。
ずっと変わらない。あの頃から。
「この場所、覚えててくれたんだね……!」
「一度は忘れたがな」
ハンザ公国の北西部。大地に出来た割れ目の中にある、砂浜。
海の方にはぽっかりと口を開けたような岩があり、その向こうには無数の船の残骸が横たわっている。
「船の墓場」なんだと、子どもの頃にシュンが教えてくれた場所。
私たちが初めて剣を交えた、初めて賭けをした場所。
「ちゃんと持ってきたか?」
「うん……だけど……」
言い淀むシュンだが、その腰にはちゃんとあの剣が下げられていた。
あの、青白い、私の剣を容易く折った剣が。
「じゃあ、やろうか。ちょうど100回目の、正真正銘最後の賭け仕合いだ」
「でもレーカ……」
「負けた方が勝った方の要求を何でもひとつ叶える事、だろ?」
「う、ん……」
「前回の仕合いの要求がこの仕合いだ。その剣で、本気で勝負しろ」
「うん……」
最高に困った顔をしながら、シュンはおずおずと剣を抜いた。
海からの光で、その剣はいっそう青く輝いていた。
あの船に使っている金属と同じものなんだろう。悔しい事に。
元々、航海力はあれど造船技術がなかった我が国であったからこその、ロッツランド王国側から持ちかけられた話だ。
ロッツランド王国よりも明らかに優れた船を作る技術を、従来からの友好国が持つことを知って。となれば、ノイマン公国にとってはロッツランド王国との関係を急いで深める必要はなくなるのだ。
それゆえ、関係の強化はお約束をした。
婚約の話は、お断りした。
シモン様はなんの感慨も無さそうに「そうですか」とご納得されていた。
その後私は、蒼風に乗って死の海へ出た。
シュンは何も言わなかったが、恐らく機密に当たるであろうこの船を早く外野の目から遠ざけたかったから。
あとは、早く乗りたかったのも理由だ。
この船に、シュンが私の為に作ったこの船に、早く乗りたかった。
機能性重視でちっとも可愛くもない船服を着て大声で指示を飛ばしながら船を操る私を、シュンは隣で見ていた。
恋する乙女みたいに、半ば惚けながら、船の揺れなど些細な事のようにきっちりと佇みながら見ていた。
その姿を見て、航海省が捕捉した船影もこいつの仕業だと気づいた。
なにせあいつ、並の船員なら転げるような揺れでも涼しい顔をしていやがった。
流石に操船は出来ないだろうが、この分だと蒼風に準ずる船も隠し持っていそうだな。
ロッツランド王国から出航して約20時間後、驚くべき速さでコーロ島が見え、そこから港までは本当にすぐだった。
「どうだった?蒼風は」
着岸の振動も僅かで、早い上に小回りも効く船が港に固定されていく。
「良い船だ。最高にな」
「やっっったぁ!!」
飛び跳ねるシュンの向こうで、船員達は普段より余力のある様子だった。
航海時間が短く済んだのもあるが、彼らも格段に楽だったんだろう。この船のお陰で。
「じゃあさ!造船所案内していい?この後!」
「馬ー鹿。帰ったら寝る。明日訪ねてやるから待ってろ」
「うん!」
ロッツランド王国では多少見直したが、やっぱりうんと年の離れた弟にしか見えないな。
弟にしか見えないけれど、けれどこんな想いは弟には抱くものでないのか。
なら、ただただ可愛いだけなのか。
弟だからではなく、ひとりの異性へ向ける好感なのか、これは。
「それまでにうちの国の船員を勝手に動員した言い訳でも考えとけよ」
「あ、え、バレてたの……」
「当然だ馬鹿」
ノイマン公国の船を掲げて、船員の半数はノイマン公国の人間で。
挙句の果てに私に船を献上する為だけに駆けつけたなんて、どう考えてもただの友好国じゃないだろうが。
お前そんなに、そこまで、私の事好きなのかよ。馬鹿シュン。
仮眠を取ってから訪れたのはハンザ公国の秘密の場所。
待ち合わせ時間より早く着いたのに、シュンはもう来ていた。
「暇かよ」
苦笑しながら馬から下りる。
驚くくらい軽い体は、羽のように軽い足取りになった。
「レーカ……!」
私を迎える時のこいつは、いつだってこの子どもみたいな笑顔だ。
ずっと変わらない。あの頃から。
「この場所、覚えててくれたんだね……!」
「一度は忘れたがな」
ハンザ公国の北西部。大地に出来た割れ目の中にある、砂浜。
海の方にはぽっかりと口を開けたような岩があり、その向こうには無数の船の残骸が横たわっている。
「船の墓場」なんだと、子どもの頃にシュンが教えてくれた場所。
私たちが初めて剣を交えた、初めて賭けをした場所。
「ちゃんと持ってきたか?」
「うん……だけど……」
言い淀むシュンだが、その腰にはちゃんとあの剣が下げられていた。
あの、青白い、私の剣を容易く折った剣が。
「じゃあ、やろうか。ちょうど100回目の、正真正銘最後の賭け仕合いだ」
「でもレーカ……」
「負けた方が勝った方の要求を何でもひとつ叶える事、だろ?」
「う、ん……」
「前回の仕合いの要求がこの仕合いだ。その剣で、本気で勝負しろ」
「うん……」
最高に困った顔をしながら、シュンはおずおずと剣を抜いた。
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あの船に使っている金属と同じものなんだろう。悔しい事に。
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