君の国と僕の国

藤ノ千里

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第4章 君が私にくれたもの

32話 君

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「何でも、良いんだよね?」
「あぁ、何でも良い」
 私も剣を抜くと、シュンは剣を構えた。
 99回やって99回負けてるくせに、それでもまだ私に勝とうと思っているらしい。
 馬鹿なシュン。どうせ私に負けるくせに。
「分かった」
 グッと突然シュンが真面目な顔になり、体に力を入れたのが見えた。
 こいつこんな顔してたっけ。
 思いつつ私も構えをとる。
「いくよ」
「あぁ」
 開始の合図はそれだけ。シュンが私の方へ駆け、見る間に距離が詰まった。
 それは私の知っているシュンじゃなかった。
 驚きつつも、剣をやつの喉に向かって突き出して。それを軽くかわされて。
 剣の軌道を無理やり変えてあいつを追いかけた。が、甲高い音とともに剣が叩きつけられて、折れて。
 悔しいが想定はしていた。だから大きく後ろへ飛びのきながら懐を探った。
 探って、抜いたそれで、追ってきたシュンの剣を受け止める。
「っ!?」
 驚くと顔に出る馬鹿に蹴りを、お見舞いするふりをして足に気を取らせてから頭突きをお見舞いしてやった。
 力が緩んだところで、そのまま押し倒す。
 倒れると反射で私を庇うのはもう知っていたから。
 だから、私を抱きとめた馬鹿の目の前にそれを、シュンの作った懐刀を突き付けてやった。
 気分は痛く爽快で、シュンの驚き顔が困り顔に、それからしょぼくれた顔になるのを笑いながら見ていた。
 抱き合ったような体制のまま。
 シュンの心音を胸のあたりに感じながら。
「私の勝ちだな」
「それ……反則だよぉ……」
「馬ー鹿。真剣勝負に反則なんてものはないんだ」
「うー……」
 今日のは恐らくこいつの実力の一端だったんだろうが、だがそれでも私に対しての遠慮……いや、優しさがこいつの敗因だ。
 今までずっとそうだったんだろう。そしてこれからも、ずっと。
 シュンが私の心音に気づく前に体を起こして、懐刀を仕舞う。
 まだ倒れたままのシュンの背中は砂まみれだろうが、私の体には砂粒1つついていなかった。
 手を差し伸べてやろうかとも思ったが、どこか気恥ずかしさがあって海の方を向いた。
 向いたまま、平然を装う。
「今回の、要求だが」
「うん」
 上半身を起こしたのが、視界の端に見える。
「お前をもらおう」
 きっとシュンは、これ以上ないほどに酷く驚いた顔をしているんだろうが。
 そちらは向けなかった。平然を装うだけで精いっぱいだったから。
 心臓が、跳ね飛びそうなほど高鳴っていたから。
「え、っと……いいよ」
 砂を払いながら立ち上がるのが視界の端に見える。
 だが声が、世間話をするのとあまり変わらない温度感で。
 剣を鞘に納める音も、動揺の欠片もなくて。
 は?こいつもしかして、女慣れでもしてるのか?
 なんて、イラっとしながらそちらを向くと、シュンが思ったより近くに立っていて。
「そうなるかなって思って、こっちの色々は片づけてあるし」
「色々……?」
「僕一応平民になっちゃうんだけど、レーカの国では所属ってどうなるの?移民みたいな感じ?」
 何でもない事のように続けるシュンを見て、気付いた。
 こいつ、あくまでも造船職人として私の配下になるつもりでいるのか。馬鹿な事に。
 私は、これでも覚悟を決めて、勇気を出してあんな事を口にしてやったのに。
 私の返答を待つ、間抜けな顔。
 私に恋してるくせに、私に全てを捧げる癖に、それ以上を望まない酷く間抜けなシュン。
 輝く白銀の髪が、海風に揺れる。
 凪いだ海にも見える、空にも見える済んだ水色の瞳が、私だけを映している。
 私より高いところにある、整った顔。
 届かないから胸ぐらをつかんで引き寄せてやった。
「え……っ!?」
 唇を奪ってやると、さすがに馬鹿は馬鹿面を晒していた。
 見る間に赤くなる顔が、嬉しかった。
「お前をもらうぞ、良いな?」
 そう告げて、つられて熱くなりそうな顔を見せないために突き飛ばしてから背を向けた。
 波の音に混じって、あいつが尻もちをついた音が聞こえる。
 声も出せないほど驚いているらしい。
 嬉しさが胸をくすぐって、でもこんな顔をあいつなんかに見られたくなくて。
 帰ろうと、思った。
 そしたら手を、掴まれた。
「……あ、待……ごめん、待ってレーカ」
 反射的に掴んでしまったのか、握る力が少し強くて、だけどすぐに優しい強さになって。
 引かれた。馬鹿みたいに優しく、振りほどけるくらいの強さで。
 私は変な顔をしていた。見られたくなかった。
 けれど、愛おしさが、生まれてしまって。
 唇を引き結びながら振り返ってやった。促されるままに。
 尻もちをつくシュンは、やっぱり私だけを見て、見上げていて。
「あ、あの……今、今のって……」
 まるで奇跡でも見たように驚いた顔はまだ赤くて、口がパクパクと魚みたいに声にならない声を形作っていて。
 そんな間抜け面に顔を寄せた。
 シュンの肩に手を置いて、今度はゆっくりと唇を、重ねてやった。
 顔を離すと、シュンの目には涙が光っていて、それが落ちて行って。
「馬ー鹿」
 私の、私なんかのこんな些細な事を大げさに喜ぶ光は、いくつもキラキラと砂浜に落ちて行って。
 私はそれを一番近くで眺め続けていた。
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