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第二章 心が向かう先
第十七話 治して治して治して
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まさか「半刻」って言ったら本当に半刻みっちり働かされるなんて、誰が思うだろうか?
幸いにして治せない患者はいなかったけど、便利な道具の如く休む暇なく聖女の業を使い続けたのは初めての経験だったよね。
おかげで、乱闘の参加者だけでなく元からいた患者を含めて、百人くらいは治したかも。数える余裕もなかったけど。
再び空き部屋になった個室で、先程の男性医師、高野先生に淹れてもらったお茶を啜る。
隣の部屋からはまだ同源先生の叱責が聞こえて来るけど、私は休憩時間だ。
ちなみに、お供は「ボーッとしてんなら手伝いな!」と同源先生が連れて行った。
だから、平和な一人の時間。
たくさん聖女の業を使ったせいでちょっとウトウトしちゃうような、そんな時間。
だから、外から大きな声が聞こえてきて、ちょっと焦った。
ほんのちょっとだけ玄さんの事を忘れてたから、ちょっとだけ焦った。
怖々と廊下に顔を出すと、玄さんを探しに行かせたお供が飛び込んできた所だった。そして彼は、戸板を横にして運んでいた。
その戸板の上には、蹲る人がいた。
蹲っていて顔は見えない。けどその服には見覚えがあった。
「玄さん!」
駆け寄ると、彼は唸りながらこちらに顔を向ける。
初めて見る、血まみれの顔だった。
「こ、瑠璃・・・」
血まみれなのに血色が悪い、酷い顔だった。
「ここで治します!下ろして!」
「ですが・・・」
「いいから下ろしな!」
私の言葉には躊躇するのに、同源先生の怒鳴り声には従うなんて。
って、そんな事今はどうでもいい。
玄さんの手、右手の指が何本かなかった。
そこに、すぐに聖女の業を使う。
損傷した部位を生やすのは少し骨が折れるけど、これくらいならできる。治せる。
ゆっくりと再生されていく玄さんの指。まるで何も無かったかのように元に戻っていく、彼の右手。
でも、「治った」と思ったらすぐに同源先生の叱責が飛んできた。
「次、脚の腱!」
「はい!」
足の方へ移動すると、いつの間にか玄さんの服は引き裂かれていた。
でもそれについては後回し。ふくらはぎの出血が続いている所に聖女の業を、使う。
切れているだけならさっきよりスムーズだ。
すぐに出血が止まり、傷口も塞がって。
今度こそ治っ・・・。
「次、背中と腰!」
「はい!」
もう褌しか身につけていない玄さんの背中と腰に手をかざして、また聖女の業を使う。
少し疲れてきたけど、これくらいならすぐに治せる。
浅い傷だから数秒できれいな肌に早変わり。
ほら、もう、大丈夫だ。
・・・今度こそ治し終えただろうか?
不安になりつつ玄さんの様子を見たけど、もう出血はなさそうだし、痛みもなくなってそう。
同源先生は・・・え、いないし。
指示を出すだけ出して、他の患者の所に行ったのか。
もう効率的過ぎて非人道的じゃないかなあの先生・・・。
なんて、ちょっとだけ困惑しそうになる。
でも、そんな私に声をかけてくれたのは、同源先生と真逆にも見えるほど人道的に微笑む高野先生だったのだった。
「もう処置は不要かと。念のためあちらの部屋にお連れしますね」
あちこち切られてそこそこ重症だったので、傷を治し終えた後も玄さんは貧血でふらついていた。
私もちょっと眠かったので、彼と二人、いやお供も併せて四人か。
その四人で小さい個室で休ませてもらった。
布団もなしで、適当な手拭いを丸めて枕にしただけだったけど、横になるといつの間にか意識はなくなっていて、目が覚めたのは夕方前。
しかも、本日耳にタコができるくらい聞き慣れた同源先生の怒鳴り声で、だった。
「だぁかぁら!もう仕舞いだって言ってんだろタコ助!」
驚いて身を起こすと、隣の玄さんはとっくに起きていたらしく大福を頬張っていた。
「あ、起きたね。良く寝てたみたいだけど、それが聖女の業の疲れってやつかい?」
「そうです、けど・・・」
ポイッと大福を口に入れる玄さんの向こうから、またもや同源先生の怒鳴り声が聞こえてくる。
雰囲気からして新しく来た患者を追い返しているみたいだ。けど、患者も患者で言い返しているらしくてどう聞いても喧嘩だ。
「私どのくらい寝てました?」
「ひっこくはへへはいほ」
いや、聞いた私も悪いんだけどね。もぐもぐしながら答える玄さんも玄さんだよね。
「一刻は寝てない」って事かな?ならまだ五時くらい?
ここから江戸城までそんなに離れていないとはいえ、急いで帰らないと門限になっちゃうかも。
勝手に決められた門限だけど、破ってしまえば後が怖い。
後が怖いので、大福は飲み込んだのかお茶を啜り出した玄さんを置いて立ち上がった。
まだ同源先生の声は聞こえるけど、ちょっとトーンダウンしてるから出入り口は通れそう。
「玄さん、明日くらいまでは入院しますよね?」
「いいや、あたしは今から江戸城に行くよ。あんたと一緒にね」
「え?」
幸いにして治せない患者はいなかったけど、便利な道具の如く休む暇なく聖女の業を使い続けたのは初めての経験だったよね。
おかげで、乱闘の参加者だけでなく元からいた患者を含めて、百人くらいは治したかも。数える余裕もなかったけど。
再び空き部屋になった個室で、先程の男性医師、高野先生に淹れてもらったお茶を啜る。
隣の部屋からはまだ同源先生の叱責が聞こえて来るけど、私は休憩時間だ。
ちなみに、お供は「ボーッとしてんなら手伝いな!」と同源先生が連れて行った。
だから、平和な一人の時間。
たくさん聖女の業を使ったせいでちょっとウトウトしちゃうような、そんな時間。
だから、外から大きな声が聞こえてきて、ちょっと焦った。
ほんのちょっとだけ玄さんの事を忘れてたから、ちょっとだけ焦った。
怖々と廊下に顔を出すと、玄さんを探しに行かせたお供が飛び込んできた所だった。そして彼は、戸板を横にして運んでいた。
その戸板の上には、蹲る人がいた。
蹲っていて顔は見えない。けどその服には見覚えがあった。
「玄さん!」
駆け寄ると、彼は唸りながらこちらに顔を向ける。
初めて見る、血まみれの顔だった。
「こ、瑠璃・・・」
血まみれなのに血色が悪い、酷い顔だった。
「ここで治します!下ろして!」
「ですが・・・」
「いいから下ろしな!」
私の言葉には躊躇するのに、同源先生の怒鳴り声には従うなんて。
って、そんな事今はどうでもいい。
玄さんの手、右手の指が何本かなかった。
そこに、すぐに聖女の業を使う。
損傷した部位を生やすのは少し骨が折れるけど、これくらいならできる。治せる。
ゆっくりと再生されていく玄さんの指。まるで何も無かったかのように元に戻っていく、彼の右手。
でも、「治った」と思ったらすぐに同源先生の叱責が飛んできた。
「次、脚の腱!」
「はい!」
足の方へ移動すると、いつの間にか玄さんの服は引き裂かれていた。
でもそれについては後回し。ふくらはぎの出血が続いている所に聖女の業を、使う。
切れているだけならさっきよりスムーズだ。
すぐに出血が止まり、傷口も塞がって。
今度こそ治っ・・・。
「次、背中と腰!」
「はい!」
もう褌しか身につけていない玄さんの背中と腰に手をかざして、また聖女の業を使う。
少し疲れてきたけど、これくらいならすぐに治せる。
浅い傷だから数秒できれいな肌に早変わり。
ほら、もう、大丈夫だ。
・・・今度こそ治し終えただろうか?
不安になりつつ玄さんの様子を見たけど、もう出血はなさそうだし、痛みもなくなってそう。
同源先生は・・・え、いないし。
指示を出すだけ出して、他の患者の所に行ったのか。
もう効率的過ぎて非人道的じゃないかなあの先生・・・。
なんて、ちょっとだけ困惑しそうになる。
でも、そんな私に声をかけてくれたのは、同源先生と真逆にも見えるほど人道的に微笑む高野先生だったのだった。
「もう処置は不要かと。念のためあちらの部屋にお連れしますね」
あちこち切られてそこそこ重症だったので、傷を治し終えた後も玄さんは貧血でふらついていた。
私もちょっと眠かったので、彼と二人、いやお供も併せて四人か。
その四人で小さい個室で休ませてもらった。
布団もなしで、適当な手拭いを丸めて枕にしただけだったけど、横になるといつの間にか意識はなくなっていて、目が覚めたのは夕方前。
しかも、本日耳にタコができるくらい聞き慣れた同源先生の怒鳴り声で、だった。
「だぁかぁら!もう仕舞いだって言ってんだろタコ助!」
驚いて身を起こすと、隣の玄さんはとっくに起きていたらしく大福を頬張っていた。
「あ、起きたね。良く寝てたみたいだけど、それが聖女の業の疲れってやつかい?」
「そうです、けど・・・」
ポイッと大福を口に入れる玄さんの向こうから、またもや同源先生の怒鳴り声が聞こえてくる。
雰囲気からして新しく来た患者を追い返しているみたいだ。けど、患者も患者で言い返しているらしくてどう聞いても喧嘩だ。
「私どのくらい寝てました?」
「ひっこくはへへはいほ」
いや、聞いた私も悪いんだけどね。もぐもぐしながら答える玄さんも玄さんだよね。
「一刻は寝てない」って事かな?ならまだ五時くらい?
ここから江戸城までそんなに離れていないとはいえ、急いで帰らないと門限になっちゃうかも。
勝手に決められた門限だけど、破ってしまえば後が怖い。
後が怖いので、大福は飲み込んだのかお茶を啜り出した玄さんを置いて立ち上がった。
まだ同源先生の声は聞こえるけど、ちょっとトーンダウンしてるから出入り口は通れそう。
「玄さん、明日くらいまでは入院しますよね?」
「いいや、あたしは今から江戸城に行くよ。あんたと一緒にね」
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