32 / 62
第四章 囚われていたもの
第三十一話 あなただけの私、私だけのあなた
しおりを挟む
美人な夫が和服を纏っていく。
その光景だけで絵になるし、ドラマのワンシーンみたい。
しかも完成したのはフィクションみたいな、「これぞ美僧!」って感じの僧正様で、先程までの淫猥さなんて欠片も・・・いや、色気はまだ残っているか。
拭ったのにまだうっすらと汗をかく額がセクシーに見えるのは、汗の原因を知っているからか。
でも道明様の生来のものも絶対あるよね。だって、あのため息みたいな吐息って、普通情事の後にしかしないものだもんね。
長いまつ毛が持ち上がり、男らしい目がこちらを向くと今でもドキリとしてしまうくらい。
それくらい彼が好きで、ドキドキも心地良い。
「手が止まっておるぞ」
言われて、慌てて服を着る手を動かした。
薄暗い部屋。
しかも道明様に放り投げられてくしゃっとしてたから、慌てて手を通した服は少しこんがらがっちゃって。
「あれ?」
手を通す場所が明らかにおかしい。袖が片方見当たらない。
和服にはもう慣れてたのに、なぜこうなるのか。
不格好になったので仕方なく一旦脱いで、形を確認して、そしてもう一度・・・。
「着せてやろう」
「あっ」
ひょいと取り上げられてしまった服を見送ると、道明様はちょっと嬉しそうだった。
この人、こう見えて世話焼きだし、他人のお世話するの好きなんだよね。
なんだか子ども扱いされている気がしなくもないけど、まぁ彼が嬉しいならいいか。
着やすいように差し出された袖に、腕を通す。
慣れた手つきで補助されて菫色の服を着ると、なんだか体の内も外も彼に染められたみたいでくすぐったい。
「この帯はお下がりのものか?」
「はい。一番地味なの選んだんですけど、おかしくないです?」
皇后様からのお下がりの、薄緑色の帯。
ちょうどいいきつさで巻いてくれるのも優しくて大好きだ。
なぜ彼が帯を結べるのかは・・・怖いから聞かないでおくけど。
「良い色合いだ。これならば一見は高価に見えぬであろうしな」
「やったぁ」
実は着物と帯の組み合わせってまだ良く分かっていないから、センスのある人に褒めてもらえると嬉しい。
その相手が道明様ならば、尚更。
「これも」
言いつつ、彼が私の胸元に差し込んだのは、簪だった。
吉家様にいただいた簪だった。
チラリと伺うと、道明様は少し目を逸らしていた。
あ、これ勘違いしてるんだろうなとは、すぐに気付いた。
「これ、私を聖女として認めて下さる証らしいです」
「そうか」
「これを付けていると、どんな治療もしていいんだそうです」
「そうか」
「あと、私が認定した人も同じようにどんな治療もしていいんだそうです」
「随分と、良くして頂いたのだな」
ちょっと意地悪し過ぎたからか、道明様が私に背を向けた。
嫉妬してるけど、それを出さないように我慢してるんだろう。
甘え方を知らない、不器用で可愛い人。本当に愛おしいなぁ。
「私、あの方のこと何故か嫌いになれなくて、どうしてかなって思ってたんです」
返事もなくなってしまった。
これは不貞腐れてしまったかな?
「理由を、知りたいです?」
「私にそれを聞かせたいのか?」
「聞いて欲しいです」
私の言葉に、道明様はゆっくりと振り返った。
でも、平気そうな顔の裏で色んな思いを飲み込んでいる事を、妻である私は知っている。
道明様って優翔君と出会う前の私と似ていて、甘えるの下手だし何でも自分で解決しようとしちゃうし、そんなところが放っておけないんだけど。
でもこうやって、他人の話をちゃんと聞くとこは私と大きく違うよなぁ。
流石はお坊様ということか。
「前世での話する時、道明様には前の夫と娘の事はあまり話さなかったですよね」
「あぁ」
「吉家様って、前の夫にそっくりなんですよ」
流石に驚きが隠せない今の夫に、いたずらに笑って見せた。
道明様の色んな表情が見れるの、凄く楽しいなぁ。
「たぶん、あの方が聖女の運命のお相手だったみたいです」
「であるなら、何故・・・」
「私は道明様の妻ですから」
驚いた顔、狼狽した顔、困惑した顔、そして泣きそうな顔。
誰にも見せないそんな表情を、私にだけ見せてくれる。
私に、心を許してくれてるから。
「ちなみに貞操も無事ですよ」
なおも泣きそうな彼に、身を擦り寄せるように抱きついた。
優しい胸元は、嗅ぎ慣れたお香の香り。
調子に乗って首筋にキスすると、彼の両腕が私を抱き締め返してくれた。
「私だけの妻でいてくれるのか?」
「当たり前じゃないですか」
「誠、私で良いのか?」
「道明様じゃないと嫌です」
「私、は・・・」
珍しく言い淀む彼を、見上げる。
不自然なくらい整った綺麗なお顔。
でも、作り物みたいな見た目をしていても、彼はただのひとりの男の人で。
思い悩んで、間違って、後悔して、そんな辛さを真正面から受け止めてしまう。
受け止めようとしてしまう、不器用で可愛い男の人なんだ。
その光景だけで絵になるし、ドラマのワンシーンみたい。
しかも完成したのはフィクションみたいな、「これぞ美僧!」って感じの僧正様で、先程までの淫猥さなんて欠片も・・・いや、色気はまだ残っているか。
拭ったのにまだうっすらと汗をかく額がセクシーに見えるのは、汗の原因を知っているからか。
でも道明様の生来のものも絶対あるよね。だって、あのため息みたいな吐息って、普通情事の後にしかしないものだもんね。
長いまつ毛が持ち上がり、男らしい目がこちらを向くと今でもドキリとしてしまうくらい。
それくらい彼が好きで、ドキドキも心地良い。
「手が止まっておるぞ」
言われて、慌てて服を着る手を動かした。
薄暗い部屋。
しかも道明様に放り投げられてくしゃっとしてたから、慌てて手を通した服は少しこんがらがっちゃって。
「あれ?」
手を通す場所が明らかにおかしい。袖が片方見当たらない。
和服にはもう慣れてたのに、なぜこうなるのか。
不格好になったので仕方なく一旦脱いで、形を確認して、そしてもう一度・・・。
「着せてやろう」
「あっ」
ひょいと取り上げられてしまった服を見送ると、道明様はちょっと嬉しそうだった。
この人、こう見えて世話焼きだし、他人のお世話するの好きなんだよね。
なんだか子ども扱いされている気がしなくもないけど、まぁ彼が嬉しいならいいか。
着やすいように差し出された袖に、腕を通す。
慣れた手つきで補助されて菫色の服を着ると、なんだか体の内も外も彼に染められたみたいでくすぐったい。
「この帯はお下がりのものか?」
「はい。一番地味なの選んだんですけど、おかしくないです?」
皇后様からのお下がりの、薄緑色の帯。
ちょうどいいきつさで巻いてくれるのも優しくて大好きだ。
なぜ彼が帯を結べるのかは・・・怖いから聞かないでおくけど。
「良い色合いだ。これならば一見は高価に見えぬであろうしな」
「やったぁ」
実は着物と帯の組み合わせってまだ良く分かっていないから、センスのある人に褒めてもらえると嬉しい。
その相手が道明様ならば、尚更。
「これも」
言いつつ、彼が私の胸元に差し込んだのは、簪だった。
吉家様にいただいた簪だった。
チラリと伺うと、道明様は少し目を逸らしていた。
あ、これ勘違いしてるんだろうなとは、すぐに気付いた。
「これ、私を聖女として認めて下さる証らしいです」
「そうか」
「これを付けていると、どんな治療もしていいんだそうです」
「そうか」
「あと、私が認定した人も同じようにどんな治療もしていいんだそうです」
「随分と、良くして頂いたのだな」
ちょっと意地悪し過ぎたからか、道明様が私に背を向けた。
嫉妬してるけど、それを出さないように我慢してるんだろう。
甘え方を知らない、不器用で可愛い人。本当に愛おしいなぁ。
「私、あの方のこと何故か嫌いになれなくて、どうしてかなって思ってたんです」
返事もなくなってしまった。
これは不貞腐れてしまったかな?
「理由を、知りたいです?」
「私にそれを聞かせたいのか?」
「聞いて欲しいです」
私の言葉に、道明様はゆっくりと振り返った。
でも、平気そうな顔の裏で色んな思いを飲み込んでいる事を、妻である私は知っている。
道明様って優翔君と出会う前の私と似ていて、甘えるの下手だし何でも自分で解決しようとしちゃうし、そんなところが放っておけないんだけど。
でもこうやって、他人の話をちゃんと聞くとこは私と大きく違うよなぁ。
流石はお坊様ということか。
「前世での話する時、道明様には前の夫と娘の事はあまり話さなかったですよね」
「あぁ」
「吉家様って、前の夫にそっくりなんですよ」
流石に驚きが隠せない今の夫に、いたずらに笑って見せた。
道明様の色んな表情が見れるの、凄く楽しいなぁ。
「たぶん、あの方が聖女の運命のお相手だったみたいです」
「であるなら、何故・・・」
「私は道明様の妻ですから」
驚いた顔、狼狽した顔、困惑した顔、そして泣きそうな顔。
誰にも見せないそんな表情を、私にだけ見せてくれる。
私に、心を許してくれてるから。
「ちなみに貞操も無事ですよ」
なおも泣きそうな彼に、身を擦り寄せるように抱きついた。
優しい胸元は、嗅ぎ慣れたお香の香り。
調子に乗って首筋にキスすると、彼の両腕が私を抱き締め返してくれた。
「私だけの妻でいてくれるのか?」
「当たり前じゃないですか」
「誠、私で良いのか?」
「道明様じゃないと嫌です」
「私、は・・・」
珍しく言い淀む彼を、見上げる。
不自然なくらい整った綺麗なお顔。
でも、作り物みたいな見た目をしていても、彼はただのひとりの男の人で。
思い悩んで、間違って、後悔して、そんな辛さを真正面から受け止めてしまう。
受け止めようとしてしまう、不器用で可愛い男の人なんだ。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる