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第四章 囚われていたもの
第三十四話 招福寺
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楠木主導での道明様の弾劾裁判は予定通りすんなりいったらしく、お昼を待たずに私たちは聖雅院から放り出される事になった。
あ、私たちって、私と道明様と晴彦と智久さんね。
晴彦は残る事もできたみたいだけど、彼の意志で一緒に追放される事になったらしい。
私と智久さんの荷物は持たせてもらえたけど、道明様達は着の身着のまま。
とは言えそれも建前上で、実際最低限の荷物は私の荷物という事になっているし、残りの私物やらも徳栄さんという和尚さん経由で送ってもらえる事になっているらしい。
そんな、形だけの追放で聖雅院を追われて、比較的のんびりと私たちが向かったのは八ツ笠の方角。
将軍様から聖女として認められた今となっては、例え川平で指名手配を受けていようと八ツ笠へ帰る事はできる。
できるけど、しない。
帰るのはちゃんと鹿谷での試練をクリアしてからがいいから、まだ帰らない。
だから今回の目的地だって、霧巻の端っこで八ツ笠を目前にした招福寺というお寺なのだ。
聖雅院から三日間かけてずっと山を下ったところにあったそのお寺は、大きめだけど質素で、でもきちんと手入れされているような印象を受けた。
「招福寺」と書かれた木の立て看板も、年季が入っていてもピカピカに磨かれていてちゃんとしたお寺って感じ。
そんな招福寺で、道明様はめちゃくちゃ上客扱いを受けていた。
「招福寺へは幾日ほど滞在されるのですか?」
「二日宿を借りたい」
「えー!もう少しいてくださればいいのにー!」
行儀がきちんとしているのかいないのか、お茶を淹れつつ文句を言うのは冬馬君。歳は九歳。
なんと晴彦の弟くんなんだそうだ。
「冬馬、無礼だぞ」
「でも晴兄、道明様がこれで良いって仰ったんですよ」
「であっても、そのような振る舞いを客人に見せるものではない」
お坊さんにはならない予定なのか、冬馬君は剃髪していなかった。
短い髪の毛はツンツンで、でも顔は晴彦をそのまま幼くした感じ。
要はかわいい系の男の子だった。
「良い晴彦。ここに居るは身内だけだ。好きにさせてやりなさい」
「ほらね!」
「道明様は冬馬に甘過ぎるのです。こいつを調子に乗せると碌なことがないのに・・・」
弟の前だからか、晴彦はいつもより砕けた様子で年相応の男の子って感じだった。
それも可愛くてほっこりする。
聖雅院は表面はキラキラしいのに中身はギスギスだったのに対して、招福寺は質素でほっこりな田舎の親戚の家って感じ。
田舎の親戚いたことないから完全にイメージだけど。
「部屋は二部屋借りたいのだが、開いておるか?」
「はい!あ、ひと部屋は徳栄和尚のお部屋でもよろしいでしょうか?年頃の娘様は離れのお部屋の方が良いでしょうし」
態度は砕けていても冬馬君はちゃんと気配りできる子らしい。さすが晴彦の弟君。
「その部屋は私と小瑠璃で使っても良いか?」
「え、でも和尚様のお部屋は狭いので、衝立をしてもあまり距離は取れませんよ?」
「ひとつの布団で寝る故、構わぬ」
「ひと、つの・・・???」
自己紹介は名前だけだったから、まぁそうなるよね。
冬馬君のびっくり仰天な表情が新鮮で、常識的に考えて「妻帯しているお坊さん」があり得ないという事を思い出した。
というか、妻帯以前に色仕掛けするお坊さんがあり得ないのか。普通は。
「小瑠璃様は道明様の奥方であらせられる」
「還俗を??」
「還俗はされておらぬ。おらぬが妻を迎えられたのだ」
「え・・・え?」
「その話は後で聞いてやる。まずは話の続きを」
「あ、うん、えっと・・・」
冬馬君の扱いは、やっぱり晴彦が上手いらしい。
困惑しながらだけど、晴彦に促されると冬馬君は少し落ち着いたようだったから。
「和尚様のお部屋を使われるのは問題ないかと。滞在中のお務めはお休みされますよね?」
「朝のみ手伝いをしても構わぬか?」
「承知しました、ではそのように取り図ります。他にご要望などはありますか?」
「空いた時間で良いが、道場を借りたい。木刀も」
「道場でしたら何時でもお使いください。木刀はそちらにある物をご自由に」
「感謝する。礼は後ほど届けよう」
「いいえ、これ以上のご寄付は受け付けぬようにと徳栄和尚に言われてますので」
「そうか」
憑き物が落ちたからか、人前だと言うのに道明様はククッと無防備に笑った。
その姿に、晴彦も冬馬君も驚いていたのが面白くて、私も一緒に笑った。
あ、私たちって、私と道明様と晴彦と智久さんね。
晴彦は残る事もできたみたいだけど、彼の意志で一緒に追放される事になったらしい。
私と智久さんの荷物は持たせてもらえたけど、道明様達は着の身着のまま。
とは言えそれも建前上で、実際最低限の荷物は私の荷物という事になっているし、残りの私物やらも徳栄さんという和尚さん経由で送ってもらえる事になっているらしい。
そんな、形だけの追放で聖雅院を追われて、比較的のんびりと私たちが向かったのは八ツ笠の方角。
将軍様から聖女として認められた今となっては、例え川平で指名手配を受けていようと八ツ笠へ帰る事はできる。
できるけど、しない。
帰るのはちゃんと鹿谷での試練をクリアしてからがいいから、まだ帰らない。
だから今回の目的地だって、霧巻の端っこで八ツ笠を目前にした招福寺というお寺なのだ。
聖雅院から三日間かけてずっと山を下ったところにあったそのお寺は、大きめだけど質素で、でもきちんと手入れされているような印象を受けた。
「招福寺」と書かれた木の立て看板も、年季が入っていてもピカピカに磨かれていてちゃんとしたお寺って感じ。
そんな招福寺で、道明様はめちゃくちゃ上客扱いを受けていた。
「招福寺へは幾日ほど滞在されるのですか?」
「二日宿を借りたい」
「えー!もう少しいてくださればいいのにー!」
行儀がきちんとしているのかいないのか、お茶を淹れつつ文句を言うのは冬馬君。歳は九歳。
なんと晴彦の弟くんなんだそうだ。
「冬馬、無礼だぞ」
「でも晴兄、道明様がこれで良いって仰ったんですよ」
「であっても、そのような振る舞いを客人に見せるものではない」
お坊さんにはならない予定なのか、冬馬君は剃髪していなかった。
短い髪の毛はツンツンで、でも顔は晴彦をそのまま幼くした感じ。
要はかわいい系の男の子だった。
「良い晴彦。ここに居るは身内だけだ。好きにさせてやりなさい」
「ほらね!」
「道明様は冬馬に甘過ぎるのです。こいつを調子に乗せると碌なことがないのに・・・」
弟の前だからか、晴彦はいつもより砕けた様子で年相応の男の子って感じだった。
それも可愛くてほっこりする。
聖雅院は表面はキラキラしいのに中身はギスギスだったのに対して、招福寺は質素でほっこりな田舎の親戚の家って感じ。
田舎の親戚いたことないから完全にイメージだけど。
「部屋は二部屋借りたいのだが、開いておるか?」
「はい!あ、ひと部屋は徳栄和尚のお部屋でもよろしいでしょうか?年頃の娘様は離れのお部屋の方が良いでしょうし」
態度は砕けていても冬馬君はちゃんと気配りできる子らしい。さすが晴彦の弟君。
「その部屋は私と小瑠璃で使っても良いか?」
「え、でも和尚様のお部屋は狭いので、衝立をしてもあまり距離は取れませんよ?」
「ひとつの布団で寝る故、構わぬ」
「ひと、つの・・・???」
自己紹介は名前だけだったから、まぁそうなるよね。
冬馬君のびっくり仰天な表情が新鮮で、常識的に考えて「妻帯しているお坊さん」があり得ないという事を思い出した。
というか、妻帯以前に色仕掛けするお坊さんがあり得ないのか。普通は。
「小瑠璃様は道明様の奥方であらせられる」
「還俗を??」
「還俗はされておらぬ。おらぬが妻を迎えられたのだ」
「え・・・え?」
「その話は後で聞いてやる。まずは話の続きを」
「あ、うん、えっと・・・」
冬馬君の扱いは、やっぱり晴彦が上手いらしい。
困惑しながらだけど、晴彦に促されると冬馬君は少し落ち着いたようだったから。
「和尚様のお部屋を使われるのは問題ないかと。滞在中のお務めはお休みされますよね?」
「朝のみ手伝いをしても構わぬか?」
「承知しました、ではそのように取り図ります。他にご要望などはありますか?」
「空いた時間で良いが、道場を借りたい。木刀も」
「道場でしたら何時でもお使いください。木刀はそちらにある物をご自由に」
「感謝する。礼は後ほど届けよう」
「いいえ、これ以上のご寄付は受け付けぬようにと徳栄和尚に言われてますので」
「そうか」
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その姿に、晴彦も冬馬君も驚いていたのが面白くて、私も一緒に笑った。
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