聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

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第六章 恋と愛の違い

第三十九話 変わった事、変わっていく事

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 峰尾の村に戻った私は、以前の私とは違った。
 まず、「ずっと巫女であるのは大変だからお休みが欲しい」というわがままをおじいちゃんに聞いてもらって、あと私一人じゃなくてお姉ちゃんと一緒に巫女をする事にした。
 部屋に閉じ籠る生活も止めた。
 光来寺のお坊様達がしてたみたいに早起きをして、お部屋を掃除して、お経は唱えられないけど座禅をして瞑想をする事にした。
 ご飯はいっぱい食べて、洗濯も手伝って、大切な時だけ巫女のお仕事をするの。
 頭痛のお薬は草順先生に配合を書いてもらったから、村の人に作ってもらって、逆に前飲んでいた薬は「飲みたくない」とごねてみた。
 おじいちゃんは困っていたけど、でも「分かった」と言ってくれた。
 この時初めておじいちゃんって私のおじいちゃんなんだって思った。
 玄さんという人が教えてくれた天気の予報は、確実では無いけど役に立ったらしくて、私が巫女をお休みしている時は使ってもらう事にして。
 そんな風に生活が変わったら、毎日がきらきらして楽しくなった。
 「向日ひまり」と言う、小瑠璃様から貰った名も、呼ばれるだけで嬉しいし、お姉ちゃんも前よりにこにこになったから。
 全部全部小瑠璃様のおかげで、神様のおかげだった。
 また会いたいなぁって思ってた。
 だからあの時本当にびっくりしたの。


 村に戻ってから二月ふたつきほど後。七月二十七日のお昼前だった。
 ここの梅雨は長いから、久しぶりに晴れて薬草が外に干せると、村の皆とお仕事していた時だった。
 小さな太陽みたいな、懐かしい光を感じたの。
 振り返って見ると、やっぱりその光は向こう側に見えて、勘違いじゃ無かった事が嬉しくて、そのままそっちに駆け寄った。
 皆驚いてた気がしたけど、気にならなかった。早く会いたくて、村の入り口まで兎みたいに早く走った。
 そしたら、一本道の先にちゃんと見えた。
 私のお母さんみたいな、大好きな小瑠璃様が。
「巫女様、村から出るのは・・・」
「今は向日!それにここから先には行かないから大丈夫!」
 見張りのお兄ちゃんに答えてから目を凝らすと、小瑠璃様は女性の格好をされていて、お坊様と一緒に歩かれていた。
 お坊様は、小瑠璃様の夫の道明僧正様だと分かった。
 あの方はあの方で凄く強い光だから。それに、青と緑の煤けたような色だから。
 私に気付いて、小瑠璃様が手を振ってくださって、だから私も大きく手を振り返した。

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 七月二十五日の夕餉前。
 晴彦が光来寺へと帰りついた。
 しかし奴は単身であったのだ。
「お主だけか?」
 荷を受け取りながら、聞く。
 長旅であったからか晴彦は些か疲れているようにも見えた。
「智久様は医療所だ」
「で?」
「道明様は小瑠璃様とお二人で向かっておられる」
徒歩かちでか?」
 風呂へ向かう晴彦を追いながら不自然に大きい荷の中を改めると、明らかに女人の物と思われる見慣れぬ衣も混ざっており、恐らく小瑠璃様のものであろうがどのようにして取得したものであるのやら。
「あぁ、徒歩ではあるが道明様が刀を手にされておる故、大事はないであろう」
「刀!?」
「なまくらだがな」
 風呂には助三様と亀次郎様がおられたが、丁度服を身に付けられている所であられた。
 次は木吉様であられるが・・・いらっしゃられない故、先に湯を頂いても良さそうだな。
「着替えを持ってきてやる。先に入っておれ」
 晴彦に耳打ちしてから踵を返した。
 荷は一度我らの部屋へ置き、後ほど中身を改めるか。
 にしても、江戸から徒歩で、小瑠璃様を伴って来られるのであれば、明日みょうにち明後日みょうごにちまではお帰りにはならないであろうか?
 相談させて頂きたい事柄があるのだが、お戻りになられたらお時間を頂けるであろうか?


 十二日後の、八月一日。
 道明様と小瑠璃様が光来寺へお戻りになられた。
「一松ただいま!」
 昼餉の後、医療所に木村様をお迎えに行く折であった故、小瑠璃様はいの一番に私にお声がけくださったのだ。
「今戻った。晴彦は先に着いておるか?」
「お帰りなさいませ。晴彦はしばらく前に戻っておりました」
 晴彦に聞いていた通り、道明様は刀を携えておられた。
 刃先は潰れたものとの事であったが、やはり僧が帯刀しているのには違和感があり、しかし道明様は気にされておられぬご様子であった。
「そうか。一松、この後話せるか?」
「はい、すぐにお部屋に伺いまする」
 それだけ答え、頭を下げてから再び医療所へ向かう。
 話というのは、やはり聖雅院を追放された件であろうか。
 あの話を晴彦に聞いた折、私は驚きはしたが安堵も覚えたのだ。
 そして、安堵した己に戸惑った。
 帰る家が無くなったはずであるに、この光来寺とて仮宿でしかないと言うに、何故私の胸の内は軽くなったのか。
 晴彦は不服そうであったが、恐らくあの反応が正しいのであろう。
 では、私は正しくないのか?
 いや、そもそも正しさとは、何なのか?
 己の心の内が計り知れぬ。他人の心の内であれば容易く推し量れるというに。
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