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第七章 愛するという事
第五十四話 ホトトギスとウグイス
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「心が読める」というのはここでは初出しの情報だったから、松元を筆頭に家臣の人達はざわついていた。
けど、城主様は、いや山谷様は落ち着いていた。
落ち着いて、悲し気な目で道明様を見ていた。
「誠か?」
「お疑いでしたら、お確かめになられますか?」
「何をだ?」
「例えば、そう。先代よりの忠臣であられた田川様が罷免される原因となった件について、松元様が仔細をご存じでないか、などいかがでございましょうか?」
道明様の声を聞きながら、松元の心をまた少し読んでみた。
色々見えてしまったけど、要は睡眠薬か何かを盛って警備主任を眠らせて、その場に輩を乱入させたらしい。
しかも、可愛そうな事に侍女が巻き添えを食らってしまったのか。
「し、知るわけが」
「ご存じのようですね」
動揺してるのがほぼ答えだけど、演出の為に言葉を遮ってニッコリとしてあげた。
化け物でも見るような目で見られたけど、気持ちいいくらいだ。この人嫌いだしね。
「やはりご存じでございましたか。では、民よりの投書が山谷様のお目に触れる事がない原因もご存じでございましょうか」
これもまぁ、言わずもがな。
どうやら民からの声を握りつぶしていたのは松元のようだ。疑ってしまった山谷様には心の中で謝っておこう。
「ご存じのようですね」
「松元・・・お主・・・っ!」
「殿!この忠たる臣である松元よりこのどこの馬の骨とも知らぬ者らを信ずるのですか!」
松元は必死に弁解してたけど、他のおじさん二人からは距離を取られてたから周りからは好かれてはいなかったんだろうね。
完全に自業自得だから、仕方ないね。
「忠たる臣であられる故に、和正様とも親しくされておられるのでしょうか」
「だ、黙れ・・・!」
「まるでそう、実の親子のようであられましたな」
「黙れ!!」
「黙るのはお前だ!松元!!」
本日一番の騒動が炸裂したと思ったら、意外にも落ち着かせてくれたのは山谷様だった。
初めて会った時からずっと頼りない印象だった山谷様。
けど今目の前にいる人は、いち藩主としての貫禄を兼ね備えたお殿様にちゃんと見えた。
「私が何も知らぬままにおったと思うか?そこまで阿呆の木偶だと侮っておったのか?」
呆気にとられる松元へ、山谷様は酷く痛そうな顔で吐き出した。
「お主がお滝と組んで謀を企てているのを、気付かぬわけがなかろう・・・!」
悲しみに満ちた声に、誰も何も言えなかった。
数分経って、落ち着いたらしい山谷様が警備を呼び、松元を連れて行かせて。
それでもやっぱり場の空気は重かった。
「そこの一条と香原は誠の忠臣である故、同席させても良いか?疑うのであればその者らの心も確かめて良い」
「山谷様のお言葉に、何の否がありますでしょうか」
場の雰囲気に合わせて少し目を伏せてる道明様だけど、この展開自体が彼の手のひらの上だろうからきっと一ミリも心は痛んでないんだろうな。
・・・うちの夫、悪人過ぎない?
「ならば話を進めよう。松元の屋敷にはすぐに役人を送ろう。お主ら宛ての文と荷があらば光来寺に送り届けさせる故、しばし待っておれ」
「ご配慮痛み入りまする」
「して、和正の話をしたからにはお滝の事も知っておるのであろう?」
「人の口より漏れる噂は知らず広がるものにございます故」
「和正は誠、私の子ではないと思うか?」
知らない名前が出て来て困惑してたけど、今ので分かった。
和正さんって、山谷様の息子さんだ。
恐らく一人息子で、恐らくお世継ぎの、息子さんだ。
「私の口からは何とも。しかし、山谷様には心当たりがあられるのではございませぬか?」
山谷様は、何かを吐き出すように深くため息をつき、項垂れた。
本物の忠臣らしい一条さんと香原さんは「殿・・・」と心配の声をかけていた。
「爪の形が・・・違ったのだ。和正の爪は私ともお滝とも似ず、唯一松元と同じ形をしておった」
ここでお滝さんが山谷様のご正室だとやっと分かった。
松元の心を覗いた限り、やつと不倫しているちょっと派手なおばさんだ。
「左様にございましたか」
「それだけでない、怪しく思う時は多々あった。が、認めたくはなかったのだ・・・」
目を閉じてから、もう一度大きく息を吐いて。
それから山谷様は顔を上げた。
無理矢理に苦笑しながら。
「聞き及んでおろうが、私はこの通り藩主の器ではない。他藩の息女たるお滝を嫁に迎え、ようやっと体裁を保っておるが・・・」
奥さんと一番立場がありそうな家臣に浮気されて、しかも子どもも自分の子じゃなくて。
それは気付かない振りもしたくなる。受け止めるには酷すぎる現実だから。
「それもここまでか・・・」
「いいえ、山谷様」
そんな、絶望する山谷様に手を差し伸べたのは、菩薩のように慈悲に満ちた笑みを浮かべる、それはそれは綺麗なお坊様だった。
「あなた様の実のお子はおられますよ」
蜘蛛の糸のように、希望の一筋に聞こえる言葉だった。
けど私は、この人がそんな風に可愛らしい存在ではない事を知っていたのだ。
けど、城主様は、いや山谷様は落ち着いていた。
落ち着いて、悲し気な目で道明様を見ていた。
「誠か?」
「お疑いでしたら、お確かめになられますか?」
「何をだ?」
「例えば、そう。先代よりの忠臣であられた田川様が罷免される原因となった件について、松元様が仔細をご存じでないか、などいかがでございましょうか?」
道明様の声を聞きながら、松元の心をまた少し読んでみた。
色々見えてしまったけど、要は睡眠薬か何かを盛って警備主任を眠らせて、その場に輩を乱入させたらしい。
しかも、可愛そうな事に侍女が巻き添えを食らってしまったのか。
「し、知るわけが」
「ご存じのようですね」
動揺してるのがほぼ答えだけど、演出の為に言葉を遮ってニッコリとしてあげた。
化け物でも見るような目で見られたけど、気持ちいいくらいだ。この人嫌いだしね。
「やはりご存じでございましたか。では、民よりの投書が山谷様のお目に触れる事がない原因もご存じでございましょうか」
これもまぁ、言わずもがな。
どうやら民からの声を握りつぶしていたのは松元のようだ。疑ってしまった山谷様には心の中で謝っておこう。
「ご存じのようですね」
「松元・・・お主・・・っ!」
「殿!この忠たる臣である松元よりこのどこの馬の骨とも知らぬ者らを信ずるのですか!」
松元は必死に弁解してたけど、他のおじさん二人からは距離を取られてたから周りからは好かれてはいなかったんだろうね。
完全に自業自得だから、仕方ないね。
「忠たる臣であられる故に、和正様とも親しくされておられるのでしょうか」
「だ、黙れ・・・!」
「まるでそう、実の親子のようであられましたな」
「黙れ!!」
「黙るのはお前だ!松元!!」
本日一番の騒動が炸裂したと思ったら、意外にも落ち着かせてくれたのは山谷様だった。
初めて会った時からずっと頼りない印象だった山谷様。
けど今目の前にいる人は、いち藩主としての貫禄を兼ね備えたお殿様にちゃんと見えた。
「私が何も知らぬままにおったと思うか?そこまで阿呆の木偶だと侮っておったのか?」
呆気にとられる松元へ、山谷様は酷く痛そうな顔で吐き出した。
「お主がお滝と組んで謀を企てているのを、気付かぬわけがなかろう・・・!」
悲しみに満ちた声に、誰も何も言えなかった。
数分経って、落ち着いたらしい山谷様が警備を呼び、松元を連れて行かせて。
それでもやっぱり場の空気は重かった。
「そこの一条と香原は誠の忠臣である故、同席させても良いか?疑うのであればその者らの心も確かめて良い」
「山谷様のお言葉に、何の否がありますでしょうか」
場の雰囲気に合わせて少し目を伏せてる道明様だけど、この展開自体が彼の手のひらの上だろうからきっと一ミリも心は痛んでないんだろうな。
・・・うちの夫、悪人過ぎない?
「ならば話を進めよう。松元の屋敷にはすぐに役人を送ろう。お主ら宛ての文と荷があらば光来寺に送り届けさせる故、しばし待っておれ」
「ご配慮痛み入りまする」
「して、和正の話をしたからにはお滝の事も知っておるのであろう?」
「人の口より漏れる噂は知らず広がるものにございます故」
「和正は誠、私の子ではないと思うか?」
知らない名前が出て来て困惑してたけど、今ので分かった。
和正さんって、山谷様の息子さんだ。
恐らく一人息子で、恐らくお世継ぎの、息子さんだ。
「私の口からは何とも。しかし、山谷様には心当たりがあられるのではございませぬか?」
山谷様は、何かを吐き出すように深くため息をつき、項垂れた。
本物の忠臣らしい一条さんと香原さんは「殿・・・」と心配の声をかけていた。
「爪の形が・・・違ったのだ。和正の爪は私ともお滝とも似ず、唯一松元と同じ形をしておった」
ここでお滝さんが山谷様のご正室だとやっと分かった。
松元の心を覗いた限り、やつと不倫しているちょっと派手なおばさんだ。
「左様にございましたか」
「それだけでない、怪しく思う時は多々あった。が、認めたくはなかったのだ・・・」
目を閉じてから、もう一度大きく息を吐いて。
それから山谷様は顔を上げた。
無理矢理に苦笑しながら。
「聞き及んでおろうが、私はこの通り藩主の器ではない。他藩の息女たるお滝を嫁に迎え、ようやっと体裁を保っておるが・・・」
奥さんと一番立場がありそうな家臣に浮気されて、しかも子どもも自分の子じゃなくて。
それは気付かない振りもしたくなる。受け止めるには酷すぎる現実だから。
「それもここまでか・・・」
「いいえ、山谷様」
そんな、絶望する山谷様に手を差し伸べたのは、菩薩のように慈悲に満ちた笑みを浮かべる、それはそれは綺麗なお坊様だった。
「あなた様の実のお子はおられますよ」
蜘蛛の糸のように、希望の一筋に聞こえる言葉だった。
けど私は、この人がそんな風に可愛らしい存在ではない事を知っていたのだ。
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