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第七章 愛するという事
第五十五話 お里さんの話
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そこそこのゴタゴタに巻き込まれたから、普段であれば気疲れしていたところだけど、帰りの道中で自分がそこまで疲れていないことに気づく。
そしてそれは、隣を歩く美人過ぎる夫のお陰だという事にも、気付く。
道明様って、ああいう場では絶対にぶれない。
目の前の人間からぶつけられる喜怒哀楽に全く感化されなくて、しかも魔法みたいに話が必ず進めたかった方向に向かってくれる。
カリスマ性ってやつだろうか?それか、魔性?
将棋とかめちゃくちゃ強そうだし、ポーカーとかも強そう。
味方でいてくれる間は隣にいるだけで万能感すら覚えちゃう。味方でいてくれる間は。
「道明様」
「お春様の話か?」
「・・・そうです」
聞きたいことも見透かされていて複雑。
でも聞かないという選択肢はない。
「お春ちゃんって本当に山谷様の娘なんですか?」
絶望の海にいる山谷様に差し伸べた希望が、「御年十七の娘御」という事で、どう聞いてもお春ちゃんの事でしかなかったんだけど。
歳を聞いて、山谷様は心当たりがあるようだった。
でも、お春ちゃんが山谷様の娘なら、お春ちゃんのお母さんのお里さんは山谷様と恋人だったって事になる。
びっくりするくらい想像がつかないけど。
「恐らくはな。仔細は帰り次第お里様に訪ねる故、しばし待ちなさい」
「はーい」
言いつつ、道明様の手を握ると握り返してくれる。
もちろん恋人つなぎだ。
それに、一緒に歩く時は歩幅だって私に合わせてくれるのだ。
「でも道明様、ああいうのどうやって調べて来るんですか?」
「人の噂が主だな。場合により当人の元へ赴いたりもするが、此度は色は仕掛けておらぬぞ?」
「当たり前です。今回だけじゃなくてこれからはそう言うのは駄目です」
「分かっておる」
イチャイチャしながら一緒に歩いて、お家に帰る。
途中、お昼ご飯をお店で一緒に食べて、それもなんだか新鮮で嬉しくて。
食べ終わると外は炎天下だったから、「暑いですね」って言いながら、また手を繋いで帰った。
お里さんとお話の場を設けたのは、夕方になってからだった。
畑仕事を終えたお里さんは汗を拭きながら道明様の部屋に訪れた。
「行ってきたのかい?」
「はい」
てっきり、農民だからお作法を知らないんだと思ってたお里さんだけど、よく見るとあえて無作法に振る舞っているのが分かった。
部屋に入る挨拶はないけど、畳の縁は無意識に避けていたから。
それに、どの位置に座ればいいかも、知っているようだった。
「お時間をいただき感謝いたしまする」
「そういう堅苦しいのはよしとくれって言ったろ」
そういえば、道明様は身内になったはずのお里さんにもずっと敬語を使っていた。
田助のお嫁さんなら、田助にするのと同じ扱いで良いはずなのに。
「それはこの後のお話し次第とさせていただけませぬでしょうか?」
「分かったよ。で、どうなったんだい?」
「お春様について、山谷様はお心当たりがあるようにございました。また、『会いたい』と、仰っておられました」
「お春だけかい?」
「恐らくは貴方様にも」
お里さんは少し目を細めながら部屋の外に目をやった。
何かを思い出しているのか、切ない感じの横顔だった。
目を閉じて、開きながらまたこちらを向く。
覚悟の色が宿った眼差しで。
「あんた、碌な死に方しないよ」
「左様にございましょうな」
「小瑠璃様には話してんのかい?あんたの悪事について」
「薄らとは。仔細は知らぬかと」
急に自分の名前が出たせいで変な顔をしてしまった。
そのせいで、お里さんにカラカラと笑われてしまった。
「じゃあ話したげるよ。大して面白くもない話だけどね」
なんて言って、やっぱり笑いながら、お里さんは彼女の過去を話してくれた。
行儀見習いとして、先代の藩主様の頃から黒峰城で侍女をしていた事。
山谷様に代替わりした際に、見染められて側室となった事。
でもすぐに正室のお滝様がいらっしゃって、いびりが始まった事。
気の弱かったもう一人の側室はすぐに気の病になって、侍女も何人も辞めたらしい。
そんな中、お滝様が懐妊する。
でもそのタイミングが、おかしかったんだって。
お滝様の性格もあったんだろうけど、誰もその事に触れられないまま子どもが生まれて、男の子なだけあって山谷様も大層喜ばれたんだとか。
夫婦仲も一時的に良くなり、正室の所にしか行かなくなったんだとか。
でもそれも一年程度で、跡継ぎを産んだお滝様の暴力はついに山谷様にまで及んだらしい。
久しぶりに自分の元に来た山谷様はやつれていて、勝手に側室にされた恨みも忘れて同情してしまったんだとか。
そして、お里さんも懐妊する。
相変わらず正室のいびりは受け続ける中で、だ。
そしてそれは、隣を歩く美人過ぎる夫のお陰だという事にも、気付く。
道明様って、ああいう場では絶対にぶれない。
目の前の人間からぶつけられる喜怒哀楽に全く感化されなくて、しかも魔法みたいに話が必ず進めたかった方向に向かってくれる。
カリスマ性ってやつだろうか?それか、魔性?
将棋とかめちゃくちゃ強そうだし、ポーカーとかも強そう。
味方でいてくれる間は隣にいるだけで万能感すら覚えちゃう。味方でいてくれる間は。
「道明様」
「お春様の話か?」
「・・・そうです」
聞きたいことも見透かされていて複雑。
でも聞かないという選択肢はない。
「お春ちゃんって本当に山谷様の娘なんですか?」
絶望の海にいる山谷様に差し伸べた希望が、「御年十七の娘御」という事で、どう聞いてもお春ちゃんの事でしかなかったんだけど。
歳を聞いて、山谷様は心当たりがあるようだった。
でも、お春ちゃんが山谷様の娘なら、お春ちゃんのお母さんのお里さんは山谷様と恋人だったって事になる。
びっくりするくらい想像がつかないけど。
「恐らくはな。仔細は帰り次第お里様に訪ねる故、しばし待ちなさい」
「はーい」
言いつつ、道明様の手を握ると握り返してくれる。
もちろん恋人つなぎだ。
それに、一緒に歩く時は歩幅だって私に合わせてくれるのだ。
「でも道明様、ああいうのどうやって調べて来るんですか?」
「人の噂が主だな。場合により当人の元へ赴いたりもするが、此度は色は仕掛けておらぬぞ?」
「当たり前です。今回だけじゃなくてこれからはそう言うのは駄目です」
「分かっておる」
イチャイチャしながら一緒に歩いて、お家に帰る。
途中、お昼ご飯をお店で一緒に食べて、それもなんだか新鮮で嬉しくて。
食べ終わると外は炎天下だったから、「暑いですね」って言いながら、また手を繋いで帰った。
お里さんとお話の場を設けたのは、夕方になってからだった。
畑仕事を終えたお里さんは汗を拭きながら道明様の部屋に訪れた。
「行ってきたのかい?」
「はい」
てっきり、農民だからお作法を知らないんだと思ってたお里さんだけど、よく見るとあえて無作法に振る舞っているのが分かった。
部屋に入る挨拶はないけど、畳の縁は無意識に避けていたから。
それに、どの位置に座ればいいかも、知っているようだった。
「お時間をいただき感謝いたしまする」
「そういう堅苦しいのはよしとくれって言ったろ」
そういえば、道明様は身内になったはずのお里さんにもずっと敬語を使っていた。
田助のお嫁さんなら、田助にするのと同じ扱いで良いはずなのに。
「それはこの後のお話し次第とさせていただけませぬでしょうか?」
「分かったよ。で、どうなったんだい?」
「お春様について、山谷様はお心当たりがあるようにございました。また、『会いたい』と、仰っておられました」
「お春だけかい?」
「恐らくは貴方様にも」
お里さんは少し目を細めながら部屋の外に目をやった。
何かを思い出しているのか、切ない感じの横顔だった。
目を閉じて、開きながらまたこちらを向く。
覚悟の色が宿った眼差しで。
「あんた、碌な死に方しないよ」
「左様にございましょうな」
「小瑠璃様には話してんのかい?あんたの悪事について」
「薄らとは。仔細は知らぬかと」
急に自分の名前が出たせいで変な顔をしてしまった。
そのせいで、お里さんにカラカラと笑われてしまった。
「じゃあ話したげるよ。大して面白くもない話だけどね」
なんて言って、やっぱり笑いながら、お里さんは彼女の過去を話してくれた。
行儀見習いとして、先代の藩主様の頃から黒峰城で侍女をしていた事。
山谷様に代替わりした際に、見染められて側室となった事。
でもすぐに正室のお滝様がいらっしゃって、いびりが始まった事。
気の弱かったもう一人の側室はすぐに気の病になって、侍女も何人も辞めたらしい。
そんな中、お滝様が懐妊する。
でもそのタイミングが、おかしかったんだって。
お滝様の性格もあったんだろうけど、誰もその事に触れられないまま子どもが生まれて、男の子なだけあって山谷様も大層喜ばれたんだとか。
夫婦仲も一時的に良くなり、正室の所にしか行かなくなったんだとか。
でもそれも一年程度で、跡継ぎを産んだお滝様の暴力はついに山谷様にまで及んだらしい。
久しぶりに自分の元に来た山谷様はやつれていて、勝手に側室にされた恨みも忘れて同情してしまったんだとか。
そして、お里さんも懐妊する。
相変わらず正室のいびりは受け続ける中で、だ。
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