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最終章 因果が巡る先
第五十八話 役目を終えた聖女
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「そなたであれば受け入れてくれるであろうと、思ってしまうのだ。そしてそれを許される事がこの上なく幸福なのだ」
なんて、しみじみと言う道明様の声は、本当に幸せそうで。
でも夜だったせいでえっちな意味にも聞こえちゃって。
背中を包む、いつも優しい温もり。
見上げた唇には愛おしい感触が落ちてきて、「この上なく幸福」ってこういう事かと、思った。
・・・普段であれば、こんな感じの雰囲気になったら、と言うか、くっついてキスし始めたらそれ即ち大人の時間の始まり、なんだけど。
今日は違った。
言わずもがなだけど、まず吉家様からのお手紙の続きが残っていた。
でもそれについては、私と同じくムラッときちゃったらしい道明様が、残りの文面に速やかに目を通して「明日話そう」と仰ったから問題なかったご様子。
処理済みとばかりに、手早くお手紙を畳んで脇に退けて、流れるように次のお手紙を開いた。
開いて、目を通して、そして「涼風様からだ」と、呟いた。
その声が、少し硬い気がした。
「涼風、さん・・・?」
驚いて道明様の表情を伺うと、彼の目が墨の跡をなぞっているのが見えた。
そんなに時間はかからなかったと思う。
険しい顔が、お手紙を離れてこちらを向くまでに。
「皇后様が床に伏されたそうだ」
すぐに言葉が出なかったのは、ただ驚いたから。
驚きながらも、納得している自分もいて、沈みそうになる心を落ち着かせるために道明様の胸元に体を預けた。
「聖女は病にかからぬのではなかったのか?」
至極当然過ぎる疑問に、責めるような色は含まれていなかった。
ただ、いつもよりも静かな声で求めている答えが、何なのかは分かっていた。
分かっていたけど、でも・・・。
「多分、病じゃないです」
意味のない気休めを口にしたところで、道明様にはすぐにばれるだろうし、余計悲しませることになるだろうし。
伝えるタイミングが分からなかったけど、このお手紙が届いたのであれば今がベストなのかもしれない。
泣かせてしまう事に、なるかもしれないけれど。
「聖女の役目を、終えたのかもしれません」
「どういう事だ?」
「ずっと言おうか迷ってた事があって・・・でも、皇后様からのお手紙で分かったんです」
ため息が漏れて、そしたら道明様がギュっと抱きしめてくれて。
切ないのに幸せな、不思議な感じがした。
「聖女は、役目を終えたら死ぬのかもしれません」
口から飛び出す言葉が、まるで他人事のようで、現実味がなくて。
でも、止まらない。彼を悲しませると分かっているのに。
「私の中の聖女の力が減っているのを感じるんです。今は、江戸に行く前の八割程度くらいしかない感じがしてて」
明確に減っているのに気付いたのは、吉家様の赤ちゃんが産まれた翌日だった。
最初は、一時的なものではないかとも、思っていた。
「使う度に、ほんの少しずつ減ってる気が、してて」
道明様と二人で光来寺に帰って来る道中、出会った人や宿を貸してくれた人たちを治して来た。
器に水が溜まっていくように、今までは眠ったら全快してた。
でもその器自体が、小さくなっている気がするんだ。
「皇后様も、そうだったのかもしれません。与えられた役目を終えたから聖女としての力がなくなってしまったのかも」
器の中の力が底を尽きると、昏睡するように眠ってしまう。
おそらく聖女にとって、生命エネルギーみたいなものも兼ねているからだ。
なら、器が小さくなり続けたら?
器が、なくなってしまったら?
この世界に生まれ落ちたわけではない聖女は、それが終わりになるのではないかと、ぼんやりと考えていたんだ。
「そもそも皇后様結構お歳でしたからね。会えなくなるのは寂しいですけど、役目を終えたなら満足されているんじゃ」
「そなたも皇后様のお歳までは生きるのであろう?」
突然確信を突かれて、思わず目を閉じた。
言い辛いから遠回しに伝えようと思ってたのに、せっかちな旦那様は許してくれないらしい。
それが、彼の愛だと分かっているから、だからこそ辛いのに。
「多分、無理です」
せめてちょっとだけぼかしてみたけど、無駄なあがきだったようで。
道明様の口からため息の様な苦しい吐息が漏れるのが聞こえて来て、そんな風に彼を苦しめているのが自分だというのが、とてつもなく重たかった。
「皇后様のお手紙に、私の寿命が書かれていました」
私を抱きしめる両腕に力が籠る。
彼の頬が耳に触れて、冷たい雫が流れているのが分かった。
「聞きとうない」
「道明様」
「聞きとうない・・・!」
なんて、しみじみと言う道明様の声は、本当に幸せそうで。
でも夜だったせいでえっちな意味にも聞こえちゃって。
背中を包む、いつも優しい温もり。
見上げた唇には愛おしい感触が落ちてきて、「この上なく幸福」ってこういう事かと、思った。
・・・普段であれば、こんな感じの雰囲気になったら、と言うか、くっついてキスし始めたらそれ即ち大人の時間の始まり、なんだけど。
今日は違った。
言わずもがなだけど、まず吉家様からのお手紙の続きが残っていた。
でもそれについては、私と同じくムラッときちゃったらしい道明様が、残りの文面に速やかに目を通して「明日話そう」と仰ったから問題なかったご様子。
処理済みとばかりに、手早くお手紙を畳んで脇に退けて、流れるように次のお手紙を開いた。
開いて、目を通して、そして「涼風様からだ」と、呟いた。
その声が、少し硬い気がした。
「涼風、さん・・・?」
驚いて道明様の表情を伺うと、彼の目が墨の跡をなぞっているのが見えた。
そんなに時間はかからなかったと思う。
険しい顔が、お手紙を離れてこちらを向くまでに。
「皇后様が床に伏されたそうだ」
すぐに言葉が出なかったのは、ただ驚いたから。
驚きながらも、納得している自分もいて、沈みそうになる心を落ち着かせるために道明様の胸元に体を預けた。
「聖女は病にかからぬのではなかったのか?」
至極当然過ぎる疑問に、責めるような色は含まれていなかった。
ただ、いつもよりも静かな声で求めている答えが、何なのかは分かっていた。
分かっていたけど、でも・・・。
「多分、病じゃないです」
意味のない気休めを口にしたところで、道明様にはすぐにばれるだろうし、余計悲しませることになるだろうし。
伝えるタイミングが分からなかったけど、このお手紙が届いたのであれば今がベストなのかもしれない。
泣かせてしまう事に、なるかもしれないけれど。
「聖女の役目を、終えたのかもしれません」
「どういう事だ?」
「ずっと言おうか迷ってた事があって・・・でも、皇后様からのお手紙で分かったんです」
ため息が漏れて、そしたら道明様がギュっと抱きしめてくれて。
切ないのに幸せな、不思議な感じがした。
「聖女は、役目を終えたら死ぬのかもしれません」
口から飛び出す言葉が、まるで他人事のようで、現実味がなくて。
でも、止まらない。彼を悲しませると分かっているのに。
「私の中の聖女の力が減っているのを感じるんです。今は、江戸に行く前の八割程度くらいしかない感じがしてて」
明確に減っているのに気付いたのは、吉家様の赤ちゃんが産まれた翌日だった。
最初は、一時的なものではないかとも、思っていた。
「使う度に、ほんの少しずつ減ってる気が、してて」
道明様と二人で光来寺に帰って来る道中、出会った人や宿を貸してくれた人たちを治して来た。
器に水が溜まっていくように、今までは眠ったら全快してた。
でもその器自体が、小さくなっている気がするんだ。
「皇后様も、そうだったのかもしれません。与えられた役目を終えたから聖女としての力がなくなってしまったのかも」
器の中の力が底を尽きると、昏睡するように眠ってしまう。
おそらく聖女にとって、生命エネルギーみたいなものも兼ねているからだ。
なら、器が小さくなり続けたら?
器が、なくなってしまったら?
この世界に生まれ落ちたわけではない聖女は、それが終わりになるのではないかと、ぼんやりと考えていたんだ。
「そもそも皇后様結構お歳でしたからね。会えなくなるのは寂しいですけど、役目を終えたなら満足されているんじゃ」
「そなたも皇后様のお歳までは生きるのであろう?」
突然確信を突かれて、思わず目を閉じた。
言い辛いから遠回しに伝えようと思ってたのに、せっかちな旦那様は許してくれないらしい。
それが、彼の愛だと分かっているから、だからこそ辛いのに。
「多分、無理です」
せめてちょっとだけぼかしてみたけど、無駄なあがきだったようで。
道明様の口からため息の様な苦しい吐息が漏れるのが聞こえて来て、そんな風に彼を苦しめているのが自分だというのが、とてつもなく重たかった。
「皇后様のお手紙に、私の寿命が書かれていました」
私を抱きしめる両腕に力が籠る。
彼の頬が耳に触れて、冷たい雫が流れているのが分かった。
「聞きとうない」
「道明様」
「聞きとうない・・・!」
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