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最終章 因果が巡る先
第五十九話 愛の形
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震える声を絞り出しながら、私にしがみ付いて。
そんな姿が、酷く愛おしい。
「道明様。私ね、前世で突然死んだからたくさん後悔したんです。やりたい事、沢山残してきちゃったから」
したかった事より、してあげたかった事が数えきれないほどあったから。
だから、夫と子どもへの贖罪の為に聖女としての人生を捧げても良いかと思うほどに後悔した。
後悔を糧に頑張って、潰れそうになるくらい頑張って、ただの聖女として生きていく道もあった。
道明様が私の名前を求めてくれなければ、そうなっていたと思う。
「でも寿命が分かってるなら、やりたい事も全部できるでしょう?」
聖女としての務めを果たし終えたのなら、残りの時間はただの私として、すみれとして生きて良い時間のはずだ。
贖罪も済んでいて、皇后様からの試練だって正直もう「聖女」の名前は鹿谷ではだいぶ広まっているようだし、「なかったことに」なんて言うお言葉に甘えて前倒しで遂行したと思えば良いだけだし。
気兼ねなく私の好き勝手に生きていける。そんな時間だと思えば贅沢過ぎる長さだと思う。
「聖女の業を控えれば少しは延びるかもしれないけど、それはしたくないんです。最後まで聖女でいたいんです」
自分の事しか考えていないめちゃくちゃな我が侭だって事は理解している。
残して行く彼がとてつもない悲しみに襲われるであろうことも、理解している。
でも、貴方が断らないであろうことを分かった上で甘えてしまう私は、きっととてつもなく罪深いんでしょうね。
「最後まで、私と一緒にいてくれますか?」
物語の終わりは得てして悲しいものだけど、私の終わりは悲しい物にはしたくなかった。
幸せそうなみんなの笑顔を曇らせたくなくて、余命は道明様にだけこっそりと伝えた。
まるで共犯者みたいな、二人だけの秘密。
そして最後までみんなには気取られないように、作戦も二人で企てた。
「光来寺を発たれる、と?」
朝から大きい僧房に来てくれた田助は、当然ながら面食らっていた。
突然すぎる内容に、性急すぎる引き継ぎ。
それに理由だって明確じゃないんだから、当たり前なんだけど。
「あぁ、天子様よりご許可はいただいておる。時期尚早となりすまぬが、明日より住職の職はお主に譲ろう」
「理由をお聞きしても?」
「私には重すぎたのだ。分不相応なお役目に辟易してしまった」
田助の「何言ってんだこいつ」と言わんばかりの目が、道明様と私を行き来する。その後ろで伝六も目を白黒させていた。
そんな空気の流れを変えたのは、人生経験豊富な大先生の一言。
「何か成し遂げたい事でもできましたか?」
田助から少し離れた隣で、木村先生はいたずらに微笑んでいた。
まるで事情を知っているかのように平然と落ち着いて、道明様をまっすぐに見ていた。
「そのように大層な事ではございませぬ」
「ではようやくあなたの人生を生きる決意をされたのですかな?」
年長者の余裕の笑みに、道明様もよそ行きの笑顔で答えていた。
じゃれ合っているというよりは、木村先生が道明様を子ども扱いしているみたいな感じ?
相変わらず変わった関係性なのだという事だけは分かるけど。
「小瑠璃さんも一緒なんですよね?」
なんて、急に私を呼んだのは木村先生の隣の草順。
彼があんなにムッとした顔をしているのは珍しい。
「そうだよ」
「智久さんは?」
「ここに残ってもらうか、八ツ笠に戻ってもらうつもり」
「反対です。危険すぎます」
取り付く島もなく反対されて、ちょっと意外な感じ。
草順って安全面とかいちいち気にするタイプじゃなかったと思ってたけど・・・。
「小瑠璃の身でしたら、私がこの命に換えても守り抜きまする」
「そもそもそんな危険を冒す必要がないですよね?」
「左様にございまする。しかし私と妻の二人で決めた事にございますれば、ご容赦いただきたく」
「でも・・・っ」
「草順、夫婦の問題に口を挟むものではない」
「・・・はい」
明らかにムキになる草順を止めたのは、なんと木村先生で。
でも、そっか。
木村先生の息子になったから、息子として窘められてるのか。
かなりマイペースな彼が大人しく言うことを聞いてるのが新鮮で、笑いそうになってしまって、視線を外した。
外した先の晴彦と一松は、揃いも揃って俯いていた。
あの子達の話は、後で部屋でゆっくり聞いてあげた方がいいだろう。主に道明様が。
「もうお帰りにならない訳ではないのでございますよね?」
反対するわけでもなくただ確認してくれるお美代さんは、藍ちゃんを抱いていた。
可愛らしい寝息を立てる、藍ちゃんを。
「左様にございます。時折戻りますが、月に一度は文も出しましょう。消息は分かるよう務める所存にございまする」
「でしたら私からは何も。道中のご無事をお祈りしながらお帰りを待つのみにございますので」
流石は元私の侍女。
待つだけって結構大変なのに、不満のひとつも言わないでくれる。
それがお美代さんからの私への愛なんだなぁ。
そんな姿が、酷く愛おしい。
「道明様。私ね、前世で突然死んだからたくさん後悔したんです。やりたい事、沢山残してきちゃったから」
したかった事より、してあげたかった事が数えきれないほどあったから。
だから、夫と子どもへの贖罪の為に聖女としての人生を捧げても良いかと思うほどに後悔した。
後悔を糧に頑張って、潰れそうになるくらい頑張って、ただの聖女として生きていく道もあった。
道明様が私の名前を求めてくれなければ、そうなっていたと思う。
「でも寿命が分かってるなら、やりたい事も全部できるでしょう?」
聖女としての務めを果たし終えたのなら、残りの時間はただの私として、すみれとして生きて良い時間のはずだ。
贖罪も済んでいて、皇后様からの試練だって正直もう「聖女」の名前は鹿谷ではだいぶ広まっているようだし、「なかったことに」なんて言うお言葉に甘えて前倒しで遂行したと思えば良いだけだし。
気兼ねなく私の好き勝手に生きていける。そんな時間だと思えば贅沢過ぎる長さだと思う。
「聖女の業を控えれば少しは延びるかもしれないけど、それはしたくないんです。最後まで聖女でいたいんです」
自分の事しか考えていないめちゃくちゃな我が侭だって事は理解している。
残して行く彼がとてつもない悲しみに襲われるであろうことも、理解している。
でも、貴方が断らないであろうことを分かった上で甘えてしまう私は、きっととてつもなく罪深いんでしょうね。
「最後まで、私と一緒にいてくれますか?」
物語の終わりは得てして悲しいものだけど、私の終わりは悲しい物にはしたくなかった。
幸せそうなみんなの笑顔を曇らせたくなくて、余命は道明様にだけこっそりと伝えた。
まるで共犯者みたいな、二人だけの秘密。
そして最後までみんなには気取られないように、作戦も二人で企てた。
「光来寺を発たれる、と?」
朝から大きい僧房に来てくれた田助は、当然ながら面食らっていた。
突然すぎる内容に、性急すぎる引き継ぎ。
それに理由だって明確じゃないんだから、当たり前なんだけど。
「あぁ、天子様よりご許可はいただいておる。時期尚早となりすまぬが、明日より住職の職はお主に譲ろう」
「理由をお聞きしても?」
「私には重すぎたのだ。分不相応なお役目に辟易してしまった」
田助の「何言ってんだこいつ」と言わんばかりの目が、道明様と私を行き来する。その後ろで伝六も目を白黒させていた。
そんな空気の流れを変えたのは、人生経験豊富な大先生の一言。
「何か成し遂げたい事でもできましたか?」
田助から少し離れた隣で、木村先生はいたずらに微笑んでいた。
まるで事情を知っているかのように平然と落ち着いて、道明様をまっすぐに見ていた。
「そのように大層な事ではございませぬ」
「ではようやくあなたの人生を生きる決意をされたのですかな?」
年長者の余裕の笑みに、道明様もよそ行きの笑顔で答えていた。
じゃれ合っているというよりは、木村先生が道明様を子ども扱いしているみたいな感じ?
相変わらず変わった関係性なのだという事だけは分かるけど。
「小瑠璃さんも一緒なんですよね?」
なんて、急に私を呼んだのは木村先生の隣の草順。
彼があんなにムッとした顔をしているのは珍しい。
「そうだよ」
「智久さんは?」
「ここに残ってもらうか、八ツ笠に戻ってもらうつもり」
「反対です。危険すぎます」
取り付く島もなく反対されて、ちょっと意外な感じ。
草順って安全面とかいちいち気にするタイプじゃなかったと思ってたけど・・・。
「小瑠璃の身でしたら、私がこの命に換えても守り抜きまする」
「そもそもそんな危険を冒す必要がないですよね?」
「左様にございまする。しかし私と妻の二人で決めた事にございますれば、ご容赦いただきたく」
「でも・・・っ」
「草順、夫婦の問題に口を挟むものではない」
「・・・はい」
明らかにムキになる草順を止めたのは、なんと木村先生で。
でも、そっか。
木村先生の息子になったから、息子として窘められてるのか。
かなりマイペースな彼が大人しく言うことを聞いてるのが新鮮で、笑いそうになってしまって、視線を外した。
外した先の晴彦と一松は、揃いも揃って俯いていた。
あの子達の話は、後で部屋でゆっくり聞いてあげた方がいいだろう。主に道明様が。
「もうお帰りにならない訳ではないのでございますよね?」
反対するわけでもなくただ確認してくれるお美代さんは、藍ちゃんを抱いていた。
可愛らしい寝息を立てる、藍ちゃんを。
「左様にございます。時折戻りますが、月に一度は文も出しましょう。消息は分かるよう務める所存にございまする」
「でしたら私からは何も。道中のご無事をお祈りしながらお帰りを待つのみにございますので」
流石は元私の侍女。
待つだけって結構大変なのに、不満のひとつも言わないでくれる。
それがお美代さんからの私への愛なんだなぁ。
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