聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

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最終章 因果が巡る先

第六十話 旅立ちの朝

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 集まった面々からの質疑は、ひと段落。
 なんて思った私にツッコミを入れたのは田助だった。
「承服しかねます」
 ムスッとした顔で、田助はそう言った。
 近頃の彼が、道明様に面と向かって反抗するのは珍しくて。
 でも私はお呼びじゃないだろうから、ただ成り行きを見守る事にした。
「光来寺の住職となれば、今や手習い所の運営や、寺子屋、託児所についても引き受けねばなりません。それを易々と引き渡すなど、有り得ません」
「それらは私がおらずとも良きようにしておろう」
「おらずとも済む故良いという話ではないのです。一度始めたのであらば、最後まで務めを果たしてくださいませ」
 草順に続き、田助も珍しく食い下がってきて驚き。
 住職になっても彼の仕事量はそこまで変わらないのに、それを分かっているはずなのに、どういう事だろうか?
二年ふたとせは務めを果たせと?」
「えぇ、少なくとも二年は、この光来寺の住職は貴方様にございます。例え、いらっしゃられずとも」
 非難だと思っていた言葉が、最後の最後で意味を変えた。
 相変わらずムスッとしてる田助だけど、あれってもしかして照れてる顔だったりする・・・?
「二年の間、光来寺にて起こる如何なる事も、貴方様の名の元に行われます。何かあれば貴方様の責となりましょう」
 ツンデレな言い方だけど、要は光来寺の評判は良い物も悪い物もすべて道明様への評判になるって事だ。
 功績を全て道明様のものにしてくれるって事だ。
 光来寺を去った後でも。
「そうか」
 道明様はそれだけ答えて目を閉じた。
 素直じゃない田助からの最大級の感謝。あの道明様であっても、不意打ちで食らったせいできっと想定外の感動しちゃってるんだろうなぁ。
 なんて思いながら、その隣で私はちょっとだけ笑っちゃったのだ。


 長期不在にするという事で、道明様は念のため仕事の引き継ぎをして回る事になった。
 そんな中届いた黒峰城からの、いや、吉家様からの荷は、予想以上の量だった。
 「いかなる治療」も行える印の桃の飾りや、学術院で使わせたいんであろう本や筆記具の山。
 同源先生が身に付けていたのと同じエプロンも何着かあったし、調薬に使うであろう道具もいくつかあった。
 同封されていたお手紙は木村先生宛てだったらしいので、一松に届けに行ってもらって、その間に私個人に宛てたであろう荷を確認してみた。
 一番上の小箱には、ピカピカの簪と櫛が入っていた。
 その下の大きな箱には、着物が入っていた。
 江戸城で選ばされたあの布だった。帯はなぜか二種類入っていた。
 どちらの帯も始めて見るものだったけど、吉家様が来ていた服と似たデザインだってすぐに分かった。
 この最高級であろう着物と帯を身に付ければ、あの人の隣にいても見劣りしないんであろうということも、何となく分かった。
 あっさり帰してくれたくせに、まだ諦めてくれる気はないらしい。
 あの人らしいと言えば、そうだけど。
「あれ?」
 着物が入っていた箱の隅に小さい箱を見つけて、手に取った。
 片手に納まるサイズの木箱。開けて見ると赤黒くて小さい、カラカラの実がいくつも入っていた。
 どう見ても薬に使うやつだろうけど、紛れ込んだのだろうか?
 珍しい植物なら草順が喜ぶだろうけど・・・後で渡しに行ってみようかな。


 そうやって、準備が終わった八月七日。
 七夕の日だった。
 前日はカンカン照りだったのに今日は薄曇りで、暑すぎなくてちょうどいい感じの天気だった。
 行きは急ぎだから馬に乗って、なるはやで京を目指す予定だった。
 京に着いたら、次は八ツ笠に行って、そしたら一度帰って来るというざっくりした旅程で、荷物も必要最小限で。
 七夕行事の参拝者さんの邪魔にならないように、日の出の直後に準備を終えた。
 道明様に続いて部屋を出ると、境内にみんながいた。
 晴彦や一松や田助やお美代さんや、光来寺のみんながいて。
 木村先生や草順や有助やお信さんや、新医療所のみんなもいて。
 朝早いのに藍ちゃんも栄太郎君も起きていて、笑っていて。
 ただ「長期旅行に行く」というような事しか伝えていないのに。
 「これが最後になるかも」なんて、一言も伝えていないのに。
 なのにみんなが、お見送りするためだけに待っててくれた。
 嬉しくて涙が出そうになる。でも笑ってやった。思い切り笑いながらみんなの方に駆け寄った。
「お体にはお気をつけて」
「先生もお気をつけて!」
 木村先生は、桃の飾りを掲げながらニッコリと微笑んでくれた。
 医師の育成は彼に任せておけば安心だろう。
「あれサネカズラでしたよ」
「薬?」
「にもなりますが・・・」
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