聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

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最終章 因果が巡る先

最終話 辿り着く未来

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 意味深な草順は、何故か手を差し出して来た。よく分からないまま握手をしたけど、何だか満足そうだった。
「珍しい薬見つけたら持って帰ってきてくださいね」
「うん、分かった」
 付き合いが長いわりに初握手だったのがなんだかこそばゆくて手を引っ込めると、草順は何とも言えない顔をしていた。
 その隣で、有助はニコニコだった。
「小瑠璃さまのごぶじをいのっております!」
「ありがとう。有助もお勉強頑張ってね」
「はい!」
 お返事も完璧なお利口さんの頭を、なでなでしてあげた。
 物覚えのいい有助が将来どんなお医者さんになるかは期待しかない。草順お父さんと木村おじいちゃんがいれば大成しないわけがないんだもの。
「小瑠璃様」
 有助の隣のお信さんは、さすがに悲しそうな顔をしてくれていた。
 可愛い後輩なのに結局あまり構ってあげられなかったから、ちょっと申し訳ないなぁ。
「次に戻られた時には、必ずや吉報をご報告いたしますね・・・!」
「吉報?」
 突然何を言い出すのか分からなかったけど、これ以上喋ったら泣いちゃいそうなのかお信さんは首を縦に振るだけだった。
 だからお信さんの頭も撫でてあげた。
 そして。
「あー」
 なんて可愛らしい声で呼んでくれたのは、お信さんの隣の、お美代さんの腕の中にいる藍ちゃん。
 目が合うと満足そうにニッコリして、賢い過ぎて天才過ぎる。
 ほわほわの髪を撫でると「んー」なんて嬉しそうな声を出すし、可愛いが過ぎて感無量だ。
「道明僧正様とのご旅行、楽しまれてきてくださいませ」
「お美代さんも、結婚する時は早めに教えてね」
「・・・はい」
 恋バナに恋バナで返したけど、こういう女子ならではの会話は楽しくて良いね。
 「結婚」の単語にモジモジするお美代さんの頭を撫でながら、間に合えばいいなぁなんて顔に出さずに考えていた。
 そして、栄太郎君とお富さん、お里さんにお春ちゃんに耕太君ともお別れを済ませると、道明様が隣に来てくれた。
 彼の方も、お別れが済んだらしい。お坊様ひとり一人に声をかけて回っていたはずだけど、男の人ってこういう時あっさり済ませることが多いからな。
「済んだか?」
「はい」
 道明様に答えてから、一松が引いてくれていた馬に乗った。
 道明様も晴彦が引いていた馬に乗って、準備は完璧だ。
 手綱を引いてもらいながら正門まで移動して、振り返るとたくさんの優しい顔がこちらを見ていた。
 またここに、必ず帰って来ようと思った。
 道明様を独り占めできる旅はきっと物凄く楽しいけれど、聖女の力が尽きていく姿をこの人たちにはできるだけ見せたくないけれど。
 それでも、またここに必ず帰って来ようと、そう思った。
 大きく手を振ってから、正門をくぐる。
 雲の切れ間から差し込む光が、これから向かう道の先を照らしていて、隣には道明様がいて。
 幸せが約束された旅路の始まりを踏み出した。
 大切な人たちの「行ってらっしゃい」を背中に受けながら。


------
 季節は冬。
 年が明け、寒さが僅かに緩み出す時分であった。
「住職様ー!昔のお話してー」
「してー!」
 託児所の子らが昔話を強請るは恒例と化しており、もはや私の務めの一つとも言えるほどであった。
「あぁ、良いぞ。何の話をしようか」
 縁側に腰掛ける私の両脇に、子らも尻を据える。
 我が子も幼い時分はこのように寄り添ってくれたが、昨今は一人前の顔をして独り寝をするようになったものだ。
「私聖女様のお話が良い!」
「えー、それ何回目だよ」
「だって私聖女様好きなんだもん」
「これ、喧嘩はよしなさい」
 やはり女児は小瑠璃様のお話が好きなようではあるが、男児は道明様のお話の方が好きであるようだ。
 私の上で小競り合おうと始めた子らを引き剥がし、先ず甘味でも配ってやろうかと厨の方へと視線をやる。
 と、明彦が困り顔で現れた。
「一松和尚様」
「どうした明彦」
「藍殿が産気づいたそうで、お美代様が着いておられるのですが・・・その」
 先程よりお美代が見当たらぬのはその為か。
 晴彦の子が生まれる折も八ツ笠まで手伝いに行っておったが、己が産んだ子より取り上げた子の方が多いとは、我が妻らしいな。
「栄太郎が立ち会うのだと聞かなくて、ですが藍殿が『また倒れるだろうから追い出してくれ』と」
「分かった、私が連れ出そう」
 かねてより藍殿の尻に敷かれている栄太郎だが、このような時は頑として聞かぬのは誰に似たのであろうか。
 そう言えば、道明様も存外そうであったやも知れぬな。
「昔話はおやつの後にしよう。明彦、子らを頼む」
「承知しました」
 腰を上げ伸びをすると僅かに背骨がポキリと鳴る。
 私ももう歳だ。道明様は最期まで若々しくあられたが、己はあのようにはいくまいな。
 しかしお美代は、皺ができようと少女のように可憐なままであると、常々思う。
「あ!あなた!早く!」
 あぁ、あのように、何時までも可憐であり、愛愛しいままであるのであろうな。
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