3 / 62
第一章 江戸城にて
第二話 再会
しおりを挟む
いつまでも立ち尽くしているだけじゃ、何も始まらない。
という事で、気持ち心配そうな智久さんに頷いてから足を動かした。
江戸の街の喧騒は、離れて見てても煩かったのに、近づくとより煩い。
江戸っ子ってやつなんだろうけど、みんな声がでかいんだよね。
客引きの声が大きいのは仕方ないとしても、あちこちから聞こえる明らかな世間話でさえもほぼ丸聞こえだ。
老若男女声がでかいし、そんな中でも眠ってる赤ちゃんも凄いし、犬もいれば猫もいるしで、まるでテーマパークみたい。
八ツ笠や鹿谷と違って農民はいなさそうだけど、お侍さんはそこそこいる。駕籠ももう十挺は見たから、色んな身分の人が混じってそうだ。
まだ城下町中央辺りなのに、生の「てやんでぃ」も「あたぼうよ」も聞けてしまった。時代劇好きの人がいたら歓喜するだろうけど・・・この衛生観念の低さは現代人には厳しそうだなぁ。
そんな風に江戸の街を物珍しく観察しながら歩き続ける事、一時間弱くらいかな?
江戸城はまだ先なのに、お堀を超えるための大きな門のところで止められてしまった。
「身元の分からぬ者を入れるわけにはいかぬ」
なんて言う警備の人は、ちゃんと仕事をしているちゃんとした人なんだと思う。
だってこちとら身分もなければ身元を保証できるものも持っていなくて、なのに帯刀している護衛を引き連れているのだ。
どう考えても、通せるわけもないのだ。
断られてしまったので脇にどいて、門を通過する人たちを眺めてみたけど、やっぱりみんな通行証みたいなのを持っているらしい。
そりゃあ、そうだよね・・・。
「『小瑠璃が来た』って伝えてくださいて言ったら伝えてくれると思います?」
「いえ」
「えー、どうしよう・・・」
「いつでも来い」なんて言われてたから、てっきりいつでも入れてくれるものなんだと思っていたけれど、冷静に考えればそんなはずはないという事に気づけたのに。
あの道明様ですら気づかなかったという事は、きっとみんな思考が鈍っていたんだろうなぁ・・・。
そして私の思考が鈍っているのは、今もだ。
「もうこれ行かなくてもいいかな」なんて後ろ向きな考えすら浮かんできて、さ迷わせた視線の先。
お堀の脇に出ている露店の、大きな寿司の姿に惹かれて、ちょっと一貫だけでも食べたいなぁなんて現実逃避し始めていた。
「小瑠璃殿」
智久さんの声に、驚いてそちらを見る。一瞬怒られたんじゃないかと思ったけど、違ったみたいだ。
微かな悩み顔の智久さんが目線で示す先を辿る。
先程抜けてきた賑やかな江戸の街。そこの、一本入った通りの方に目を逸らすと、少し久しぶりな人を見つけた。
すっかり忘れていたけど、そういえば彼も江戸に来るって言ってたっけ?
以前「刀は使えない」なんて言ってたけど、帯刀していて。一応だけど髪は結んでいて。そしてどこからどう見ても町人じゃないきちんとした格好で。
だと言うのに人懐こい笑みはそのままで、魚売りのおじちゃんと話をしている姿は、彼の社交性の高さもそのままなのだと言うのが分かった。
声をかけても良かったけど、遠目に彼の様子を観察する。
すると間もなく、やっぱり彼の方からこちらに気づいて駆け寄ってきてくれたのだ。
「その着物!見たことあると思ったらやっぱり小瑠璃じゃないかい!え、あんたどうしてここにいんのさ!」
江戸っ子に紛れても違和感のない騒々しさは、まぎれもない玄さんだった。
「もしかしてあたしを追いかけてきたのかい?って、んなことないだろうけど、わざわざ江戸まで何用だい?」
ほぼ二か月ぶりだけど、恰好以外は全く変わりがなくてつい笑ってしまう。
「ちょっと野暮用で」
「まぁた隠し事だね。でもあれだろ、ここにいるって事は江戸城に用事があんだろ?」
「・・・そう、ですけど」
ふと、玄さんが「大きな事」をしに江戸に行くと言っていたのを思い出してしまった。
あと、占いのおばあちゃんに「国を動かす」みたいな事を言われていた事も。
重ねて言えば、彼のこの身元がちゃんとしてますよという感じの風体。
・・・嫌な予感しかしないな。
「じゃああたしが一緒に行ったげるよ」
「え、玄さん登城できるんですか?」
「ちょっとちょっとちょっと!あたしの家名!教えたろ!ひょっとしてあんた、調べなかったのかい?!」
「調べるって?」
「あたしがどこのどいつかってやつをだよ!」
玄さんの本名って・・・平原だったっけ?
もしかして有名人だったんだろうか?
でも彼、最初の頃名前嫌がってたし、人の素性を勝手に調べるなんて失礼な事、普通しないと思うんだけど。
道明様じゃあるまいし。
という事で、気持ち心配そうな智久さんに頷いてから足を動かした。
江戸の街の喧騒は、離れて見てても煩かったのに、近づくとより煩い。
江戸っ子ってやつなんだろうけど、みんな声がでかいんだよね。
客引きの声が大きいのは仕方ないとしても、あちこちから聞こえる明らかな世間話でさえもほぼ丸聞こえだ。
老若男女声がでかいし、そんな中でも眠ってる赤ちゃんも凄いし、犬もいれば猫もいるしで、まるでテーマパークみたい。
八ツ笠や鹿谷と違って農民はいなさそうだけど、お侍さんはそこそこいる。駕籠ももう十挺は見たから、色んな身分の人が混じってそうだ。
まだ城下町中央辺りなのに、生の「てやんでぃ」も「あたぼうよ」も聞けてしまった。時代劇好きの人がいたら歓喜するだろうけど・・・この衛生観念の低さは現代人には厳しそうだなぁ。
そんな風に江戸の街を物珍しく観察しながら歩き続ける事、一時間弱くらいかな?
江戸城はまだ先なのに、お堀を超えるための大きな門のところで止められてしまった。
「身元の分からぬ者を入れるわけにはいかぬ」
なんて言う警備の人は、ちゃんと仕事をしているちゃんとした人なんだと思う。
だってこちとら身分もなければ身元を保証できるものも持っていなくて、なのに帯刀している護衛を引き連れているのだ。
どう考えても、通せるわけもないのだ。
断られてしまったので脇にどいて、門を通過する人たちを眺めてみたけど、やっぱりみんな通行証みたいなのを持っているらしい。
そりゃあ、そうだよね・・・。
「『小瑠璃が来た』って伝えてくださいて言ったら伝えてくれると思います?」
「いえ」
「えー、どうしよう・・・」
「いつでも来い」なんて言われてたから、てっきりいつでも入れてくれるものなんだと思っていたけれど、冷静に考えればそんなはずはないという事に気づけたのに。
あの道明様ですら気づかなかったという事は、きっとみんな思考が鈍っていたんだろうなぁ・・・。
そして私の思考が鈍っているのは、今もだ。
「もうこれ行かなくてもいいかな」なんて後ろ向きな考えすら浮かんできて、さ迷わせた視線の先。
お堀の脇に出ている露店の、大きな寿司の姿に惹かれて、ちょっと一貫だけでも食べたいなぁなんて現実逃避し始めていた。
「小瑠璃殿」
智久さんの声に、驚いてそちらを見る。一瞬怒られたんじゃないかと思ったけど、違ったみたいだ。
微かな悩み顔の智久さんが目線で示す先を辿る。
先程抜けてきた賑やかな江戸の街。そこの、一本入った通りの方に目を逸らすと、少し久しぶりな人を見つけた。
すっかり忘れていたけど、そういえば彼も江戸に来るって言ってたっけ?
以前「刀は使えない」なんて言ってたけど、帯刀していて。一応だけど髪は結んでいて。そしてどこからどう見ても町人じゃないきちんとした格好で。
だと言うのに人懐こい笑みはそのままで、魚売りのおじちゃんと話をしている姿は、彼の社交性の高さもそのままなのだと言うのが分かった。
声をかけても良かったけど、遠目に彼の様子を観察する。
すると間もなく、やっぱり彼の方からこちらに気づいて駆け寄ってきてくれたのだ。
「その着物!見たことあると思ったらやっぱり小瑠璃じゃないかい!え、あんたどうしてここにいんのさ!」
江戸っ子に紛れても違和感のない騒々しさは、まぎれもない玄さんだった。
「もしかしてあたしを追いかけてきたのかい?って、んなことないだろうけど、わざわざ江戸まで何用だい?」
ほぼ二か月ぶりだけど、恰好以外は全く変わりがなくてつい笑ってしまう。
「ちょっと野暮用で」
「まぁた隠し事だね。でもあれだろ、ここにいるって事は江戸城に用事があんだろ?」
「・・・そう、ですけど」
ふと、玄さんが「大きな事」をしに江戸に行くと言っていたのを思い出してしまった。
あと、占いのおばあちゃんに「国を動かす」みたいな事を言われていた事も。
重ねて言えば、彼のこの身元がちゃんとしてますよという感じの風体。
・・・嫌な予感しかしないな。
「じゃああたしが一緒に行ったげるよ」
「え、玄さん登城できるんですか?」
「ちょっとちょっとちょっと!あたしの家名!教えたろ!ひょっとしてあんた、調べなかったのかい?!」
「調べるって?」
「あたしがどこのどいつかってやつをだよ!」
玄さんの本名って・・・平原だったっけ?
もしかして有名人だったんだろうか?
でも彼、最初の頃名前嫌がってたし、人の素性を勝手に調べるなんて失礼な事、普通しないと思うんだけど。
道明様じゃあるまいし。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
異世界で王城生活~陛下の隣で~
遥
恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。
グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます!
※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。
※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる