聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

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第一章 江戸城にて

第二話 再会

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 いつまでも立ち尽くしているだけじゃ、何も始まらない。
 という事で、気持ち心配そうな智久さんに頷いてから足を動かした。
 江戸の街の喧騒は、離れて見てても煩かったのに、近づくとより煩い。
 江戸っ子ってやつなんだろうけど、みんな声がでかいんだよね。
 客引きの声が大きいのは仕方ないとしても、あちこちから聞こえる明らかな世間話でさえもほぼ丸聞こえだ。
 老若男女声がでかいし、そんな中でも眠ってる赤ちゃんも凄いし、犬もいれば猫もいるしで、まるでテーマパークみたい。
 八ツ笠や鹿谷と違って農民はいなさそうだけど、お侍さんはそこそこいる。駕籠かごももう十挺じゅっちょうは見たから、色んな身分の人が混じってそうだ。
 まだ城下町中央辺りなのに、生の「てやんでぃ」も「あたぼうよ」も聞けてしまった。時代劇好きの人がいたら歓喜するだろうけど・・・この衛生観念の低さは現代人には厳しそうだなぁ。
 そんな風に江戸の街を物珍しく観察しながら歩き続ける事、一時間弱くらいかな?
 江戸城はまだ先なのに、お堀を超えるための大きな門のところで止められてしまった。
「身元の分からぬ者を入れるわけにはいかぬ」
 なんて言う警備の人は、ちゃんと仕事をしているちゃんとした人なんだと思う。
 だってこちとら身分もなければ身元を保証できるものも持っていなくて、なのに帯刀している護衛を引き連れているのだ。
 どう考えても、通せるわけもないのだ。
 断られてしまったので脇にどいて、門を通過する人たちを眺めてみたけど、やっぱりみんな通行証みたいなのを持っているらしい。
 そりゃあ、そうだよね・・・。
「『小瑠璃が来た』って伝えてくださいて言ったら伝えてくれると思います?」
「いえ」
「えー、どうしよう・・・」
 「いつでも来い」なんて言われてたから、てっきりいつでも入れてくれるものなんだと思っていたけれど、冷静に考えればそんなはずはないという事に気づけたのに。
 あの道明様ですら気づかなかったという事は、きっとみんな思考が鈍っていたんだろうなぁ・・・。
 そして私の思考が鈍っているのは、今もだ。
 「もうこれ行かなくてもいいかな」なんて後ろ向きな考えすら浮かんできて、さ迷わせた視線の先。
 お堀の脇に出ている露店の、大きな寿司の姿に惹かれて、ちょっと一貫だけでも食べたいなぁなんて現実逃避し始めていた。
「小瑠璃殿」
 智久さんの声に、驚いてそちらを見る。一瞬怒られたんじゃないかと思ったけど、違ったみたいだ。
 微かな悩み顔の智久さんが目線で示す先を辿る。
 先程抜けてきた賑やかな江戸の街。そこの、一本入った通りの方に目を逸らすと、少し久しぶりな人を見つけた。
 すっかり忘れていたけど、そういえば彼も江戸に来るって言ってたっけ?
 以前「刀は使えない」なんて言ってたけど、帯刀していて。一応だけど髪は結んでいて。そしてどこからどう見ても町人じゃないきちんとした格好で。
 だと言うのに人懐こい笑みはそのままで、魚売りのおじちゃんと話をしている姿は、彼の社交性の高さもそのままなのだと言うのが分かった。
 声をかけても良かったけど、遠目に彼の様子を観察する。
 すると間もなく、やっぱり彼の方からこちらに気づいて駆け寄ってきてくれたのだ。
「その着物!見たことあると思ったらやっぱり小瑠璃じゃないかい!え、あんたどうしてここにいんのさ!」
 江戸っ子に紛れても違和感のない騒々しさは、まぎれもない玄さんだった。
「もしかしてあたしを追いかけてきたのかい?って、んなことないだろうけど、わざわざ江戸まで何用だい?」
 ほぼ二か月ぶりだけど、恰好以外は全く変わりがなくてつい笑ってしまう。
「ちょっと野暮用で」
「まぁた隠し事だね。でもあれだろ、ここにいるって事は江戸城に用事があんだろ?」
「・・・そう、ですけど」
 ふと、玄さんが「大きな事」をしに江戸に行くと言っていたのを思い出してしまった。
 あと、占いのおばあちゃんに「国を動かす」みたいな事を言われていた事も。
 重ねて言えば、彼のこの身元がちゃんとしてますよという感じの風体。
 ・・・嫌な予感しかしないな。
「じゃああたしが一緒に行ったげるよ」
「え、玄さん登城できるんですか?」
「ちょっとちょっとちょっと!あたしの家名!教えたろ!ひょっとしてあんた、調べなかったのかい?!」
「調べるって?」
「あたしがどこのどいつかってやつをだよ!」
 玄さんの本名って・・・平原ヒラハラだったっけ?
 もしかして有名人だったんだろうか?
 でも彼、最初の頃名前嫌がってたし、人の素性を勝手に調べるなんて失礼な事、普通しないと思うんだけど。
 道明様じゃあるまいし。
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