勇者さまは女の子

藤ノ千里

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3.貿易都市ソアラ

(18)引き返すという選択肢

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 コーダンが連れて行ってくれたのは、大きな掲示板がある広場の隅の方だった。
 縁石に座るよう促されて、お行儀悪いのを我慢して座った。しかもコーダン距離が近い。男同士とは言え、これは他人の距離ではないだろう。
 思わず不満が顔に出る。
 そんな私を見て、コーダンは変な顔をしながら口を開いた。
「言っとくが、パーティメンバーなら普通の距離感だぞ」
「え、そうなの?」
「ちなみに、いちおここに座ったが地べたに座るのも普通だ」
「えー!」
 確かによく見ると、周りには地面に座り込んでいる人が何組もいる。
 しかも、地面に座って、ご飯を食べている??
 信じられない。うちの侍女頭が見たら卒倒しそうだ。
「で、なんで貴族か分かったかって話だが」
 今のやり取りで薄々分かってしまったが、一応聞いておく。参考までに。
「あんな高級店の目の前を歩くのは貴族だけだ」
 先ほど歩いていた所の話か。道の向こうは人が多いから少ないところを歩いていたけど、あそこ高級店だったのか・・・。
「あと、ダンジョンでは仕方ないが、街中では知り合い同士は固まって歩くんだよ」
「固まって?」
「こんくらいの距離感で、はぐれねぇように」
「近くない?」
「近くない。てか、お前のは従者を従えてる貴族の距離」
「あ」
 言われてみれば、確かにそうだ。
 屋敷では隣で歩くのはお父様とお母様だけで、他のみんなは私の後ろを歩いていた。だからコーダンが同じように歩いていても違和感を感じなかったのだ。
 そうか、町の人は家族の距離感で歩くのか。
 男の姿だから男らしくとは思っていたけど、思わぬ所に落とし穴があったとは。
 コーダンに、貴族だと、バレてしまった。
 いや、でも、待てよ。この言い方だと、さすがに誰の子どもかという事と、性別まではバレていないということだから・・・。
「もし僕が貴族だったとして、コーダンはどうするつもり?」
 見上げるように伺うと、困った顔で頭を搔くコーダン。
「途中でビビってくれりゃあ楽だったんだけどな」
「無理矢理連れて帰られたら『この人に攫われました』って言っちゃうかも」
「勘弁してくれ」
 はぁという大きなため息。困り顔のままコーダンは変な顔をして、そしてまたため息をついた。
「家出か?」
「そんな感じ」
「親は?」
「探してるとは思うけど書き置きしてきたから多分大丈夫」
「多分かよ」
 多分というのはお父様が過保護だからだ。お母様は普通に帰りを待っていてくれると思うが、お父様は何をするか分からない。
 魔王の討伐準備があるはずだから、軍隊を率いて探しに来るなんて事はないと思うけど、指名手配みたいに探される可能性はなくもない。
 性別が違うから見つかりようがないけどね。
「もし連れ帰られてもそこまでの報酬は払うよ?」
「そういう事じゃなくてだな」
 また、ため息。
 コーダンって心配性過ぎてちょっとお父様みたいだ。
「お前がもし大怪我でもしたら親が悲しむだろ」
 心配性過ぎ、って訳でもないのか。
 冒険者歴が長いコーダンの心配は、現実味を帯びている。見当はずれじゃなくて、ごく具体的に私の身を案じてくれているのだ。
「分かってるよ。でも、今じゃないと駄目なの」
 冒険を続ければ戦闘も増えるだろうし、魔族の土地では魔獣やそれこそ魔族だっているのだ、難しい戦闘だってあるだろう。当然怪我もする、しかも負けてしまえば大怪我をするってだけじゃない、もしかしたら死ぬかもしれない。
 蘇生も、できないかもしれない。
「私は勇者になりたいの。それには今しかチャンスがないの」
 それでも、危険を犯してでも、旅に出た。
 それは、夢にまで見たチャンスが目の前にあったからだ。
 これを逃すと死ぬまで後悔し続けると、思ったからだ。
「だからお願い。私と一緒に来て」
 本気度を伝えるためにコーダンの目を見つめた。魔力がない人特有の土煙色の目。筋骨隆々とした体といかつい顔の割に、優しい目だ。
 見つめること数分。コーダンは唐突に目を逸らすと、いつもより乱暴に頭を搔いて、それから立ち上がった。
「あー!分かったよ!その代わり、俺が無理だと判断したら無理矢理引き返させるぞ!」
「うん!」
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