67 / 100
67 アーサーの告白【アイザック視点】
しおりを挟む
今日は親父と一緒にスティアート家に婚約の挨拶に来ている。
リリーの両親に認めてもらい、俺は幸せだった。あとは……説得しなければいけないのは弟のアーサーだけ。リリーと結婚する以上、彼女の家族みんなに祝福して欲しい。
「僕がもう少し大きかったらリリーを守れるのに! 僕がもう少しだけ……大きかったら……お前なんてリリーとたまたま同じ歳で、たまたま幼馴染に産まれただけのくせに! ずるいよ」
――アーサーは『姉』ではなく『女性』として彼女のことが好きなのか。
彼は泣き叫びながら、部屋を出ていった。リリーが彼を追いかけようとしたが、それを止める。ここは……俺が話をしなければいけない。
「アーサー! 待てっ」
「うるさいっ……付いてくるな」
彼はなかなか足が速く、裏の森に逃げていく。だが、俺の運動神経舐めんなよ! 絶対追いついてやる。
ジリジリと距離を縮め、アーサーの腕を引っ張って無理矢理こちらを向かせる。
はぁ……はぁ、はぁ……
やっと捕まえることができた。お互い汗だくで息がかなり切れている。
「俺から逃げ切れると思うなよ」
「……なんでお前が来るんだよ」
アーサーは拗ねたように口を尖らせながら、大きな木の下にずるずると座り込んだ。それを見て俺もその隣に腰掛けた。
「リリーに来て欲しかったんだろ?」
「……」
「そうはいくかよ」
「……」
「リリーならお前を慰めて優しくしてくれるだろうけど、そんなの意味ないだろ? 一瞬だけ嬉しくて、あとは虚しくなるだけだ」
「そんなこと……わかってる」
そう、頭の良いアーサーはきっとそんなことはわかっている。でも……それでもリリーに甘えたいのだ。
「リリーのこと好きなんだ。姉様としてじゃない。本当に……好き」
「そうか」
「弟のくせにおかしいって笑わないのかよ?」
彼は自虐的にそう言って目を伏せた。
「今までは確かに揶揄ったりもしたけど、お前が本気なら笑わねえよ。俺も同じ女が好きなんだから気持ちはわかる」
「……」
「いつからだ?」
「一年前くらいから。もちろんそれまでも姉様として好きだったけど……ある時、学校の友人が婚約者と初めてキスしたって話を聞いたんだ。そしたら、その夜に何故か僕はリリーとキスしてる夢をみてしまって。僕は彼女が好きなんだと気が付いた」
俺はそれを聞いて何となくムカついて、アーサーを殴った。
「なにエロい想像してんだ」
「痛ったいな……年頃の男なら普通だろ! お前だって色々妄想してるくせに」
「……まぁな」
気まずさから目を逸らしてしまった。アーサーを殴ったが、俺はリリーで人様には言えないようなもっと先の想像までしてしまったこともある……思春期の健全な男なのだから仕方ない。
「でも実の姉に異性としての好意を抱くなんて、自分が気持ち悪いと思った。悩んだけど誰にも言えなかった。それにリリーは純粋で綺麗なのに、僕はこんな邪な感情を持って接していて申し訳ないなって苦しんでた」
「辛かったな」
「だから、従姉弟だって聞いてすごく嬉しかった」
「……」
「もう好きなこと隠さなくていいんだ! 変なことじゃなかったんだって! きっと弟じゃないって、心のどこかで気が付いていたからリリーを好きだったんだって思った」
「そうか」
俺はアーサーが本当にリリーを好きなのだということが、痛いほどわかった。
「リリーってとっても優しいからさ。辛い時はいつも励ましてくれて、抱きしめてくれて、大丈夫って言ってくれた。それなのに、なんの見返りも要求せずに僕は僕のままで良いって言ってくれるんだ。こんなの好きにならないわけないよ」
「……わかるよ。俺もずっと彼女に救われてる」
彼女はいつも優しくて温かい。俺はアーサーがリリーを好きになった理由は、自分がリリーを好きになった理由と同じだと感じていた。
「あと、単純に顔も可愛いし」
「美人でもあるよな」
「スタイルもいいよね。胸はふかふかなのに、腰はキュッと細いし」
「わかるけど。胸って……やっぱりお前、エロガキだな」
「ブロンドのサラサラ髪も好き」
「ラベンダー色の綺麗な瞳もな」
「笑った顔とか堪らないよね」
「ああ、笑顔は最強だ」
「……」
「……」
「僕はずっとお前とは気が合わないと思ってたけど、リリーのことについては分かり合える気がする」
「俺もそう思った」
アーサーはクスクスと笑い出し、はぁとため息をついて地面に背中をつけて寝転がった。
「あーあ……本当にお前はずるいよ。リリーと幼馴染なんて。僕は遅く生まれすぎた」
「お前が幼馴染だとしても、俺が嫁に貰うに決まってるだろ」
「はっ、馬鹿じゃないの。僕の方が顔が良いし、優しいしお前なんか運が良いだけだ」
「なんだと?」
「……でも、今の僕じゃリリーを守れないのはわかる。僕はまだ『好きだと名乗り出てもいい』スタートラインにすら立ててないんだ。リリーの実母の最期を聞いて、女神の危険性とそれを守る意味がわからないほど僕は子どもじゃない」
「アーサー……」
彼は勢いよく体を起こして、一気に立ち上がった。
「リリーを泣かしたら絶対に許さないから、義兄さん」
彼が兄と呼んでくれたことに俺は驚いた。
「アーサー……認めてくれるのか?」
「仕方ないから」
「ありがとう。絶対に彼女を大事にする」
俺はアーサーに頭を下げた。するとアーサーから弱々しい声が返ってきた。
「なあ……」
「なんだ?」
「二人に迷惑はかけないからさ……もう少しだけ勝手に好きでいていい?」
俺はその掠れた声を聞いて、ぎゅっと胸が締め付けられるように苦しくなった。
「……ああ、もちろんだ」
アーサーがフッと哀し気に笑った姿は、子どもではなくしっかりと『男』の顔で少し戸惑った。
俺はガシガシと彼の頭を撫で「戻ろう」と声をかけた。
リリーの両親に認めてもらい、俺は幸せだった。あとは……説得しなければいけないのは弟のアーサーだけ。リリーと結婚する以上、彼女の家族みんなに祝福して欲しい。
「僕がもう少し大きかったらリリーを守れるのに! 僕がもう少しだけ……大きかったら……お前なんてリリーとたまたま同じ歳で、たまたま幼馴染に産まれただけのくせに! ずるいよ」
――アーサーは『姉』ではなく『女性』として彼女のことが好きなのか。
彼は泣き叫びながら、部屋を出ていった。リリーが彼を追いかけようとしたが、それを止める。ここは……俺が話をしなければいけない。
「アーサー! 待てっ」
「うるさいっ……付いてくるな」
彼はなかなか足が速く、裏の森に逃げていく。だが、俺の運動神経舐めんなよ! 絶対追いついてやる。
ジリジリと距離を縮め、アーサーの腕を引っ張って無理矢理こちらを向かせる。
はぁ……はぁ、はぁ……
やっと捕まえることができた。お互い汗だくで息がかなり切れている。
「俺から逃げ切れると思うなよ」
「……なんでお前が来るんだよ」
アーサーは拗ねたように口を尖らせながら、大きな木の下にずるずると座り込んだ。それを見て俺もその隣に腰掛けた。
「リリーに来て欲しかったんだろ?」
「……」
「そうはいくかよ」
「……」
「リリーならお前を慰めて優しくしてくれるだろうけど、そんなの意味ないだろ? 一瞬だけ嬉しくて、あとは虚しくなるだけだ」
「そんなこと……わかってる」
そう、頭の良いアーサーはきっとそんなことはわかっている。でも……それでもリリーに甘えたいのだ。
「リリーのこと好きなんだ。姉様としてじゃない。本当に……好き」
「そうか」
「弟のくせにおかしいって笑わないのかよ?」
彼は自虐的にそう言って目を伏せた。
「今までは確かに揶揄ったりもしたけど、お前が本気なら笑わねえよ。俺も同じ女が好きなんだから気持ちはわかる」
「……」
「いつからだ?」
「一年前くらいから。もちろんそれまでも姉様として好きだったけど……ある時、学校の友人が婚約者と初めてキスしたって話を聞いたんだ。そしたら、その夜に何故か僕はリリーとキスしてる夢をみてしまって。僕は彼女が好きなんだと気が付いた」
俺はそれを聞いて何となくムカついて、アーサーを殴った。
「なにエロい想像してんだ」
「痛ったいな……年頃の男なら普通だろ! お前だって色々妄想してるくせに」
「……まぁな」
気まずさから目を逸らしてしまった。アーサーを殴ったが、俺はリリーで人様には言えないようなもっと先の想像までしてしまったこともある……思春期の健全な男なのだから仕方ない。
「でも実の姉に異性としての好意を抱くなんて、自分が気持ち悪いと思った。悩んだけど誰にも言えなかった。それにリリーは純粋で綺麗なのに、僕はこんな邪な感情を持って接していて申し訳ないなって苦しんでた」
「辛かったな」
「だから、従姉弟だって聞いてすごく嬉しかった」
「……」
「もう好きなこと隠さなくていいんだ! 変なことじゃなかったんだって! きっと弟じゃないって、心のどこかで気が付いていたからリリーを好きだったんだって思った」
「そうか」
俺はアーサーが本当にリリーを好きなのだということが、痛いほどわかった。
「リリーってとっても優しいからさ。辛い時はいつも励ましてくれて、抱きしめてくれて、大丈夫って言ってくれた。それなのに、なんの見返りも要求せずに僕は僕のままで良いって言ってくれるんだ。こんなの好きにならないわけないよ」
「……わかるよ。俺もずっと彼女に救われてる」
彼女はいつも優しくて温かい。俺はアーサーがリリーを好きになった理由は、自分がリリーを好きになった理由と同じだと感じていた。
「あと、単純に顔も可愛いし」
「美人でもあるよな」
「スタイルもいいよね。胸はふかふかなのに、腰はキュッと細いし」
「わかるけど。胸って……やっぱりお前、エロガキだな」
「ブロンドのサラサラ髪も好き」
「ラベンダー色の綺麗な瞳もな」
「笑った顔とか堪らないよね」
「ああ、笑顔は最強だ」
「……」
「……」
「僕はずっとお前とは気が合わないと思ってたけど、リリーのことについては分かり合える気がする」
「俺もそう思った」
アーサーはクスクスと笑い出し、はぁとため息をついて地面に背中をつけて寝転がった。
「あーあ……本当にお前はずるいよ。リリーと幼馴染なんて。僕は遅く生まれすぎた」
「お前が幼馴染だとしても、俺が嫁に貰うに決まってるだろ」
「はっ、馬鹿じゃないの。僕の方が顔が良いし、優しいしお前なんか運が良いだけだ」
「なんだと?」
「……でも、今の僕じゃリリーを守れないのはわかる。僕はまだ『好きだと名乗り出てもいい』スタートラインにすら立ててないんだ。リリーの実母の最期を聞いて、女神の危険性とそれを守る意味がわからないほど僕は子どもじゃない」
「アーサー……」
彼は勢いよく体を起こして、一気に立ち上がった。
「リリーを泣かしたら絶対に許さないから、義兄さん」
彼が兄と呼んでくれたことに俺は驚いた。
「アーサー……認めてくれるのか?」
「仕方ないから」
「ありがとう。絶対に彼女を大事にする」
俺はアーサーに頭を下げた。するとアーサーから弱々しい声が返ってきた。
「なあ……」
「なんだ?」
「二人に迷惑はかけないからさ……もう少しだけ勝手に好きでいていい?」
俺はその掠れた声を聞いて、ぎゅっと胸が締め付けられるように苦しくなった。
「……ああ、もちろんだ」
アーサーがフッと哀し気に笑った姿は、子どもではなくしっかりと『男』の顔で少し戸惑った。
俺はガシガシと彼の頭を撫で「戻ろう」と声をかけた。
100
あなたにおすすめの小説
〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。
藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。
どうして、こんなことになってしまったんだろう……。
私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。
そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した……
はずだった。
目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全11話で完結になります。
〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…
藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。
契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。
そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。
設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全9話で完結になります。
〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……
藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」
大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが……
ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。
「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」
エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。
エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話)
全44話で完結になります。
〖完結〗旦那様はどうしようもないですね。
藍川みいな
恋愛
愛人を作り、メイドにまで手を出す旦那様。
我慢の限界を迎えた時、旦那様から離婚だ! 出て行け! と言われました。
この邸はお父様のものですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全3話で完結になります。
〖完結〗時戻りしたので、運命を変えることにします。
藍川みいな
恋愛
愛するグレッグ様と結婚して、幸せな日々を過ごしていた。
ある日、カフェでお茶をしていると、暴走した馬車が突っ込んで来た。とっさに彼を庇った私は、視力を失ってしまう。
目が見えなくなってしまった私の目の前で、彼は使用人とキスを交わしていた。その使用人は、私の親友だった。
気付かれていないと思った二人の行為はエスカレートしていき、私の前で、私のベッドで愛し合うようになっていった。
それでもいつか、彼は戻って来てくれると信じて生きて来たのに、親友に毒を盛られて死んでしまう。
……と思ったら、なぜか事故に会う前に時が戻っていた。
絶対に同じ間違いはしない。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全四話で完結になります。
〖完結〗その愛、お断りします。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った……
彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。
邪魔なのは、私だ。
そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。
「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。
冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない!
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?
藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。
目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。
前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。
前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない!
そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる