【完結】8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。

大森 樹

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67 アーサーの告白【アイザック視点】

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 今日は親父と一緒にスティアート家に婚約の挨拶に来ている。

 リリーの両親に認めてもらい、俺は幸せだった。あとは……説得しなければいけないのは弟のアーサーだけ。リリーと結婚する以上、彼女の家族みんなに祝福して欲しい。

「僕がもう少し大きかったらリリーを守れるのに! 僕がもう少しだけ……大きかったら……お前なんてリリーとたまたま同じ歳で、たまたま幼馴染に産まれただけのくせに! ずるいよ」

 ――アーサーは『姉』ではなく『女性』として彼女のことが好きなのか。

 彼は泣き叫びながら、部屋を出ていった。リリーが彼を追いかけようとしたが、それを止める。ここは……俺が話をしなければいけない。

「アーサー! 待てっ」
「うるさいっ……付いてくるな」

 彼はなかなか足が速く、裏の森に逃げていく。だが、俺の運動神経舐めんなよ! 絶対追いついてやる。

 ジリジリと距離を縮め、アーサーの腕を引っ張って無理矢理こちらを向かせる。

 はぁ……はぁ、はぁ……

 やっと捕まえることができた。お互い汗だくで息がかなり切れている。

「俺から逃げ切れると思うなよ」
「……なんでお前が来るんだよ」

 アーサーは拗ねたように口を尖らせながら、大きな木の下にずるずると座り込んだ。それを見て俺もその隣に腰掛けた。

「リリーに来て欲しかったんだろ?」
「……」
「そうはいくかよ」
「……」
「リリーならお前を慰めて優しくしてくれるだろうけど、そんなの意味ないだろ? 一瞬だけ嬉しくて、あとは虚しくなるだけだ」
「そんなこと……わかってる」

 そう、頭の良いアーサーはきっとそんなことはわかっている。でも……それでもリリーに甘えたいのだ。

「リリーのこと好きなんだ。姉様としてじゃない。本当に……好き」
「そうか」
「弟のくせにおかしいって笑わないのかよ?」

 彼は自虐的にそう言って目を伏せた。

「今までは確かに揶揄ったりもしたけど、お前が本気なら笑わねえよ。俺も同じ女が好きなんだから気持ちはわかる」
「……」
「いつからだ?」
「一年前くらいから。もちろんそれまでも姉様として好きだったけど……ある時、学校の友人が婚約者と初めてキスしたって話を聞いたんだ。そしたら、その夜に何故か僕はリリーとキスしてる夢をみてしまって。僕は彼女が好きなんだと気が付いた」

 俺はそれを聞いて何となくムカついて、アーサーを殴った。

「なにエロい想像してんだ」
「痛ったいな……年頃の男なら普通だろ! お前だって色々妄想してるくせに」
「……まぁな」

 気まずさから目を逸らしてしまった。アーサーを殴ったが、俺はリリーで人様には言えないようなもっと先の想像までしてしまったこともある……思春期の健全な男なのだから仕方ない。

「でも実の姉に異性としての好意を抱くなんて、自分が気持ち悪いと思った。悩んだけど誰にも言えなかった。それにリリーは純粋で綺麗なのに、僕はこんな邪な感情を持って接していて申し訳ないなって苦しんでた」
「辛かったな」
「だから、従姉弟だって聞いてすごく嬉しかった」
「……」
「もう好きなこと隠さなくていいんだ! 変なことじゃなかったんだって! きっと弟じゃないって、心のどこかで気が付いていたからリリーを好きだったんだって思った」
「そうか」

 俺はアーサーが本当にリリーを好きなのだということが、痛いほどわかった。

「リリーってとっても優しいからさ。辛い時はいつも励ましてくれて、抱きしめてくれて、大丈夫って言ってくれた。それなのに、なんの見返りも要求せずに僕は僕のままで良いって言ってくれるんだ。こんなの好きにならないわけないよ」
「……わかるよ。俺もずっと彼女に救われてる」

 彼女はいつも優しくて温かい。俺はアーサーがリリーを好きになった理由は、自分がリリーを好きになった理由と同じだと感じていた。

「あと、単純に顔も可愛いし」
「美人でもあるよな」
「スタイルもいいよね。胸はふかふかなのに、腰はキュッと細いし」
「わかるけど。胸って……やっぱりお前、エロガキだな」
「ブロンドのサラサラ髪も好き」
「ラベンダー色の綺麗な瞳もな」
「笑った顔とか堪らないよね」
「ああ、笑顔は最強だ」

「……」
「……」

「僕はずっとお前とは気が合わないと思ってたけど、リリーのことについては分かり合える気がする」
「俺もそう思った」

 アーサーはクスクスと笑い出し、はぁとため息をついて地面に背中をつけて寝転がった。

「あーあ……本当にお前はずるいよ。リリーと幼馴染なんて。僕は遅く生まれすぎた」
「お前が幼馴染だとしても、俺が嫁に貰うに決まってるだろ」
「はっ、馬鹿じゃないの。僕の方が顔が良いし、優しいしお前なんか運が良いだけだ」
「なんだと?」
「……でも、今の僕じゃリリーを守れないのはわかる。僕はまだ『好きだと名乗り出てもいい』スタートラインにすら立ててないんだ。リリーの実母の最期を聞いて、女神ヴィーナスの危険性とそれを守る意味がわからないほど僕は子どもじゃない」
「アーサー……」

 彼は勢いよく体を起こして、一気に立ち上がった。

「リリーを泣かしたら絶対に許さないから、

 彼が兄と呼んでくれたことに俺は驚いた。

「アーサー……認めてくれるのか?」
「仕方ないから」
「ありがとう。絶対に彼女を大事にする」

 俺はアーサーに頭を下げた。するとアーサーから弱々しい声が返ってきた。

「なあ……」
「なんだ?」
「二人に迷惑はかけないからさ……もう少しだけ勝手に好きでいていい?」

 俺はその掠れた声を聞いて、ぎゅっと胸が締め付けられるように苦しくなった。

「……ああ、もちろんだ」

 アーサーがフッと哀し気に笑った姿は、子どもではなくしっかりと『男』の顔で少し戸惑った。

 俺はガシガシと彼の頭を撫で「戻ろう」と声をかけた。




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