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95 先生【アイザック視点】
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卒業して結婚式もあと少し。俺はリリーと暮らす新しい生活に胸を高鳴らせている。
そんな順風満帆な俺たちだが、リリーが「今度、我が家でサムと会うの。ザックも来れない?」ととんでもない発言をしてきた。
サムさんは彼女の初恋の相手。彼が結婚したことは知っているし、今のリリーは彼ではなく俺のことが好きなことは間違いない。決して疑っているわけではない。
しかし、頭ではわかっているがどうしても気になる相手なのだ。なぜならリリーは昔からもてていたが、自ら好きになったのはサムさんだけなことは事実だから。
「悪いが、その日は用事があって行けそうにない。リリーはサムさんとゆっくり話しておいで。よろしく伝えておいてくれ」
「わかったわ。残念だけど仕方がないわね」
リリーは久しぶりにサムさんに会えて嬉しいに違いない。それを俺の嫉妬心で邪魔してはいけないと、大人の対応をとった。彼女はきちんと彼と会う日を教えてくれたし、俺も誘ってくれた。しかも、スティアート家で会うなら安心だ。
婚約者として「初恋の人と会う? いいよ、いくらでも話しておいで」という位の気持ちだったのだ。そう……リリーから言われた時はそういう余裕のある気持ちだったはずなのだ。
♢♢♢
そして、その当日。俺はなんで一緒に行くと言わなかったのかと後悔していた。嫉妬深い俺に余裕なんてあるはずがないのに。
用事なんてもちろんない俺は、部屋で一人でぐるぐると色々考え悩んでいた。
「坊っちゃん、お一人で何を悩まれているのですか?」
驚いて声がした方を見ると、そこには執事のジルが怪訝な顔をして立っていた。俺は枕を抱きしめてベッドで頭を抱えている様子を見られて恥ずかしくなった。
「ジル! 勝手に部屋に入るな」
「何度もノックしたのですが、ご返答がないので心配になり入りました」
俺はノック音すら気が付かなかったらしい。
「今から行かれたらよろしいではないですか?」
「は?」
「リリー様が心配なのでしょう?」
「な、なんでそれを」
「旦那様が『用事もないのに、格好つけてリリーの誘いを断ってサムに会わないらしい』と笑っていらっしゃったので」
「親父……なんで知ってるんだよ」
「デューク様が、娘の誘いを断る程の用事とはなんだと旦那様に聞かれたそうですよ。適当に誤魔化しておいてやったから感謝しろとおっしゃられてました」
くっくっくとジルは笑っている。俺はガックリと力が抜ける。
「親同士が仲がいいって最悪だな。なんでも筒抜けじゃないか」
「そうですね」
「今更なんて言って行くんだよ」
「用事が早く終わったからと言えばいいんですよ」
「俺、格好悪いよな。結婚が決まってるのに、いつまでも余裕なくてさ」
そう言った俺にジルは微笑んだ。
「坊っちゃんはそういう素直なところが可愛いんですよ。リリー様を思っている証拠です」
ジルはあっという間に俺の髪を整え、流行りの服に着替えさせてくれた。彼女にサムさんより格好良いと思われたいという俺の気持ちを察してくれている。
「はい、これで誰がどう見ても男前です」
「……ありがとう」
「いいえ。さあ、いってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくる」
俺はスティアート家に真っ直ぐ向かった。彼女の家に着くとアリスがすぐに「どうぞ」と迎え入れてくれた。
客間の外からでもリリーの笑い声が聞こえてきた。サムさんと話してとても楽しそうなことがわかる。そのことにまたしょうもない嫉妬心が芽生える。
扉を開けた俺を見て、リリーは驚いた顔をした。それはそうだろう……行けないと言っていたのだから。
「やっぱりサムさんに挨拶しておこうと思って」
俺は彼女を真っ直ぐ見ることができず、少し目を逸らした。リリーはいきなり現れた俺を特に不思議には思っておらず、笑顔で迎えてくれた。そのことが素直に嬉しい。
デューク様には服のことを揶揄われて恥ずかしくなる……やっぱりちょっと気合い入りすぎていたか? でも、あえてリリーの前で言わなくてもいいのにと大人気なく少し拗ねてしまった。
サムさんが久しぶりに手合わせしようと言ってきたので、俺は嬉しくなる。ずっと剣で彼に勝ってみたかったのだ。
こんなこと言うのはあれだが……正直、魔法を使える俺がサムさんを倒すのは簡単だ。
だが、基本的に魔力のない人に魔法を使って攻撃するのは良くない。そして、そんな建前は関係なく俺はリリーが惚れていた男の得意なことで勝ちたいのだ。
彼は剣術も体術もピカイチだ。実際、俺は彼に教えてもらえて格段に成長した。
少しでも油断してたらすぐにやられてしまう。カンカンと剣で激しく打ち合う。
――勝ちたい。どうしてもこの人に勝ちたい!
「彼女を絶対幸せにします。そして、俺と結婚してよかったと思ってもらえるように……誰よりも強くなる!」
俺は彼に深く踏み込み、サムさんの剣を思いっきり弾いた。勝負はついた。
「はぁっ、はぁ。サムさん初めて俺の勝ち……」
初めて剣術で彼に勝ったことが嬉しく、つい油断した。俺はあっという間に彼に体を倒され、腕を締め上げられた。
ずるいと言った俺にサムさんもデューク様からも「汚い闘い方」を学べと言われてしまった。腹が立つが、この大人たちにはまだまだ敵わないということか。チッ……次は必ず完全に勝つと心に誓う。
結局リリーに格好悪いところを見せてしまった。しかし、彼女は駆け寄って「強くなったね」と褒めてくれた上に、土がついたところを優しく拭いてくれて嬉しかった。
「どうか俺の大切な妹を一生幸せにしておくれ。アイザックなら任せられるよ」
「はい。もちろんです」
今日ここに来てよかった。サムさんと直接会ってこうやって話して剣を交えると、もやもやした気持ちがスッキリした。リリーも嬉しそうにしているから俺も嬉しい。
二人きりになった時に、俺はサムさんにコソッと夜のことを相談した。騎士という職業は男ばかりなので、そういう話もオープンな人が多い。それに彼はだいぶ年上だし既婚者だから、経験も豊富だと思ったのだ。
彼は「君なら今までたくさん誘いがあっただろうに」と驚いていたが、揶揄うことなく真面目に相談にのってくれた。恥ずかしいが、気をつけることとか、流れとか……詳しく教えてくれた。
確かにそういう「お誘い」は何度もあった。貴族令嬢にとって未婚で体の関係を持つなどあり得ないとされてはいるが、実際は遊んでいる御令嬢たちも沢山いたし、若くて綺麗な未亡人のお姉様から声をかけられたり、平民の女の子も積極的に迫ってくる子もいた。
ある程度の年齢になると娼館に入り浸っている同級生もおり、お前もいざという時のために「経験」を積んだほうがいいと誘われたこともあるが……どうしてもリリーでないと嫌だったのだ。彼女じゃない女性と初めてを経験をするなんて、考えられなかった。
「最終的には愛があれば大丈夫。焦らずに、ただ愛おしい気持ちを持っていればいいんだ」
「……は、はい」
「初めてが大好きな人となんて、とても幸せなことだと思うよ」
俺は彼にそう言ってもらって素直にとても嬉しかった。サムさんは「何か困ったらまた言ってくれ」と優しく微笑んだ。
そんな順風満帆な俺たちだが、リリーが「今度、我が家でサムと会うの。ザックも来れない?」ととんでもない発言をしてきた。
サムさんは彼女の初恋の相手。彼が結婚したことは知っているし、今のリリーは彼ではなく俺のことが好きなことは間違いない。決して疑っているわけではない。
しかし、頭ではわかっているがどうしても気になる相手なのだ。なぜならリリーは昔からもてていたが、自ら好きになったのはサムさんだけなことは事実だから。
「悪いが、その日は用事があって行けそうにない。リリーはサムさんとゆっくり話しておいで。よろしく伝えておいてくれ」
「わかったわ。残念だけど仕方がないわね」
リリーは久しぶりにサムさんに会えて嬉しいに違いない。それを俺の嫉妬心で邪魔してはいけないと、大人の対応をとった。彼女はきちんと彼と会う日を教えてくれたし、俺も誘ってくれた。しかも、スティアート家で会うなら安心だ。
婚約者として「初恋の人と会う? いいよ、いくらでも話しておいで」という位の気持ちだったのだ。そう……リリーから言われた時はそういう余裕のある気持ちだったはずなのだ。
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そして、その当日。俺はなんで一緒に行くと言わなかったのかと後悔していた。嫉妬深い俺に余裕なんてあるはずがないのに。
用事なんてもちろんない俺は、部屋で一人でぐるぐると色々考え悩んでいた。
「坊っちゃん、お一人で何を悩まれているのですか?」
驚いて声がした方を見ると、そこには執事のジルが怪訝な顔をして立っていた。俺は枕を抱きしめてベッドで頭を抱えている様子を見られて恥ずかしくなった。
「ジル! 勝手に部屋に入るな」
「何度もノックしたのですが、ご返答がないので心配になり入りました」
俺はノック音すら気が付かなかったらしい。
「今から行かれたらよろしいではないですか?」
「は?」
「リリー様が心配なのでしょう?」
「な、なんでそれを」
「旦那様が『用事もないのに、格好つけてリリーの誘いを断ってサムに会わないらしい』と笑っていらっしゃったので」
「親父……なんで知ってるんだよ」
「デューク様が、娘の誘いを断る程の用事とはなんだと旦那様に聞かれたそうですよ。適当に誤魔化しておいてやったから感謝しろとおっしゃられてました」
くっくっくとジルは笑っている。俺はガックリと力が抜ける。
「親同士が仲がいいって最悪だな。なんでも筒抜けじゃないか」
「そうですね」
「今更なんて言って行くんだよ」
「用事が早く終わったからと言えばいいんですよ」
「俺、格好悪いよな。結婚が決まってるのに、いつまでも余裕なくてさ」
そう言った俺にジルは微笑んだ。
「坊っちゃんはそういう素直なところが可愛いんですよ。リリー様を思っている証拠です」
ジルはあっという間に俺の髪を整え、流行りの服に着替えさせてくれた。彼女にサムさんより格好良いと思われたいという俺の気持ちを察してくれている。
「はい、これで誰がどう見ても男前です」
「……ありがとう」
「いいえ。さあ、いってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくる」
俺はスティアート家に真っ直ぐ向かった。彼女の家に着くとアリスがすぐに「どうぞ」と迎え入れてくれた。
客間の外からでもリリーの笑い声が聞こえてきた。サムさんと話してとても楽しそうなことがわかる。そのことにまたしょうもない嫉妬心が芽生える。
扉を開けた俺を見て、リリーは驚いた顔をした。それはそうだろう……行けないと言っていたのだから。
「やっぱりサムさんに挨拶しておこうと思って」
俺は彼女を真っ直ぐ見ることができず、少し目を逸らした。リリーはいきなり現れた俺を特に不思議には思っておらず、笑顔で迎えてくれた。そのことが素直に嬉しい。
デューク様には服のことを揶揄われて恥ずかしくなる……やっぱりちょっと気合い入りすぎていたか? でも、あえてリリーの前で言わなくてもいいのにと大人気なく少し拗ねてしまった。
サムさんが久しぶりに手合わせしようと言ってきたので、俺は嬉しくなる。ずっと剣で彼に勝ってみたかったのだ。
こんなこと言うのはあれだが……正直、魔法を使える俺がサムさんを倒すのは簡単だ。
だが、基本的に魔力のない人に魔法を使って攻撃するのは良くない。そして、そんな建前は関係なく俺はリリーが惚れていた男の得意なことで勝ちたいのだ。
彼は剣術も体術もピカイチだ。実際、俺は彼に教えてもらえて格段に成長した。
少しでも油断してたらすぐにやられてしまう。カンカンと剣で激しく打ち合う。
――勝ちたい。どうしてもこの人に勝ちたい!
「彼女を絶対幸せにします。そして、俺と結婚してよかったと思ってもらえるように……誰よりも強くなる!」
俺は彼に深く踏み込み、サムさんの剣を思いっきり弾いた。勝負はついた。
「はぁっ、はぁ。サムさん初めて俺の勝ち……」
初めて剣術で彼に勝ったことが嬉しく、つい油断した。俺はあっという間に彼に体を倒され、腕を締め上げられた。
ずるいと言った俺にサムさんもデューク様からも「汚い闘い方」を学べと言われてしまった。腹が立つが、この大人たちにはまだまだ敵わないということか。チッ……次は必ず完全に勝つと心に誓う。
結局リリーに格好悪いところを見せてしまった。しかし、彼女は駆け寄って「強くなったね」と褒めてくれた上に、土がついたところを優しく拭いてくれて嬉しかった。
「どうか俺の大切な妹を一生幸せにしておくれ。アイザックなら任せられるよ」
「はい。もちろんです」
今日ここに来てよかった。サムさんと直接会ってこうやって話して剣を交えると、もやもやした気持ちがスッキリした。リリーも嬉しそうにしているから俺も嬉しい。
二人きりになった時に、俺はサムさんにコソッと夜のことを相談した。騎士という職業は男ばかりなので、そういう話もオープンな人が多い。それに彼はだいぶ年上だし既婚者だから、経験も豊富だと思ったのだ。
彼は「君なら今までたくさん誘いがあっただろうに」と驚いていたが、揶揄うことなく真面目に相談にのってくれた。恥ずかしいが、気をつけることとか、流れとか……詳しく教えてくれた。
確かにそういう「お誘い」は何度もあった。貴族令嬢にとって未婚で体の関係を持つなどあり得ないとされてはいるが、実際は遊んでいる御令嬢たちも沢山いたし、若くて綺麗な未亡人のお姉様から声をかけられたり、平民の女の子も積極的に迫ってくる子もいた。
ある程度の年齢になると娼館に入り浸っている同級生もおり、お前もいざという時のために「経験」を積んだほうがいいと誘われたこともあるが……どうしてもリリーでないと嫌だったのだ。彼女じゃない女性と初めてを経験をするなんて、考えられなかった。
「最終的には愛があれば大丈夫。焦らずに、ただ愛おしい気持ちを持っていればいいんだ」
「……は、はい」
「初めてが大好きな人となんて、とても幸せなことだと思うよ」
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