【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します

大森 樹

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11 理想の副団長

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「うわぁっ!」

 明るい日差しが眩しくて、目を覚ますと私はジルヴェスターの手を握りながら寝ていた。私は驚き、慌てて手を離した。

「……やっと起きたのか」

 酷く不機嫌そうな声。ジルヴェスターが怒っているのがわかる。

「あー……はは。ジルヴェスター、おはよう。とてもいい朝ね」

 昨夜のことを全て思い出して、気まずくなった。私は誤魔化すようにあえて貴族らしい挨拶をして、無理矢理笑顔を作った。

「お前が手を離さないから、ここで朝まで過ごす羽目になった」

 彼はギロリと私を睨みつけた。その顔にはかなりの疲労が見える。そりゃそうよね……舞踏会に行って、気を失った私を運んだだけでも疲れるのにその上一晩中付き添ってくれたのだから。

「す、すみません」

「そもそもお前はな……!」

 それから勝手に人気のない庭に出たことや、守るためにシュバルツを付けたのに私が先に逃がそうとしたことなどくどくどとお説教を受けた。

「聖獣はペットじゃない。わかっているのか!!何の力もないお前がシュバルツを庇うなんてあり得ない」

 私は反省してベッドの上で正座して話を聞いていたが、だんだんと腹が立ってきた。そんなに強く言わなくてもいいではないか!昨夜優しかった彼はきっと幻だ。

「シュバルツが怪我したり、死んじゃったら可哀想じゃない!私のせいで巻き込まれたらどうするのよ!!」

「シュバルツは強い。君が心配する必要はない」

 そりゃあ強いかもしれない。でも、私は目の前でシュバルツが怪我をするのは嫌だったのだ。

「そもそも……ケントに会ったのだって、あなたが私を一人にしたからじゃない!守るって契約だったのに!!」

 私はついそう言い返してしまった。これは八つ当たりだ。彼が離れたのは仕事で仕方がなかったのだし、危なくないようにシュバルツを付け最後はケントからちゃんと守ってくれたのに。

「……」

 彼は眉を顰めて難しい顔をしたまま立ち上がった。

「悪かった。お前は……まだ休んでいろ。私は仕事に行く」

「えっ!もう仕事に行くの?だってあなたまともに寝ていないじゃない」

 私はジルヴェスターの身体が心配になった。こんな状態で仕事なんて大丈夫なの?めちゃくちゃ疲れているように見えるんだけれど。

「徹夜など日常茶飯事だ」

 それだけ告げて、彼は私の部屋を出て行った。徹夜が日常茶飯事って……。この国の騎士って相当ブラックな職場なのかしら?

 結局謝れないまま、もやもやした気持ちで一日を過ごした。帰ってきたらちゃんと謝ろうと心に誓い、私は彼の帰りを待っていた。

 しかし、ジルヴェスターは仕事が入ったとかでそれから三日間戻ってくることは無かった。そして私は舞踏会が終わって、色々なレッスンも前よりは落ち着いて少し暇になってしまっていた。

「いなかったら謝れないじゃない」

 仕事は本当だと思いたいが、彼は怒って私を避けているのかもしれない。私は庭でシュバルツを抱き締めながら、一人でそう呟いていた。

 彼がいない間、私を守る護衛が増えた。部屋の前にも常に誰か待機しているし、出かける時もガッチリ守られている。そしてシュバルツも二十四時間私の傍から離れない。

「あの……私、大丈夫ですよ?ずっと護衛してるなんて皆さん大変じゃありませんか」

「仕事ですのでお気になさらないでください。旦那様から強く言われておりますので」

 誰に言っても護衛達は決まった返事を返してくる。すごく申し訳ないが仕方がない。

「そんなに心配なら、自分が守りなさいよ!最強なんでしょう!!馬鹿っ!!」

 私の怒りに驚いて、シュバルツがピクリと身体を震わせた。

「ごめん。驚かせて」

 お詫びにシュバルツの背中をわしゃわしゃと撫でながら落ち着かせた。

「不気味だから一人で喋るな」

 低く響く声が後ろから聞こえてきた。その声の主は、ジルヴェスターだった。

「帰ってきてたの!?」

「ああ、ついさっきな」

「あの!この前は……その……ごめんなさい。わざわざケントから助けてくれたのに、酷いこと言って……私が悪かった」

 私は彼に素直に謝ることにした。ジルヴェスターは私の頭をぽんぽんと撫でた。

「俺も悪かった。正直、私は君の話をちゃんと信じていなかったんだ。見ず知らずのケントに命を狙われるなんて、あまりにも突拍子のない話だったから。だから短時間なら離れていても大丈夫だと油断していた」

「ジルヴェスター……」

「これを」

 そう言って彼は私の指に指輪をはめた。しかも左手の薬指に。

 ――ええっ!?こ、これって婚約指輪!?

 なんかブルーのでっかい石がついている。宝石なんて全く詳しくないのでどんな石かは知らないが、絶対高いことはわかる。

「な、なにこれ!?」

「数日かけてこの準備をしていた。防御魔法を指輪に込めれるだけ込めた。衝撃があれば自動的にバリアを張って君を守ってくれる。同時に君の居場所も私にわかる。絶対に外さないように」

「あー……そういうやつね。ありがとう」

 焦った。彼からの普通のプレゼントかと誤解するところだった。なんでわざわざ指輪にするのよ。

「誰かに聞かれたら婚約指輪エンゲージリングだと言っておけ」

「了解」

 まさか十八歳の自分が婚約指輪をつけるとは。しかもこんな契約結婚で。お父さんとお母さんに知られたら泣かれそうだ。

「ケントについても調べた。あいつは舞踏会の日から、アンナのことをしつこく嗅ぎ回っているようだ。もう君の名は知られているだろう」

 ――でしょうね。あの男はストーカー気質だ。

「あいつの聖獣を助けたと言っていたな?何をしたんだ?」

 ああ、そうだ。自分でもあれは意味不明だった。ジルヴェスターにあの時のことを話せばわかるかもしれない。

「カラスが怪我していたの。だから、手に乗せて怪我の手当てをしなきゃって思った。じゃあ急にカラスが光りだして、怪我がみるみるうちに治ったの!」

「聖獣の怪我が……治っただと?それは本当か?」

 私はこくん、と頷いた。なんであんなことがおきたのだろうか。

「……それをケントに見られたのか」

「たぶん。彼に治癒魔法はレアだって言われたから」

「それはかなりまずいな。人間に治癒魔法が使える者はいるが、聖獣の怪我を治せる者はこの国にはいないはずだ。ケントが君に執着するはずだ。だが、これでアンナに聖獣達が懐く理由もわかった」

 私はどういう意味が分からず首を傾げた。懐いてくれているのは治癒能力があるからなの?

「聖獣達にとってアンナの傍は心地が良いのだろう。そして君に触れることで、傷や力を回復している」

「……えっ?」

 私はそれを聞いて少し哀しくなった。しゅんとしているとジルヴェスターが「なんだその微妙な顔は?」と眉を顰めた。

「この能力に惹かれているだけで、シュバルツは私を慕ってくれてるわけじゃないんだと思ったらちょっと複雑な気持ちになったの。私はシュバルツが大好きなのに」

 そう言うと、シュバルツはブンブンと左右に首を振った後私の頬をペロリと舐めた。

「ワフっ!」

 シュバルツも『好きだよ』と言ってくれているようで私は少し嬉しくなった。

「……いくらその力があっても、シュバルツは嫌な人間には絶対に自分から近付かない」

 ジルヴェスターがぶっきらぼうにそう話してくれた。もしかして励ましてくれている?

「そっか。じゃあ私達相思相愛だ!」

「ワフっ!」

 シュバルツと戯れ合っているのを、ジルヴェスターは「勝手にやっていろ」と呆れたように眺めていた。

 それからしばらく遊んでいたが、ジルヴェスターは文句も言わずずっと近くにいてくれた。

「おい、いい加減家に帰るぞ。アンナ、君は明日から私の騎士団で働け」

「え?」

「家にいるより近くにいる方が守りやすい。私がいない間にケントが来る可能性もあるからな」

「わ、わかった。けど、私にできることなんてあるの?」

 ジルヴェスターは顎に手を当てて、少し考え込むような素振りを見せた。

「事務の仕事だが、別に君は何もしなくてもいい」

「そんなわけにいかないじゃない。雑用でもなんでもやるから遠慮なく言って!」

 何もしないで守ってもらうなんて性に合わない。そう伝えると、ジルヴェスターはフッと笑った。あ……これは心からの笑顔だ。最近彼の作り笑顔と本当の笑顔の差がわかるようになってきた。

「じゃあ、山程仕事をやろう」

「ゔっ……それは嫌かも」

「ははっ、冗談だ。アンナの……いや、アンの一番の仕事は私の婚約者役だ。ボロが出ぬようにしっかり演じるように!間違えたら面倒だから、これからは普段からお互い愛称で呼ぶことにしよう」

 彼は私の顔を覗き込み、人差し指で鼻をツンと突いた。うわー……こういう気障なことをナチュラルにするから無駄にモテるんだぞ、と心の中でツッコミを入れた。

「わかったわ」








 そして、ジルに付いて行った騎士団で私は運命的な出逢いをする。

 ――うわぁ……格好いい。

 熊のように大きなムキムキの身体に、男らしい短髪。凛々しい眉毛に、鋭いが笑うと優しい瞳。首や腕には傷があるところもワイルドで素敵。

「ジルヴェスター団長の婚約者様ですか!お綺麗で驚きました。ハッハッハッハ」

 こんな、こんなに私の好みドンピシャな人が存在するなんて。私はジルに紹介された副団長のケヴィン様をポーッと見つめていた。

「貴方様こそ……素敵です」

「俺みたいな男にまでお優しいとは、アンナ様はまるで女神のようですね」

 ゲラゲラと豪快に笑う姿も堪らない。何この人?めちゃくちゃタイプ。

 そんなことを思っていると、隣に立っていたジルに後ろから腕をつねられすごい顔で睨まれた。

「アン、?」

 ジルはニッコリと絶対零度の笑顔を私に見せた。そうだ、婚約者のふりをしないといけなかったんだ!

「……ワカッテマス」

 私は引きずられるように、ジルの執務室に連れて行かれた。あー……ケヴィン様が遠ざかっていく。もっと話してみたかったな。


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