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2 親友とのお茶会
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「アイラ、あなた王都の街のど真ん中で派手に求婚されたらしいじゃないの」
「……さすが。情報通ね」
「街中で大男を花束で殴って、求婚を断るなんて……ふふっ……あはは。もうだめ。アイラったら面白すぎよ」
アイラの親友のリーゼはお腹を抱えて、涙を流しながら笑っていた。
「是非その場面を直接見たかったわ」
「もう。こっちは迷惑してるんだから」
アイラはムスッと唇を尖らせて、ギロリとリーゼを睨みつけた。
「ふふ、ごめんなさい。そんなに気に入らない男だったの? 騎士だという噂を聞いたけれど」
オスカーを嫌いなわけではない。むしろ、助けてもらった時にもしかしたら『運命の出会いかも』とときめいたのに『顔だけ』が好きだとはっきりと言われて、余計に腹が立ったのだ。
「だって! 面と向かって、顔がいいから好きだって言われたのよ。失礼よ」
「素直ないい男じゃない。容姿も魅力の一つよ」
そう言ったリーゼは、とても色っぽくセクシーでとびきり美人だった。見た目で嫉妬されることの多いアイラが、唯一普通に話せた同級生がリーゼだった。
彼女は伯爵家の娘で、アイラとは違うタイプの妖艶な美しさを持っていた。
「そうかもしれないけれど。私は中身を好きになって欲しいわ」
「そんなこと言っているから、婚約者が出来ないのよ。色んな人から声をかけられたくなかったら、さっさと一人に決めた方が身のためよ」
「確かに面倒だけど、いいの。結婚したくないもの」
ロッシュ子爵家には、毎日山のように釣書が届いていた。中には破格の待遇のものもあったが、どれもお断りをした。
アイラも年頃の御令嬢らしく男性とお付き合いしてみたいとか、素敵な旦那様に出逢いたいという気持ちはあった。しかし、その相手は自分の顔以外を好きになってくれる人がよかった。
結婚をしないと両親にも迷惑をかけることになる。だが幸運なことにロッシュ子爵家は領地経営が上手くいっており、お金には困っていなかった。
アイラの両親は、娘が目立ちすぎる容姿のせいで悩んでいることを知っているため、結婚の相手選びは自由にしていいと言ってくれていた。
今では、もう誰とも結婚したくないという気持ちになっていた。それにアイラには、結婚するより大切な叶えたい夢もある。
「で、その騎士は誰なのよ」
リーゼは興味深々な顔で、詳細な情報を求めてきた。アイラは、はぁとため息をつきながら口を開いた。
「オスカー・ルーマン様。騎士団の隊長をされている方よ」
「へぇ! 隊長ってことは、将来の騎士団長候補じゃない。たしか……ルーマンといえば少し田舎だけど、大きな伯爵家よね」
「ええ、そうみたいね」
アイラは助けて貰ったことのお礼状を書くために、オスカーの生家のことを調べていた。家に送ろうとしたが王都からはかなり離れており、オスカーは騎士団の宿舎に住んでいることがわかったので、そちらに美味しいお菓子と紅茶を添えて贈ることにした。
「いいじゃない」
「何がいいのよ」
「あなたの運命の彼かもしれないわよ?」
「まさか。こっ酷く振った女の前に、もう二度と現れないわよ。さすがに……怒っていると思うわ。我ながらやり過ぎたもの」
普段のアイラなら、家格が上のかなり年上の男にあんな風に面と向かってはっきりと断ることはしない。だけど、あの時は何故かオスカー相手にムキになってしまったのだ。
アイラは内心お咎めがあるかもしれないと、ビクビクしていたが今のところは何もなかった。
「まあ、普通ならそうよね。残念だわ、その騎士の顔を見たかったのに」
アイラは王都のカフェでリーゼとお茶をして、その場でお別れをした。仕事が終わった彼女の婚約者が、カフェまで迎えに来たからだ。
リーゼの婚約者であるロベルトは、将来有望な宰相の息子だ。リーゼに惚れ込み熱烈アプローチをした彼は、その婚約者の座を射止めた。家柄、容姿、知性共に素晴らしい男性だ。
「好きな人がいるっていいわね」
幸せそうな二人を見ると、アイラは素直にそう思った。買い物でもして帰ろうかと思っていると、目の前にオスカーの姿が見えた。
バッチリと目が合ってしまい、アイラは慌てて隠れようとしたがオスカーはニコニコしながら近付いてきた。
「おお、アイラ嬢。今日も王都まで来てたのか」
「はい。友人と会う約束がありましたので」
あまりに普通に話しかけてくるオスカーに、昨日求婚されたのは夢だったのではないかと思ってしまった。
「友人って……女か?」
「え? ええ、もちろんです」
「そうか。なら、良かった」
ほっとした様子をみせるオスカーを前に、アイラはどうしていいかわからなかった。
「あの、昨日私は求婚をお断りしましたよね」
「ああ、そうだな」
オスカーはまるで気にしていないかのように、そう返事をした。
「私が言うのもなんですが、気まずくないのですか」
「いや、全然。昨日のアイラ嬢には断られたが、今日のアイラ嬢には受け入れられるかもしれないだろ?」
ハハハ、と豪快に笑っているオスカーを見て力が抜けた。
「驚くほどポジティブですわね」
「いやー、そんな褒めるなよ。照れるじゃねぇか」
「褒めていません!」
アイラが大きな声を出すと、オスカーは目を細めて優しく微笑んだ。
「良かった。話しかけんなって言われたから、もしかしたらもう話せないかと思ってた」
「昨日は……その、失礼な態度を取ってすみませんでした」
アイラが素直に謝ると、オスカーはぶんぶんと大きく左右に首を振った。
「いや、俺も悪かったから」
たまたま会えて仲直りができて良かったと、アイラは思った。オスカーはいい意味で貴族らしい男ではなかった。まっすぐで、裏表のない性格のようにみえたし、舞踏会で助けてくれたことからも優しい人物だとわかっていた。だから結婚はできなくても、オスカーといい友達になれる可能性はあると思っていた。
「アイラ嬢」
「はい」
「ここで逢えたのも運命だ」
オスカーは、ぽかんとしているアイラの手をぎゅっと包み込んだ。
「はぁ?」
「愛してる。俺と結婚してくれ」
二度目の求婚をされて、アイラはオスカーが全く懲りていないことに気が付いた。
「こんないい女に生まれて初めて逢ったんだ。だから、俺は君と結婚したい」
「……お断りします!」
アイラは怒って、プイッと顔を背けてその場を去っていった。
「あーあ、また怒らせちまったな」
オスカーはアイラの後ろ姿を見つめながら、そう呟いた。
「……さすが。情報通ね」
「街中で大男を花束で殴って、求婚を断るなんて……ふふっ……あはは。もうだめ。アイラったら面白すぎよ」
アイラの親友のリーゼはお腹を抱えて、涙を流しながら笑っていた。
「是非その場面を直接見たかったわ」
「もう。こっちは迷惑してるんだから」
アイラはムスッと唇を尖らせて、ギロリとリーゼを睨みつけた。
「ふふ、ごめんなさい。そんなに気に入らない男だったの? 騎士だという噂を聞いたけれど」
オスカーを嫌いなわけではない。むしろ、助けてもらった時にもしかしたら『運命の出会いかも』とときめいたのに『顔だけ』が好きだとはっきりと言われて、余計に腹が立ったのだ。
「だって! 面と向かって、顔がいいから好きだって言われたのよ。失礼よ」
「素直ないい男じゃない。容姿も魅力の一つよ」
そう言ったリーゼは、とても色っぽくセクシーでとびきり美人だった。見た目で嫉妬されることの多いアイラが、唯一普通に話せた同級生がリーゼだった。
彼女は伯爵家の娘で、アイラとは違うタイプの妖艶な美しさを持っていた。
「そうかもしれないけれど。私は中身を好きになって欲しいわ」
「そんなこと言っているから、婚約者が出来ないのよ。色んな人から声をかけられたくなかったら、さっさと一人に決めた方が身のためよ」
「確かに面倒だけど、いいの。結婚したくないもの」
ロッシュ子爵家には、毎日山のように釣書が届いていた。中には破格の待遇のものもあったが、どれもお断りをした。
アイラも年頃の御令嬢らしく男性とお付き合いしてみたいとか、素敵な旦那様に出逢いたいという気持ちはあった。しかし、その相手は自分の顔以外を好きになってくれる人がよかった。
結婚をしないと両親にも迷惑をかけることになる。だが幸運なことにロッシュ子爵家は領地経営が上手くいっており、お金には困っていなかった。
アイラの両親は、娘が目立ちすぎる容姿のせいで悩んでいることを知っているため、結婚の相手選びは自由にしていいと言ってくれていた。
今では、もう誰とも結婚したくないという気持ちになっていた。それにアイラには、結婚するより大切な叶えたい夢もある。
「で、その騎士は誰なのよ」
リーゼは興味深々な顔で、詳細な情報を求めてきた。アイラは、はぁとため息をつきながら口を開いた。
「オスカー・ルーマン様。騎士団の隊長をされている方よ」
「へぇ! 隊長ってことは、将来の騎士団長候補じゃない。たしか……ルーマンといえば少し田舎だけど、大きな伯爵家よね」
「ええ、そうみたいね」
アイラは助けて貰ったことのお礼状を書くために、オスカーの生家のことを調べていた。家に送ろうとしたが王都からはかなり離れており、オスカーは騎士団の宿舎に住んでいることがわかったので、そちらに美味しいお菓子と紅茶を添えて贈ることにした。
「いいじゃない」
「何がいいのよ」
「あなたの運命の彼かもしれないわよ?」
「まさか。こっ酷く振った女の前に、もう二度と現れないわよ。さすがに……怒っていると思うわ。我ながらやり過ぎたもの」
普段のアイラなら、家格が上のかなり年上の男にあんな風に面と向かってはっきりと断ることはしない。だけど、あの時は何故かオスカー相手にムキになってしまったのだ。
アイラは内心お咎めがあるかもしれないと、ビクビクしていたが今のところは何もなかった。
「まあ、普通ならそうよね。残念だわ、その騎士の顔を見たかったのに」
アイラは王都のカフェでリーゼとお茶をして、その場でお別れをした。仕事が終わった彼女の婚約者が、カフェまで迎えに来たからだ。
リーゼの婚約者であるロベルトは、将来有望な宰相の息子だ。リーゼに惚れ込み熱烈アプローチをした彼は、その婚約者の座を射止めた。家柄、容姿、知性共に素晴らしい男性だ。
「好きな人がいるっていいわね」
幸せそうな二人を見ると、アイラは素直にそう思った。買い物でもして帰ろうかと思っていると、目の前にオスカーの姿が見えた。
バッチリと目が合ってしまい、アイラは慌てて隠れようとしたがオスカーはニコニコしながら近付いてきた。
「おお、アイラ嬢。今日も王都まで来てたのか」
「はい。友人と会う約束がありましたので」
あまりに普通に話しかけてくるオスカーに、昨日求婚されたのは夢だったのではないかと思ってしまった。
「友人って……女か?」
「え? ええ、もちろんです」
「そうか。なら、良かった」
ほっとした様子をみせるオスカーを前に、アイラはどうしていいかわからなかった。
「あの、昨日私は求婚をお断りしましたよね」
「ああ、そうだな」
オスカーはまるで気にしていないかのように、そう返事をした。
「私が言うのもなんですが、気まずくないのですか」
「いや、全然。昨日のアイラ嬢には断られたが、今日のアイラ嬢には受け入れられるかもしれないだろ?」
ハハハ、と豪快に笑っているオスカーを見て力が抜けた。
「驚くほどポジティブですわね」
「いやー、そんな褒めるなよ。照れるじゃねぇか」
「褒めていません!」
アイラが大きな声を出すと、オスカーは目を細めて優しく微笑んだ。
「良かった。話しかけんなって言われたから、もしかしたらもう話せないかと思ってた」
「昨日は……その、失礼な態度を取ってすみませんでした」
アイラが素直に謝ると、オスカーはぶんぶんと大きく左右に首を振った。
「いや、俺も悪かったから」
たまたま会えて仲直りができて良かったと、アイラは思った。オスカーはいい意味で貴族らしい男ではなかった。まっすぐで、裏表のない性格のようにみえたし、舞踏会で助けてくれたことからも優しい人物だとわかっていた。だから結婚はできなくても、オスカーといい友達になれる可能性はあると思っていた。
「アイラ嬢」
「はい」
「ここで逢えたのも運命だ」
オスカーは、ぽかんとしているアイラの手をぎゅっと包み込んだ。
「はぁ?」
「愛してる。俺と結婚してくれ」
二度目の求婚をされて、アイラはオスカーが全く懲りていないことに気が付いた。
「こんないい女に生まれて初めて逢ったんだ。だから、俺は君と結婚したい」
「……お断りします!」
アイラは怒って、プイッと顔を背けてその場を去っていった。
「あーあ、また怒らせちまったな」
オスカーはアイラの後ろ姿を見つめながら、そう呟いた。
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