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17 再会

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「アイラ、とても似合っているよ」
「……ファビアン様も素敵ですわ」

 動くたびにふわふわと揺れるドレスは、元々のアイラの可愛らしさを増長させていた。

「やっぱり君が一番可愛い」

 ファビアンに蕩けるような瞳でジッと見つめられたが、アイラはその視線に耐えきれずにそっと逸らした。

 失礼な態度だったかなと思ったが、ファビアンはアイラが照れていると思ったらしい。

「アイラには、私の愛に早く慣れて欲しいな」
「そ、そんなに見つめられたことがないので……緊張します」
「……モテるのに初心なんだね」

 アイラは恋人がいたことも、婚約者がいたこともない。なので、付き合うというのがどういうものなのか正直よく知らなかった。

「やっぱり君を選んで良かった」
「え?」
「さあ、行こうか」

 ファビアンのエスコートを受けて、会場の中に入って行った。

 その瞬間、会場中の視線が二人に注がれた。周囲がザワザワと騒ぎだした。

「きゃあっ! ファビアン様が……アイラ嬢と一緒に来られているわ」
「もしかしてあの二人が婚約したのかっ!」
「アイラ嬢……本命はやはりファビアン様だったのか」
「悔しいけど、美男美女だわ」

 男も女も、ファビアンとアイラの方をチラチラと見ながら大騒ぎをしている。

「覚悟はしていたがこんな騒ぎになるなんてね」
「ファビアン様のせいですわ。私は今、全御令嬢の敵になっていますから」

 悲鳴と共に怨みのこもった目で睨まれたアイラは、背筋がゾッとした。

「ははは、まさか。これは君に振られてショックな男たちが哀しんでいる声だろう」

 ファビアンはこのように注目されていることには慣れているようで、笑いながらそんなことを言っていた。

「アイラ、君と踊る幸せを私にくれないだろうか?」
「……ええ、喜んで」
「みんなに、君は私のものだとわかってもらわないとね」

 勝ち誇ったようにニッと笑ったファビアンにエスコートを受けて、アイラはダンスフロアまで移動した。

 いつも完璧なファビアンは、ダンスも素晴らしい腕前だ。隙のない綺麗で美しいダンス。アイラもそれに合わせて、丁寧に踊った。アイラもダンスは得意なはずだが、ファビアンに恥をかかせないようにしないとと思うとなんだか緊張してしまう。

 そしてダンスをしている最中、アイラが一番逢いたくない人物と目が合った。こんなにたくさんの人がいるのに、なぜかその人だけはすぐに見つけてしまった。

「オスカー……様」

 つい名前を呟いてしまったことに気がついて、アイラは慌ててオスカーから視線を逸らした。

「……アイラは悪い子だね」
「え?」
「なんでもないよ」

 急にファビアンに腰をグッと引かれ、唇がつくのではないかと思うほどの距離に顔が近付いた。そんな姿をオスカーには見られたくないが、アイラにはどうしようもなかった。

 音楽が終わると、アイラはファビアンからすぐに身体を離した。早くこの場を立ち去りたかった。

「アイラ」

 その声は、アイラが何度も求めて……かき消していたオスカーの優しい声だった。

「アイラ、二人で話がしたい」

 本当はオスカーの元に駆け出したい気持ちだったが、必死に抑えてゆっくりと振り返った。

「……オスカー様」

 久しぶりに見るオスカーは少し痩せて顔色が悪そうな気がして、アイラは心配になった。しかし顔が見えたのは一瞬のことで、すぐにファビアンの背中で前が見えなくなった。

「私の愛する婚約者に、慣れ慣れしく声をかけないでくれないか」
「こん……やくしゃ」
「そうだ。私とアイラは結婚するんだ。アイラは君ではなく、私を選んでくれた」

 ファビアンはにっこりと微笑みながら、オスカーの肩にポンと手を置いた。

「これ以上彼女に付きまとうようなら、容赦はしないよ。一騎士なんて、私の手にかかればなんとでもなるのだから」

 冷たいその言葉に、アイラは狼狽えた。自分のことで、オスカーに迷惑がかかって欲しくないからだ。

「ファ……ファビアン様、もう行きましょう。私と彼は関係ありませんから」

 アイラは慌ててファビアンの腕を引き『関係がない』などと嘘をついた。好きで好きで仕方がないのに、そんな酷い方法しかオスカーを守る手段を思いつかなかったのだ。

「……だってさ。振られたんだよ、君は。しつこい男は嫌われるよ」

 フッと鼻で笑ってアイラの肩を抱き寄せ、オスカーに背を向けた。

「俺はアイラが好きだ」

 オスカーは大声ではっきりとそう言った。アイラは振り向くことができず、ファビアンは不愉快そうに小さく舌打ちをした。

「アイラが誰を好きでも、誰と結婚したとしても、一生アイラだけが好きだ! それだけは、覚えておいてくれ」

 アイラは胸がギュッと締め付けられて、涙が出そうだった。しかし、ここで泣くわけにはいかない。

「……参りましょう。相手にする時間が無駄ですわ」
「そうだな」

 そのまま振り返ることなくアイラはその場を去った。その後もファビアンの隣でいろんな人たちと談笑を続けていたが、アイラは本当は心ここにあらずだった。

 久しぶりにオスカーと逢ったことで、かなり動揺してしまっていたからだ。

「ファビアン様」

 焦った様子の執事が、耳打ちをして何かを告げた。するとみるみるうちにファビアンの顔色が変わり、ギリッと唇を噛み締めた。

「……なにかございましたか?」
「ああ、少し面倒ごとができた。少しだけ外してもいいかな?」
「はい、もちろんです」
「気をつけてね。君は可愛いから」

 ファビアンはアイラの髪をひとすくいして、ちゅっとキスをした。相変わらず……キザすぎてアイラは反応に困ったが、なんとか微笑んだ。

「友人と一緒にお待ちしますわ」
「それは安心だ。では、すぐ戻る」

 そう言ったファビアンは、会場の渦の中に消えていった。アイラは小さなため息をつくと、後ろから声をかけられた。

「アイラ、久しぶりね」
「リーゼ!?」

 そこにはいつもの美しいリーゼではなく、ものすごく怒った顔の彼女が立っていた。


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