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33初めてのお泊まり
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王宮を出で、カールおすすめのレストランに着いた。ちょっと高級なお店だけど、今日はドレスアップしてるので問題ない。しかも個室を取ってくれたようだ。
「んーっ、美味しい」
「久々だが、美味いな。ミーナの口に合ってよかった」
どれもこれもめちゃくちゃ美味しくて、頬っぺたが落ちそうだ。スープも濃厚だし、お肉もとろりと溶けるように柔らかい。幸せ。
「でも、俺はミーナの作るご飯が一番好きだよ」
「ありがとう。でもこんなに凝った料理は私は作れないわ」
「確かにここは素晴らしく美味い。でも俺が毎日食べたいのは君の料理だ」
カールにそう言われて、私は嬉しくて恥ずかしくなる。
「食べれるわよ……毎日」
「楽しみだな。俺も君に簡単なものなら作れるようになりたい」
「もうなってるわよ。ダニーも美味しいって言っていたじゃない?」
「ああ。俺が作った料理だと知った時のあいつの顔……最高に面白かったな」
「ふふ、そうね」
二人で楽しく話しながら、美味しい料理を目一杯堪能した。
「あー!食べたわ。デザートまでぜーんぶ美味しかった。カール、ご馳走様」
「どういたしまして。じゃあ、ホテルへ向かおう」
「うん」
向かったのは、王都の中でも最高級なのではないかと思うほど大きくて立派なホテルだった。
「ちょっと!カール、本当にここに泊まるの?」
「ああ」
「こんな高級そうなホテル……」
「たまにはいいだろう?せっかくのミーナとの旅だ」
こんな煌びやかなホテルは今世ではもちろん初めてだ。キャロラインの時は当たり前だったけど、すっかり庶民が板について……十五年もこういう場所に泊まっていないと緊張してしまう。
予約していると言っていたので、チェックインをしてくると受付に行ったカールが「え!?」と大きな声をあげた。
何かあったのかと、私も受付に向かうとカールは「はぁ……」とため息をついていた。
「何かあったの?」
困っている様子のカールに声をかけると、受付のスタッフの方が「申し訳ございません。しかし国王陛下からの指示だと申しつけられたので、変更させていただいたのです」と頭を下げた。
「ちなみに、他に空いてる部屋は?」
「あいにく満室でして」
「……あの人は余計なことを」
話を聞いてみると、カールはお父さんとの約束通り隣同士の二部屋予約をしてくれていたらしい。だが王家御用達のこのホテルの情報は陛下に筒抜けらしく「婚約者なのだから一緒の部屋に変更しておけ」と変な気を利かせた上に、陛下が使うレベルのデラックスルーム一部屋の予約にグレードアップされていたそうだ。
「費用はすでにいただいております」
そう言われてカールは困っていた……というわけだ。
「カールは私と一緒の部屋じゃ嫌?」
「いや、それは……」
「嫌じゃないなら、一緒に泊まろう?陛下のお心遣いだし、他に部屋もないならそうするしかないよ」
「そう……だが……」
「ね?」
カールをジッと見つめると、彼は苛々しながらガシガシと頭をかいた。嫌そうだけど……でも、ホテルの方をこれ以上困らせるわけにもいかない。
「ミーナがいいなら、俺はいいけど」
「じゃあそうしましょう」
スタッフさんはホッと安心した表情をして、部屋まで案内してくれた。
「では、ごゆっくりお過ごし下さいませ。何かございましたらフロントまで。二十四時間なんでも受け付けておりますので」
さすが、高級ホテル。スタッフの皆さんは二十四時間体制なのね。
「ありがとうございます」
私は頭をさげ、スタッフさんがいなくなるまで見送った。このデラックスルームは最上階で、このフロアにはこの部屋しかない。
扉を開けると、そこはなんというか……チカチカするほど豪華な部屋で驚いた。
「うわぁ……広いね。すごい」
私がキャッキャと騒いでいるのに、カールはムッと不機嫌そうな顔のままだ。まだ陛下に怒っているのだろうか?
「カール、そんなに私と一緒の部屋が嫌なの?」
流石にそこまで拒絶されると乙女心も傷つくというものだ。私は『お父さんには別の部屋に泊まれ、って言われてたけどこれは不可抗力だししょうがない。夜も一緒に過ごせるなんてラッキー』と思ってたのに。
なんか嬉しいのは私だけみたいで、少し哀しくなる。
「……ミーナは何もわかってない」
「え?」
「俺と一緒の部屋に泊まるって意味を」
そう言って私を見つめるカールは、馬車で口付けをした時のようなギラギラした瞳をしていた。
「意味?」
「俺はミーナの全てを知りたいと思ってる」
「……」
「正直、俺はずっと我慢してる。いつでも君に触れたい。そのことの意味をわかってる?」
あー……そうか。お風呂に入って、お喋りして彼に抱きしめられながら寝る……だけってわけにはいかないよね。私達、婚約者だもんね。
私もそういうことに興味はあるし、カールに触れて欲しい。もうすぐ結婚するのだから、カールには我慢して欲しくないなと思ってる。
でも……でも……私には経験がないのだ。だから未知の領域すぎてちょっと怖い。それに前世の教育の賜物なのか、結婚してから結ばれるべきだと思ってしまう。
「あの……私……その」
私は上手く話せなくて、しどろもどろになってしまった。カールは「はぁ」と大きなため息をついた。
呆れてしまったのだろうか?十五歳とはいえ、前世を含めれば三十歳と同じだ。なのに、こんな風に怖がる私は彼には子どもすぎるだろう。
「ご、ごめんなさい。私、何も考えてなくて」
哀しくなってきて、ダメだと思っているのにポロポロと涙が溢れる。泣き出した私を見て、彼は青ざめ急いで私の傍に来た。
「ひっく……ひっく、ごめんね」
「いや、俺の方こそ悪かった。ミーナにこんなこと言うつもりじゃなかったのに」
「子どもでごめんなさい」
私は涙腺が崩壊して、うわーんと大泣きしてしまった。
「ミ、ミーナ!?」
「だって、カールため息をついたもん。もうこんな私が嫌になったんでしょ……ひっく……ひっく」
こんなことを言うのがまさに子どもっぽいのだけれど、もう止まらなかった。
「だって、私経験ないからわからないんだもん。カールと一緒にいたいけど……ひっく……不安もあるし……ひっく……そーゆうのは……結婚してからと思ってたし……ひっく……ゔーっ……」
ボロボロと涙が止まらない。どうしよう。そんな私を見てカールは目を見開き、かなり焦りだした。そして、私の手をひきギュッと抱きしめた。
「ミーナ、俺が全部悪い。傷つけてごめん。何もしないから落ち着いてくれ」
「カールは……悪くない……うっ……ひっく」
「悪いよ。大事な君をこんなに泣かせたのは俺だ」
カールにトントンと背中を優しく撫でられる。それは慈愛に満ちていて、さっきの彼とは別人だ。
「あと誤解してる。ため息は……自分に向けてなんだ。君に自分の感情をぶつけて、困らせて最低だなって」
「自分に向けて?」
「ああ、君に関しては堪え性がないなって。旅に出て……急に二人きりでいる時間が増えて暴走してた。絶対ミーナを前に我慢できなくなるから、ちゃんと部屋も別に予約したのに……誰かさんのせいでこんなことになるし」
カールは拗ねたように口を尖らせた。その表情はとても子どもっぽくて、なんだか可愛らしい。
カールは眉を下げ、困ったような顔で私の涙をそっと指で拭いおでこにキスをした。
「隠しても無駄だから言うけど、俺は結婚したらミーナを全部愛したい。でも、君が嫌がることはしたくない」
「うん」
「だから結婚式までまだあと一ヶ月あるだろ?少しずつ俺と触れ合う心づもりをしておいてくれないか?」
「う、うん」
「もちろん、その日になっても嫌だなって思ったら言ってくれたらいい。二人でゆっくり進んでいこう?」
カールは優しく私の頬を包みながら、正直にそう話してくれた。
「ありがとう」
「当たり前だ。俺はミーナが大事で、大好きで、大切だからこそ触れたいんだから」
「私も……あなたに触れたいと思ってる……よ」
私が小声でそう言うと「良かった」と微笑んでキスをした。
「さあ、疲れただろう?風呂に入ろう。おそらくこの部屋は二つバスがあるだろうから……ミーナはこの部屋のを。俺は隣の部屋のを使うから」
「わかったわ」
そう言って各部屋に分かれ、シャワーで泣いてぐしゃぐしゃの顔を綺麗に洗い流した。ホテルで用意されていた夜着とガウンを纏って部屋に戻った。高級ホテルなので、ガウンも上質で気持ちがいい。
カールは先にあがっていたらしく、ソファーで水を飲んでいた。その姿は半裸にガウンを着ており、胸元からチラチラと鍛え上げられた筋肉が見えて……ドキドキする。すごい体。
「ミーナ、あがったの……か」
私の姿を見て、彼はしばらくぼーっとした後ごくりと唾を飲み込んだ。なんなんだろう?私、なんか変なのかな?
「こっちにおいで。髪をまた中途半端にしか拭いていないだろ。風邪ひくぞ」
「う、うん」
「櫛とヘアオイル取ってくる」
なんだ、髪が濡れてるのを見られていたのね。そう言えば前もカールにちゃんと拭きなさいって怒られたな。女子力が低くてだめね。
昔は身の回りのことを全て侍女がしてくれていたから、どうしても髪のケアとかお化粧とかが苦手なのだ。まあ、平民でしっかりとやってる人も少ないしね。
でも……カールには『可愛い』と思われたい。それは彼に恋をして初めて持った感情。ずっと『可愛い』や『綺麗』を嫌悪してきた私の変化だった。
私はソファーに座ると、彼は後ろに回ってタオルで優しく拭いてくれる。そしてオイルを満遍なくつけて櫛でといてくれる。
「はい、終わり」
私が髪に触れると、サラサラして……いい匂いがする。
「ありがとう」
私が振り向いてお礼を言うと彼は「どういたしまして」と言って、洗面所に櫛やオイルを置きにさっさと行ってしまった。あれ?いつもなら……こういう時、キスしてくれるのに。
その後も、お水を飲めとか疲れてないかとか……明日の行き先など色々と忙しなく話しかけられる。なんかカールが変だ。
私は長旅のせいかだんだん眠たくなって、目がとろんとしてきた。
「ミーナ、眠たい?」
「うー……ん、眠たくなってきた」
「ほら、ベッドに行こう?」
「うん……うん……」
その瞬間、ふわりと体が浮いて彼に横抱きにされたのがわかった。そしてふかふかのベッドにおろされる。
「おやすみ」
カールはおでこにちゅっ、とキスをしてベッドからおりようとした。え……?待って。ベッドは一つしかないのにカールはどこへ行くつもりなの?
私は重たい瞼を少しだけ開けて、無意識に彼の腕を掴んだ。
「どこ……行くの?」
「ミーナ……」
「カールは寝ないの?」
「俺は向こうのソファーで寝る」
え?ソファーで寝る?私は急に眠気が飛んでいった。パチリと目を開けると、困った顔のカールがそこにいた。
「どうして?一緒に寝よう?このベッド広いし二人でも余裕あるから大丈夫だよ」
「広さの問題じゃない。君を傷つけてしまったらだめだから」
「じゃあ私がソファーで寝る」
「ダメだ!ミーナにそんなことさせられるわけない」
「じゃあ私もカールがそんなところで寝るのは嫌よ」
私は彼をぐいっと引き、ベッドに横たわらせると彼の後ろからギュッと抱きしめたい。
「これで大丈夫でしょう?顔も見えないし、あなたから手は出せないわ」
「ミ、ミ、ミーナ!?」
「うーん、眠い」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「カール……温かくて気持ちいいね」
彼の背中は大きくて、温かくてポカポカしている。気持ち良くて……私はギュッと抱きつくとすぐに夢の中に誘われた。
くっ付いて寝たことでカールは自分の欲と理性と闘い続け……朝方まで眠れずベッドで一人苦しんでいたことなど、すやすや眠る私は気付くことはなかった。
「んーっ、美味しい」
「久々だが、美味いな。ミーナの口に合ってよかった」
どれもこれもめちゃくちゃ美味しくて、頬っぺたが落ちそうだ。スープも濃厚だし、お肉もとろりと溶けるように柔らかい。幸せ。
「でも、俺はミーナの作るご飯が一番好きだよ」
「ありがとう。でもこんなに凝った料理は私は作れないわ」
「確かにここは素晴らしく美味い。でも俺が毎日食べたいのは君の料理だ」
カールにそう言われて、私は嬉しくて恥ずかしくなる。
「食べれるわよ……毎日」
「楽しみだな。俺も君に簡単なものなら作れるようになりたい」
「もうなってるわよ。ダニーも美味しいって言っていたじゃない?」
「ああ。俺が作った料理だと知った時のあいつの顔……最高に面白かったな」
「ふふ、そうね」
二人で楽しく話しながら、美味しい料理を目一杯堪能した。
「あー!食べたわ。デザートまでぜーんぶ美味しかった。カール、ご馳走様」
「どういたしまして。じゃあ、ホテルへ向かおう」
「うん」
向かったのは、王都の中でも最高級なのではないかと思うほど大きくて立派なホテルだった。
「ちょっと!カール、本当にここに泊まるの?」
「ああ」
「こんな高級そうなホテル……」
「たまにはいいだろう?せっかくのミーナとの旅だ」
こんな煌びやかなホテルは今世ではもちろん初めてだ。キャロラインの時は当たり前だったけど、すっかり庶民が板について……十五年もこういう場所に泊まっていないと緊張してしまう。
予約していると言っていたので、チェックインをしてくると受付に行ったカールが「え!?」と大きな声をあげた。
何かあったのかと、私も受付に向かうとカールは「はぁ……」とため息をついていた。
「何かあったの?」
困っている様子のカールに声をかけると、受付のスタッフの方が「申し訳ございません。しかし国王陛下からの指示だと申しつけられたので、変更させていただいたのです」と頭を下げた。
「ちなみに、他に空いてる部屋は?」
「あいにく満室でして」
「……あの人は余計なことを」
話を聞いてみると、カールはお父さんとの約束通り隣同士の二部屋予約をしてくれていたらしい。だが王家御用達のこのホテルの情報は陛下に筒抜けらしく「婚約者なのだから一緒の部屋に変更しておけ」と変な気を利かせた上に、陛下が使うレベルのデラックスルーム一部屋の予約にグレードアップされていたそうだ。
「費用はすでにいただいております」
そう言われてカールは困っていた……というわけだ。
「カールは私と一緒の部屋じゃ嫌?」
「いや、それは……」
「嫌じゃないなら、一緒に泊まろう?陛下のお心遣いだし、他に部屋もないならそうするしかないよ」
「そう……だが……」
「ね?」
カールをジッと見つめると、彼は苛々しながらガシガシと頭をかいた。嫌そうだけど……でも、ホテルの方をこれ以上困らせるわけにもいかない。
「ミーナがいいなら、俺はいいけど」
「じゃあそうしましょう」
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流石にそこまで拒絶されると乙女心も傷つくというものだ。私は『お父さんには別の部屋に泊まれ、って言われてたけどこれは不可抗力だししょうがない。夜も一緒に過ごせるなんてラッキー』と思ってたのに。
なんか嬉しいのは私だけみたいで、少し哀しくなる。
「……ミーナは何もわかってない」
「え?」
「俺と一緒の部屋に泊まるって意味を」
そう言って私を見つめるカールは、馬車で口付けをした時のようなギラギラした瞳をしていた。
「意味?」
「俺はミーナの全てを知りたいと思ってる」
「……」
「正直、俺はずっと我慢してる。いつでも君に触れたい。そのことの意味をわかってる?」
あー……そうか。お風呂に入って、お喋りして彼に抱きしめられながら寝る……だけってわけにはいかないよね。私達、婚約者だもんね。
私もそういうことに興味はあるし、カールに触れて欲しい。もうすぐ結婚するのだから、カールには我慢して欲しくないなと思ってる。
でも……でも……私には経験がないのだ。だから未知の領域すぎてちょっと怖い。それに前世の教育の賜物なのか、結婚してから結ばれるべきだと思ってしまう。
「あの……私……その」
私は上手く話せなくて、しどろもどろになってしまった。カールは「はぁ」と大きなため息をついた。
呆れてしまったのだろうか?十五歳とはいえ、前世を含めれば三十歳と同じだ。なのに、こんな風に怖がる私は彼には子どもすぎるだろう。
「ご、ごめんなさい。私、何も考えてなくて」
哀しくなってきて、ダメだと思っているのにポロポロと涙が溢れる。泣き出した私を見て、彼は青ざめ急いで私の傍に来た。
「ひっく……ひっく、ごめんね」
「いや、俺の方こそ悪かった。ミーナにこんなこと言うつもりじゃなかったのに」
「子どもでごめんなさい」
私は涙腺が崩壊して、うわーんと大泣きしてしまった。
「ミ、ミーナ!?」
「だって、カールため息をついたもん。もうこんな私が嫌になったんでしょ……ひっく……ひっく」
こんなことを言うのがまさに子どもっぽいのだけれど、もう止まらなかった。
「だって、私経験ないからわからないんだもん。カールと一緒にいたいけど……ひっく……不安もあるし……ひっく……そーゆうのは……結婚してからと思ってたし……ひっく……ゔーっ……」
ボロボロと涙が止まらない。どうしよう。そんな私を見てカールは目を見開き、かなり焦りだした。そして、私の手をひきギュッと抱きしめた。
「ミーナ、俺が全部悪い。傷つけてごめん。何もしないから落ち着いてくれ」
「カールは……悪くない……うっ……ひっく」
「悪いよ。大事な君をこんなに泣かせたのは俺だ」
カールにトントンと背中を優しく撫でられる。それは慈愛に満ちていて、さっきの彼とは別人だ。
「あと誤解してる。ため息は……自分に向けてなんだ。君に自分の感情をぶつけて、困らせて最低だなって」
「自分に向けて?」
「ああ、君に関しては堪え性がないなって。旅に出て……急に二人きりでいる時間が増えて暴走してた。絶対ミーナを前に我慢できなくなるから、ちゃんと部屋も別に予約したのに……誰かさんのせいでこんなことになるし」
カールは拗ねたように口を尖らせた。その表情はとても子どもっぽくて、なんだか可愛らしい。
カールは眉を下げ、困ったような顔で私の涙をそっと指で拭いおでこにキスをした。
「隠しても無駄だから言うけど、俺は結婚したらミーナを全部愛したい。でも、君が嫌がることはしたくない」
「うん」
「だから結婚式までまだあと一ヶ月あるだろ?少しずつ俺と触れ合う心づもりをしておいてくれないか?」
「う、うん」
「もちろん、その日になっても嫌だなって思ったら言ってくれたらいい。二人でゆっくり進んでいこう?」
カールは優しく私の頬を包みながら、正直にそう話してくれた。
「ありがとう」
「当たり前だ。俺はミーナが大事で、大好きで、大切だからこそ触れたいんだから」
「私も……あなたに触れたいと思ってる……よ」
私が小声でそう言うと「良かった」と微笑んでキスをした。
「さあ、疲れただろう?風呂に入ろう。おそらくこの部屋は二つバスがあるだろうから……ミーナはこの部屋のを。俺は隣の部屋のを使うから」
「わかったわ」
そう言って各部屋に分かれ、シャワーで泣いてぐしゃぐしゃの顔を綺麗に洗い流した。ホテルで用意されていた夜着とガウンを纏って部屋に戻った。高級ホテルなので、ガウンも上質で気持ちがいい。
カールは先にあがっていたらしく、ソファーで水を飲んでいた。その姿は半裸にガウンを着ており、胸元からチラチラと鍛え上げられた筋肉が見えて……ドキドキする。すごい体。
「ミーナ、あがったの……か」
私の姿を見て、彼はしばらくぼーっとした後ごくりと唾を飲み込んだ。なんなんだろう?私、なんか変なのかな?
「こっちにおいで。髪をまた中途半端にしか拭いていないだろ。風邪ひくぞ」
「う、うん」
「櫛とヘアオイル取ってくる」
なんだ、髪が濡れてるのを見られていたのね。そう言えば前もカールにちゃんと拭きなさいって怒られたな。女子力が低くてだめね。
昔は身の回りのことを全て侍女がしてくれていたから、どうしても髪のケアとかお化粧とかが苦手なのだ。まあ、平民でしっかりとやってる人も少ないしね。
でも……カールには『可愛い』と思われたい。それは彼に恋をして初めて持った感情。ずっと『可愛い』や『綺麗』を嫌悪してきた私の変化だった。
私はソファーに座ると、彼は後ろに回ってタオルで優しく拭いてくれる。そしてオイルを満遍なくつけて櫛でといてくれる。
「はい、終わり」
私が髪に触れると、サラサラして……いい匂いがする。
「ありがとう」
私が振り向いてお礼を言うと彼は「どういたしまして」と言って、洗面所に櫛やオイルを置きにさっさと行ってしまった。あれ?いつもなら……こういう時、キスしてくれるのに。
その後も、お水を飲めとか疲れてないかとか……明日の行き先など色々と忙しなく話しかけられる。なんかカールが変だ。
私は長旅のせいかだんだん眠たくなって、目がとろんとしてきた。
「ミーナ、眠たい?」
「うー……ん、眠たくなってきた」
「ほら、ベッドに行こう?」
「うん……うん……」
その瞬間、ふわりと体が浮いて彼に横抱きにされたのがわかった。そしてふかふかのベッドにおろされる。
「おやすみ」
カールはおでこにちゅっ、とキスをしてベッドからおりようとした。え……?待って。ベッドは一つしかないのにカールはどこへ行くつもりなの?
私は重たい瞼を少しだけ開けて、無意識に彼の腕を掴んだ。
「どこ……行くの?」
「ミーナ……」
「カールは寝ないの?」
「俺は向こうのソファーで寝る」
え?ソファーで寝る?私は急に眠気が飛んでいった。パチリと目を開けると、困った顔のカールがそこにいた。
「どうして?一緒に寝よう?このベッド広いし二人でも余裕あるから大丈夫だよ」
「広さの問題じゃない。君を傷つけてしまったらだめだから」
「じゃあ私がソファーで寝る」
「ダメだ!ミーナにそんなことさせられるわけない」
「じゃあ私もカールがそんなところで寝るのは嫌よ」
私は彼をぐいっと引き、ベッドに横たわらせると彼の後ろからギュッと抱きしめたい。
「これで大丈夫でしょう?顔も見えないし、あなたから手は出せないわ」
「ミ、ミ、ミーナ!?」
「うーん、眠い」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「カール……温かくて気持ちいいね」
彼の背中は大きくて、温かくてポカポカしている。気持ち良くて……私はギュッと抱きつくとすぐに夢の中に誘われた。
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