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34祝福
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明るい日差しと共に眩しくて、重たい瞼を少しだけ開く。まだ眠たいな……お布団の中は、温かくて気持ち良くて出たくない。ぎゅう、と力を入れると目の前の温かくて大きなゴツゴツしたものがピクリと動いた。なに……これ?私は目を閉じたまま、手を動かしてさわさわと撫でてみる。
「ミーナ、よく眠れたみたいだな?」
その低い声に驚いて私はパチリと目を開けた。この声は……カール!?
私は驚いて手を離すと、彼はグルンと振り向いてこちらを向いた。そうだった!昨日……カールがソファーで寝ると言うのを阻止して、一緒に寝たのだった。
「お、おはよう」
「おはよう」
彼はニッコリと笑っているが、なんか怒っている気がする。私は青ざめて……彼から少し距離を取る。
「カール、よく眠れた?」
「好きな女に抱きつかれながら、寝られるわけがないだろ」
ギロリと恨みがましく睨みつけられた。うゔっ……気まずい。
「ミーナが俺に好きに触れた分、お返しさせてもらう」
「え?えーっと……お返しなんて……そんな」
「遠慮しなくていい。倍に返すのが男だろ?」
艶っぽく笑う彼にグイッと手を引かれ、カールの胸の中に抱きしめられた。
「朝からいい眺めだ」
なんの話かと思っていると、寝ている間にガウンが乱れて薄い夜着が露わになっていた。
「きゃ!」
「こんな薄着で、君は一晩中俺にくっ付いてきたんだよ?」
「ご、ごめんなさい」
「結婚式まで我慢するとは言ったが、こんな風に煽られては堪らない」
彼は指で私の首や鎖骨部分をつーっと指でなぞった。
「ひゃあ!」
私は身体中が真っ赤に染まる。その様子を楽しそうに眺め、私の唇を甘く吸った。ベッドの中でされるキスは、いつもよりも恥ずかしい。
あむあむと柔らかく唇を甘噛みされて、口内を舌でゆっくり撫でられ……その気持ちよさに体がブルリと震える。キスしながらも彼の手は器用に私の腰や脚をするりと触っている。
「んんっ……」
私はどうしていいかわからず、ぎゅーっと力を込めて背中にしがみついた。すると……私の太ももあたりに何かが当たって痛い。私は不思議に思って脚を動かすとカールの体がピクンと跳ね、顔が真っ赤に染まった。
「ミーナ、足を動かすのはやめてくれ」
「ごめんなさい。何かが太ももに当たってて」
「……っ!」
カールは慌てて腰を引いて、私から離れた。
「悪い。でも俺も男だから……仕方ない」
少し気まずそうに目線を逸らした。男だから仕方がない?と、いうことは……これはもしかして。私の顔も真っ赤に染まった。
「流石にわかるみたいだな」
「わ、わ、わかるわよ。王女の時に……その……そういう……教育を受けたから」
「そうだよな?王女教育は全てきちんと終えられたと記憶していたが、君があまりに無自覚だから不安になっていた。もしかしたら、何も知らないのかと疑っていたところだ」
彼は難しい顔で、じっと私を睨んだ。
「ごめん……なさい」
「一応教えておくが、男は好きな人を前にするとこうなる」
「は……い。ワカリマシタ」
「ミーナ、今は何もしない。でも結婚したら俺は一切我慢しないから覚悟しておいてくれ」
艶っぽく微笑み、私にちゅっ……と軽いキスをしてベッドからおりた。私は恥ずかしくて、ぶわっと身体中が熱くなった。
帰ったらお母さんに色々聞いた方がいいかもしれない。王女時代の閨教育なんて、十五年前の話だし……本で教わるのは現実味がなかった。それに詳しく聞くと『旦那様に全て任せればいい』なんて無責任なことを言われたのだから。
「ミーナ、外に出る準備をしておいで。ここのホテルの朝食は絶品だから」
「あ!ちょっと待って」
「早くしないと置いていくぞ」
カールがいつも通りの感じで話してくれるのが、ありがたい。やっぱり彼は大人だわ。
私は素早く身なりを整えた。カールはドレスと一緒にワンピースも買ってくれていた。それを身につけて、簡単にお化粧とヘアセットを終えると「よく似合ってる」と頭をそっと撫でてくれた。
荷物は纏めておけば馬車に運んでくれるらしく、そのまま置いておけばいいと言われた。さすが高級ホテルっ!
そして二人でレストランでモーニングを取る。サックサクのクロワッサンにとろとろのスクランブルエッグ。ソーセージもパキッとしてて、サラダも見たこともないほど様々な野菜が入っている。紅茶も香り高くて……パンのジャムもバターも美味しい。うーん、幸せ。
「とても美味しい」
「そうだな」
「このジャムお母さん達にも食べさせたいな」
「お土産に買って帰ろうか?」
「うん!絶対喜ぶわ」
私がそう言うと、カールも嬉しそうに目を細めた。ペロリと全て食べ切って、ジャムを買うためにホテル内のお店に向かう。
「ストロベリーとアプリコットは買おうと思うの。でも……ブルーベリーも美味しそう。どうしよう?」
「全部買えばいい」
まだまだ貴族感覚が抜けないカールは、お金を使うことを何とも思っていない。そりゃ、お金はあるんだろうけど……それは違うというか。
「またそんなこと言って!真剣に選んでよ」
「真剣だよ。じゃあ、これは二人にお土産でこっちは俺からミーナに贈ろう」
そう言ってひょいと三つの瓶を取り上げ、お会計を終えてしまった。
「ありがとう」
「欲しいものは何でも遠慮なく言ってくれ」
「いや、これ以上してもらったら悪いわ!もう充分よ」
「ジャムくらいで大袈裟だ」
私の言葉を聞いて、彼は困ったように眉を下げた。
「違うわ。ホテルもドレスも……沢山支払ってもらってるもの」
「迷惑?」
「迷惑じゃない!嬉しいけど……私を過剰に甘やかすのは良くないわ!結婚した後、我儘な妻を持ったらカールが困るわよ!!」
真顔で私がそう言うと、カールはゲラゲラと笑い出した。なんで笑うのよ?
「そんなの全く困らない」
「金遣いの荒い妻が?」
「俺は、愛おしい奥さんの可愛い我儘を叶えられる男でいたい」
「……変なの」
「君の我儘を叶えられるのは、夫である俺だけの特権だからな」
彼は私の耳元に近付きそう囁いた。私は甘い声に反応して、顔が真っ赤に染まってしまった。
「そ、そんなこと言ったら、カールの稼ぎをぜーんぶ使っちゃうわよ!」
恥ずかしくて悔しくて、私はまた可愛くないことを言ってしまう。
「いいさ。必要ならまたいくらでも稼いで来よう」
「……っ!」
「俺は十歳の頃から君に惚れてるから。ずっと君の我儘を聞くのが夢だった。今までできなかった分を今してるだけだ」
「ソウデスカ」
「ミーナの願いはなんでも叶えたい。俺と別れたい……以外はなんでもね」
彼にそんなことを言われて、キョトンとした。私が彼と別れたいなど思うはずがない。
「何言ってるのよ。私カールと別れたいなんて、絶対に思わないわ」
「絶対に?」
「うん」
彼は口元を手で押さえて、私から視線をそっと外した。
「まずい。ニヤける」
「え?」
「嬉しすぎて口元が緩んでるから見ないでくれ」
カールが照れているのは珍しい。いつも大人ぶっている彼を揶揄うチャンスだと、私はグッと背伸びして顔を見ようとした。
するとその計画にすぐに気がついた彼に、大きな手で目を隠された。あーあ、失敗だ。
「こら、見るなと言ったのに……」
「ふふ、ごめんなさい」
「悪い子にはお仕置きだな」
パッと目から手が離され、眩しいなと思っているとチュッとキスをされた。ここはホテルのロビー……つまり、人の目があるのだ。
「な、な、なんてことするの。こんな場所で!」
私は彼をポカポカと叩きながら、ボリュームを落とした声で怒った。
「お仕置きだから?」
「こんな場所で……恥ずかしい」
私は頬を両手で隠して、下を向いた。
「くっくっく、恥ずかしいなら早く行こう」
「もう二度とここには泊まれないわ」
「そんなに恥ずかしい?結婚式ではみんなの前でキスをする予定だけど、平気なのか?」
「結婚式とここじゃ全然意味合いが違うから」
私がギロリとカールを睨むと、彼は「ごめん、もう公共の場でキスしません」と素直に謝ったので……仕方がなく許すことにした。
♢♢♢
今日はお墓参りの予定。一つはジョセフ王子、もう一つはキャロラインの家族のものだ。
私達は花屋さんで白百合の大きな花束を買った。まずは王宮近くにあるジョセフ王子のお墓参りをする。私が彼のお墓を参りたいと言った時、カールは嫌な顔をするかと思ったが「わかった」とすぐに頷いてくれた。
ジョセフ王子はもうジークフリートに生まれ変わっている。だから、参る必要はないのかもしれないが……私も結婚を前に過去としっかり決別しようと思ったのだ。
「来るのがこんなに遅くなり、申し訳ありませんでした。本当はお亡くなりになられた時に、すぐ伺わねばならなかったのに」
私はジョセフ王子の立派なお墓に花束を置いて手を合わせた。お墓の周囲はお花が咲き乱れていて、とても美しい場所だ。
「でもあなたが愛してくださったキャロラインは、もういません。今の私はミーナです。でもジョセフ王子、あなたの生まれ変わりのジークフリートにも会えたんですよ」
私は昔を思い出して、涙がポロリと流れた。カールはそっと私の肩を抱いてくれる。
「私はカールと結婚致します。今までありがとうございました。もう魂はジークフリートの中にあるのでしょうが……ジョセフ王子どうか安らかにお眠りください。さようなら」
私は膝をおり、心から祈りのポーズを捧げた。
「あなたの分まで……必ず彼女を幸せにすると誓います。安心してください」
カールも隣で一緒に祈ってくれた。
――ジョセフ王子、ありがとうございました。そして永遠にさようなら。
それから馬車で一時間程移動し、メラビア王国領だった場所に着いた。多少変わっているものの、見覚えのある景色に心が震える。
「懐かしい……この景色はもう二度と見えないと思っていたわ」
美しい山や川……そして街並みをしっかりと見たいのに、溢れる涙が邪魔をして霞んでしまう。
前世の私が命をかけて護りたかったものが、そのままそこにあった。
「連れて来てくれてありがとう」
「一緒に来れてよかった」
カールは私が泣き止むまで、そっと抱きしめてくれた。そして落ち着いてから、ゆっくりと両親達のお墓へ向かった。
亡国の王の墓を作る必要はないのに、きちんとしてくださった先代のシュバイク王には感謝してもしきれない。私からお礼を言うのは変なので、伝えられないのが申し訳ないが。
美しい街並みが見渡せる小高い丘に、お墓はあった。大好きだったこの景色が、亡くなった皆にも見えていることだろう。
「お父様、お母様……そしてお兄様達……私がわかりますか?ここに来るのに時間がかかってしまい申し訳ありません。すっかり姿は変わってしまいましたが、私はキャロラインです。今は平民のミーナと言います」
花束を真ん中に飾り、お墓の前に跪いた。
「私は今とても幸せです。来月、カール……いや、ライナスと言った方がわかるかしら?彼と結婚するのです。彼と出逢って、私は愛することを知りました。そのことを報告したくてここに参りました」
私は泣きそうになるのを堪えて、ニッコリと笑顔で微笑んだ。カールは私の頭を優しく撫でてくれる。
そして、お墓の前に騎士の最敬礼をして剣をグサリと立て大きな声で話しだした。
「両陛下!王太子殿下!メラビア王国の騎士ライナス・ヴェセリーは今はこの名を捨て、カールと名乗っております。ただの護衛騎士である私が、王女を妻に貰うなど許されないことだとわかっております。しかし、どうか……どうか彼女と共に生きることをお許しください。必ず幸せにします。あの時のような苦しい思いは絶対にさせませぬ」
カール……私は彼の言葉にじんわりと胸が熱くなった。そうか。彼は皆に許可をもらいにきてくれたのだ。
「ミーナを心から愛しています。今度こそ幸せにします。だから何卒……お許しを」
彼は地面に頭がつくほど深く深く頭を下げた。その目からはキラリと光るものが溢れ地面に落ちたが、見てはいけない気がして私はそっと目を閉じた。
「彼を愛し、彼に愛されて本当に幸せです。お父様、お母様……そしてお兄様達どうか安らかにお眠りくださいませ」
カールの隣で私は長い時間祈った。その瞬間にふわっと風が吹き、色とりどりの花びらが沢山舞って二人の頭にチラチラと落ちた。それはとても神秘的で美しくまるで私達の結婚を『祝福』してくれているようだった。
「……綺麗ね。きっとお父様もお母様もお兄様達も、私達の結婚を喜んでくれているわ」
「そうだといいな」
「きっとそうよ」
二人で顔を見つめ、手を繋いで微笑み合った。両親とお兄様へ結婚の報告ができて、とても満たされた気持ちになった。心の中でもやもやとしていた感情が、スッと無くなった気がした。
「ミーナ、よく眠れたみたいだな?」
その低い声に驚いて私はパチリと目を開けた。この声は……カール!?
私は驚いて手を離すと、彼はグルンと振り向いてこちらを向いた。そうだった!昨日……カールがソファーで寝ると言うのを阻止して、一緒に寝たのだった。
「お、おはよう」
「おはよう」
彼はニッコリと笑っているが、なんか怒っている気がする。私は青ざめて……彼から少し距離を取る。
「カール、よく眠れた?」
「好きな女に抱きつかれながら、寝られるわけがないだろ」
ギロリと恨みがましく睨みつけられた。うゔっ……気まずい。
「ミーナが俺に好きに触れた分、お返しさせてもらう」
「え?えーっと……お返しなんて……そんな」
「遠慮しなくていい。倍に返すのが男だろ?」
艶っぽく笑う彼にグイッと手を引かれ、カールの胸の中に抱きしめられた。
「朝からいい眺めだ」
なんの話かと思っていると、寝ている間にガウンが乱れて薄い夜着が露わになっていた。
「きゃ!」
「こんな薄着で、君は一晩中俺にくっ付いてきたんだよ?」
「ご、ごめんなさい」
「結婚式まで我慢するとは言ったが、こんな風に煽られては堪らない」
彼は指で私の首や鎖骨部分をつーっと指でなぞった。
「ひゃあ!」
私は身体中が真っ赤に染まる。その様子を楽しそうに眺め、私の唇を甘く吸った。ベッドの中でされるキスは、いつもよりも恥ずかしい。
あむあむと柔らかく唇を甘噛みされて、口内を舌でゆっくり撫でられ……その気持ちよさに体がブルリと震える。キスしながらも彼の手は器用に私の腰や脚をするりと触っている。
「んんっ……」
私はどうしていいかわからず、ぎゅーっと力を込めて背中にしがみついた。すると……私の太ももあたりに何かが当たって痛い。私は不思議に思って脚を動かすとカールの体がピクンと跳ね、顔が真っ赤に染まった。
「ミーナ、足を動かすのはやめてくれ」
「ごめんなさい。何かが太ももに当たってて」
「……っ!」
カールは慌てて腰を引いて、私から離れた。
「悪い。でも俺も男だから……仕方ない」
少し気まずそうに目線を逸らした。男だから仕方がない?と、いうことは……これはもしかして。私の顔も真っ赤に染まった。
「流石にわかるみたいだな」
「わ、わ、わかるわよ。王女の時に……その……そういう……教育を受けたから」
「そうだよな?王女教育は全てきちんと終えられたと記憶していたが、君があまりに無自覚だから不安になっていた。もしかしたら、何も知らないのかと疑っていたところだ」
彼は難しい顔で、じっと私を睨んだ。
「ごめん……なさい」
「一応教えておくが、男は好きな人を前にするとこうなる」
「は……い。ワカリマシタ」
「ミーナ、今は何もしない。でも結婚したら俺は一切我慢しないから覚悟しておいてくれ」
艶っぽく微笑み、私にちゅっ……と軽いキスをしてベッドからおりた。私は恥ずかしくて、ぶわっと身体中が熱くなった。
帰ったらお母さんに色々聞いた方がいいかもしれない。王女時代の閨教育なんて、十五年前の話だし……本で教わるのは現実味がなかった。それに詳しく聞くと『旦那様に全て任せればいい』なんて無責任なことを言われたのだから。
「ミーナ、外に出る準備をしておいで。ここのホテルの朝食は絶品だから」
「あ!ちょっと待って」
「早くしないと置いていくぞ」
カールがいつも通りの感じで話してくれるのが、ありがたい。やっぱり彼は大人だわ。
私は素早く身なりを整えた。カールはドレスと一緒にワンピースも買ってくれていた。それを身につけて、簡単にお化粧とヘアセットを終えると「よく似合ってる」と頭をそっと撫でてくれた。
荷物は纏めておけば馬車に運んでくれるらしく、そのまま置いておけばいいと言われた。さすが高級ホテルっ!
そして二人でレストランでモーニングを取る。サックサクのクロワッサンにとろとろのスクランブルエッグ。ソーセージもパキッとしてて、サラダも見たこともないほど様々な野菜が入っている。紅茶も香り高くて……パンのジャムもバターも美味しい。うーん、幸せ。
「とても美味しい」
「そうだな」
「このジャムお母さん達にも食べさせたいな」
「お土産に買って帰ろうか?」
「うん!絶対喜ぶわ」
私がそう言うと、カールも嬉しそうに目を細めた。ペロリと全て食べ切って、ジャムを買うためにホテル内のお店に向かう。
「ストロベリーとアプリコットは買おうと思うの。でも……ブルーベリーも美味しそう。どうしよう?」
「全部買えばいい」
まだまだ貴族感覚が抜けないカールは、お金を使うことを何とも思っていない。そりゃ、お金はあるんだろうけど……それは違うというか。
「またそんなこと言って!真剣に選んでよ」
「真剣だよ。じゃあ、これは二人にお土産でこっちは俺からミーナに贈ろう」
そう言ってひょいと三つの瓶を取り上げ、お会計を終えてしまった。
「ありがとう」
「欲しいものは何でも遠慮なく言ってくれ」
「いや、これ以上してもらったら悪いわ!もう充分よ」
「ジャムくらいで大袈裟だ」
私の言葉を聞いて、彼は困ったように眉を下げた。
「違うわ。ホテルもドレスも……沢山支払ってもらってるもの」
「迷惑?」
「迷惑じゃない!嬉しいけど……私を過剰に甘やかすのは良くないわ!結婚した後、我儘な妻を持ったらカールが困るわよ!!」
真顔で私がそう言うと、カールはゲラゲラと笑い出した。なんで笑うのよ?
「そんなの全く困らない」
「金遣いの荒い妻が?」
「俺は、愛おしい奥さんの可愛い我儘を叶えられる男でいたい」
「……変なの」
「君の我儘を叶えられるのは、夫である俺だけの特権だからな」
彼は私の耳元に近付きそう囁いた。私は甘い声に反応して、顔が真っ赤に染まってしまった。
「そ、そんなこと言ったら、カールの稼ぎをぜーんぶ使っちゃうわよ!」
恥ずかしくて悔しくて、私はまた可愛くないことを言ってしまう。
「いいさ。必要ならまたいくらでも稼いで来よう」
「……っ!」
「俺は十歳の頃から君に惚れてるから。ずっと君の我儘を聞くのが夢だった。今までできなかった分を今してるだけだ」
「ソウデスカ」
「ミーナの願いはなんでも叶えたい。俺と別れたい……以外はなんでもね」
彼にそんなことを言われて、キョトンとした。私が彼と別れたいなど思うはずがない。
「何言ってるのよ。私カールと別れたいなんて、絶対に思わないわ」
「絶対に?」
「うん」
彼は口元を手で押さえて、私から視線をそっと外した。
「まずい。ニヤける」
「え?」
「嬉しすぎて口元が緩んでるから見ないでくれ」
カールが照れているのは珍しい。いつも大人ぶっている彼を揶揄うチャンスだと、私はグッと背伸びして顔を見ようとした。
するとその計画にすぐに気がついた彼に、大きな手で目を隠された。あーあ、失敗だ。
「こら、見るなと言ったのに……」
「ふふ、ごめんなさい」
「悪い子にはお仕置きだな」
パッと目から手が離され、眩しいなと思っているとチュッとキスをされた。ここはホテルのロビー……つまり、人の目があるのだ。
「な、な、なんてことするの。こんな場所で!」
私は彼をポカポカと叩きながら、ボリュームを落とした声で怒った。
「お仕置きだから?」
「こんな場所で……恥ずかしい」
私は頬を両手で隠して、下を向いた。
「くっくっく、恥ずかしいなら早く行こう」
「もう二度とここには泊まれないわ」
「そんなに恥ずかしい?結婚式ではみんなの前でキスをする予定だけど、平気なのか?」
「結婚式とここじゃ全然意味合いが違うから」
私がギロリとカールを睨むと、彼は「ごめん、もう公共の場でキスしません」と素直に謝ったので……仕方がなく許すことにした。
♢♢♢
今日はお墓参りの予定。一つはジョセフ王子、もう一つはキャロラインの家族のものだ。
私達は花屋さんで白百合の大きな花束を買った。まずは王宮近くにあるジョセフ王子のお墓参りをする。私が彼のお墓を参りたいと言った時、カールは嫌な顔をするかと思ったが「わかった」とすぐに頷いてくれた。
ジョセフ王子はもうジークフリートに生まれ変わっている。だから、参る必要はないのかもしれないが……私も結婚を前に過去としっかり決別しようと思ったのだ。
「来るのがこんなに遅くなり、申し訳ありませんでした。本当はお亡くなりになられた時に、すぐ伺わねばならなかったのに」
私はジョセフ王子の立派なお墓に花束を置いて手を合わせた。お墓の周囲はお花が咲き乱れていて、とても美しい場所だ。
「でもあなたが愛してくださったキャロラインは、もういません。今の私はミーナです。でもジョセフ王子、あなたの生まれ変わりのジークフリートにも会えたんですよ」
私は昔を思い出して、涙がポロリと流れた。カールはそっと私の肩を抱いてくれる。
「私はカールと結婚致します。今までありがとうございました。もう魂はジークフリートの中にあるのでしょうが……ジョセフ王子どうか安らかにお眠りください。さようなら」
私は膝をおり、心から祈りのポーズを捧げた。
「あなたの分まで……必ず彼女を幸せにすると誓います。安心してください」
カールも隣で一緒に祈ってくれた。
――ジョセフ王子、ありがとうございました。そして永遠にさようなら。
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前世の私が命をかけて護りたかったものが、そのままそこにあった。
「連れて来てくれてありがとう」
「一緒に来れてよかった」
カールは私が泣き止むまで、そっと抱きしめてくれた。そして落ち着いてから、ゆっくりと両親達のお墓へ向かった。
亡国の王の墓を作る必要はないのに、きちんとしてくださった先代のシュバイク王には感謝してもしきれない。私からお礼を言うのは変なので、伝えられないのが申し訳ないが。
美しい街並みが見渡せる小高い丘に、お墓はあった。大好きだったこの景色が、亡くなった皆にも見えていることだろう。
「お父様、お母様……そしてお兄様達……私がわかりますか?ここに来るのに時間がかかってしまい申し訳ありません。すっかり姿は変わってしまいましたが、私はキャロラインです。今は平民のミーナと言います」
花束を真ん中に飾り、お墓の前に跪いた。
「私は今とても幸せです。来月、カール……いや、ライナスと言った方がわかるかしら?彼と結婚するのです。彼と出逢って、私は愛することを知りました。そのことを報告したくてここに参りました」
私は泣きそうになるのを堪えて、ニッコリと笑顔で微笑んだ。カールは私の頭を優しく撫でてくれる。
そして、お墓の前に騎士の最敬礼をして剣をグサリと立て大きな声で話しだした。
「両陛下!王太子殿下!メラビア王国の騎士ライナス・ヴェセリーは今はこの名を捨て、カールと名乗っております。ただの護衛騎士である私が、王女を妻に貰うなど許されないことだとわかっております。しかし、どうか……どうか彼女と共に生きることをお許しください。必ず幸せにします。あの時のような苦しい思いは絶対にさせませぬ」
カール……私は彼の言葉にじんわりと胸が熱くなった。そうか。彼は皆に許可をもらいにきてくれたのだ。
「ミーナを心から愛しています。今度こそ幸せにします。だから何卒……お許しを」
彼は地面に頭がつくほど深く深く頭を下げた。その目からはキラリと光るものが溢れ地面に落ちたが、見てはいけない気がして私はそっと目を閉じた。
「彼を愛し、彼に愛されて本当に幸せです。お父様、お母様……そしてお兄様達どうか安らかにお眠りくださいませ」
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「……綺麗ね。きっとお父様もお母様もお兄様達も、私達の結婚を喜んでくれているわ」
「そうだといいな」
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