【完結】何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること

大森 樹

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33 初めて

「わたしもエドムンド様を愛しています!」
「この世の誰よりも大好きです!」
「格好良くて頼もしくてドキドキします」

 エドムンドとは対照的に、ナディアは大きな声で満面の笑みでたくさん自分の素直に気持ちを一気に叫んだ。

「……もうわかった」
「わかってません! わたしのエドムンド様への気持ちはこんなものではありませんから」

 頬を染めたエドムンドに、ナディアはグイグイと顔を近付けてどれだけ彼のことが好きかをもっと熱弁しようとした。

「少し黙ってろ」

 怒られてしまったと思った瞬間、ナディアの唇に柔らかいものが触れた。

 ――温かくて気持ちがいい。

 その気持ちよさの原因がエドムンドだということに気がついたナディアが、驚いて急に身体を動かした。そしてお互いの歯がカツンと強めにぶつかってしまった。

「痛ぇ……!」
「痛いです」

 ほぼ同時に言葉が重なり、お互いぱっと唇を離した。どうやら血は出ていないらしい。だが、さっきまでの甘い雰囲気は歯が当たったことによって消え去ってしまった。

「……ふっ……ふふ、申し訳ありません。わたしが急に動いたせいですね」

 恥ずかしさを隠すように、ナディアはくすくすと笑い出した。

「笑うな」
「ふふっ、だって」

 エドムンドは乱暴にガシガシと自分の頭を掻いた後、不機嫌そうにそっぽを向いた。照れている時に不機嫌な顔をするのは、エドムンドの癖だ。頬が赤く染まっているので、恥ずかしがっているらしい。

 正直、ナディアの思い描いていたようなファーストキスではなかった。でもなんでもそつなくこなすエドムンドが、ナディアとキスをすることに緊張していたのかと思うと胸がきゅんとしてしまう。

 ナディアはエドムンドをずっと格好いいと思っていたが、今は可愛いなという母性本能のようなものが溢れてきている。

「下手で悪かったな」

 エドムンドは、急に動いたナディアを上手く避けながら口付けを続ける方法がわからなかった。だが、それを知らないのはナディアも同じだった。

「でも、しょうがねぇだろ。こんなこと生まれて初めてするんだから」
「初めて……ですか?」
「ああ」

 エドムンドが女嫌いというのは知っていたが、キスも初めてだという事実にナディアは嬉しくなった。幼いころから恋焦がれていた人の初めての相手が自分だということに、ナディアは舞い上がった。

 エドムンドはナディアよりも年上の男性だ。しかも王家直属の騎士は貴族令嬢たちからとても人気のある職業なので、エドムンドがそういう経験がないというのは奇跡に近かった。

「わ、わ、私も生まれて初めてです!」

 ナディアが勢いよくそう言ったのを見て、エドムンドはギロリと睨みつけた。

「初めてじゃなきゃ困る」
「え?」
「もしお前に触れた男がいたら生かしておけねぇからな」
「い、いません。そんな人。ずっと……ずっとあなただけでしたから」

 どうやらエドムンドは、独占欲が強めらしい。ナディアは、愛する人の新しい一面を知れたことが嬉しかった。

「お互い慣れるまで特訓しようぜ」
「特訓……?」
「ああ、安心しろ。俺は器用だからきっと何度かすれば、すぐに上手くやれるはずだ」

 戸惑っているナディアの身体をぐいっと引き寄せ、エドムンドはもう一度ゆっくりと唇を合わせた。

「んっ」

 壊れものを扱うかのように、丁寧に優しく重なった唇は触れたところから溶けていきそうなほど甘かった。

 エドムンドはちゅっちゅっと軽く啄みながら、ナディアの唇の形を徐々に深くまで確かめていった。先ほどとは違い余裕のあるエドムンドからのキスに、ナディアはすぐにいっぱいいっぱいになった。

 気持ちよくて恥ずかしくてくらくらする。このままどうしていいかわからず、何かに縋りつきたかったナディアはエドムンドのシャツをきゅっと握った。

 それはナディアの『もうそれくらいにして』という合図のつもりだったが、エドムンドはそういう意味には捉えなかったらしい。

「ふっ……んんっ」

 エドムンドにさらに激しく唇を吸われ、舌を絡ませながら口内まで愛されてしまった。

 先ほどよりもかなり長い口付けに、酸欠になったナディアはくたりとエドムンドの胸に身体を預けた。

「はぁ……はぁ……」
「鼻で息をすれば問題ない」
「そ、そんな高度なこと……考えている余裕がないです……」

 ナディアが全身を真っ赤に染めてそう言い返すと、エドムンドはくくっと笑い出した。

 エドムンドは二回目にしてもうキスのコツがわかったらしい。それがナディアは悔しかった。

「なぜ笑うのですか」
「いや、可愛らしいなと思ってな」
「……っ!」
「お互い初心者だからたくさんしようぜ」

 色気たっぷりに笑ったエドムンドにおでこをツンと指で突かれ、ナディアはさらに熱が上がった。

「エドムンド様は慣れるのが早すぎます。わたしはこんなにドキドキしているのに」
「俺だって慣れてねぇよ」
「嘘ですよ! だって、こんなに余裕で……」

 エドムンドは、ナディアを抱き寄せ自分の左胸に耳を付けさせた。

 ドクドクドク……ととても早い鼓動が聞こえてくる。その音を聞いたナディアは、エドムンドも自分と同じ気持ちなのだということがわかり、ほっとした。

「エドムンド様もドキドキしてますね」
「……ああ。だから、余裕なんてねぇよ」
「はい。わたしと同じですね、嬉しい」

 エドムンドの大きな手に撫でられたのが心地よくて、ナディアは甘えるようにすりっとエドムンドの胸に頭を擦り付けた。

「おい、あんまりくっつくと俺の我慢が効かなくなるぞ」
「え?」
「俺はナディアを好きなんだから、あんまり無防備になるな」

 カバリと身体を離されたナディアは、よく意味がわからずきょとんとした顔で首を横に傾げた。

 その顔が可愛らしくて、エドムンドはぐっと唇を噛んだ。

「ったく、自覚がねぇのも罪だな」

 エドムンドは目を閉じてふうと大きなため息をついた後、色々な煩悩を消し去るように自分の両頬をパチンと叩いた。
 
「ほら、この続きは屋敷に戻ってからだ。天気のいいうちに帰るぞ」

 エドムンドはナディアの頭をぐりぐりと撫でて、小屋を出る準備をし始めた。

 ナディアは『この続きとは……?』と気になってぼんやりとしていたが、エドムンドに急かされて慌てて荷物をまとめた。

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