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第2章 キングスロード
53話 接触
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「カイ……お前のヤバい噂は、本当だったみたいだな」
そう言って、ハキムはじっと動かない。
すると、カイはクイックスペルを唱え、奇声を上げながら飛びかかってきた。
「――《リアライゼーション・風》 うひゃっおぉぁ死ね!」
これは、各属性を属性剣として使う事が出来る、第4階位の魔法、リアライゼーションだ。
カイの枯れ枝のような手には、透明な風の属性剣が握られている。
「おっと、いくらSランク冒険者だからと言って、やりすぎじゃねえか?」
カイとハキムの間に、突然男が現れた。
「ぐっ!?」
そしてその男は、カイの首を掴んで、片手で持ち上げた。そうすると、リアライゼーションの属性剣が、煙のように消えてしまった。
それを見て、ハキムが口を開いた。
「フィンさん、ありがとうございます。さっき聞いてなかったら、俺もやられてました」
「囮をやってもらって、すまねえ。しかし、このカイってやつが、ルールを破って、参加選手の殺害未遂をやっていたからな。死人は出てないが、こいつには退場してもらおう」
ハキムがフィンと呼んだ男性の腕が膨れ上がり、カイの首に指がめり込んでいく。
すぐさまカイは口から泡を吹き、失禁を始めてしまった。
どうやらフィンは、カイを絞め落とすのでは無く、痛みを与えているようだ。
異様に膨れ上がった腕と手で、力を込めていき、とうとうカイの首の辺りから、枯れ枝を折ったような異音が聞こえてきた。
「まあ、これでもここじゃ死なないんだけどな」
フィンがカイの首の骨を折った瞬間、治療魔法が発動した。
紫色になっていたカイの顔色が、みるみるうちに回復していく。
「こいつは何で、殺害できると思ったんでしょうか?」
ハキムがそう言うと、フィンが答えた。
「このカイってやつは正気じゃ無かったよな。大方誰かに操られてたんだろうさ」
フィンがそう言って、カイを投げ捨てた。
すると、池に大きなものが落ちるような音と共に、迷宮の床にカイが沈んでしまった。
「敗者はこうやって、場外に出るんだけどな」
「ここダンジョンですもんね~」
フィンとハキムは、そんな事を言いながら歩き出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「さて、控え室に行ってたのはバレて無さそうだ。けどなあ~」
迷宮に戻ったのはいいのだが、誰にも会わない。ここにはバトルロイヤルで勝ち残った16人と、飛び入りで参加してきた2人を合わせて、18人も居るはずなのにだ。
カスミに聞けばすぐ状況が分かるのだろうけど、ズルはしたくない。
まあ、遭遇戦だから、会わなきゃいらん戦闘もしなくていいのだ。
「いやいや、俺は命を狙われてるんだった。真偽は分からんけど」
色々考えながら迷宮を進んでいると、金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。誰かが戦っているのだろうけど、聞こえてくる音の数が多いので、複数人がそこに居るはずだ。
「離れよう」
わざわざ危ない場所に行く必要は無い。
いい事思い付いた!
あそこの人たちが疲れたら、俺が一網打尽にしよう。
俺は、なかなかいい作戦だと、自画自賛しながら、そこから離れていく。
「離れちゃダメでしょ」
「うわっ、トカゲ!?」
「失礼だな君は、バトルロイヤルで勝ち抜いたグリフだよ」
「あ~、そういえば居たな。……いや名前までは知らん。というか、どこから出てきたんだよ」
マイヤーでも結構見かけるトカゲっぽい顔の人だが、たしか竜人族だったはず。
ふとい尻尾が邪魔くさくて、何度も踏みそうになったことがあるのだ。
「そんなの気配消去スキルに決まってるだろ? 俺はポートンのクラン・セロのリーダーだ。グリフって呼んでくれ。よろしくなシンイチ」
ポートンか。
あそこはフォレストワームに完膚無きまで破壊されていた。
あの街の生き残りがちゃんと居た事に、少し安堵しながら俺は答える。
「まだ武闘大会の途中なのに、ずいぶん余裕があるんだな。よろしく、グリフ」
聞く気は無かったのだが、あっさりとスキル名を答えてきた。ただ、このスキルは、意外と使い手が多いので、秘密にするようなものでも無いのかもしれない。
そしてこれは、第1階位から第5階位までの、幅があるスキルだ。
初心者が使う第1階位の気配消去であれば、その辺の冒険者にはすぐ見破られてしまい、第5階位になると、アビゲイルさんのようなベテランでも気付かないと聞いている。
なので、グリフはどこまで気配が消せるのか、分からないのだ。
しかし、この竜人がポートンのクランリーダーだったとは。
横断城壁の最西端にあった城郭都市ポートンは、すでに滅んでいるのに、武闘大会に出てるという事はどういう事なんだろう。
「何を黙りこくってるんだ? シンイチがリンデンバーグに向かっているところから、この大会に無理矢理出場させられるって予想して、ダドリーのクランも、うちのクランも、お前に接触しに来てるんだぞ?」
「そうなんだ。でも、なんで俺に?」
「まあ、ドールの子供たちって言えば分かるか?」
「……ふ~ん。つまり、そいつらに気付かれないように、こんな場所で接触してきたのか」
「まあそうだな」
ぽっと出の竜人がそんな事を言っても、正否の判断が出来ないな。
「俺はどっちかというと、ドールの子供に興味は無いんだ」
父さんと妹を探すのが先だし。七瀬さんの両親も。
「1つ確認させてくれないか?」
グリフがそう言う。
「答えられる事なら」
「シンイチは迷い人か?」
「ああ、俺は異世界から来た」
「……ふむ。情報通りの答えか」
「何だよ、その含みのある言い方は」
「俺は、東のロボス大陸から来たとも聞いたぞ」
「それなら違うな。もっと東にある、極東の国から来たって設定で通そうと思ってたけど、バレちゃったし」
このラファーガ大陸の東にあるロボス大陸は、地球で言うオーストラリア大陸のような形で、そこよりもっと東に極東の国があるのだ。
「何でそんな事を聞いてくるんだ?」
「知らないのか? 東のロボス大陸で異世界人が発見されているのを」
「はあ!? ロボス大陸って、どうやったら行けるんだ? 船か? 陸路か? 俺がこの大会で優勝したら、どの国にでも自由に行けるようになるんだ!! 行き方を教えてくれ!!」
「おいおい、手を離してくれ」
「あ、ああ、すまん」
「まあ、俺たちはシンイチが異世界人だとしても、どうでもいいんだ」
「俺たち?」
「そうだ。ポートンとダドリーが陥落して、俺たちはマイヤーのアイアンヘイズに連絡を取っていたんだ。だから、俺たちはあいつらと情報を共有している」
「なるほど」
「そうすると、シンイチっていう、とんでもないスキル使いがいるって聞いてな」
「……ふうん」
「シンイチには言語魔法が使われているだろう? しかも第5階位でも追い付かないくらいの高い階位のやつだ。そして、ロボス大陸の商業都市シュピールで発見された、妙な服装の人間たちが、高い階位の言語魔法がかけられてたんだ」
「なるほど、その人たちと話をして、異世界人だと分かったんだな。しかし、俺に言語魔法がかけられてるって、どうやって分かったんだ?」
「城郭都市の冒険者を舐めるなよ?」
トカゲのキメ顔がムカつく。
城郭都市の冒険者は、国の騎士より優秀だと十分に分かっている。
まあ、何か調べる魔法やスキルがあるのだろう。
つまり、最低でもアイアンヘイズには、俺が異世界人だと調べる方法があった。
しかし、商業都市シュピールか。
おそらく、あのSNSの画像を見て、転移してきた地球の人たちなのだろう。
しかし、その人たちに、誰が言語魔法を使ったのだ。
俺に言語魔法を使ったのは、ナナイロだ。つまり、ロボス大陸のダンジョンコアが、転移してきた人たちに言語魔法を使ったと考えるのが妥当だろう。
『ナナイロ』
『多分、ダンジョンコアが言語魔法を使って、エスメラルダの人たちと会話が出来るようにしてるんだと思うよ~』
『だよな~』
『だよね~』
名前を呼んだだけで、疑問に答えたということは、脳内のナナイロたちは、俺と同じものを見聞きしているのだろう。
「グリフ、ロボス大陸のダンジョンコアが、言語魔法を使ってるのか」
「そうだ。そしてその異世界人たちは、ドールの子供たちから逃げ出してきたと言ってるんだ」
「なるほどな。その人たちは、その商業都市に居るのか?」
「ああ、手厚く保護されていた」
「いた? 今は違うって言うのか?」
「いや、商業都市シュピールと連絡が取れなくなってるんだ」
「は?」
「おそらく、俺たちの城郭都市と同じだ。街を守るダンジョンコアが破壊されて、何かがあったんだと思う」
「…………」
「シンイチ、俺たちと一緒に、商業都市シュピールへ行かないか?」
大事な武闘大会中に、もっと大事な話をぶっ込んできたグリフを、俺は睨むしか無かった。
そう言って、ハキムはじっと動かない。
すると、カイはクイックスペルを唱え、奇声を上げながら飛びかかってきた。
「――《リアライゼーション・風》 うひゃっおぉぁ死ね!」
これは、各属性を属性剣として使う事が出来る、第4階位の魔法、リアライゼーションだ。
カイの枯れ枝のような手には、透明な風の属性剣が握られている。
「おっと、いくらSランク冒険者だからと言って、やりすぎじゃねえか?」
カイとハキムの間に、突然男が現れた。
「ぐっ!?」
そしてその男は、カイの首を掴んで、片手で持ち上げた。そうすると、リアライゼーションの属性剣が、煙のように消えてしまった。
それを見て、ハキムが口を開いた。
「フィンさん、ありがとうございます。さっき聞いてなかったら、俺もやられてました」
「囮をやってもらって、すまねえ。しかし、このカイってやつが、ルールを破って、参加選手の殺害未遂をやっていたからな。死人は出てないが、こいつには退場してもらおう」
ハキムがフィンと呼んだ男性の腕が膨れ上がり、カイの首に指がめり込んでいく。
すぐさまカイは口から泡を吹き、失禁を始めてしまった。
どうやらフィンは、カイを絞め落とすのでは無く、痛みを与えているようだ。
異様に膨れ上がった腕と手で、力を込めていき、とうとうカイの首の辺りから、枯れ枝を折ったような異音が聞こえてきた。
「まあ、これでもここじゃ死なないんだけどな」
フィンがカイの首の骨を折った瞬間、治療魔法が発動した。
紫色になっていたカイの顔色が、みるみるうちに回復していく。
「こいつは何で、殺害できると思ったんでしょうか?」
ハキムがそう言うと、フィンが答えた。
「このカイってやつは正気じゃ無かったよな。大方誰かに操られてたんだろうさ」
フィンがそう言って、カイを投げ捨てた。
すると、池に大きなものが落ちるような音と共に、迷宮の床にカイが沈んでしまった。
「敗者はこうやって、場外に出るんだけどな」
「ここダンジョンですもんね~」
フィンとハキムは、そんな事を言いながら歩き出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「さて、控え室に行ってたのはバレて無さそうだ。けどなあ~」
迷宮に戻ったのはいいのだが、誰にも会わない。ここにはバトルロイヤルで勝ち残った16人と、飛び入りで参加してきた2人を合わせて、18人も居るはずなのにだ。
カスミに聞けばすぐ状況が分かるのだろうけど、ズルはしたくない。
まあ、遭遇戦だから、会わなきゃいらん戦闘もしなくていいのだ。
「いやいや、俺は命を狙われてるんだった。真偽は分からんけど」
色々考えながら迷宮を進んでいると、金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。誰かが戦っているのだろうけど、聞こえてくる音の数が多いので、複数人がそこに居るはずだ。
「離れよう」
わざわざ危ない場所に行く必要は無い。
いい事思い付いた!
あそこの人たちが疲れたら、俺が一網打尽にしよう。
俺は、なかなかいい作戦だと、自画自賛しながら、そこから離れていく。
「離れちゃダメでしょ」
「うわっ、トカゲ!?」
「失礼だな君は、バトルロイヤルで勝ち抜いたグリフだよ」
「あ~、そういえば居たな。……いや名前までは知らん。というか、どこから出てきたんだよ」
マイヤーでも結構見かけるトカゲっぽい顔の人だが、たしか竜人族だったはず。
ふとい尻尾が邪魔くさくて、何度も踏みそうになったことがあるのだ。
「そんなの気配消去スキルに決まってるだろ? 俺はポートンのクラン・セロのリーダーだ。グリフって呼んでくれ。よろしくなシンイチ」
ポートンか。
あそこはフォレストワームに完膚無きまで破壊されていた。
あの街の生き残りがちゃんと居た事に、少し安堵しながら俺は答える。
「まだ武闘大会の途中なのに、ずいぶん余裕があるんだな。よろしく、グリフ」
聞く気は無かったのだが、あっさりとスキル名を答えてきた。ただ、このスキルは、意外と使い手が多いので、秘密にするようなものでも無いのかもしれない。
そしてこれは、第1階位から第5階位までの、幅があるスキルだ。
初心者が使う第1階位の気配消去であれば、その辺の冒険者にはすぐ見破られてしまい、第5階位になると、アビゲイルさんのようなベテランでも気付かないと聞いている。
なので、グリフはどこまで気配が消せるのか、分からないのだ。
しかし、この竜人がポートンのクランリーダーだったとは。
横断城壁の最西端にあった城郭都市ポートンは、すでに滅んでいるのに、武闘大会に出てるという事はどういう事なんだろう。
「何を黙りこくってるんだ? シンイチがリンデンバーグに向かっているところから、この大会に無理矢理出場させられるって予想して、ダドリーのクランも、うちのクランも、お前に接触しに来てるんだぞ?」
「そうなんだ。でも、なんで俺に?」
「まあ、ドールの子供たちって言えば分かるか?」
「……ふ~ん。つまり、そいつらに気付かれないように、こんな場所で接触してきたのか」
「まあそうだな」
ぽっと出の竜人がそんな事を言っても、正否の判断が出来ないな。
「俺はどっちかというと、ドールの子供に興味は無いんだ」
父さんと妹を探すのが先だし。七瀬さんの両親も。
「1つ確認させてくれないか?」
グリフがそう言う。
「答えられる事なら」
「シンイチは迷い人か?」
「ああ、俺は異世界から来た」
「……ふむ。情報通りの答えか」
「何だよ、その含みのある言い方は」
「俺は、東のロボス大陸から来たとも聞いたぞ」
「それなら違うな。もっと東にある、極東の国から来たって設定で通そうと思ってたけど、バレちゃったし」
このラファーガ大陸の東にあるロボス大陸は、地球で言うオーストラリア大陸のような形で、そこよりもっと東に極東の国があるのだ。
「何でそんな事を聞いてくるんだ?」
「知らないのか? 東のロボス大陸で異世界人が発見されているのを」
「はあ!? ロボス大陸って、どうやったら行けるんだ? 船か? 陸路か? 俺がこの大会で優勝したら、どの国にでも自由に行けるようになるんだ!! 行き方を教えてくれ!!」
「おいおい、手を離してくれ」
「あ、ああ、すまん」
「まあ、俺たちはシンイチが異世界人だとしても、どうでもいいんだ」
「俺たち?」
「そうだ。ポートンとダドリーが陥落して、俺たちはマイヤーのアイアンヘイズに連絡を取っていたんだ。だから、俺たちはあいつらと情報を共有している」
「なるほど」
「そうすると、シンイチっていう、とんでもないスキル使いがいるって聞いてな」
「……ふうん」
「シンイチには言語魔法が使われているだろう? しかも第5階位でも追い付かないくらいの高い階位のやつだ。そして、ロボス大陸の商業都市シュピールで発見された、妙な服装の人間たちが、高い階位の言語魔法がかけられてたんだ」
「なるほど、その人たちと話をして、異世界人だと分かったんだな。しかし、俺に言語魔法がかけられてるって、どうやって分かったんだ?」
「城郭都市の冒険者を舐めるなよ?」
トカゲのキメ顔がムカつく。
城郭都市の冒険者は、国の騎士より優秀だと十分に分かっている。
まあ、何か調べる魔法やスキルがあるのだろう。
つまり、最低でもアイアンヘイズには、俺が異世界人だと調べる方法があった。
しかし、商業都市シュピールか。
おそらく、あのSNSの画像を見て、転移してきた地球の人たちなのだろう。
しかし、その人たちに、誰が言語魔法を使ったのだ。
俺に言語魔法を使ったのは、ナナイロだ。つまり、ロボス大陸のダンジョンコアが、転移してきた人たちに言語魔法を使ったと考えるのが妥当だろう。
『ナナイロ』
『多分、ダンジョンコアが言語魔法を使って、エスメラルダの人たちと会話が出来るようにしてるんだと思うよ~』
『だよな~』
『だよね~』
名前を呼んだだけで、疑問に答えたということは、脳内のナナイロたちは、俺と同じものを見聞きしているのだろう。
「グリフ、ロボス大陸のダンジョンコアが、言語魔法を使ってるのか」
「そうだ。そしてその異世界人たちは、ドールの子供たちから逃げ出してきたと言ってるんだ」
「なるほどな。その人たちは、その商業都市に居るのか?」
「ああ、手厚く保護されていた」
「いた? 今は違うって言うのか?」
「いや、商業都市シュピールと連絡が取れなくなってるんだ」
「は?」
「おそらく、俺たちの城郭都市と同じだ。街を守るダンジョンコアが破壊されて、何かがあったんだと思う」
「…………」
「シンイチ、俺たちと一緒に、商業都市シュピールへ行かないか?」
大事な武闘大会中に、もっと大事な話をぶっ込んできたグリフを、俺は睨むしか無かった。
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